地面が揺れる。
まるで途方もなく大きな爆発が遠くで起きたかのような大きな、ゆっくりとした縦揺れ。
沙村 綾間は、地面に手を付き、生涯で初めて遭遇した地震という現象に、少しワクワクしていた。
「
「ぅああっあ~!?」
「な、な、な、なんだぁ……なんだぁっ!?」
コイツ等うるさいな。
地揺れの轟音に負けず劣らずの悲鳴を上げる2名に、内心そう思って若干不機嫌になった沙村であった。だが、直後。
その気分は跡形もなく吹き飛ばされた。
見つめるのは、視線の横。
10m程離れた所の地面が、何やら青く光り始めていたのだ。
「なんだ、あれ?」
ただの光ではない。それは神力に似た性質のエネルギーだと、すぐに分かった。
だとしたら、これは祟りの「先触れ」か何かだろうか? 彼はそこまで推測して、小さくなってもなお続く揺れに構わずその光の元へ歩を進めた。
「ダメだよ」
はる子の声。
それと同時に「颶風」の向かい風を受けて、沙村は尻もちをついた。
「……痛いな、何をするんだっ!」
「多分、あれ触ったら不味いよ~」
そう言いながら、はる子は沙村の襟を掴んで引き寄せると、自分の周囲に風を循環させ始めた。
「……?」
「青い光……か。何か知ってるんですか?」
「ううん、勘だけど……」
「僕は勘で吹き飛ばされたのか」
「うるさい。とにかく触っちゃダメだよ。それに……」
そう言い淀んだはる子に、木田は不審に思い、変わらず移動を続けている小男から意識を外し、周囲を確認し始め、顔を顰めた。
あれと同じような青い光が、遺跡群のあらゆるところから噴出し始めていたからだ。
「そんなヤバい物には見えないですけど、確かに触らないに越したことは無いでしょう。それにしてもこれだけの規模だと、大事になりそうだ」
「うーん」
「おい、どっちか僕に分かるように説明しろ」
「山がヤバいよ~って事」
「理解させる気があるのか?」
全く……と、言いながらぶつくさと言い始める沙村を無視して、彼女は木田の方を見た。
「常識的に考えたら、すぐに下山したほうが良いと思うな。はる子的にはこのまま進みたいけど……どうする?」
「幸い目的地はこの遺跡の端っこ。囲まれて逃げられないって事は無いんじゃないですか。……尤も、アンタ等が付いてこない方が僕は嬉しいんですけどね」
目の前の少女は、帰る。と言って納得する存在ではない。
木田は最後の望みを込めて一言付け加えたが。
「勿論付いていくよ~、あややは戻る?」
「蚊帳の外でよく分からんが……あの青い光が
「はぁ……どうしてこうなっちゃったんだ」
不可解な災害があったにも関わらず、結局変わらず移動を始める一行であった。
mwwmwmwmmwmw
mwmwmmwm
wmwmmwmw
ヤバい。
何がヤバいかって。それはもうヤバい。
あれから、次の階層に向かおうと通路を進んでいた私の前に、急に視界いっぱい、青い光が殺到してきたからだ。
普通に呑まれた。そうして次に、なんだかムカムカするような不快感が私を襲って来て、だから反射的に確認出来る範囲全ての青い光を消し飛ばした。
あれは、きっと良くない物だ。
本能? で感じると言ったところだろうか。鳥肌が立つような、そんなチャチな物じゃない。うええと思いながらも身体の中に入り込んでいた光の残滓を消すと、何ということだろう。間もなく地の底の方から青い光が再び湧き上がってきた。
冗談じゃない。後ろの部屋には、地上には私が気絶させた人間が沢山居るのだ。
触手を全て前方に向かわせ、私も前に進む。
消す、消す、消す。感知できた光を手当たり次第に潰しながら階段を降りていく。
3層目、4層目。
記憶にある「釜伊里南地下大回廊」は全部で5層だったはずだ。4層の広い空間を埋めていた青い光をすぐさま消し、ようやく最後の階層だと思った時。不意に背中で何かがバツンと切れる音がして、操っていた触手全てが消失した。
見ると金属で出来た輪っかが捩れるようにして千切れていた。そんな事ある? いや聞いたこと無い。不良品にも程があるでしょ。ふざけんな。
私は心の中で悪態をつきながら、慌てて先程大男から拝借した
それは、最奥の最奥。
壁にポッカリと空いた横穴の先にあった。
中はかなり大きく、なにやら黒い物が大量に積み上がっていて、そこから例の光が湧き上がっていたのだ。
私は迷う間もなくそれらを消し、そうすると青い光はそれきり湧いてこなくなった。良かった。一応しばらく黒い物の山があった場所を睨んでいたけれど、光は湧いてこない。
安心したら欠伸が出てきて、足元がふらついた。
……あれ?
