みみたぶがり   作:佐那木じゅうき

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地下大回廊

 今日の授業は、先週行っていた第一回特別課外授業の続きであった。

 

 その為私達生徒は、既に検査をすませていた生徒を除き直ぐに昨日のグループ分けのまま演習場に行くことになっていた。

 そして、言うまでもなく私は自習組である。

 

 しかし、いざ自習をしろと言われても、正直何をやればいいのか悩むから困る。

 周りを見ると、これ幸いと宿題を今頃やっている生徒、だらんと机に突っ伏して寝ている生徒、持ち込んでいた漫画を読み始める生徒……いや、誰も真面目に自習やってないんだけど。良いのか青特生。

 

 そうやって閑散とした教室を眺めていても仕方ないので、図書館にでも行こうかななんて考えながら私は鞄を持って席を立った、所で後ろから誰かがこちらの方に来た。

 

「……曜引」

 

 沙村である。そういえばコイツも検査を受けていたな。

 無言で言葉の続きを待っていると、彼は意を決したように息を吸った。

 

「神の存在は、不特定多数の適合者の証言によって保証されている」

「いや急に何」

 

 想像していた50倍は突拍子も無い切り出しであった。

 私がその言葉の意味を飲み込む暇もなく、彼の話は続いていく。

 

「確かに神力の色は、適合者への神の心象を表すものであるが、そもそもの話だ。神は人間の1人1人を一々覚えて感情を持つことはあまりない。その証拠に、大規模な耳朶狩りを行うくらいの事をしない限り、色の変化なんて見られないのだよ。となると、基本的に色は神の性質を表しているらしい。所縁を結んだままにしているんだ。基本的に友好的か、そうではない無関心か。その2つだけだが」

 

 長いし。というか「赤色」の私は喧嘩を売られているのだろうか。

 そんな様な事を私が言うと、沙村は慌てて掌をこちらに向けた。

 

「待て待て、僕が言いたいのは、禁忌を犯していないのに最初から赤色なんてのは、普通の性質の神じゃありえないって事だ」

「……よく分からないわ、変わり者って事?」

 

「変わり者……まあ、そうだな。嫌いな人間と縁を結ぶ、しかし何故か尋常ならざる寵愛を授ける神。……これは仮説だが、君のそれは、愛憎が入り混じった、極めて人間的な性格をしているぞ。だから僕はコイツを人間に近しい所に位置する「新生したばかりの神」と見ている」

 

 ふーん、新生したばかりの神、ね。

 確かに低レベルな次元に居るしょうもない神な気がしてきた。最初から嫌われてるのとか意味分かんないし。なんて事を言ったら罰が当たりそうなので喋らないけど。

 

「だからな。案外、その内仲良くなれるかもしれないぞ」

 

「え?」

「人間的な性格をしているんだ、人間同士の関係であるみたいに、何かの拍子にコロリと好意的になってくれるかも知れない。そうは思わないか?」

「あーうん、それは確かに?」

 

 ……ん?

 なんか、慰められてる?

 

「言いたい事はそれだけだ。じゃあなっ」

 

 そう言ってそそくさと自分の席に戻って行く沙村。

 

 いや。

 私そんな赤色を気にしているように見えたか……? 別に言うほど気にはしてないんだけど。

 

 ふと、自分のお腹に付けている赤いイソギンチャクを見た。

 休校明けから、縁門(アーチ)の着用が義務つけられている私達生徒。だから私が相変わらずウネウネと動いてるそれをこんなに長い間出しているのは初めてで、見慣れるとちょっと可愛い、かもしれない。

 

 そうして暫く突っ立っていた私だったが、何か急に沙村にムカついたので教室を出る前に一応礼を言って頭を軽く叩いておいた。

 そうして直ぐに図書館に向かったのだった。

 

 

 

mwmwmwmwmwm

mwmw mwmwmw

wmwm wmwmwmwmw

 

 

 

 青網引島釜伊里(かまいり)町。

 

 高須名町から電車でおおよそ1時間半程の距離があるこの町は、青網引に存在する古代遺跡群が特に密集している場所でもあり、少し離れた場所から街並みを望むと、露出した遺跡に半ば埋もれているような印象を受ける。

 

 その町の中心地。

 「釜伊里駅」に降り立った背の高い女に小男が急ぎ足で近づいて来た。

 

「待ってましたよ」

「あの人達の溜め込んでいたブツ(所縁石)は?」

「俺の拠点に保管してますわ」

 

 小男の返答を聞き、背の高い女は小さくため息を付く。

 

