周りの人が、皆馬鹿に見えた。
同年代の子供も、大人も。みんなみんな私より劣っている。
嫌がらせをしてくる女の子達。人の物を隠して笑う男の子。気味悪そうに私を遠巻きに見ながら失礼な事を言う施設のおばさん。
だけど、私はそんな事でいちいち怒るなんて無駄な事はしなかった。
なぜならあの人達は、みーんな哀れな馬鹿だったから。
低知能な故に鬱憤が溜まるのも仕方ないんだろうなぁって思っていた。
今の両親に引き取られた後も、それは変わらなかった。
恩は感じなかった。私が「神憑き」であることが判明してすぐの時期であったから、それが目当てなのかな、と。両親の顔を初めて見た時、ただ、それだけ思ったのを覚えている。
そうして、自分に親密に接してくる人達が出来た。
彼ら夫婦は中々子供が出来ないでいたらしく、だから代わりに私を引き取ったのだという。
まるで、愛玩動物か何かのような理由でここに来た私は、その話を聞いて「それなら、もっと愛想の良い子を選べば良かったのに」と思っていた。
両親を名乗る人達の居る家と、小学校を往復する。
「どうでもいい人」達に振り回される煩わしい日々。
そうこう過ごしているある時、私に弟が出来た。
その知らせは余りにも唐突で、内心とってもビックリしたけれど。
喜んでいる両親に、私も喜ぶ演技をして皆で楽しい楽しいお祝いをした。
その最中、こちらを見た母は困ったような顔をして。
「はる子も私の大切な娘で、それは変わらないのよ」
口にしたその言葉を聞いた私は。
自分の演技が見破られたのかなと、ただそれだけが気になった。
そうして、何ヶ月か経って。
無事に母親が出産した。
彼女が幸せそうに抱いている男の子を見て、私は赤ん坊って思ったより気持ち悪い見た目をしているんだなと思った。
そして、その赤ん坊も段々と成長してきて。私に懐いたのか、どこに行くにもトテトテと付いてくるものだから最悪だった。
煩わしい日々が、もっと煩わしくなった。
私の周りはお荷物ばっかりで、それが私の脚に絡まっているようだった。動こうにも、上手く動けなくて、段々身動きが取れなくなって、息苦しくて。
そのうち私は、なんとも思っていなかった自分の家族を憎たらしく思うようになっていた。
ある日両親の帰りが遅く、弟と2人でいる時。
ぐずる弟をあやしていた私は、無意識に彼の首を絞めようと両手を伸ばしていたのだ。
思い留まったのは奇跡だったのかも知れない。
初めての感情だった。
これが「嫌い」なんだと、その時に初めて理解して、それと同時に自分のしようとした事に恐怖した。
だから。
だから、私は馬鹿になることにした。
人懐っこい性格を作って。
他人を心配するふりをして。
お馬鹿だけどいい子に見られるように。考えるのをやめて暮らせるように。
身近な人を、嫌いにならないその為に。
そうしたら「どうでもいい人」しか居なかった私の世界に「嫌いになりたくない人」のカテゴリが増えた。
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日も落ち切った山奥。
自分の足元も満足に見えない程の暗闇に包まれた大釜山の森の中。
そんな場所であったから、不審者の男とはる子、そして僕の3人の移動速度は著しく下がっていた。
光源は木々の隙間から来る僅かばかりの月光と赤と緑の神力の光のみ。そんな中での事である。
「あぁーっと、僕は用事を思い出したので戻りますね!」
先導していた不審者が唐突にそんな事を言って来た道をダッシュで戻り、貴重な光源が一つ減ってしまったのだ。
余りにも急な事だったから、僕らはその場で暫し立ち止まり、遠くの方でだんだん小さくなる赤い光を眺めている事しか出来なかった。
「どうする~?」
「……とりあえずこの道を歩いて行けばいいんじゃないか。今は寂れているが観光用に用意されていた道だ、暗闇でもこれを辿れば問題無く釜伊里には着くだろう」
「ううん、そうじゃなくて……」
その返しにはる子の方を見るが、暗闇でどんな表情をしているか分からない。
