「あの〜祐介先輩クラスの出し物ってチュロスの販売?じゃありませんでしたっけ?」
「そうだな」
「でも先輩1人しかいませんよね?」
「そうだな。なんなら俺もどっか行っていいことになってるからな。楽ったらありゃしないぜ」
「いや、楽って言うか椅子しかないじゃ無いですか!この教室!チュロスの販売はどうしたんですか!ここのチュロス美味しいってSNSで評判だったのに!」
「キャンキャンうるさいぞかすかす。俺がよく観てるyoutubeチャンネルの犬の方が大人しく待っててくれるぞ?」
「ちょっと!わんちゃんと可愛さ以外で比較しないでください!!あとそれからそのわんちゃんのチャンネル名教えてください」
「おっいける口か。あとでURL送っておくね」
今日は文化祭最終日。突然決まった合同文化祭は当初は困惑したものの、受け入れてみれば楽しくてしょうがないものだった。しかし、始まりがあるのなら終わりもあるというもの。楽しい時間はあっという間だった。
そして、あらかじめ用意していたチュロスの在庫も2日目の午前中であっという間に捌けてしまった。流石にそこから数日何もしないわけもいかなかったため、我がクラスは苦肉の策として教室に校庭で拾ってきた石の展示展を開くことになったのであった。
「でもどうしてこんな手抜きの出し物がOKされたんですか?
「しょうがなかったんだよ、全てが急に決まったんだから。チュロスなんて人気商品、すぐ完売するに決まってるじゃないか。在庫が余りすぎないように色々考えながら買ったのに。いきなり文化祭の日数を増やすとかお達しがくるし。そんなこと言われたってストックを買い足す時間なんて無いよ。文句があるなら菜々に言ってくれ」
「むむ、確かに今回合同文化祭になったきっかけはスクールアイドル同好会にもありますから、そう言われたら返す言葉も無いですけど・・・。でもでも、だからと言って休憩所にする必要はないじゃ無いですか!なんですか!椅子だけ置くって!?華の文化祭ですよ!?やる気あるんですか!?」
「正味やる気に関してはわかんない。うちのクラス、他の人を楽しませようと言うより自分が楽しみたいって人が多かったから。でも流石に椅子だけ置いてどっか行くのも忍びなかったんだろうな。ほら真ん中の台を見て」
「真ん中・・・?あ、石が置いてある。これは・・・なんですか?」
「それは隕石のカケラだよ。この教室は宇宙のエントロピーが集まった神秘的なモノを見ながらこの世の尊さを考えるっていうコンセプトなのさ」
「えぇ・・・先輩ついに頭おかしくなったんですか?」
「・・・うるさいぞ」
それは言ってて思った。なんだ隕石のカケラって、グラウンドに落ちてた石だぞ。それを堂々と教室を貸し切って展示するって・・・冷静になったら恥ずかしいな。とっととここを離れよう。そんなことを考えているとかすかすがちょこんと隣に座ってきた。
「・・・ここにもうチュロスはないぞ?」
「ええ、知ってます。普通に休憩中です。毎日ステージに立ち続けて幸せですけど、ちょっっとだけ疲れちゃったので。どうやらここは休憩所みたいなのでゆっくりしていこうかと思いまして」
「ふーん、そう。じゃあごゆっくり。俺はこれで失礼するよ」
「ちょちょちょ!なんで行っちゃうんですか〜!普通ここは可愛いかすみんとお話しする場面じゃありません?!」
「えー」
「可愛い後輩のお願いなんですから聞いてくださいよ〜!ね?」
そこまでお願いされたら何処かへ行くのも可哀想になってきた。彼女みたいにこれから予定もあるわけでもないし、とりあえずはこの時間はかすかすに付き合うことにした。
「・・・はあ、じゃあまあ、付き合うよ」
