祟りを受けた人間が生存した場合。その殆どは
それには「祟り」を、唯一現実的に鎮静出来るとされている、ある神通力が関係していた。
「
それは日本に十数人程居るとされ、保有者は様々な場所に在籍し名を上げている。
広範囲に渡り広がっている祟りを収める事の出来る「破邪」は、それら祟られていた人間が元々持っている
どのくらい集中していただろうか。
種類も分からない鳥が鳴く声が不意に聞こえ、童顔の男はそれでようやく自分の口の中が乾ききっている事に気が付いた。
見れば見るほど禍々しい、暗く腐った血を思わせる赫色だ。
「洞見は……なんとか使えますか……」
木田は意外に思った。
なんせ、祟りだ。自分の神を怒らせたのだ。
それなのに未だに自分には「洞見」との繋がりがある。おまけにあの忌々しい
「何か、口に入れないと……何かあったかな」
しかし制御出来るようになったとはいえ、彼にとって神通力の行使は非常に集中力の要る物だった。
体力の限界を感じながら、自分の持ってきた大荷物を解き、急いで詰め込んだ為ぐちゃぐちゃになっている中身を手で探った。
そうしてペットボトルの感触を見つけ引き出すと、勢いで赤いリボンが一緒に引っ張り出された。
「……」
赤いリボン。
木田はひとまず水が入っていたペットボトルの蓋を開け、少し口に含んでから地面に落ちたそれを拾い上げた。
自分が目を覚ました時、下敷きになっていた制服と共に落ちていた物だ。
捕まる前に急いでその場から離れてしまった木田であったが、今思うと、このリボンを付けていた女生徒が自分を介抱してくれたのだろう。
そして、思わず持ってきてしまったこれのせいで彼女は今頃困っているかも知れないな。とふと思い、あの時からずっと強張っていた表情が少しだけ和らいだ。
小休止が終わり、再び木田は目を閉じる。
「洞見」には自身を中心に、広範囲の物や人が何処にあるのか、何処に動いているのかを把握する「千里眼」とも呼ばれる能力を有している。神憑きであっても訓練の必要な難しい技である。
しかし、使わなければならない、あの小男の居場所を知るために。
現在、彼はまだ不慣れなそれを使い、近くの人里に居る彼と繋がりのある別の犯罪組織の動きを観察している所であった。
しかし、千里眼こそ成立しているものの、肝心の成果は芳しくない。
「もう……間に合わない、か」
小男を探していたのは、ただ復讐の為ではなかった。
「三番金鉱石」を手に入れられなかった今、木田には盗まれた大量の所縁石の中にあった貴重な所縁石が必要であったのだ。
「誰でも神憑きになれる薬」。
そんな胡散臭い物と交換するために。
「……ははっ」
拙いながらも、自分がそんな物が無くても既に神通力を使えている現状に乾いた笑いがこぼれ出る。
尤もあの2人は、自分達でない、誰か共通の知り合いに使いたかったようだった。だから木田はもし、あれらの所縁石でその薬が手に入るならば「せめてその知り合いに」とも思ったが。
今日が交換の期限だった。
だから、せめてアイツ等の無念を晴らしてやろう。と木田は思うのだ。
あの男をボコボコに殴って、所縁石の序に他の金品も盗ってやり、警察に突き出し檻に叩き込む。
なんとも、痛快な光景じゃないか、と。
「────ん?」
その時「洞見」が妙な動きを捉えた。
小さな反応。よく見るとそれは青島ではあまり見られない「尾袋鼬」。
それが大量に、この大森林のあらゆるところから急に出現して、同じように移動していて。
それらが向かうは、ある一点。
木田は立ち上がった。
尾袋鼬といえば聶獣だ、あの小男は何かと神力に精通している。
だから何か関係があるかもしれないと、そう考えた彼は荷物を急いで片付けた。
wmwmwmwmwmwmwwmwmmw
mwwmwmwmwmw
w
気がつくと、目の前にはる子の顔があった。
口に何か黒い布を巻かれ、喋る事すら出来ないのだろう。それで、ただこちらを見ていたらしい。
……いや、なんで見てるんだ?
