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あっという間に8月になった。俺は怪我で中々体を動かせないので、毎日学校のカラオケでストレスを発散し、その後病院に通う日々を送っている。そんな中、とある情報を耳にした。
「同好会が学校で合宿をした・・・?」
正直、よその部活のスケジュールなんて死ぬほどどうでもいいのだが、菜々が料理を作る機会がある。この一点が脳裏にちらつき、中々忘れることが出来なかった。
「(・・・頻繁に学校に通ってるから色々な人と話す機会はあったけど、救急車が来たとか、保健所が立ち入り調査をしに来た、なんて話は聞いてないから・・・大丈夫なのか?)」
もし仮に、菜々が料理を作って誰かに食べさせていたのなら、中川菜々の手料理被害者の会会長としてはとても看過できないものだ。料理を作るのが好きなくせに、作れば作るほど下手になっていく。反比例の中川と呼ばれるほどの鬼才を俺以外の誰かにぶつけたとなると協会会長としては放っておけなかった。
「(大丈夫だとは思うけど、一応聞いてみるか。本人に聞くのは流石に配慮に欠けるから、エマさんあたりにそれとなく聞けると良いんだけど)」
というか、同好会の中でこんなことを聞けるくらいの仲なのは、エマさんと果林さんくらいしかいないだけなんだけどね。とりあえずは同好会の部室に向かうことにした。
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同好会の部室の前に到着した。知らないところに入るのはなんだか緊張するのだけど・・・ウジウジしててもしょうがないので、覚悟を決めてノックをした。すると中から返事が聞こえてきた。声だけでは誰か判別は出来なかったけど、誰かしらはいるようなので入ることにした。
「こんにちはー」
「あ、有名人だ」
「あ~噂をすれば祐介くんだ。いらっしゃい、どうしたの?」
そう言って出迎えてくれたのは彼方さんと大ファンの璃奈さんだった。・・・璃奈さん!?
「え、璃奈さんいるの?やば、心の準備が足りてないんだけど」
「いつもはんぺんのお世話してくれてるの知ってるよ」
「本当に認知されてる。・・・今日死んでもいいかも」
「むぅ~、彼方ちゃんもいるんだけど~?」
「あっ、すみません彼方さん。つい・・・」
「・・・ふふっ平気だよ~せつ菜ちゃんから祐介君のことでいっぱい面白い話聞いてるから。ね?璃奈ちゃん?」
「うん。せつ菜さんが練習の合間に結構話してくれてる。いつも応援してくれてありがとう」
憧れの璃奈さんにお礼を言われたのは嬉しい。ただ、それ以上に彼方さんの含みのある言葉が気になるところである。菜々は一体何を話したのだか。・・・それはさておき、目的の二人がいるか聞くことにした。
「エマさんか果林さんって今日いませんか?」
「えっと確か・・・エマちゃんは装飾同好会に顔を出してそのまま帰るって言ってて、果林ちゃんは今日はモデルのお仕事って言ってたよ?伝言なら何か伝えておこっか?」
「ああ、いや特に大したことではないので大丈夫です。また出直します」
ふむ、二人がいないなら今日は帰るか。そう思い、部屋を出ようとしたら服をクイっと引っ張られた。振り向くと璃奈さんが首を傾げていた。
「私たちじゃ相談相手にならない?」
「え、」
急にそう言われてビックリした。本当にいきなりだったもので、つい断ってしまった
「いや、迷惑かけちゃうから・・・」
「も~今更そんな迷惑とか言わないでよ~。みんなで楽しく同好会で活動出来てるのは祐介くんのおかげでもあるんだから~」
「うん。私もせつ菜さんの屋上ライブでスクールアイドルを始めようって決めたから。今の私があるのは白浜さんのおかげでもあると思う。だから力になりたい。璃奈ちゃんボード『期待』!」
「・・・そこまで言われたら、じゃあお願いしていいですか?」
そうして話を聞いてもらうことにした。本当に大したことではないんだけども。とりあえずは順を追って話すことにする。
「・・・まず、実は俺、骨が2か所折れてまして」
「せつ菜ちゃんから聞いたよ~」
「うん。ネットニュースにも取り上げられてた」
「・・・菜々って結構なんでも話すタイプなのか・・・?まあいいや。それで野球が出来ないストレスって凄くてですね。最近学校でカラオケで歌って発散してるんですよね」
「へ~、今度彼方ちゃんも誘ってよ~」
「私も。せつ菜さんが白浜先輩はアニソンを一緒になって歌ってくれるって言ってたから、一緒に歌ってみたい」
「・・・なんだか調子が狂うなぁ。でね、風の噂で聞いたんですよ。同好会が学校で合宿をしたって」
「そうだね~。いっぱい思い出作ったんだよね~」
「うん。私、初めてみんなでお泊りして、とっても楽しかった。白浜先輩も楽しかったよね?璃奈ちゃんボード『ワクワク』!」
「ほぼ初対面なのにツッコミの難易度高くない?新手のいじめか?」
「ふふっ、せつ菜ちゃんが言ってたみたいにいじると面白い反応してくれるんだね~」
「璃奈ちゃんボード『満足』!」
後で中川菜々を詰める必要が出てきた。一体彼女らに何を吹き込んだんだ。
「えーっと、話を戻しますけど・・・学校で合宿をしたってことは、飯って自分たちで作ってました?」
「え、うん。みんなで協力・・・じゃないか~。各々で得意料理を作っていたって感じかな~」
「うん。作りたい分野が同じ人同士では協力してたけど。基本的には各々で作ってた」
