中川菜々と優木せつ菜、時々アクセントで俺   作:蒲鉾うどん

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 端的に言うと、負けた。あれだけ意気込んでた甲子園の県予選も決勝で負けたため、夏の大会はこれでお終い。今日は決勝戦の次の日。昨日の試合で指に死球を受けた俺は病院に検査を受けに行き、その帰り道、お台場の海岸で黄昏ていると菜々に会った。

 

「あ、祐介」

 

「・・・菜々か。買い物・・・だったらこんなところこないか、どうしたの?」

 

「ええ、同好会の買い出しで果林さんとエマさんと3人で買い出しに来ていたのですが・・・果林さん、急にはぐれてどこか行ってしまったのでエマさんと二人で探してるんです」

 

「こんな暑い中ご苦労様だね」

 

「祐介は?」

 

「俺?俺は・・・病院帰り?」

 

「なんで疑問形なんですか?あっ指に包帯が巻いてある・・・、それって昨日の試合のケガですよね?大丈夫なんですか?」

 

「まあ。うん。折れてるけどもう試合も無いし。それに固定されると案外痛くないもんでさ。どっちかと言えば足の甲が痛いかな」

 

「足の甲?」

 

「そう。手首の検査のついでに全身の痛いところ全部見て貰ったら足の甲が疲労骨折してた。今はテーピングでガチガチに固めてるだけなんだけど、松葉づえ借りるか考えるくらいには正直痛い。折れてるってわかってから物凄く痛くなった」

 

「・・・本当に大丈夫なんですか?」

 

「さあ?・・・まあ、野球部の夏は終わったから。ちょっとのんびりしとくよ。・・・そういえば果林さん探さなくて大丈夫?」

 

「あ、そうですね。・・・いや、ちょっとお話しませんか?」

 

「え、果林さんは・・・放置?」

 

「果林さんだって高校3年生ですし、エマさんも探してるので大丈夫ですよ!それより一緒にどうですか?」

 

 ・・・正直今日は誰にも会いたくない気分だったため、菜々には悪いけどここは断ることにした。

 

「ごめん、今日は無しで」

 

「そう、ですか・・・でも!私ならいつでも相手になりますからね!いつでも話しましょうね!」

 

 そう言われてからようやく気づいた。ああ、今気を遣われているんだな。春の甲子園が始まる前の、あの女々しかった精神状態でも菜々の気遣いは気付けたのに、今日は何も見えてなかったらしい。そこまでしてもらってるのにこのまま別れる選択肢はすでに消えていた。

 

「ごめん、やっぱ誰かに話したい気分だから、付き合ってもらっていい?」

 

「・・・!ええ!もちろんです!どこ行きます?」

 

「あまり動けないから近場で頼む」

 

「むむ、でしたらそうですね~・・・でしたら生徒会室はどうですか?涼しいですし、多少ならもてなせますよ?」

 

「この期に及んで学校行くのか・・・まあ、行くアテもないから任せるよ」

 

「じゃあ、しゅっぱーつ!」

 

