夏休みもまだまだ序盤。相変わらず学校に入り浸っている俺は今日は生徒会室に呼ばれていた。何やらファンレターが結構届いていたらしい。
「甲子園にも出てないのに凄いねこの量」
「最後まで諦めない人は応援したくなりますよ。熱意や気持ちがこんなにも色々な人に伝わっているの、正直羨ましいです」
「いやぁ照れる」
「・・・すぐ調子乗るところを直せばいいんですけどね」
「褒めるか貶すかどっちかにしてくれない?・・・それで、これ全部野球部に持っていけばいいの?」
「いえ、ここで読んでください!」
「?、ここで読むの?野球部あてのファンレターじゃないの?」
「私も最初はそうだと思って野球部の部室までもっていこうと思ったのですが・・・貴方に向けたものも結構多かったので、とりあえず来てもらいました!」
「・・・本当に有名人になってるんだ、俺」
「どうせ家に持ち帰っても読まないと思うので今読んであげてくださいね。ファンは大切にしないと!」
「・・・スクールアイドルの鑑じゃん」
「当然です!!!」
・・・?、なんとなくだけど、今日の菜々はいつもよりテンションが高い気がした。気のせいか?
「じゃあ生徒会室を借りても?」
「構いませんよ?今日は来るのは私だけの予定ですので!」
「じゃあお言葉に甘えて、お借りします」
こうして生徒会室でファンレターを読むことになった。実際こういうのは初めての経験なため、どういうのが書いてあるのか分からないし、貰ったという実感も正直湧かなかった。しかし、読み進めていくとなんだか・・・
「勇気が出るな。こういうの」
「ええ、そうですよね」
「・・・口に出てたのか」
「はい。大きい独り言ですね」
「そういうのはそっとして放っておくのが優しさじゃない?」
「祐介にはスパルタで行くのがちょうどいいと祐介のお母さんも言っていたので」
「・・・母さんの目の前でちょっと高いコンビニスイーツ食べてやろ」
「もうっ!そんなことばかりしているから祐介のお母さんもやり返してくるんじゃないですか!」
「ぐうの音も出ない正論。でも・・・」
「でももだってもありません!確かに祐介のお母さんも大人げないですけど、祐介も大概ですからね!やり返さないで親子仲良くする!いいですね!?」
「・・・うす」
別に仲が悪いわけじゃないんだけどなぁ。・・・というか、段々母さんの悪いところに似てきたような気がする。・・・嫌なところ気づいちゃった。
そして、生徒会室に長居するのもなんとなく居心地が悪かったため、さっさと読んで帰ることにした。
「なんか久しぶりに文字読んだから疲れちゃった。もう少しだけ読んで、今日は帰ることにするよ」
「えっ、まだ居ても大丈夫ですよ?もし疲れてるのならここで休んでも大丈夫ですよ?」
何となく感じていたけどさっきからやけに、俺に生徒会室に居て欲しい、みたいなアプローチをとってくるな。なんかしたっけ。・・・このままだとモヤモヤして集中できないから、それとなく鎌をかけることにした。
「いや、それは悪いからいいよ。あと、甘いものも欲しくなってきたからカフェテリアに行って読むことにするよ」
「えっ、じゃあ私も一緒に行っていいですか?」
「・・・じゃあ一緒に行こうか」
完全に何か隠してるだろ、そう確信した。本当は自分から話すのを待った方が良いのだろうけど、問題を自分で抱え込むタイプの彼女は、『同好会内部分裂級』の爆弾を抱えてる可能性もないとは言い切れないため、頃合いを見計らって聞くことにした。ひとまずはファンレターを持ってカフェテリアに移動する。
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「はぁ、甘いものは心の癒しだ」
「そうですね」
「ファンレター読んで早く野球がしたくなっちゃったよ」
「そうですね」
