「私、スクールアイドルになります!!」
「あ、そうなんだ」
声高々に告げる彼女と、淡々と答える俺。二人の温度差は凄く、菜々は若干困惑しているようだった。
「あの、え?私がスクールアイドルやるんですよ?もっとこう...」
「リアクション?」
「そう、それです!なんですか、『そうなんだ』って!?」
「俺の反応楽しみにしてたの?」
「割と!」
それはごめん。そう心の中で謝り話を続ける
「でも、菜々がスクールアイドルか。いいじゃん」
「出来ないとか言わないんですか...?」
「ずっと俺の野球を応援してくれてるのにそんなこと言うわけないじゃん、中学校の時も大分世話になったし。魔法少女になって世界を救うとか言いだしたらどうしようかとは思ってたけど」
「んな!?そんなこと言うわけないじゃないですか!?」
「言わない、って言いきれたら良かったんだけどね。家だとおばさん厳しいし、生徒会もかなり真面目にやってるみたいでストレス溜まってそうだったし。こういう時は大体吹っ切って思い切りがよくなって結果、振り回されていたから今回はどうなるかハラハラしてたところだよ」
「…私ってそんな印象だったのですか?」
「割と」
「ぐぬぬ、否定しきれないのが悔しいです…!」
自覚はあったんだ、確信犯かよ。流石にその言葉は飲み込んだ。聞いてしまうと今までの所業を問い詰めなくてはいけなくなるから。ここは聞かなかったことにしよう、そう考えながらこれからのことについて尋ねる。
「でもスクールアイドルになるっておばさんが聞いたら卒倒しそうだね」
「ええ、おそらく反対するでしょう。なので本名ではやらないことにしました」
「?、芸名をつけるの?」
「はい!そのつもりです。名前は『優木せつ菜』でいこうと思います!誰も素性は知らないミステリアス系スクールアイドル...どうでしょうか?」
「好きなキャラクターの名前でしょ?いいんじゃない?菜々がサブカル好きだって知っている人、俺以外いないからどんなに勘が良い奴でも菜々か俺がボロを出さない限りはバレる心配もないと思うよ」
「...お母さんには知られてしまうでしょうか?」
「あのサブカルに疎いおばさんが、たまたま優木せつ菜の動画を見て、それが自分の娘だって気づく確率なんてほぼ0でしょ。大丈夫、もし知られたら一緒に謝るくらいはするからさ」
「もうっ、なんだかんだお母さんは祐介には甘いんですから、結局叱られるのは私なんですからね!...でも、ありがとうございます。あ、それから...」
「それから?」
「『優木』を決めた理由は好きなキャラクターだけではありません。貴方からもらった勇気を今度は私がみんなに届けたい、そういう思いも込めてこの名前にしました」
「菜々...!」
「まあ、今思いついたんですけどね」
「菜々...」
世間が許してくれれば一発引っ叩いていたかもしれない。俺の感動を返してくれ。
「とりあえず、『せつ菜』の時は眼鏡を外して髪型を変えようと思います」
「今の菜々だね」
「はい!ですので祐介も『せつ菜』の時は『菜々』と呼ばないように気を付けてくださいね!もう共犯なんですから!」
「人を犯罪者のように言わないでくれな。…後ろから声をかけなければ大丈夫かな。あ、そうだ、スクールアイドルって個人でやるの?それとも部活でやるもの?もし部活でやるんだったらなんか手続きとかさっさとした方がいいんじゃない?新学期になると新しい部活とか同好会みたいなのが一気に増えて部室が足りなくなるイメージだけど」
「…あ」
「忘れてたんだ...大丈夫?新学期はすぐそこだよ?」
「…大丈夫です!私、生徒会長ですから!」
「それ職権乱用じゃ...」
「それから人数足りないと活動できないので名前、借りますね?」
「有無を言わせない圧力やめようね」
「貴方も一緒にアイドルやりますか?」
「…いっそのこと可愛いを極めてみるか」
「あ、そういうのいいので」
「急に素に戻るの本当に良くない」
そんなこんなで話し込んだ俺と彼女。そしてキリのいいところで切り上げて次の用事へそれぞれ向かった。その道中ふと思った。部活の申請書、中川菜々で申請したら普通にバレてミステリアス関係なくなるし、優木せつ菜だったら架空の人物だから普通に問題になるんじゃないか、と。それに加えて一緒に名前を出した俺も呼び出されるんじゃないか、と。...まあ俺、神頼み上手だからなんとかなるか。いや、何とかなってくれ。そう願いつつモヤモヤした感情を抱きながらグラウンドへ足を運んだ。