中川菜々と優木せつ菜、時々アクセントで俺   作:蒲鉾うどん

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お久しぶりです


9月以降


スクールアイドルフェスティバルも無事に終え、季節は秋へと移り変わった。ここまでに起こった出来事といえば、留学生が2人、虹学に転入した事と、オープンキャンパスで同好会がトイストーリーのNG集みたいな映像を流す失態を犯したくらいだ。

 

 そして、これから起こる出来事としてはズバリ、明日が俺の復帰後初の公式戦、来年の春の選抜に出るための重要な一戦である。詳しくいえば、まだ何試合か勝たなくていけないのだが、負けたらそこで終わりということで、例によって俺はピッチャー辞めたい病に罹っていた。隕石落ちないかな。

 

 夜飯も食べ、そろそろ風呂にでも入ろうか、そんなことを考えていた時、携帯から一件の通知音が鳴った。スマホを手に取り、確認したところ、菜々からのメッセージだった。アプリを開き、内容を確認する。

 

『今からお散歩へ行きませんか?』

 

『すぐ行く』

 

菜々からのお誘いに二つ返事で了承した俺は、さっさと支度を済ませ、道路の向かいの菜々の家へ向かった。そして、もう既に玄関には、菜々の姿があった。

 

「あ、問題児」

 

「誰のせいだと思ってんだこら」

 

「ふふっ!冗談ですって!あんま怒らないでください!」

 

 以前同好会で広まった、俺が理事長を脅したんじゃないか、という噂が結局学校で広まり、何も悪いことをやってないにも関わらず、『有名人』という名称が『問題児』へと知らないうちに変わった。なんだそれ。それのせいか、菜々以外の同好会メンバーからなんとなく今まで以上の優しさを感じるようになったのはここだけの話。

 

「そういえばフェスの帰り以来ですね。久しぶりです!」

 

「ん、そう言われるとそうかも。久しぶり、俺が来るまで待った感じ?」

 

「いえ?祐介の部屋の光が消えたのを確認してから出てきましたので、ピッタリですよ?」

 

「わぁ、俺の生態系が完全に把握されてんのウケる」

 

「祐介こそ、今日は大丈夫でしたか?」

 

「まあ、明日公式戦だけど午後からだし、どうせ寝付けないから問題ないよ。むしろ外に連れ出してくれて感謝してる」

 

「あぁ、いつものですね。でもどうせ大丈夫ですよ。祐介なんだから」

 

「......だといいんだけどなぁ。とりあえず行こっか。どこ向かう?」

 

「んー気の赴くままに、ですか?」

 

「じゃあ、信号が青の方進んで、1時間くらいしたら帰ろうか」

 

「いいですね。それでは行きましょうか」

 

 こうして信号に行く末を委ねた俺たち。同じ学校に通ってるはずなのに最近は2人で話すことは少なくなっていたため、話題は自ずとお互いの近況報告となっていた。

 

「そういえば骨はくっついたのですね」

 

「実際は菜々達のフェスの時にはくっついていたんだけどね。リハビリと投げる感覚戻すのに時間かかったって感じ。年内に復帰出来れば良いなって思ってたけど、まさか公式戦で投げられるとは思ってなかった。お陰で今日明日は寝不足だよ」

 

「嬉しい悲鳴ってやつですね。明日はどこで試合なんですか?」

 

「漢字は覚えてるんだけど、なんて読むのかがわからん。それに、17年生きてきて未だに自分の住んでるところ以外の位置関係が頭に入って来ないのよ。東京複雑すぎ」

 

「あれ?果林さんのこと言えませんよ?」

 

「果林さんは別格だろ。俺だって地図があったら行きたいところくらい行けるわ。すぐどっか行く人と一緒にしないでくれ」

 

「.....ふふふっ!凄い言い様ですね!本当は笑ってはいけないのですが...。以前確か、学内でも迷子になってるって噂を聞いたことがあります。あながち本当かもしれませんねぇ」

 

「.....果林さんって1日どのくらい歩いてるんだ?今度あの人に万歩計持たせてみるか」

 

 そうこうしているうちに初めて信号がある交差点にぶつかった。当初のルール通り、青の方向へ向かいつつ、話は続く。

 

「菜々は最近どうなの?なんか、スクールアイドルのフェスがまた開催するって聞いたけど」

 

「ええ、そうですよ。合同文化祭で合同ライブすることになりました!」

 

「地域活性化への貢献しすぎじゃない?そろそろ表彰されたりしないの?」

 

「流石にそんな話は来てないですけど...テレビの取材は来ましたよ?」

 

「知らないうちに有名人じゃないか。でも菜々、あんまり表立ってやってると正体バレるけど平気?」

 

「.......まあまあ、その辺は追々考えるとして、」

 

 あ、逃げた。というかおばさんは多分、菜々がスクールアイドルやってるの勘付いてると思うんだよなぁ、アニメやゲームはとうの昔にバレてるし。この辺がどうなるかは、これからの楽しみとして取っておこう。.....我ながら性格悪いな。でも見てる分には面白いからなぁこの親子。

 

「美術の中森先生が休職するらしいですよ?」

 

「ちょっと誤魔化し方雑じゃない?触れて欲しく無さそうだから何も言わなかったけど、流石に突っ込むわ。もう少し他に話題あったでしょ。というか美術の中森って誰?」

 

「え、中森先生を知らないのですか?ちょっと恰幅の良い、厳しめの方で、テストが鬼のように難しくて私は毎回苦労しているのですが....」

 

「........、!あぁー!思い出した!濁点が似合う金髪のおばちゃんね。オーケーオーケー。あいつ休職するんだ。確かにテスト難しかったよなぁー。毎回美術の平均点だけ可笑しかったもんな。そっかー、あいつ居なくなるのか〜」

 

「濁て....」

 

「俺はあいつ嫌いだったからラッキーだな。ネチネチ何か言ってくるのも面倒だったし、何よりテストが楽になるのが嬉しいわ」

 

「........ふふっ」

 

「あ、笑った。菜々も嫌いだった?」

 

「嫌いというか、苦手というか....色々思うところはあったのですが、祐介が全部言ってくれたのでなんだかスッキリしました」

 

「そ?なら良かったよ」

 

 話しながら歩いているうちに、球場についた。というかここって....