完全に上の空。心ここにあらず、という感じだった。もう今、聞くことにした。
「菜々、何隠してるの?」
「・・・はい!?」
「いや返事だけは元気だな・・・じゃなくて、何隠してるの?」
「・・・そんなに分かりやすいですか?」
「面白いほど。多分初対面でも、あ、こいつ何か隠してるな、って分かるくらいには分かりやすい」
「・・・そんなだったとは。・・・話聞いてもらってもいいですか?」
「もちろん。いつでもどーぞ」
「・・・実は」
~~~~~
「ふーん。スクールアイドルのお祭りをしたいけど、生徒会から認証を貰えないと」
「ええ、そうなんですよね」
どうやらフェスをやるにあたり企画書を一回生徒会に通さなくてはいけないらしいのだが、それが通らないとのことだった。というか・・・
「え、同好会フェスすんの!?初耳なんだけど!」
「今言いましたから。それにまだ確定じゃないですけどね」
苦笑いでそう言う菜々。今のスクールアイドルの人気度を考えるとそんな複雑に考えなくても承認は降りると思うんだけどなぁ。
「それで、俺はどうすればいいの?その企画書を却下する副会長を脅すのに協力すればいいわけ?」
「もうっ!そんなことやったら一発で部活動停止ですよ!」
「まあまあ。・・・冗談はさておき、俺は何に協力すればいい?出来ることなら力を貸すよ?」
「いえ、もう手伝ってもらってるので大丈夫ですよ?」
「・・・どういうこと?」
「ふふっ。ちょっと考えてみてください!」
急になぞなぞが飛んで来た。・・・やば、どんなに考えても分からん。それからしばらくした後、険しい顔をしていた俺を見かねた菜々が笑いながら正解を教えてくれた。
「正解は、『祐介に話を聞いてもらうこと』ですよ」
「・・・どういうこと?」
「これは同好会で解決しなくてはいけない問題です。でも、私、普段だと『優木せつ菜』を隠しているので、生徒会室では生徒会長『中川菜々』として振舞わなくてはいけません。ただ、毎回却下される企画書を見てるとなんだか・・・こう・・・」
「イライラした?」
「・・・お恥ずかしいことに。企画書を提出する場にいるのに、中々口を出せないのがもどかしくて・・・かといって今一生懸命に企画書のアイデアを色々考えてくれてる同好会の方々に鬱憤を話すことも、とてもじゃないですけどできませんでした」
「だから俺に相談しようとしたのか」
「はい。最初は普通に祐介に相談をしようと思ったのですが・・・ふと、こういった相談を祐介に話したことが無いことに気付いて。・・・そしたらどう相談すればいいのか分からなくなってしまいました」
だから変にテンション高くてソワソワしてたのか。今までの点と点がつながった気がした。菜々には悪いけどつい笑ってしまった。
「はははっ!」
「むう、そんな笑うことはないじゃないですか!」
「ごめんごめん!今更こんなことで悩んでるとは思わなくてさ!・・・ふう。面白かった」
「・・・笑いすぎですよ?」
「ごめんって、そんな目で見ないでよ。・・・菜々。相談だけじゃなくて愚痴でもなんでも、いつだって話は聞くよ?今日みたく生徒会室に残らせようとしなくても、変な理由はいらないから、いつでも頼ってよ。幼馴染なんだからさ。逆に遠慮するほうが失礼だよ?」
「・・・ふふっ。遠慮するほうが逆に失礼って凄い考え方ですね!・・・じゃあ、はい!これからもよろしくお願いしますね!」
「ん。任せなさい」
その後、カフェテリアでお互いの今後の予定を話した後、解散した。それにしても、あの菜々が人に相談しようと思うようになったのがなんだか感慨深かった。企画書も彼女たちの熱意が伝わればきっと大丈夫だろう。だから俺がやることは・・・
「夏風邪ひいてフェスに参加が出来ない、なんてことが無いように体調整えよう」
これに尽きる。ああ、楽しみだ。