居心地の悪さを感じ、体制を変えようと身体を動かすと、当然手足が縛られているようで、ウネウネとしか動けない。
状況の確認のため、暫くそうして蠢いて周りを見ていると隣に鼻で笑われた。誘拐されたっていうのに、やけに余裕のある女である。
そして、先程から揺れているこの場所。
どうやら僕達は、大きな車か何かの荷台に放り込まれ運ばれている。
この現状に対し、僕が出来ることと言えば情報収集以外に無い。
壁に耳を付けようとしてみたり、車種を特定してみようと記憶の引き出しを開けてみたり、積まれている他の荷物から何か手がかりを得ようとしてみたり。
しかし、駄目だった。
芋虫のように動き回った所で何も出来ないとは思ったけど、ここまで無力だとは思わなかった。
諦めて動くのを止めていると、またはる子に鼻で笑われた。苛立つ感情すら湧かない程惨めな気分になった。
……というかさっきから何なんだこの女は。
さっきのは嘘だ、なんだか非常に苛ついてきたのでゴロゴロして体当たりを仕掛ける。それに対してはる子も自身の身体を捻り僕の身体を抉るような体当たりを仕掛けてくる。
そうして始まった不毛な喧嘩を続けていると、いつの間にやら車は静止していたようで、いきなり荷台のドアが開かれ強い光が荷台の中に差し込んだ。
「何してんだ? コイツら」
「無意味に暴れてたんだろ。逃げられないってのに健気なもんだな」
無意味に暴れてたのは事実であった。
「まあいいや、さっさと運ぼうぜ」
「おい、どっちかがお目当ての神憑きだ。縁門は絶対近づけるなよ」
お目当ての神憑き。
なるほど、ターゲットは元々明確な1人だったらしい。
となると、あの場所で待ち受けていたのは、その神憑きがここに来るという確証を持っていたからだということで。あー……もしかしなくても曜引の事ではないだろうか?
あんなに急いでいたのも、なんだか妙な事を吹き込まれて……だったとか。
「分かってるさ。もう外して席の上に……」
考えを整理しているその時、黒い服を来た男が言葉を止め、急にあらぬ方向を向いた。
「あぁ! パン泥棒だ!」
「何……?」
「俺のメシ! あの畜生共が咥えて持って行っちまいやがった!」
パン泥棒?
畜生共?
二人組が後ろを向いているのを良いことに僕も身を捩って見ると、そこでは尾袋鼬がビニル袋を咥えてその場でクルクルと回っていた。
あぁ、これ曜引絡みだ。間違いない。
「俺の焼き鳥クンも入ってる袋じゃねーか!」
「ああクソッ! 俺の「昏倒」でぶち殺してやる!」
獣に煽られ激高した2人はそう言うと、その獣を追う為に、僕等の居る荷台を再び締めた。
そうして勢いよく閉められたそれ越しに聞こえる怒声がどんどんと小さくなっていく。
「キッキッ」
謎の展開に脱力していると、唐突に耳のそばで何かの鳴き声が聞こえた。
思わず大きく仰け反ってそれを見る。暗くてよく分からないが、またも尾袋鼬がそこに居て、何かを咥えている。
「んむ~」
それを見たはる子が声を上げる。
すると鼬は彼女の方に行き、それを脚の上に乗っけたのだった。
間もなく湧き上がった緑色の色を見ながら、ふと思う。
……喋る個体と言い、もしかして尾袋鼬というのは神力関係なく、元々非常に知能の高い生き物なのだろうか。それこそ喋ってもおかしくないほどに。
盲点だ。
この15年間、奇跡的にその情報が僕の目や耳に入って来なかっただけの天文学的確率を引いていた可能性があるじゃないか。
よし、帰ったら調べてみるか。