中川菜々と優木せつ菜、時々アクセントで俺   作:蒲鉾うどん

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追記 誤字報告マジで助かります。ほんまありがとう




「結構本読むのって面白いな・・・」

 

 夏休みも終盤に差し掛かってる頃。いつものように学校に入り浸ってる俺は今日は図書室に来ていた。骨が折れている状況では出来るトレーニングも限られており、連日カラオケに入り浸っていたため、流石に飽きた。釣りをしようと考えるも日中は流石に暑いため、今日は図書室で涼みながら時間を潰そうと思った。最初はすぐにスマホを弄るつもりでいたが、いざおススメ蘭の本を手に取ってみると全然そんなことは無かった。新たな自分に目覚めた瞬間でもあった。

 

「国語の教科書だと読む気が湧かなかったけど、普通に面白いじゃないか、芥川。そりゃ賞の名前にもなるわ。うん」

 

 朝から読み続けて気づいたら数時間が経過していた。十二分すぎる暇つぶしであった。非常に満足である。そして、そろそろ日も傾いてくる時間であった。

 

「(・・・もうすぐ夕方か。・・・よし、釣りに行くか)」

 

 朝と夕方は基本的に魚の食いつきが良い。時間的にも今から支度したらちょうどいい具合の時間になっていた。さて、それそれ行くか。そう思い席を立つと放送が流れた。

 

『白浜祐介さん、白浜祐介さん、校内にいましたら至急、生徒会室までお越しください。繰り返します・・・」

 

 一瞬理解が追い付かなかったが、どうやら俺は呼ばれてるらしい。生徒会室に。犯人はあいつしかいないが・・・いやいや、完全に職権乱用じゃない?このまま無視して帰ってもいいが、何か重大なことを話すのかもしれないため・・・いや、無いな。第一声を予想するなら『やってみたかったんです!』とか言いかねない。でも、何か大切な用事だったらこのまま帰るのも申し訳ないため、一応行くだけ行ってみることにした。

 

