「本当に降ってきたなぁ・・・」
今朝母さんから受け取った折り畳み傘を鞄から取り出した。まさか本当に今日、役に立つとは思いもしなかった。
ライブが始まって早数時間。各地で行われていたライブは開始からとんでもない盛り上がりを見せていた。その勢いは凄まじいもので、スクールアイドル界隈について全く知らない俺でも、このコンテンツの人気っぷりを肌身で感じることが出来た。
しかし、終わりはいきなりやってきた。雨が降ってきたのであった。全部が屋外開催の今回のフェスは中断を余儀なくされ、雨雲レーダーでも数時間はお台場上空に雨雲がかかる予定となっていた。
「折り畳み傘が本当に役立つとは・・・母さんは一体何者なんだ?グランドラインの航海もお茶の子さいさいだったりするのか・・・?」
なんて、一人でボケてみたが生憎ツッコミはいないため、虚しく雨音にかき消された。くそぅ。
とりあえず、菜々に折り畳み傘を届けにいこうと思ったとき、前から走ってくる人影が見えた。・・・?なんとなく知ってるようなシルエットをしている?よーく目を凝らすとよく知ってる顔だった。
「あ、果林さんだ」
「!!、ちょうどよかった!傘入れて!!」
「あ、ちょっ」
そう言って強引に傘に入ってくる果林さん。どれだけの距離を走ってきたのか、大きく息が切れていた。
「ハア、ハア・・・・」
「えーっと・・・姉さん、お勤めご苦労様です」
「ちょっと・・・ハア・・・勝手に・・・刑務所から出所してきたみたいに・・・ハア・・・ハア・・・しないで!」
息も絶え絶えになりながらもツッコミを入れてくれる。流石果林さん。それにしても、
「なんでそんな息が切れてるんですか?」
「・・・迷ったのよ」
「あぁー」
たった一言で状況を把握できるとは思ってもみなかった。そっか、迷ったのか。大方、案内人ともはぐれて、道に迷ってる中雨が降ってきたから、体力に任せて走り回っていたところ俺を見つけたのだろう。方向音痴もここまでくると不憫でならない
「とりあえず屋根のある場所へ移動しましょう。今日の演者が風邪ひいたらどうするんですか。ほら、一緒に行きましょ?」
「・・・ありがとう」
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「おー、凄い降ってきたなぁ」
「そうねぇ」
たまたま近くに屋根があるベンチがある公園があったため、そこへ向かい、場所を確保し、ほっと一息つく。
「良かったですね、先客がいなくて」
「ええ、ほんとうに」
「ステージの方は・・・中止ですか?」
「いいえ、とりあえず雨が止むまでステージ中断ってメッセージが入ってたわ」
「あ、やっぱそうなんですか。でも・・・この雨だとなぁ」
「ほんとに・・・ね」
そう言いながら二人で雲が覆った空を見上げる。見える範囲は全部暗い雲がかかっており、これでは当分は止みそうもないのだけは天気予報アプリを見なくても分かった。
ただ、今後いつまで降るかは母さんみたいなアンテナは無いため、流石にスマホでこれからの天気を調べることにした。俺がスマホとにらめっこをしているうちに、果林さんが口を開いた。
「言うタイミングを逃してたから中々言えなかったけど・・・前は本当にありがとうね」
「前・・・?」
「ええ。先月のフェスの時。私を励ましてくれたじゃない?」
「・・・ああ、そういえばそんなこともありましたね。結局背中を押したのは同好会のメンバーなのに。わざわざ律儀に言わなくても」
「いいえ、それは違うわ」
そういって首を横に振る果林さん。
「祐介くんがあの時、私に声をかけてくれて、それで仲間がいることを教えてくれたから、みんなの言葉が心にすっと入ってきたのよ」
「・・・そんなものですかね」
「ええ。だから、ありがとう。私に勇気をくれて」
やっぱり俺は美人の笑顔に弱いらしい。顔が熱い。正直直視できなかった
「・・・あらぁ~?もしかして、照れてる?」
「・・・悪いですか?」
「いいえ?いつもは捻くれてるのに、可愛いところあるんだなぁって」
「・・・果林さんのような美人に気持ちをストレートで伝えられると誰でもそうなりますって」
「!!、ふふっ!どうもありがと!」
お礼もして、俺をからかうことが出来て挙句に褒められたから、相当ご満悦なようだ。このままだとやられっぱなしになりかねないので、話題を変えることにした。
「そういえば・・・さっき貰ったパンフレットの最後のところが気になってるんですよね。虹ヶ咲はソロアイドルだから、出演するグループ蘭のところは個人名で書かれてるのに、最後だけ『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』ってなってるのが違和感で。・・・もしかして、全体曲ですか?」
「・・・驚いた。ええ、そうよ。実は感謝の気持ちを伝えたい子がいて。でも、この天気じゃちょっと・・・」
厳しいかもね。そう言う果林さんはかなり残念、というか悔しそうな表情を浮かべていた。