「・・・テンションたっかいなぁ」

 

~~~~~~

 

「とうちゃ~く!」

 

「・・・やっぱ生徒会の椅子って結構高いもの使ってるよな」

 

「生徒会室に来てそんなこと言うの貴方くらいですよ?」

 

「生徒会の人はみんな真面目なんだよ。もっと菜々みたくはっちゃければいいのに」

 

「ふふっ確かにそうかもしれませんねぇ~。あ、何飲みます?」

 

「逆に何があるの?」

 

「麦茶です!」

 

「後は?」

 

「麦茶です!」

 

「・・・あとは?」

 

「麦茶です!」

 

「・・・麦茶でお願いします」

 

「はい!丁寧に淹れますね!」

 

 麦茶以外は無いぞ、という圧をかけられたため、おとなしくそれを貰うことにした。

 

「・・・やっぱ夏は麦茶だよね」

 

「そうですね~・・・あっ、お茶請けもありますよ?食べます?」

 

「なんでもあるんだな、ここ」

 

 一緒に涼しい部屋でゆっくりする俺と菜々。静かな空間で二人きりでいると分かることがある。・・・俺より菜々の方がソワソワしていた、なんで?でもその姿はいつもの菜々とは違ったから、なんだかおかしくて・・・彼女には悪いがつい笑ってしまった。

 

「なんで菜々がソワソワしてるのさ?いつもなら俺の話、平然と聞いてくれるのに!」

 

「・・・そんな分かりやすいですか?」

 

「結構!俺も大概だと思うけど菜々も大概だったよ!そんな姿珍しくてなんだか笑えてきちゃった!」

 

「そんな笑うことないじゃないですか!」

 

 ひとしきり笑った後、俺はタイミングをみて話を始めた。

 

「昨日さ、試合終わった後、泣けなかったんだよね。勿論負けて悔しいのは当たり前なんだけど、じゃあ泣くほど悔しいかって思ったらそんなでもなくてさ。お世話になった先輩とはもう一緒に野球できないし、甲子園にはいけなかったのに。・・・でも泣くほど悔しくなかった」

 

「泣くほど悔しくない・・・ですか?」

 

「うん。それでさっさともう寝ようと思ったんだけどアドレナリンが出すぎてて、全然寝付けなくて。・・・昨日からずっと考えていて、さっき海を見ながら頭使ったら分かった。・・・俺自身、どこか体が痛かったからこの結果はしょうがないって思ってた。それから『限界を超えて投げぬく自分』に酔ってたことにも気づいた」

 

「・・・」

 

「ずっと甲子園に行きたくて戦っていたけど、試合を重ねていくごとに大歓声を浴びて、その中で準々決勝でジャイアントキリングしたのがいけなかったと思う。・・・今思えば完全に浮足立っていたし、浮かれていた。凄い勝ち方したし。準決勝も格上相手に勝ったから余計駄目だった。昨日の決勝で負けたのは怪我とか疲労じゃない。完全に俺が舐めていたせいだ」

 

「そんなことは・・・」

 

「そんなことはあるよ。大会期間中にフェスも行ったし、完全に調子乗ってたと思う。・・・二か所も骨が折れてるって聞いたとき、本当は安心したんだ。負けたのは怪我してたからしょうがないって、心の中で言い訳をした。だからさっき心のどこかで慢心して、自分に酔ってることに気づいた時、・・・生まれて初めて死にたくなった。こんな馬鹿みたいな理由で負けて情けなくて、みっともない。・・・正直、菜々が話聞いてくれて助かってる。ありがとう」

 

「・・・これからどうするのですか?」

 

「さあ?投げれない走れない野球選手はいらないでしょ。とりあえずは療養に専念するけど。・・・それから治ってからは考えてないかな」

 

 今の感じだと辞めそうだけど。・・・流石にそこまでは口に出せなかった。

 お互い無言を貫いていると、菜々が向かいの椅子から立ち、そのまま俺の隣に座った。そして不思議そうに見ている俺にデコピンをしてきた

 

「えいっ」

 

「あいたっ・・・どうして?」

 

「いえ、久しぶりにウジウジしている祐介を見たらなんとなく。・・・でも安心しました。貴方、春の大会が終わってから、精神的にすっごい大人になったなって思ってて、正直寂しさもあったんですよ?同好会のことで悩んでた私を助けてくれた時なんて特に」

 

「・・・結構複雑なんだけど、それ」

 

「ふふっ、祐介にとってはそうかもしれませんねぇ。貴方は知らないかもしれませんが、祐介の頑張りって結構見てるんですよ?私」

 

「・・・どういうこと?」

 

「ほら、そこの窓から外を見てください」

 

 言われた通り窓を除く。そしたらいつも野球部が使うグラウンドが見えた。

 

「グラウンドじゃん・・・こっから見えるんだ」

 

「そうです。生徒会の業務の関係上、気軽に他人には話せない悩みも結構あるんですけど、そういう時はグラウンドで先頭に立って、楽しそうに野球をする貴方を見て元気を貰ってるんですよ?」

 

「そうなの?」

 

「ええ、それに今回の大会だって貴方の雄姿は全部見てますよ。、生徒会とか同好会で全部現地で観れなかったのですが、その分はテレビやネットの放送でリアルタイムで観てましたし、SNSの動画でも都度チェックしてました」

 

「完全に俺の追っかけじゃん」

 

「そうですよ?野球のルールはまだいまいちわからないのですが、それでも貴方が頑張っている姿をみて勇気を貰ってるのは確かです」

 

「・・・そっか」

 

「はい。それで祐介、聞きたいことがあります・・・貴方、試合中に『負けてもいい』と思いましたか?」

 

「・・・それはないかな」

 

「じゃあそれが全てですよ!」

 

「・・・どういうこと?」

 

「2か所骨折してても、それでも諦めずに最後まで投げるのは並大抵の精神力じゃ無理だって素人でも分かりますよ。それにほら・・・今泣いてるじゃないですか」

 

「・・・えっ」

 

 気づけば涙が溢れていた。自分でもどういうことなのかが分からない

 

「満身創痍でも本気でやり切ったからこそ、心の整理に時間がかかるのはしょうがないことだと思います。ただ、私に祐介の考えていることを話しているうちに、自分の中で整理が出来たんじゃないでしょうか?私も必死に勉強して臨んだ模試の点が悪かったら受け入れるのに時間がかかりますから、ちょっとは祐介の気持ち、分かります」

 

「・・・」

 

「本気でやったからこそ、何か言い訳したくなりますし、心の整理に時間がかかると思います。それこそ前の私みたく、全部自分のせいにしたくなる気持ちも分からなくはないです。・・・でも、ここまで本気でやった祐介を私は尊敬します。決して情けなくないですし、みっともなくありません。そんな体で最後まで戦ってたって知って、私の方が泣きそうですもの」

 

「・・・でも、慢心して、自分に酔ってたのは事実だし」

 

「慢心していたら、格上相手に2試合連続で普通勝てないですよ。それに、自分に酔ってるだけだったら、不利な場面になったら『負けてもいい』って思いますよ。でも貴方はそうは思わなかった」

 

「そう・・・だね」

 

 今、全て腑に落ちた。泣けなかったのは、

 

「俺は・・・本気でやって負けた、って事実が怖かったのか」

 

 確かに慢心や自分に酔ってたり、そんな要素も詰まってただろう。けど、それは勝敗に直結する要素ではない。本気でやって負けた。俺が打たれたのは純粋に向こうの方が力が上だったから。今まで色々御託を並べてきたけど、ジャイアントキリングを2回達成して、自信が深まった自分のピッチングが、相手に通用しなかったという事実が怖かったのだ。それに気づいたら、涙が止まらなかった。

 

「ほら、私の肩貸してあげますから、・・・思う存分泣いてください。ここには私以外誰も来ませんから」

 

「・・・ごめん、ちょっと借りる」

 

 そうして俺は菜々の肩を借りて、泣いた。負けを認めたら最後、涙は止まらなかった。

 

「・・・調子は良かったし、体の痛みはアドレナリンで気にならなかったから、絶対に勝って甲子園に行けるって思ったのに。そっか・・・俺、負けたんだ」

 

 菜々は何も言わずに黙って聞いてくれてた。そこからしばらく肩を借りて泣いていた。

 

