みみたぶがり   作:佐那木じゅうき

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釜伊里ぶるーすとーむ ③

 

 風も無く、日も完全に沈んだ大釜山。

 青網引島の北方に位置するこの低山は、観光名所でもあった「地下大回廊」の閉鎖に伴い、人の立ち入る事の無くなった、静かな山であった。

 

 国内でもそこそこ有名であった「地下大回廊」である。 観光地としての大釜山を復活させようという働きは、何回もあった。

 転落防止の為に手摺を付ける、建物の中に入ること自体を止め、周囲の遺跡群含め外から見て貰う。等々直ぐに出来る対策をとれば、直ぐにでも客を再び呼び込む事が出来る。

 彼らはそう考えていた。

 

 ある日、地下大回廊内部に柵を設置する為、ある業者が立ち入った時の事。材料を運び込もうと車両を動かしていた彼らは、屋外の何でもない石造りの床に大穴が出来ていたのを発見した。

 覗き込んで明かりを照らしてみても何も見えず、どのくらい深いのかも不明。観光客の歩く道がこれでは不味いだろうと、業者は町の役人を呼び、そうして本格的な大穴の調査をする事になった。

 

 

 穴は予想より遥かに大きく、しかも横に広がっていた。

 

 また、調査を進めていくとそれはまるで「地下大回廊」のように多層になっている事が判明し、それが山全体にまで行き渡っている。

 つまり大釜山は、土に覆われただけの一つの大きな遺跡なのであった。

 

 同時に、山の何処で底が抜けて落下してもおかしくない危険性を孕んでいることが判明し、結果、工事は中止。

 扱いに困った自治体は麓をフェンスで囲み、こうして大釜山は無人の土地になったのである。

 

 

 その後、誰も立ち入る人間の居なくなったこの山には、何時しか生活を追われ、世を捨てた浮浪者がポツポツと住み着くようになった。

 様々な動植物が潜んでおり、飲み水として使える清潔な渓流が幾つか近くにある。また歩いて数分で釜伊里の町にたどり着ける。夏場は涼しく、冬は遺跡の屋根壁が風を凌いでくれる。彼等にとってここは非常に居心地の良い場所であった。

 

 

 

 

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 木田 各理は、釜伊里の方からやってきた数人の警察から逃れるべく、踵を返し遺跡の方向へ歩を進めていた。

 

 これであの変な学生2人も保護されるだろうし、それならばこれ以上一緒に居る意義も無い。変な緊張で重くなっていた肩の荷がようやく降りた。そう思う彼であったが、その表情は浮かない物であった。

 

 

 警察が来ている。

 

 「祟り」の目撃情報を受けたのか、それとも誘拐事件の足取りを追って来たのか。発端は分からないが、ウカウカしているとあの遺跡の中に応援を呼んで乗り込んで来るだろう。

 

 その場に自分が居れば間違いなく捕まる事を思えば、もうあの小男に報復する事は難しい。おまけに祟りのようなナニカも現在地下大回廊の中で暴れ回っている。もう滅茶苦茶だ。

 

 そのお陰でかなり警備が薄くなっているが、あの状態の中報復の為に突っ込むなんて自殺をしに行くような物。木田は思わず足を止め、その場でしゃがみ込んだ。

 

 長期戦を覚悟していたのに、時間はもう欠片も残っていなかったらしい。

 

 せめてあの祟りが小男を殺してくれるよう祈っておこう。と彼はそう思い、悪目立ちする赤い光を仕舞おうと縁門(アーチ)に手を伸ばした、その時。

 

「……移動している」 

 

 「洞見」が小男の動きを掴んだ。

 隠し通路でもあったのか、彼は地下大回廊の最深部から横に移動を始めているようだった。よく注視してみると、確かに細い空洞の線が存在している。

 

 祟りが大暴れしている事に恐れ逃げ出したのだろう。

 木田はその道筋を追い、集中して空洞の線が何処に繋がっているのかを調べる事にした。

 

「どうしたの?」

「待って下さい、今大事な所なんですから」

「は~い」

 

 天然の洞窟なのだろうか、真っ直ぐとは言えない歪なその空洞の線。

 その方向は遺跡群の北西。その先にある比較的大きな建造物の地下に繋がっていた。続いて建物の中を見通し無人であることを確認する。それならば侵入するのは容易だろう。

 

「はぁ、はぁ────おいっ! 探したぞ……」

「あやや」

「その渾名はやめたまえ」

「んーじゃあ、むらあま?」

「あー、僕の言い方が悪かった。渾名自体をやめるんだ」

 

 しかし懸念すべき事が1つ。

 同時に大量の尾袋鼬が男に追従する形で大移動を始めているのだ。

 

「やだ。これからは「むらあまん」ね~」

「『ん』は何処から出て来た? より変な方で固定するんじゃあない!」

 

 あそこなら今から徒歩で向かえば十分待ち伏せできる位置関係である。すぐさま向かいたい所であったが、この不審な動物達の行動が木田を躊躇させている。

 

「そう? 常識的に考えて「あやや」の方がヘンテコだと思うけど~」

「はぁそんな訳……いや、うーん……そうなのか? ふむ……君はどう思う?」

 

 

 

「知らねーよっ!」

 