「さっすが祐介先輩!話が分かる〜」
「そうやって煽られるとちょっとやる気無くすな・・・まあいいや。じゃあ質問。いつも一緒にいるしず子は一緒じゃないの?」
「しず子はこの時間は演劇部で劇をやってますね。というかあれ?先輩もしず子のことしず子って呼んでるんですか?」
「かすかすがよくしず子って言うから俺も使うようになった。というよりしず子の演劇見に行かなくて良いの?」
「演劇は・・・ここ数日で同じ演劇を何回も見たからお腹いっぱいかなって。あと!しず子のこと『しず子』って言うのもかすみんの特権なので使っちゃダメです!」
「あ、そうなの。特許権あったんだ。訴えられちゃう」
「・・・だけど、祐介先輩は特別に、かすみんのことをかすかすって呼ばないって約束してくれたら『しず子』って呼ぶのを許可します!」
「ほう」
「どうしますか?のるかそるか、祐介先輩次第ですけどかすみん的にはちょ〜お得だと思いますよ?」
「・・・よしわかった!その条件のった!」
「お〜流石祐介先輩!話が分かりますね!」
「じゃあこれからよろしくね。中須さん」
「ちょっと!なんでそうなるんですか!!!おかしいですよ!!!!」
うーん流石かすかす。期待通りの反応してくれるの凄い好き。
「というか、祐介先輩って他の同好会メンバーのことなんて呼んでるんですか?」
「他の人たち?そう言われるとどう呼んでるんだろうね」
「じゃあちょっと1人ずつ確認していきましょう!」
「え、なんでそんな手間を?」
「いいから!じゃあ侑先輩から」
こうして何故か俺が同好会メンバーをどう呼ぶかの確認が始まった。かすかすにとっては気になる何かがあるらしい。まあ、大体予想はつくけど黙って話に合わせてあげることにした。先輩だから。
「横暴だなぁ。えーっと、多分侑さん」
「歩夢先輩は?」
「歩夢さん」
「愛先輩は?」
「愛さん」
「りな子は?」
「最近は璃奈ちゃんって呼ばせてもらってる」
「ぐぬぬ。なんだか解せないですけど、まあいいでしょう。しず子はしず子なんですよね」
「今そうだね。前はしずくちゃんって呼んでた時期もあったけど」
「ふぅ〜ん、そうですか。あとは・・・せつ菜先輩は菜々でしたっけ」
「そうそう。残りは、果林さん、エマさん、彼方さん、かな。基本『ちゃん』か『さん』付けしてるかなぁ」
「そうですかそうですか。じゃあかすみんの事は?」
「かすかす」
「なんでそうなるんですか!もうっ!あったまきましたよ!ムキ〜!!」
「はっはっは〜。自分でムキーって言うやつ初めて見たよ」
「ちょっとは反省してくださいよもうっ!」
弄りがいがある可愛い後輩だこと。ぷりぷりと怒ってる彼女には悪いけども。でも言われてみれば確かにかすかすだけ呼び方かすかすなんだよな。まあいいか。
「ところでなんだけど」
「まだ話は終わってないんですけど」
ジトーとした目でこちらを見てくる彼女。けれど気にせず話を続けた。
「菜々が正体明かしたって本当?」
「あれ?知らなかったんですか?文化祭のトップバッターで出演した時に大々的に発表してましたよ?」
「あ、ほんとだったんだ。チュロス売り切れるまで馬車馬の如く働いてたから風の噂程度でしか知らなかったけど。そっかー」
「??何か残念なことでもありました?」
「弱みが減ったなぁーって」
「うわ、サイテー。せつ菜先輩に言いつけちゃいますよ?」
「今更何を言いつけられたって怖いものないから」
「強気ですねぇ」
「まあね」
それにしてもこの教室、休憩所にしてから誰も来なくなったな。みんな教室の中を覗いて何処かへ行ってる。石を見にくる物好きなんてかすかす以外いなかったわけか。・・・いや、この子もチュロス買いに来ただけか。でも休憩所にしたら働かなくて済むから楽だな。来年も提案しよ。