「・・・もしかしなくても菜々は料理を作ってました?」
「・・・そうだね~」
ああ、終わった。それと同時に菜々が生徒会長の権限でもみ消したのだと察した。
「・・・菓子折り何が良いですか?」
「えっ、どうして菓子折りに話が飛ぶの?」
「申し訳ないことしたら普通何か持ってお詫びしに行きませんか?」
「ん?」
「え?」
何故だか話が嚙み合わない。耐性が無い人があのエンペラー料理を食べて無事でいるはずがないのだが。・・・もしかして全員胃腸が強いのか?もしくは俺の胃腸が極端に弱いのか・・・考えても分からない。それは彼方さんも一緒だった。
しかし、璃奈さんは何かに気付いたようだ。
「あの、白浜さん」
「ん?」
「全員無事だよ?」
「・・・マジ?」
誰も食中毒者はいなかったから話が噛み合わなかったのか。でも、あの地獄のような料理を食べて平気ってどういうこと?璃奈さんが話を続ける。
「うん。最初、味m・・・毒見は私だったんだけど正直ヤバかった」
あ、わざわざ毒見って言い直した。この子普通に好きかも。
「けど、彼方さんが味を調整してくれたから、みんな美味しく食べることが出来た。璃奈ちゃんボード『にっこりん』!」
「すごっ。そんなことできるんだ」
そこからワンテンポ遅れて、彼方さんもなんで話が食い違ってたのか気付く。
「あ、そういうことか~」
「彼方さんごめんなさい。俺が勘違いしてました」
「ううん。気にしないで。あの料理をそのまま食べたら祐介くんの想像通りになったと思うから。・・・中々手ごわかったぜ」
「・・・やっぱ殺人料理だったのか。それを中和するなんて彼方さんの腕凄すぎです」
「ふっふっふ~。ま~ねぇ~」
「・・・でも流石に」
そろそろ誰かが言ってやらないといけない。素直にそう思った。そして、この学校に『お前の料理マズいよ!』なんて肝が据わってる人はいないから、誰かがそれとなく伝える必要がある。同好会の人たちにそんな業を背負わせるわけにはいかないため、俺がやるしかない。うーん正直荷が重い。
それに、早めに伝えておかないと今後の俺の生命が危ぶまれる。多分今頃、同好会の皆が美味しいって言って食べてくれたから、料理熱が再燃して色々作ってる最中だろう。そして、その流れで俺に食わせてくることは容易に想像が出来た。地獄か??
「どーしよう」
「・・・祐介くん。提案なんだけど・・・」
「はい?」
「せつ菜ちゃんを呼んで料理教室を開くのはどうかな?」
「彼方さん・・・」
「・・・はい」
「・・・いいんですか!?」
「わぁお、凄い食いつき・・・うん。可愛い後輩が困ってるんだもの。彼方ちゃんが力になりますよ~」
「やば、惚れそう」
「それに一人じゃ流石に言いづらいでしょ~?」
「それはもちろん・・・まあでも、一人より二人、二人より三人ですよね!ありがとうございます!力、借りますね?」
「あれ、もしかして今私、頭数に入れられた?璃奈ちゃんボード『オロオロ』」
「なーに言ってるんですか!来年以降の合宿だと彼方さんが卒業して菜々が最高学年になるんですよ!?そうしたら今より手に付けられない悪魔の料理が出来るし、それを中和する彼方さんはもういない。・・・今だけなんですよ!未来を変えられるのは!」
「未来を・・・変える・・・!」
「わぁ~璃奈ちゃんが丸め込まれた~」
「じゃあここに、中川菜々の手料理から世界を救う会を成立します!いえーい!」
「いえーい」
これであの悪魔の料理で不幸になる人が出てこないと思うとこみあげてくる何かがあった。
「じゃあ今後どうするか近いうちに会議を開きましょう!連絡先交換してもらってもいいですか?」
「うん。大丈夫」
「私も~」
こうして二人と連絡先を交換した。・・・あれ?
「祐介くん、どうしたの~?」
「あ、いえ・・・そういえばエマさんと果林さんとは連絡先交換してないなって。交換してれば二人をこんな地獄のような料理教室に巻き込まなくて済んだのになって思って」
「まあまあ、そのおかげでせつ菜ちゃんの料理がどうにかなる目途が立ったんだから~」
「うん。それに、白浜さんと話す機会が出来て嬉しかった。璃奈ちゃんボード『にっこりん』!」
「・・・そう言ってもらうと助かります」
本当に同好会の人たちは良い人たちだ。優しさが身に染みる。
「祐介くんが良ければだけど、エマちゃんと果林ちゃんに連絡先教えておこうか?」
「あー本人が嫌そうじゃなければお願いしていいですか?」
「・・・絶対喜ぶと思うけどなあ」
「・・・そうだといいんですけどねぇ」
こうして彼方さんと璃奈さんと連絡先を交換し、今後の目途が立ってスッキリした俺は気持ちよく帰宅した。そこから風呂に入り、さあ寝るぞってなったときに気付いた。
「あれ、味の調整でどのみち菜々の料理を食べなきゃいけないから、しばらくは辛い日々が続くのか?」
嫌なことに気付いた俺はふて寝した。ああ、知らなければよかった。
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「・・・彼方さん、良かったの?」
「・・・正直、せつ菜ちゃんにすっごい失礼だけど、祐介くんの必死さを見てると今まで本当に危なかったんだなって分かるからさ。少し協力してあげない?」
「うん。私は大丈夫。白浜さんが言ってたように、このままだと来年以降確かにヤバいかも。璃奈ちゃんボード『恐怖』」
「そうだねぇ~。こういうのは思い立った時が良いよね~」
「うん。そう私も思う。璃奈ちゃんボード『共感』!」