 木田はここ1カ月で一番大きな声を上げた。

 

 意図的に触れないようにしていたが、向こうから触れて来るのだからどうしようもない。彼は意を決して後ろを見ると、案の定警察に保護されている筈の例の変な学生達が居た。

 何なんだこのクソガキ共は。そういう台詞が出掛かったが、なんとか飲み込む。

 

「……何で居るんですかアンタ等」

 

「はる子?」

「えっとね、教えて貰いたい事があるんだ~。警察さんもあややを探しに来るだろうし手短に言うね」

 

 少女の方はそう言って怪訝な顔を浮かべている木田から目を見つめながら、彼の身に着けている縁門(アーチ)を指差した。

 

 

 

『尾袋鼬が集まっている場所を教えて。じゃないとここでお縄だよ?』

「────うげっ」

 

 

 

 

 

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 あれから結構時間が経った。

 私が躱して、躱して、躱すだけの不毛な時間が、である。

 

 何もかも「厄除の神通力」のせいだ。

 あれは任意に祟りや神力の耐性を与えるだけじゃなくて、触れた者の神力を弱める特性まである。姿を消して不意打ちするにしても、安易に近づいたら「隠匿」が弱められて終わる。本当に面倒臭い。

 

「はぁー、はぁー……ぐっ」

「と、虎雄さん……」

 

「────まだだぁっ!」

 

 それにしても、かなりタフな人達である。

 もう無視して下の方に床抜けしようかな、とも思ったが、あれだけ先へ行く通路を守った立ち回りを徹底している辺り、すぐに追いかけて来て袋小路になる可能性がある。命が掛かっている場面、不用意な事は出来ない。

 

 私は動き回りながら、いつの間にか部屋の隅にシレっと佇んでいた尾袋鼬をチラリと見遣る。

 「今回」も彼らの導く先に碌でもない事が起こる……又は、起こっているのだろう。

 

 どういうつもりで彼らがそのような行動をするのか未だに分かっていない。しかし、何故どうしてなんて考えている時間も今は無さそうだ。

 

 

 

 なんて、考えている時だった。

 

 唐突に数本の触手が壁から剥がれ、私は支えを失って地面に着地し、立ち上がれずに地面に手を付いた。

 大きな縦揺れ。ギシギシと遺跡の軋む大きな音。

 

「……?」

 

 

 地震?

 

 

 この世界に来てから久しく経験していなかった自然災害。

 ハッとして対峙していた2人の方を見ると、向こうも揺れに耐えきれず蹲っているようだ。

 

 この世界は地震が非常に少ない。

 

 前世での「日本」は地震大国であったものの、この世界では日本ですらもごく稀に発生する程度の珍しい現象。という扱いで、またその揺れ自体小さい物ばかりなのだ。

 ということは、近くで大きな爆発か何かでもあったのかもしれない。

 

 ちょっと、不味いかも。

 

 外の様子が大変気になるけれど、非常に気になるけれど、それどころじゃない。依然収まる気配の無い縦揺れが遺跡の軋む音を大きくさせていき、遂には私の居る遺跡の天井が崩落を始めたのだ。

 

 とりあえずこちらに飛び込んで来た鼬を抱きかかえ、触手でドームを作って降って来る瓦礫を全て消す。落ち着いたら触手を地面に突き刺しながら移動し、男2人の方に行ってみれば、大男……「燐火」を使っていた方が片足を潰していた。もう片方は、頭でも打ったのか、頭から血を流して意識を失っている。

 

 当たり前だ。

 石造りの天井が崩落したらこうなるに決まっている。むしろ運が良い方だろう。

 

「……なんだ、中身は子供だったのか」

「その人、生きてるの?」

 

 もう戦う雰囲気でもない。

 思わず聞いてしまったが、その問いに大男はニヤッと歯を見せた。

 

「生きている。だが、なんだ? 見逃してくれるってか?」

「この先に行くのを邪魔しないなら何もしないわ」

 

 こんな状態で「隠匿」を使ったら止めにもなりかねない。

 なので私はそれだけ言って先に進もうとしたが、大男は勢いよく立ち上がり、こちらを掴もうとして来た。

 

 私は自分をずらし、それを回避する。

 内心凄いビックリした。いきなり何すんのコイツ。

 

「それなら、俺を倒していけや」

「「厄除」も無しで、そんな足で続けるの?」

 

「関係ねぇ。この先には誰も入れないって契約をしちまってるんだ。この『業火の虎』炉旗虎雄。約束は死んでも守る男だ!」

 

 「燐火」の火種が飛んでくる。

 

「それになぁ! こんなガキにまで舐められたら『炉旗会』は終わりなんだよーーーっ!」

 

 今までで一番激しい猛攻。

 さっきまでは「厄除」の男と先に続く通路を庇いながら戦っていたからなのだろう。動きが全然違う。

 

 

 ……だけど、私とは相性が悪い。

 私は飛んできた火種全てを消し飛ばし、何本かの触手を使い追い込んで、直ぐに大男の位相をずらす。

 そうして気絶した大男を元に戻し、銃器と身に着けていた縁門(アーチ)を回収した。

 

 覚悟を馬鹿にするつもりは無いけれど、こういう神通力なんだから仕方ない。

 ともなく呆気ない幕引きだった。

 

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