「ねえ先輩、以前から聞きたかったことがあったんですけど」
来年の文化祭でどう楽するか考えていると、かすかすが突然神妙な顔で問いかけてきた。その顔にビックリしつつ、平静を装って問いに答える。
「答えられる範囲なら答えるけど・・・急にどうしたの?」
「先輩ってせつ菜先輩のこと、どう思ってるんですか?」
『心配して損した』、率直にそう思った。そして、どうやって話を逸らすか、頭の片隅で考えながら彼女と会話を続ける。
「・・・いきなりぶっ込んでくるね。さっきまで隕石のカケラと宇宙のエントロピーについて語り合ってたのに・・・」
「いやいやそんな話してないですって!というか!真面目に答えてくださいよぉ〜!!」
「だったらもうちょい上手く会話を誘導するなりしてよ。唐突すぎて心臓がビックリしたわ」
「それは・・・ごめんなさい」
「うん、十分反省してね。・・・で、なんでそんなこと聞くの?」
「・・・話したら先輩も話してくれます?」
・・・全然交換条件になってなくない?詐欺もいい所だ。心の中で悪態を吐きつつ、話を進める。
「まあ、内容によっては話さない事はないぞ」
そう言うとかすかすが黙り込んでしまった。おまけに俯いてしまったため、どんな表情でいるのか、今どんな感情なのか全くわからない。しばらくその姿勢でいたが、しばらくしてからボソボソと話し始めた。
「・・・りないんですよ」ボソ
「え?」
「足りないんですよ!恋バナが!!!」
「えぇ・・・」
バッと顔を上げて凄い顔で見てきた。とてもじゃないけど、スクールアイドルって名乗っていい顔じゃない気がする。同時に、彼女の欲求が炸裂したようだ。
「華のJKなんだから恋バナの一つや二つ聞きたいんですよ!身近な人の!それでキュンキュンしたいんですよ!!」
「理由が不純!!というか、自分で作ればいいじゃん。彼氏」
「スクールアイドルにスキャンダルあったらマズイじゃないですか!!」
「えぇ・・・」
さっきからドン引きしてばかりのような気がする。いや、気のせいじゃないと思う。というより、俺と菜々は良いのか?あいつも一応スクールアイドルだぞ?
そんな疑問を見透かしてか、かすかすのマシンガントークは続く。
「先輩は良いんですよ!せつ菜先輩とめちゃくちゃ仲良いですし、無闇に情報を外に漏らさない人だって分かってますし!同好会メンバー全員が祐介先輩なら良いって言ってました!」
「エスパーかい。お前ら下世話すぎないか??」
要はさっさとくっついてキュンキュンする話を私たちに提供しろってことらしい。なるほどなるほど、あの時廃部にしとくべきだったかぁ。
「で、どうなんですか?」
「答えるつもりはないけど?」
「えー良いじゃないですか〜減るもんじゃないんですし。教えてくださいよぉー」
「なんでかすかすに言わなきゃいけないんだよ。断固反対します」
「なんでですかぁ〜!かすみんだから言えることもあるでしょう!」
ぷんぷんと怒るかすかす。ここから勝手にヒートアップしていくことに。
「あ、もしかして『距離が近すぎて好きかどうか分からない』とかですか!?だったら!かすみんにお任せください!幼馴染の恋愛の始まりは恋心の自覚からって相場は決まってますから!さあさあ!己の恋を自覚してください!」
勝手に盛り上がってる彼女と冷めまくってる俺。側から見れば温度差が凄そうだ。かすかすの熱量に困ってると、助け舟はやってきた。
「あ、いたいた。かすみさんの居場所はわかりやすくて助かるよ」
「あーしず子!」
ここでまさかのしず子登場。神は俺に味方したみたいだ。
「祐介先輩、こんにちは」