「それは・・・悔しいですね」
「結構・・・ね。自然現象だからどうしようもないってのは分かってるのだけど。どうしてもね。祐介くんも野球でそういう経験はないのかしら?」
「うーん、雨で潰れるとしたら試合くらいですけど・・・悔しいっていうのはないですね。対戦校に中学の友達がいたときは残念とは思いますけど、基本は試合が潰れて結構ホっとしてますよ?・・・あれ、同じ話をフェスの時にしませんでしたっけ?」
「てっきり私を励ますために嘘を言ったのだと思ってたけど。へぇー意外ね。先月の大会なんてあんな凄いボール投げてたのだから、野球やるのが面白くてしょうがないものだと思ってたけれど」
「いやいや全然。試合前なんて逃げたくてしょうがないですもん」
「キミでもそんなこと思うんだ」
「特別メンタルが強いわけじゃないですからね。・・・でも、菜々から魔法の言葉を貰ってからは勇気が出るようになりましたけど」
「せつ菜が?」
「ええ。『始まったのなら、貫くのみ』この言葉のおかげで多少は割り切ることが出来ましたから」
「フェスの時も言ってたわね、それ。彼女の言葉だったのね」
「そうですね。この言葉にどれだけ救われたか分からないです。夏の大会も結果的には負けてしまいましたけど、来年またリベンジです」
「いいわね、その意気よ」
「まずは怪我をしっかり治してからですけどね」
二人で話してるうちに雨が小ぶりになってきた。ステージはまだ出来なさそうだけど、テントに戻るくらいならできそうだ
「このくらいの雨なら移動してもそんなに濡れなさそうですね」
「ええ、そうね。これくらいなら走って行っても問題なさそうね。祐介君、どうもありがとう」
そういって本当に走っていこうとする果林さん。流石に色々無理があるから止めた。
「いやいやいや、どうやって帰るんですか?」
「どうって、走ってだけど?」
「発想が小学生なんですよ・・・じゃなくて、道が分からないんじゃ、どうやっても帰れないですし、小ぶりとはいえ長時間雨に当たり続けたらびしょ濡れになりますって。ほんと、しっかりしてくださいよ」
「ぐっ・・・やっぱり可愛くないわね」
「どうでもいいですよ、可愛さなんて。・・・ほら、これ」
「これは・・・折り畳み傘?2本持ってたの?」
「そうです。本当は菜々用に持ってたんですけど・・・状況が状況なんでそれ使ってください。そんで、関係者のテントの方向かいましょう。俺も一緒に行きますから」
「・・・ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわ」
こうして、道中色々話をしながら、本部テントへ向かった。
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「あ、なn・・・せつ菜」
「あれ?こんなところで何してるんですか?」
「迷子センターはこちらだと知ったので」
「迷子・・・?あぁ」
「ちょっと!私を見て全て納得しないで!」
「周知の事実だからしょうがないですって。どうどう」
「祐介、それだと動物をあやす言い方です。果林さんに失礼ですよ?」
「せつ菜・・・!」
「迷子なので、語尾はでちゅねで統一しましょう!」
「ちょっと!流石に怒るわよ!・・・というか、貴方たち二人になるとそんなノリになるのね・・・」
困惑気味の果林さん。まあ、菜々とは幼馴染だし、阿吽の呼吸ってやつだ。周りにいたスタッフの人や出演者の人も笑ってた。
「じゃ、俺はもう行くよ」
「あれ、もう行ってしまうのですか?この雨ですから、ゆっくりしていってもいいですよ?」
「流石に男一人だといたたまれないから。それに、やることが出来た」
「やること・・・ですか?」
「そう、やること。じゃあ、またね」
そう言って俺はテントを出て虹ヶ咲学園へ向かって歩き出す。
果林さんがさっき言ってた、気持ちを伝えたい相手って多分侑さんのことだ。そして、その侑さんは今日の日のためにめちゃくちゃ頑張ってるっていうのは菜々から聞いてた。
侑さんとは既に面識はあるし、俺自身頑張ってる人は報われて欲しいと思っているので、今日のフェスではなんとかいい思いをしてほしいし、同好会から侑さんに向けた曲っていうのを披露する場をどうにか作ってあげたいと心から思った。彼女のおかげで菜々がスクールアイドルを捨てずに済んだし、なにより俺はハッピーエンドが好きなんだ。だからこそ、何か行動を起こさずにはいられなかった。
天気予報や雨雲レーダーだと、今日の終了時間まで止むことはなさそうだった。もしかしたら止んでどうにかなるかもしれないが、最悪のケースだってあるだろう。だから学校に時間の延長をお願いをしに行くことにした。無理かもしれない、無駄になるかもしれない、そんなのは十分理解している。一生徒のお願いじゃ、学校は動いてくれないのは当たり前だろう。それでも何か行動を起こしかった。彼女たちに良い思いをしてほしいという俺のエゴだけど、今日はそれを貫きたかった。
次回で一区切りしたいです