「そうじゃなくて?」
「戻るか、進むか。だよ~、あやや。さっきの人は「洞見」を持っているんだから今の行動ってさ、つまり────」
その時、目の前に彼女の手が伸びて来た。
そこに伸ばされた指は2本。
「近くのどこかに、何か無視出来ない物を見つけた」
「この先の方向に、何かとても危ない物を見つけた」
……はる子の懸念も分かる。
確かに、あの不審者が僕らを助けようとした保証はない。
そもそも、男の言う「祟り」が本当に来ていたのかも分からないのだ。分かるのは「遺跡から僕らを遠ざけようした事」と「何かを察知してその場から消えた事」の2つだけ。
「それでさ、今の状況を考えると……」
その言葉を待たずして、前方の方から白い光が幾つか現れた。
恐らくはる子の放つ緑色に気付いたのだろう、チラチラと光るそれらは間違いなくこちらに向かっていて。逃げる間もなく僕ら二人は眩しいそれに照らされ、視界が真っ白になった。
「制服?」
「子供だ、こちら阿原、未成年の学生を発見」
その言葉を聞いて、僕は足の力が抜けふらついた。
警察だ。
思い返せば、特徴から見て間違いなくあの男は例の祟り騒ぎに関係している不審者なのであって、だから彼らに出くわすのは都合が悪いに決まっていたのだ。
こうして保護された僕達は阿原と名乗る警察官に幾つか事情を聞かれた。
どうしてこんな所に居たのか。
何をしていたのか。
それらに対し、僕はこの先の遺跡を根城にした奴らに誘拐されていた事を話していたが、説明している最中。彼は怪訝そうな顔をして。
「もう1人の子はまだ遺跡の方に居るのかな」
聞かれたその言葉に。
跳ねるように後ろを向いた僕だったが、そこにはもう誰も居なかった。
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釜伊里南地下大回廊。
正直、本で見たことしかないこの遺跡の構造は、何層かに別れた円柱のような形状になっていたと朧気ながら記憶している。
さて、そんな遺跡に意気揚々と突入した私であったが、一層目で早くも足止めを食らっていた。
「俺こそが! 『業火の虎』
もう帰りたい。
如何にも能力バトル物のキャラみたいな名乗りを挙げた目の前の大男は、咆哮しながら黄色い光を身に纏ってこちらに突進してくる。
「燐火の神通力」に限らず、周りに影響を及ぼす部類の神通力は、対象者との距離が近ければ近いほどその能力を上げるのだ。
そう、恐らく。
というかほぼ確実に目の前の男は『燐火の神通力』を持っている。
これは、自身の周りを発火させたり、火の玉を作って飛ばしたり出来る結構危ない神通力で、さっきから私の服や髪の毛が発火しそうになっている。
そうして走りながら火の玉を生み出した大男は、こちらにそれを投げつける。
それと同時に私の制服が発火しそうになるが、距離とタイミングが分かっているのなら何てことはない。発火した瞬間火種の神力を消し飛ばして対処する。
「……っと、危な」
「逃げんじゃぁねぇよっ!!」
火に気を取られている間に、目の前に男が迫っていた。
どうやら私が纏っている触手に触れても大丈夫だと、既に確信してしまっているらしい。
それに対して私はなんとか身体を掴まれる前に地面に触手を突き刺して高所に避難した。
油断しすぎだ。全く、ちゃんとしろ私。
「せぁあっ!!」
なんて考えている間にまた火の玉が飛んできたので火種を消す。
服保つかな。髪の毛もダメージが心配だ。
……それにしても、本当に埒が明かない。
私はうんざりと目の前の大男の後ろに控えた部下らしい男の黄色い神力を見る。
あれは『厄除の神通力』だ。
祟りや神力からの耐性を得る効果を持つ神通力で、私の「隠匿」から大男を守っているらしい。そのせいで触手でペチペチしても彼らを消せない私は、だからこうして彼らの消耗を待っているのだが。
「俺こそが! 『業火の虎』炉旗 虎雄だァ!!」
さっきからずっとこの調子で、全く疲れの色が見えないのだ。何なの?
もう名前覚えちゃったよ。