 

「あ、明日の会場だ」

 

「え、ここですか?というか徒歩圏内の球場ならちゃんと覚えておいてくださいよ。自分の住んでいるところも怪しいじゃないですか」

 

「うるさいぞ?今試合前で情緒不安定だからあんまり強く言われると泣くぞ?」

 

「そんな祐介も好きですよ?」

 

「やかましいわ。誰のせいで泣きそうになってると思ってんだ。まずは発言に気をつけてくれ、頼むから」

 

「そんなことより」

 

「そんなこと」

 

「ここなら明日試合観に行けそうですね。何時からでしたっけ?」

 

「13時プレーボールだけど、えぇー本当に観に来るの?」

 

「嫌ですか?」

 

「嫌というか、炎上したら恥ずかしいじゃん」

 

「炎上?」

 

「ん?ああ、野球における炎上っていうのは、ピッチャーが大量失点して試合がほぼ決まることね。とどのつまり、明日の復帰戦でボッコボコにされるところを菜々に観られたら嫌だなぁって」

 

「ふーん、じゃあ、15分前にはここに着いているようにしますね」

 

「ちょっと、話聞いてた?」

 

「聞いてましたよ?聞いた上で、観に行こうと思ってます」

 

「えぇ...」

 

 どうしてその結論に辿り着いたのかがわからない。困惑してると菜々が理由を話してくれた。

 

「祐介は明日、本気でやりますか?」

 

「?、もちろん。じゃないとここまで支えてきてくれた色んな人達に申し訳ないから、目一杯全力でやるよ。結果はわからないけど」

 

「じゃあ、それだけで充分じゃないですか。前にも言ったかもしれませんが、私は貴方が本気で頑張る姿が好きなんですよ?勇気を貰えるし、私も頑張ろうと思えるから」

 

「俺は野球が好きだからやってるだけで、勇気を与えるとかそんなつもり無いのになぁ」

 

「それでもです。それに、出るんでしょう?甲子園」

 

「....!」

 

「じゃあ大丈夫ですよ。絶対負けませんから!」

 

「....そこまで発破掛けられたら、やるしかないよな。分かった、じゃあ最後まで見てて。絶対勝つから」

 

「はい!楽しみにしてますね!」

 

 それから少し雑談をして、ふとスマホを確認したら当初の予定の1時間が経とうとしていた。明日も午後からだけど予定があるため、帰ることにした。

 

「もう時間だし、とりあえず家の方へ向かって歩こうか」

 

「ええ、楽しいと時間が経つのが早いですね」

 

「そうだなぁ。でも、明日から会えなくなるわけじゃないんだから。お互い落ち着いたら一緒に何処か遊びに行こ?」

 

「いいですね。どこにいきます?」

 

「うーん、ラウンドワンとかその近くの公園とか?」

 

「確実にトラウマを抉りに来てますよね?わざとですよね?」

 

「まあまあ。菜々は何処行きたい?」

 

「行きたい、というかやりたいことは出来ました」

 

「へえ、いいじゃん。教えてよ」

 

「祐介が秋の大会で負けたら一緒に反省会をしたいです。生徒会室で」

 

「....悪かったって。そんな怒るなよ」

 

「....ふふふっ!怒ってないですよ!偶には仕返ししたいと思っただけです!」

 

「偶には.....?」

 

「.......祐介?」

 

「あーはい、ごめんなさい。もう言いません。でも、今年は色々な事があったからなぁ。何処か遠くへ行ってのんびりしたいなぁ」

 

「流石に高校生だけで旅行はマズいですからねぇ。お母さん達に頼んでみますか?」

 

「そうだなぁ。とりあえず、お互いひと段落したらもう一回考えようか。俺の方は勝ち進んでも多分11月には終わってると思う。菜々は?」

 

「同好会の文化祭ライブがあと少しで開催して、あとは何かしらの形でライブをしたいですけど、予定は決まってないです。生徒会長も今期いっぱい辞める気なので、引き継ぎとか諸々考えても10月には落ち着くと思います」

 

「あ、生徒会長辞めるんだ。もう一回やってくれって言われないの?」

 

「よく言われますけど、来年は受験も控えていますから。流石にちょっと」

 

「そっか、そうだよなぁ。来年で卒業か」

 

「祐介は進路どうするんですか?プロになったりとかは?」

 

「ないない。今でさえ試合前精神的に可笑しくなってるのに、たとえプロに行けたとしても無理だよ。ストレスで間違いなく死ぬ」

 

「そうですか」

 

「とりあえずは目先の一勝を取り行くことにするよ。あ、家が見えてきた。真っ直ぐ帰るとそんなに時間が掛からずに着いたな」

 

「私たち結構遠回ししてたのですね」

 

「だね。じゃあ、明日の試合のために精神統一をするのでこの辺でお暇させて貰いますね」

 

「きっと大丈夫ですよ!そんな心配しないで!」

 

「だといいんだけどね。じゃ、またね」

 

「はい!あ、祐介!」

 

「ん?」

 

「がんばれ!!」

 

「....ははっ、ありがとう、元気出た。じゃあ本当に、おやすみ」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

 

 

 

 

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