~~~~~

 

「ご迷惑おかけしました」

 

「いやいやそんな、私も一回やってるのでお相子ですって」

 

「・・・そう言ってもらうと助かる」

 

「泣いたらスッキリするでしょう?」

 

「俺が教えたんだけどね。・・・でも、過去一スッキリした。ありがとう」

 

「ええ!どういたしまして!」

 

 菜々の笑顔を見ると本当に元気が出る。もうこれは才能だろう。不意に菜々が不安そうな声で尋ねてきた。

 

「・・・野球を辞めたりしないですよね?」

 

「まさか。今は悔しい気持ちでいっぱいだよ。さっさと怪我を直して一から出直して、また来年勝負するよ」

 

「・・・!それはよかった」

 

「・・・そんな良いか?」

 

「ええ!祐介の野球を目一杯楽しんでいるときが一番好きですから」

 

「!!」

 

 不覚にも菜々の言葉にドキッとしてしまった。正直悔しいので、言葉を返すことにした。

 

「俺も、スクールアイドルと生徒会を一生懸命やる菜々が大好きだから、勝手に諦めたりしないでね」

 

「!!!・・・もちろんですよ!今度ライブをするので観に来てくださいね!」

 

 うーん、やり返したつもりが、伝わらなかったか。でもまあ、今は心が晴れやかで気分がスッキリしてるから許そう!

 

「・・・よし!じゃあ今から飯食いいこう!奢るよ!」

 

「え、申し訳ないのでいいですよ」

 

「いやいやいいって、俺は甘いのが食べたいから甘いの食べようよ。じゃあ出発!・・・痛っ!!」

 

「折れてるのに勢いよく立つからですよ。それに私はこれから果林さんを探しに行くので今日は厳しいです」

 

「あ、そう?じゃあまた今度どっか飯食べ行こうね」

 

「ええ、じゃあ失礼しますね」

 

 そう言って早足で生徒会室を出ていく菜々。心なしか耳が赤かったような・・・それにしても・・・

 

「生徒会室の戸締り、どうしよう」

 

 どうせ菜々が思い出して帰ってくると高を括った俺は、とりあえず昨日の睡眠不足を解消するため、ふかふかのソファで寝ることにした。まさか夜まで誰も来ないとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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