「こんにちは。演劇やってるって聞いてたけど、もう終わったの?」
「はい!もう終わりました!それでその辺をウロウロしてたらかすみさんの声が聞こえたので来ちゃいました!」
「そう、それは助かる。そのままこの仔犬ちゃん連れてってくれ。うるさくて敵わん」
「まあ!そうだったんですか。先輩に迷惑かけてはいけませんよ!かすみさん!」
しず子がかすかすを叱ってくれる構図はまるで言うことを聞かない飼い犬を叱る飼い主のようだった。最初こそ抵抗したものの、正論で諭され続けるかすかすは次第に大人しくなった。
「ほら、ごめんなさいは?」
「うぅ、ごめんなさい」
「いいよ。そんな怒ってないから」
しょぼんとしたかすかすは珍しいから写真にでも収めておきたい気分だったが、流石に可哀想だから撮らないでおいた。
それに叱るのが慣れてそうにも見えるこれじゃまるでしずくお母さんだな。
「そういえばかすみさん。そろそろステージの準備した方がいいんじゃない?」
「えっ!?あ、もうこんな時間!そろそろ準備しに行きますね!じゃあ祐介先輩!また詳しく聞かせてくださいね!あとそれから、ステージ観に来てくださいね!じゃあ失礼します!」
あんだけ騒いでさっさと退散していったかすかす。まるで台風みたいだ。これでこの教室に残っているのは俺としず子。そして、しず子はもうかすかすのステージに向かうようであった。
「あれ?先輩は行かないのですか?かすみさんのステージ」
「まだ始まらなさそうだからギリギリまでここにいるよ。しず子はもう行く?」
「ええ、手伝えることがあれば手伝いたいですから」
「ん、じゃあまた後でね」
「はい。かすみさんが色々とご迷惑をお掛けしました。あ、それから・・・」
「ん?」
「せつ菜さんのこと、どう思ってるんですか?」
「・・・聞いてたのか」
「ええ、申し訳ございません。あれだけ大きい声で話してたら聞こえてしまって」
「中須かすみめ〜」
去ってもなお被害を残す女、中須かすみ。うーん、これは名誉台風女の賞を差し上げるべきだな。今度金メダル作ってくるか。
「で、どうなんですか?」
「そんな気になる?」
「・・・結構」
「理由は?」
「・・・恋バナでキュンキュンしたいです」
己は中学生か、いや、数ヶ月前まで中学生だったか。
「で!どうなんですか!?」
「すごい圧。言わないよ、面倒なことになりそうだから。はい、これでこの話はおしまい。かすかすの所行ってきな」
「むぅー、分かりました」
「聞き分けが良くて助かるよ」
「じゃあかすみさんのところ行ってきます。先輩も絶対に来てくださいね!来なかったら・・・」
「はいはい、来なかったら恋バナしろって言いたいんでしょ?ちゃんと行くよ」
そう答えるとしず子はニコッとしてから軽く会釈をしてこの場を去った。そして、この教室は俺1人となった。それは沢山ある椅子を雑に一列に並べ、そしてそこに寝転がった
「ふぅー疲れた」
なんだかどっと疲れたような気がする。尋問ってあんな感じなのか。悪い事はしないでおこう。そう心に誓った。というか・・・
「菜々の事好きかなんて俺が知りたいよ」
カップルのように一緒に買い物行ったり手繋いだりみたいな事は昔からやってるし、手を繋いだり、経緯が経緯とはいえハグのような恋人っぽいこともしてる。菜々の事は好きだけど、これが恋愛的なのかはよくわからない。一番気兼ねなく相談できる幼馴染にこんなことを相談できるわけがないから最近はなんとなく悶々としている。
いつか真面目に考えなくてはいけない時が来ると思うけど、今日はなんだか疲れた。俺は今までの思考を放棄して、中央に展示されているグラウンドで拾った石を見ながらこの世の尊さを考え始めた。