変な事になっちゃったなぁ。と私は思わずぼやいた。
というのも、私の神通力について何やら検査する必要が出たらしく、放課後に研究所に行くよう余目先生に言われてしまったからだ。
確かにでしゃばったかなぁとは思うけども、私は非常時なので仕方なく「隠匿」を使っただけに過ぎないのだ。
だからわざわざ検査する必要があるとは思えない。まぁ、もしかしたら赤い神力に関する事なのかもしれないけど。
そんな感じでモヤモヤを抱えたまま、私は朝からやけにハイテンションだった沙村と共に放課後、神秘研究所という施設に向かった。
やっと着いた建物を潜ると、そこには格好いい系のお姉さんが受付に居て、何か紙を手渡された。見ると「内部で見聞きした情報をネット上は勿論、家族友人にも漏らしません」というような内容が書かれた誓約書であった。
自分の神通力をひけらかす気はサラサラ無いので普通にサインし、中に進んで行くと、そこには眼鏡を掛けた女の人と所長という小太りの男の人が待っていた。
「えっと、それじゃあ奥の部屋に行きましょう……」
駒井と呼ばれた女の人がそう言って奥の部屋に繋がるドアに視線を向けると、沙村は意気揚々とそのドアを開いて中に入って行く。のを見て駒井さんがまたアワアワして追いかけて行った。
私もその後を着いて行き部屋に入ると、そこには用途の分からない大き目な機械が沢山並んでいて、なんだかその雰囲気にちょっと緊張して来た。大掛かりな検査なのだろうか。なんて思いながらキョロキョロと周りを見ていると、所長が後ろから声を掛けてきて。
「ごめんごめん、曜引さんは一旦こっちで待機してて」
と言われた。
……なんかこう言うの多いよな、私。
仕方ないので所長とモニタリング室に戻ると、間もなく駒井さんもこちらに来てドアをしっかりと閉めた。ガラス窓の方に目を向けると、いつの間にか
『沙村、沙村綾間くん。じゃあお願いします』
向こうの部屋の中に所長さんの声が響いているのだろう。それに沙村は「はい」と返事をすると、緑の発光が強くなっていく。
『……はい、一旦止めて下さい』
暫くモニターと睨めっこしていた所長が、何かボタンを押して再び向こうの部屋に声を掛け縁門を閉じさせる。と思ったら数秒後また縁門を開けるように指示を出し、光を強くさせる。
そんな事を3度ほどやった後、駒井さんがドアを開いて向こうに行って、縁門を外した沙村を連れてきた。
……なんか、検査はこれで終わりっぽい。
「これで終わりなのか?」
「えっと……はい。さっきので神力のパターンと出力が分かるんです」
「あぁ、なるほど」
「あとちょっとで結果出るから待っててねっと……」
パターンかぁ……なんて私も言ってみるが、実のところ全然分からない。
ので、モニターを少し覗いてみると幾つかの曲線が複合した波型が表示されていた。なおさら分からなくなったので見るのをやめた。
後で聞くと、神力のパターンというのは、このように幾つかの内包された要素の反応によって線形を作ることが出来るのだという。
また、それは神通力の種類によって異なる。そのため、この検査で大抵はデータベースに登録されているパターンのどれかと一致するらしく、そこで何の神通力なのかが分かるのだ。
「うん、うんうんうんうん」
「おお……」
ピッ、と機械から音がした後、所長と駒井さんが急にモニターに釘付けになり、沙村がソワソワしだす。そんなに結果が楽しみなのかと思っていると、どうやら私の方を見ているようだった。ん?
「え、何?」
「あ、ああいや。曜引、頭のソレは、見えないのか?」
やけに怯えたように言う沙村。
言われてすぐに自分の頭に手をやるが、そこには今朝梳いた私の髪の毛があるばかりである。
「んー、ゴミでも付いてる?」
「いや、見えないのなら良いんだが……」
いや。
いやいやいや、背後霊か何か?
「……もしかして、からかってるの?」
「そんな訳ないだろう」
「いや、そんな訳あるでしょ」
なんて言い合いをしていると、不意に所長がモニターに向いていた身体を180度回転させて、沙村の方を見た。
「沙村くん……沙村くんの神通力は「回帰」だ!」
「かぁ……かか回帰ッ!?」
え、怪奇?
m mw
突然飛び跳ねて喜び始めた沙村を横目に、駒井さんに渡された
「
「投げ飛ばした物を再び手元に引き寄せる」。または、その物を投げずに「触れ続けると、それを元ある形に修復する」能力の神通力である。
これは大変珍しい神通力で、修復出来る対象は無機物有機物も関係なく含まれており、そのため古代遺跡の発掘物の復元などに大活躍する能力なのだとか。
将来は
『曜引さん。お願いします』
向こうの部屋から合図が飛んできたので、お腹にある
そうして神通力を使う時みたいに、自分の神力に意識を集中させて赤い光を強くさせる。この状態で数秒間。
そしてさっき沙村がやっていたみたいに合図に合わせて一旦
「はい、ありがとうございましたぁ」
指示が途切れた所で、駒井さんが中に入ってきて
暫くすると、所長がこっちを見て首を捻りながら。
「「隠匿」だねぇ」
と言った。
そりゃそうでしょ。
……そういえば、結局私は何でここに呼ばれたんだろう?
「神通力の種類の特定」だなんて言われて検査を受けたけど、もう特定されてるじゃんって話なわけで。
「いや「隠匿」とは明らかに違うんだよ、それ」
そんな疑問を口にしたら所長はそう言った。横に居た沙村も頷いている。なんだお前。
試しにやってみようかなんて所長に言われたので2人で実験場の中に入り、彼は縁門を付けた私に神通力を使うよう促した。合図のタイミングで「隠れる」と所長は私の方に歩いていき、そのまますり抜けた。
「今のね「隠匿」じゃあり得ないんだ」
「どういうことですか?」
「うーん……つまり、本当に「隠匿」ならね、物や人をすり抜けるなんて出来ないんだよ」
え?
「壁抜けも?」
「出来ないよ、当然」
「じゃ、じゃあ物を「ずらす」のも?」
「出来ない出来ないっ! ……というかね、本来その「ずらす」って見た目だけの話なんだからね!? 壁や物や、ましてや「祟り」を「ずらして」消すっていう意味不明な事は「隠匿」じゃあ出来ないの!」
え、え?
ということは、つまり。
「私「隠匿」じゃない……?」
「それを調べるために今日来て貰ったんだけど、ああまでパターンが「隠匿」と一致してると何とも言い難いなぁ……」
それから、モニタリング室に戻った私は引き続き「隠匿」として登録しておくのは何か不都合が起きるだろうという事で「隠匿(仮)」という名の未発見の神通力として処理される事が決定した。
「隠匿(仮)の神通力」かぁ……。
いやー、なんか凄い収まりの悪い名前になっちゃったなぁ。
ウキウキの沙村とは対象的に、憂鬱な気分で私は寮に帰るのであった。
mwmwmwmwmmw mwmwmwmm
wmwmwmwm mwmwmwmm
mwmwmwmm mwmwmwmwmwmwmwm
青網引島。
高須名町から北西に30km程進んだ所に位置する森に囲まれた「
未だにガクガクと震える足を殴りつけ、なんとかその街にあった拠点に到着した彼は、絵に書いたように疲労困憊であり、そのまま布団の中に倒れ込むようにして横になった。
頭の中にあるのは、自身が祟りになった時の記憶と、何か恐ろしいものに遭遇した恐怖、そして。
「許さない……あのクソジジイ……」
荒らされた室内の犯人であろう、ある男への怒りだった。