 

~~~~~~

 

「いや~、一回やってみたかったんですよね!」

 

案の定想像通りだった。顔も深刻そうな感じではない。よし、帰るか。

 

「・・・じゃあね」

 

「いやいや、ここまで来たんですからゆっくりしていってくださいって!」

 

「馬鹿野郎!今日は美味しいお魚を食べるために今から潮風浴びながら竿を振り続けるんだ!邪魔しないでくれ!」

 

「・・・」

 

 流石に罪悪感が出てきたか、そう言ったら菜々がおとなしくなった。根はいいやつなのは間違いないけど時々頭のネジが足りなくなるからね。まあ、失敗は誰にでもあるから。今日の無礼は芥川を読めて気分が良いから許してやろう。そう思いながら生徒会室を後にしようとしたとき、後ろから飛び道具は飛んできた。

 

「・・・『相談だけじゃなくて愚痴でもなんでも、いつだって話は聞くよ?』」

 

「・・・んな!」

 

「『今日みたく生徒会室に残らせようとしなくても、変な理由はいらないから、いつでも頼ってよ。』」

 

「・・・っ!」

 

「『幼馴染なんだからさ。逆に遠慮するほうが失礼だよ?』」

 

「くっそ・・・!」

 

「聞き覚え、ありませんか?」

 

 前言撤回。中川菜々は頭のてっぺんからつま先まで悪意で出来ているらしい。まさに悪魔みたいな女だ。俺の扱い方が上手すぎる。というか俺がちょろすぎて涙が出てきた。無理矢理涙を引っ込めて、要求を聞く。

 

「・・・オーケー、望みは何だ?スクールアイドルの活動を両親にチクらない人間か?同好会の内部分裂の経緯を拡散しない男か?『中川菜々』=『優木せつ菜』って言いふらさない幼馴染か?」

 

「・・・っく!・・・貴方、本っ当にいい性格してますね」

 

「まあ、タダでは起きないように教育されてっから」

 

 オカンの教育の賜物だ。そして、どうやら俺もこと幼馴染については扱いが上手くなってるらしい。といってもやってることはノーガードの殴り合いなため、かなりダメージは受けている。少しは自重してほしいものだ。

 

「・・・先ほどは脅すようなことをしてごめんなさい。本当に駄目なら大丈夫ですよ?」

 

「えっ」

 

「出来れば祐介の力を借りたかったのですが・・・」

 

 さっきとは一転して弱気になる彼女。・・・なんだか調子が狂うなぁ。別に悪いことをしたわけじゃないのに申し訳無くなる。別に今日釣りに行かなければ死ぬってわけじゃないからなぁ・・・。

 

「・・・じゃあまあ、いいよ、分かった。今日は付き合うよ」

 

「・・・ふふふっ!本当ですね?今、言質取りましたから!」

 

 何故か急に元気が出た幼馴染。冷凍保存して仮死状態になってた魚か?思考が追い付かない中、菜々がネタ晴らししてくれた。

 

「実は果林さんに、『祐介君は押すだけ押したあと引けば多分イチコロよっ!』って言われたので実践してみました!・・・まさかこんなうまくいくとは思いませんでしたけど!」

 

 まんまと嵌められたらしい。菜々も気付けばにっこにこだ。

 

「完っ全に舐められてるじゃん。やば、一周回って今の状況を楽しめてる自分がいる」

 

「心が壊れちゃいましたか・・・おーい!戻ってきてくださーい!」

 

「勝手に壊すな・・・。いや、壊した側が言うことじゃないよね?反省して?」

 

「ふふっ!」

 

 どうやら全く反省するつもりはないらしい。さっきからケラケラ笑ってる。後で何かやり返すか・・・いや、というか。元凶は果林さんだな。先輩だけど腹立つからプレゼントで方位磁石送っとこう。ありったけの嫌味も込めて。

 それから菜々と話しているうちに聞いておきたいことがあることを思い出したため、それを聞くことにした。

 

「そういえば、同好会の中で俺って割と人気なの?」

 

「・・・?どういう意味ですか?」

 

「知らないうちに同好会の人たちの連絡先ほとんどコンプしてた」

 

「えぇ・・・」

 

 心当たりはある。彼方さんと璃奈さんと連絡先を交換した時、ついでにエマさんと果林さんに連絡先を伝えてもらおうとしたときだろう。連絡先は広めてもいいよ、ってスタンスだったのがマズかったのかもしれない。

 

「関わったことが無い人ともやり取りするようになった」

 

「貴方の交友関係までは把握してないのですが・・・ちなみに誰と連絡先交換したのですか?」

 

「最初は彼方さんと璃奈さんに渡して、次にエマさんと果林さん。そこから桜坂さん、宮下さん、侑さん、それから・・・かすかす」

 

「かすかす」

 

「あの子面白いよね。一回バッタリ会って話したことあるけど、マジで好き。弄りがいのある可愛い後輩だよ」

 

「否定はできませんけど・・・」

 

 かすかすはマジでいい子、コッペパンくれるし。育ち盛りには正直助かる。

 

「半年前には考えられないくらい俺も有名人になったよ。・・・こうやって浮かれてたから足元救われたんだけどね」

 

 決勝で負けたことを考えるとため息が出る。気持ちの整理はついたけど、多分ずっと後悔するやつだ。嫌だなぁ

 

「また来年頑張ればいいんですよ!くよくよしない!・・・話を戻しますが、先ほど同好会の方々と連絡先を交換したと言いましたが、1人足りなくないですか?」

 

「うん。たしか、歩夢さんだっけ?それで連絡先ガチャコンプできる」

 

「同好会の連絡先をソシャゲみたく言わないでください!・・・。そうですか、歩夢さんですか、」

 

「・・・?歩夢さんに何かあったの?」

 

「ええ、おそらく。今日も歩夢さんと侑さんについて相談したくて呼ばせていただきました」

 

「おー、凄い偶然。乗りかかった船だから最後まで付き合うよ」

 

「はい。そうしてもらえると助かります」

 

 こうして色々聞かされた。とどのつまり、なんだか侑さんと歩夢さんが何か悩みを抱えてるように菜々が感じているらしい。

 

「二人に聞いちゃえばいいじゃん」

 

「それが出来たら苦労しないですって」

 

「それもそうか」

 

 確かに。これは失言だった。

 

「とりあえず菜々はどうしたいの?」

 

「・・・二人には同好会で散々お世話になっているので何とか力になってあげたいんです。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

「・・・どうしてあげればいいのかなって」

 

「・・・なるほどね」

 

 菜々自身、数か月前に大好きを押し付けた結果、同好会がバラバラになった経験がある。ただ、同好会の人と連絡先を交換して、色々メッセージのやり取りしているうちに、最近は自分の気持ちは素直に伝えるようにはなったみたい。それは良かった。ただ・・・

 

