夜も更け、辺りの地形すら朧げになってきたような時間。
場所は見慣れて来た女子寮の自室……ではなく、風の少ない屋上。
私ははる子と共同の洗濯機に放り込んでいた自分達の洗濯物を干すため、段々になっている無駄に広いそこに備え付けのカゴを持って訪れていた。
普通は朝に干して夕方取り込むのが良いのだが、昨日は特別に寮生の洗濯物が多く、洗濯機の空きが無い状態になっていてこんな時間になってしまった。もしかしたら、今年から一気に受け入れる生徒が増えた影響もあるのかもしれない。
そうして2人して制服やらタオルやらを干しながら今日あった特別課外授業の事を話していると、はる子はふと手を休めてこちらを見つめて来た。
「どうしたの?」
「えっとね~、ごばちゃん、やっぱり部活には入らない?」
部活。
はる子の言う部活とは私が中学の頃彼女と所属していた「パドリング」という競技の部活を指している。
パドリングとは、「
この
ただ、これ。
元々は古代遺跡から発掘された「神力を動力として動く機械」を基に再現された物なのだ。
「今の所は入るつもり無いかな。中学までの乗用機なら続けたかも知れないけど……」
「うーん、そっか~」
そう、高校で球技が野球やテニスが軟球から硬球に移行するように、パドリングもまた電動の
そしてこの適合者の力で動く乗用機。なんと動かしている間は使用者の神力がライン状に外から見える無駄に近未来的なデザインをしているのだ。古代の産物の癖に。
つまり、私は赤い乗用機で走らなければならないという事で、そんなの悪目立ちする事この上ない。
要は、それだから入部したくないのだ。
しかし、私は「青特」でもその部活を続けるつもりは無く、入学して直ぐにあった「部活勧誘会」でもはる子には入部しないとは言った筈なんだけど。
「何かあったの?」
改めて私を誘うなんて、何かあったのだろうか。
……人間関係とか。
「いや~? そういう訳じゃないんだけど……うーん、あのね?」
そう言って切り出したはる子の話によると、1-3に私の事を知っている赤島出身の子が居て、私が何時部活に来るのかとはる子に何度も聞いてくるのだという。
誰なのか聞いても私の知らない名前の子だった。だけど向こうは私の事を知っているらしい。
何か尚更入部したく無くなってきたが、ともかくはる子曰く、私が来ることを凄く楽しみにしている様子だったので、中々「入部しない」と言い出せずにいるらしい。
「というか、もう結構日にち経ってるんだから入らないって薄々分かるもんじゃないの?」
「いやぁ、そこははる子が頑張って誤魔化してるから~」
誤魔化すって。頑張ってって。
もしかしてその子、入らないって聞くと面倒な事になるのかな? それこそ騒いだり、暴れたりしたり。
……なんで見ず知らずの人がそんなに私に執着してるんだよ。
いや、けどそうじゃなきゃ、はる子の性格上スパっと言って終わるはずの状況だし……よく考えなくてもかなり面倒臭い状況になっているのかも知れない。
なんか怖くなった私はそれ以上聞けず、そうして会話は終わって私達は洗濯物を黙々と干す作業に戻った。
w m
w m m w m
m w
「明かり消すぞー」
「ああ」
同室の声に、そう返すと直ぐに部屋の中が暗くなる。
何も見えなくなった部屋の中は、段々と月明かりに目が慣れ、その輪郭を現していく。
僕の神通力は「回帰」であった。
その事実に相当舞い上がっていた僕であったが、ようやく今になって高ぶりが収まってきたようだ。
収まって来ると、最近起こった色々な出来事から見えてくる物がある。
僕が初めて「3番金鉱石」を触ったあの時、祟られなかったのは無意識に発動していた「回帰」のお陰だったのだろう。
知識としても知らなかったが、「回帰」は「厄除」のように常時自分を「元の状態に戻す」効果を発揮する作用があるらしい。試したくは無いが、例えばあの状態で大怪我を負っても生きている気がする。それくらい「回帰」はとんでもない性能を持っているらしい。
そしてそれは、神秘研究所に居た時にも居た溢れんばかりの「尾袋鼬」の群れが、何故僕にだけ見えて居るのか、という疑問も解消してくれる。
僕が思うにあの時「回帰」が「隠匿」の効果を打ち消し続けていたのだろう。
まあ、そもそも聶獣が神通力を使っているのが意味不明なのだが、曜引の「隠匿」は特別性らしいので、ここは考えるのをやめておく。
「……」
聶獣は本来、神へ願いを届けるための「耳」の役割を担っていると言われている。
あの、僕が「3番金鉱石」を確かに握っている間に再び聞こえた尾袋鼬たちの合唱は、やはりまるきり
そして、曜引の力に対応する聶獣は、本人の反応からして尾袋鼬で間違いない。
それならば。
あの、悲痛とも言える祈りの合唱の全ては、確かに本人が自分の聶獣達に言っていたという事になる。
何故、そんな事をする?
彼女の姓は「曜引」で、後から聞き回ると、赤島のある神社を管理している家の娘のようだった。
そんな家庭環境の問題も無さそうな彼女が、何故、あんな泣きそうな声で平和を願ったのか、呪ったのか、祈っていたのか。
それは彼女にしか分からない。
そして。
『お母さんは何でハナを見捨てたの?』
それが何故だか、妙に癇に障るのだ。
「…………赤島の神社、か」
僕は仰向けのまま、月明かりを覗かせる窓を見遣って呟く。
神職の家系には「適合者」が居る事に大きな意味がある所も多い。
なにせ
だから、「神憑き」だと分かった子供を養子に受け入れるケースも、裏では結構あるのかも知れない。
その子供の実の親が、手放すならば。
『嫌だ』
『なんで赤いんだろう』
────あの赤い神力が原因で、か?
「……胸糞悪い、な。全く」
憶測に過ぎないが、脳裏に浮かび上がっていたのは、何ともしっくりと来る話であった