「及第点……とは言えませんね」

「……仕方ねぇじゃないですか、「アレ」は間違いなく起きていたでしょう?」

「起きてはいましたけど、ね」

 

 そう言って女は駅舎を出て、街灯と店の明かりが照らす街中へと歩き出した。それを見た小男は一拍遅れてその後ろをついて行く。

 

 一週間前、「青特」にて発生した「洞見(どうけん)の祟り」。

 女は現在の状況に内心苛立っていた。

 

 確かに3人共始末するつもりだった。

 

 だがそれは秘密裏に、である。

 肝心の祟りが妙なタイミングで暴発してしまい、「青特」の生徒を巻き込んだ大事になってしまったのでは、デメリットが大きすぎる。

 更に、祟りとの相性がすこぶる「良い」筈の洞見でもあの程度の被害にしかならず、また肝心のあの3人は生きていて、その上1人は逃走中だという。

 

 

 女はこれを目の前の小男の技術不足が原因だと結論付けていた。

 

 頻繁にどうでも良い話を振って来る小男を無視しながら舗装された道を歩き、やがて街灯の明かりすらまばらになって来た所で、女は大きめのライトを取り出し、フェンスを抜け、暫く歩いた先にあった建造物にライトを向ける。

 

 照らした先は釜伊里でも一際大きな「釜伊里南地下大回廊」と呼ばれる遺跡の入口。

 

「この先で採れるんですか」

「へえ、……てっきり俺ぁ、あの粉を持っていたあなた方は知ってると思ってましたがね」

 

 そう言って男は懐から何やら小さなチップを取り出した。

 

「これがそこの遺跡の深部で採れた「呪物(じゅぶつ)」ですわ」

「これが?」

「へぇそうです。これに「アレ」を引き起こす成分が含まれている」

「では、適合者の私は触らない方が良さそうですね」

 

「別にこのままの状態なら大丈夫ですがね。ちょっと待ってくださいよ」

 

 そう言って小男は懐から丁度指輪くらいの大きさの金属の輪を取り出す。そうして得意げにそれをチップの上に乗せると、直ぐに輪から「青い光」が沸き立った。

 

「なるほど、それは縁門(アーチ)ですか」

「へぇ、呪物専用のになりますがね。要するに、遺跡に眠る物……まあ、大抵こんな金属片とかですが、その中の一部にはこうやって祟りを誘発する「青い神力」が含まれているって事ですわ」

 

 

 青い神力。

 女の所属する組織ではこれを「呪い」と呼び、それが含まれる物質を「呪物」と呼んでいる。

 

 「青い神力(呪い)」は適合者の放つ神力に触れることで「祟り」を引き起こす。

 女は詳しく知らなかったが、神域に存在すると言われる上位存在を刺激し、その怒りを簡単に引き出せる唯一の物だという事だけは知っていた。

 

「ところで、何故この町を拠点に?」

「そりゃ小さい遺跡の浅い所じゃ採れないからですわ。日光か、外気か……まあ、とにかく人目に付くような場所にある遺物の中に、呪物の類は殆どありませんね。だが、ここは凄いですぜ!? 呪物の宝庫だ! もしこれだけの数の「呪い」を外に出したら、世界はあっという間にひっくり返るでしょうねぇ」

 

 そう説明した小男の楽しそうな顔を見て、女は無表情のまま。

 

 

「その技術、それを引き換えに何を要求するつもりですか?」

 

 そう言ったのを聞いて、小男は吊り上がった口の端から空気を漏らした。

 

 

 組織は「呪物」を欲しがっていた。

 それを知った小男は今回、所縁石の回収に来た末端の女に持ち掛けたのだ。

 

 呪物を集めるのも、「青い神力」を抽出するのも、俺の技術があれば直ぐにでも始められるぞ、と。

 

 

「ちーっとばかしの開発資金と……ささやかな援助をね」

「援助?」

 

 そう聞き返した女に、小男は写真を1枚取り出し見せつける。

 

「赤い神力を持った子供……神憑きでしょ? 聞いた事がねえんですわ」

「……ええ、「隠匿」持ちの。丁度昨日会いましたね」

 

 何が言いたいのかは、女は直ぐに理解した。

 自分の手を汚すのはあまりやりたくなかったが。

 

「なに、人気の少ない所に誘導するだけで良い。学内に居るアンタならなんてことないだろう?」

 

 上は私に指示をするだろう、と、彼女はその見飽きたにやけ面を視界から追い出すために目を閉じて、気だるげに両手を上げた。

 

「ひとまず話を上に持っていきます。もし取引が成立したら、その時は考えますよ」

「へぇ、期待して待ってますぜ」

 

 

 




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