「(流石に自分から他人の事情に首を突っ込むのは躊躇うよなぁ)」

 

 他者とのコミュニケーションをミスった結果、大変な目に遭った以上、人との関わり方は今まで以上に気を遣ってるはずだ。だからこそ、他人の事情に一歩踏み込むのを躊躇うのだろう。コミュニケーションをミスって散々な目にあったのだから。それにそういったトラウマ的なものが無くても、他人から悩みを引き出すのは難しい。だから菜々にとっての難易度はそれ以上だ。

 これに関しては俺の中で正解と思えるものが無いからこそ、考えてることを素直に伝えることにした。 

 

「菜々」

 

「・・・はい」

 

「人から想いを引き出すのって難しいよね」

 

「・・・そうですね」

 

「菜々はさ、自分でどうにかしてあげたいと思ってる?」

 

「それは・・・そうですね。助けられた分、助けてあげたいと思ってます」

 

「そっか。でも俺はそこまでしなくてもいいんじゃないかなって思うよ?」

 

「・・・どうしてですか?」

 

「だって、同好会って『ライバルだけど仲間』なんでしょ?」

 

「・・・!、・・・そう、ですね」

 

「同好会の人とメッセージを交わしていて、みんな結構お互いのこと見てるんだなぁーって感じてる。○○のお弁当の中身のおかずはオムレツが毎回入ってるから好物に違いない、とか、○○が歌うときは絶対に手を胸に当ててる、とか。それ本人も認識してないだろっていう癖とか気付くくらい、お互いがお互いをよく見てると思った」

 

「・・・そうなんですか?」

 

「そうだよ?菜々だって、同好会の子の話をするとき、よく自分で見て感じたことをペラペラ話してるじゃん」

 

「えっ・・・」

 

「無意識かい。・・・それはともかく、だからこそ菜々だけが、二人が何か問題を抱えてるって気づいてるとは思えないな」

 

「・・・他の人も気にかけてるってことですか?」

 

「全員ではないと思うけど、何人かは侑さんと歩夢さんに違和感を感じてると思ってる。それから、その2人は幼馴染なんでしょ?じゃあ2人の空気感みたいのもあるだろ。俺と菜々にだって他所から見ればそういうのはあると思うし」

 

「・・・」

 

「だから、自分から聞きに行くんじゃなくて、話してくれるのを待つのが良いんじゃないかな?」

 

「待つ?ですか」

 

「うん。何かあったらいつでも相談してねって伝えておいて、それで自分が二人に伝えたいことを整理して待つ。それで相談されたら解決するのを手伝えばいいんじゃない?もし仮に他の同好会メンバーが相談されたり介入することになったとしても、侑さんと歩夢さんの問題が無事に解決できるなら、それはそれでいいじゃん?結局2人で解決出来たら万々歳だし」

 

「それは・・・そうかもしれないですけど。少々冷たくないですか?祐介らしいですけど」

 

「2人が誰か悪い人に脅されてる、とかだったら話は別だけど、そうでもないんならいいんじゃない?もし俺と菜々が喧嘩したってなった時、第三者が勝手に介入してきて勝手に解決させられたら嫌じゃない?」

 

「それは確かに嫌、ですね・・・」

 

「侑さんと歩夢さんがそう思ってるとは限らないけど、2人を信じて待ちに徹して、相談されたら全力で力になる。こういう人も居ていいんじゃないかな?」

 

「・・・確かに。私は直接的に誰かの力になることだけを考えてましたが・・・ふふふっ!祐介ってほんと凄い考え方してますよね!」

 

「俺の考えが合ってるかどうかは別だけどね」

 

「でもそんなこと考えてるくせに、自分から人の事情に首を突っ込んでるのをよく見かけます!貴方って本当にいい加減ですね」

 

「そう言われると厳しいなぁ。頭では合理的に考えてるけど、体が勝手に動いちゃうんだよなぁ」

 

「それは貴方の良いところだと思いますよ?だから人が集まるんです」

 

「それなら、良かった、かな?まあ、俺が言いたいことは、自分のやりたいようにやれば良いんじゃない?ってことだよ」

 

「さっきと言ってること違くないですか・・・?」

 

「今指摘されて気づいた。言ってることとやってることがめちゃくちゃだって。だから訂正。自分のやりたいようにやればいいと思います」

 

「なんですかそれ!でも、そうですね。先程祐介が言ってたことも一理あるのでそれを参考にしつつ、私のやりたいようにやろうと思います!」

 

「それでいいと思う。それと、『始まったのなら貫くのみ』この言葉も伝えてあげて欲しい。状況によるけど、勇気が出る魔法の言葉だから」

 

「わかりました!そうさせて頂きます!」

 

「ん、じゃあ一件落着だ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 こうして菜々の相談は終えた。時計を確認すると、時間が中途半端だったため、少し図書室で時間を潰して帰ることにした。

 

「じゃあ今日はこれで失礼するよ」

 

「はい!今日はありがとうございました!ちなみにこれから釣りに行くのですか?」

 

「いや、図書室に本を読みに」

 

「へぇ〜、珍しいこともあるものですね。何を読むんですか?」

 

「含みがある言い方。実は『人間失格』をさっき読んだ」

 

「へぇ〜太宰読むんですか!結構私も読みますよ?今度『斜陽』とか貸しますよ!」

 

「・・・・・・まあ。その辺は追々。菜々はこれから練習?」

 

「はいっ!スクールアイドルフェスティバルもまもなくなので、練習に精を出しています!」

 

「そっか、頑張ってね。観に行くから、絶対」

 

「はい!応援よろしくお願いします!」

 

「ん、じゃあね」

 

「はい!サヨナラです!」

 

 こうして生徒会室を出た俺は図書館にも寄らず、そのまま家に帰ってきた。なるほどなるほど・・・

 

「『人間失格』って芥川じゃないのかー」

 

 自分の知識不足に気づいてからは、なんとなく、偉人の本を読むのが恥ずかしくなってそのまま帰ってきてしまった。それにしても・・・

 

「馬鹿がバレなくて良かったー」

 

 冷房の効いた部屋で1人呟く。学びがなくても俺には野球があるからと、言い訳をしてみるが、虚しいだけだった。そのため仕方なく夏休みの課題に手をつけることにした。

 それにあとちょっとの失言で笑いのタネにされるところだった。芥川、オメー人間失格くらい書いとけ。故人に悪態をつきながら宿題に精を出した。

 

 

 

 

 

 

 

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