何かがおかしい。
なんで、私はこんなに眠くなっているのだろうか。……他にも青い光が無いか、ちゃんと確認しないといけないのに。なんで?
しかし違和感に気付いても、意思に反して頭はぼおっとする。これではどうしようもない。
何も考えられない。足に力が入らず、その場で横になる。
目は、勝手に閉じていた。
wmwmwmmwm
mwmwmwmmwmwmmwmwm
wmwmwmmwmwmwmwmwm
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それは突然起きた。
まず浮遊感が全身を襲い、間もなく視界が上下にブレている事に気が付いた。
ウチは何が起きたのか分からないまま隣に座っていた祖父に引き込まれ、食卓の下で抱えられるように丸くなっていた。
後から聞くに、これは地震という自然現象らしい。
奥の本棚から本がどさどさ落ちて来て、うわーっと思ってたら次は上にあった食器が周りに降って来た。建物も何かギシギシ言ってるし、そのうち急に照明が切れて、部屋の中が真っ暗になった。
この世の終わりかと思って耳を塞いでいたら、揺れは段々小さくなって静かになってくれた。
「悠里っ! ジジイ! 生きてるかー!」
そうして呆然としていると、父の声。
その呼びかけに祖父とノロノロとテーブルの下から這い出てみると、父が母に肩を貸してリビングに現れた。
「かーちゃん大丈夫?」
「大丈夫……これは腰抜けちゃって……いや、凄い揺れやったなぁ。お義父さんも大丈夫でした?」
「アカンわ、ワシ今ので寿命100年くらい無くなってもうた」
「おもんないわアホ! ……地震だ地震! 加満田家はこれから家の外に避難するぞー!」
なにがなにやら。
ただ、家族が何時もどおりでなんだか安心した。
そして、その号令に従って家族揃って家の外へ。
真っ暗な中だったから手探りで靴を履き、玄関をくぐる。街灯も全部消えていたから、通りは懐中電灯の明かりだけがポツポツと光っていて、ざわざわと、先ほどの地震について話し合っているのか、思ったより騒がしい状況であった。
「あれなに?」
「大釜の方だよな……」
そんな時、ざわめきの中でそんな言葉を拾う。
大釜、大釜山。
その方角を見ると、シルエットでしか見えないその山の中腹辺りで、薄ぼんやりとした青い光が揺らいでいた。
「青い……光……」
「じっちゃん?」
「悠里、悠里は『滅亡の予言』って知っとるか?」
滅亡の予言?
「おいジジイ。さっきから縁起でもない事言うのやめろ」
「いやぁ、すまんな。ついつい」
「なぁ、なにそれ?」
ウチが聞くと、父親は鼻を鳴らして黙りこくった。
なんやねん。教えたくないならそう言えや。と、思ったが。どうやら話してくれるらしい。父親は静かに語りだした。
「名前の通り。ちょっと昔、日本は滅亡するーとか適当ほざいてた予言の事だ。ま、予言通りなら十数年前に日本は滅びてるがな。確か……最初に赤島。島中が豪雨と津波に飲み込まれて、沢山の人が死ぬ。それが白、緑、黄、青の順番で起きて、五島が沈むって内容だったか」
「悟、嫌ってる割に詳しいやん」
「俺は職業柄知識として必要だから覚えてんの!」
え、青い光は?
やいのやいの言い合いを始めた二人を他所に、暇を持て余していたウチは携帯を開き、自分で滅亡の予言について調べることにした。
単語を入力し、一番上に出てきたサイトを開く。
『滅亡の予言とは ──狂言だった?真実だった?──』
当時「
『太古より我が国を守護してきた5つの龍。
相次ぐ祟りに、最後の龍が見切りを付ける。
一年後に、赤島が。
まもなく、白島が。
暫くして、緑島が。
同時に、黄島が。
そして、青島が。
恐ろしい雨と津波が、全てを飲み込む。
生き残ったとて、油断はならない。
最後に、青い光を讃えた龍の使徒が全ての命を絶つだろう。』
「滅亡の予言」というのは、名前通りかなり物騒な内容であった。
おまけにかなり胡散臭い。これを言った女性は現在失踪しており、足取りも掴めないのだという。
ただの都市伝説の一つ。そう結論付けた時だった。
気付くと、周囲にどよめきが広がっていた。
今度はなんだと視線を上げると、例の青い光に変化が起きていた。
誰かの息を呑む音が聞こえる。
辺りを青く照らしながら、徐々に膨らんでいくその光は、まるで。人の形を象るように。
その輪郭を作り変えていった。
「ヤバくないか?」
「離れたほうがええんちゃう」
「ははは」
「避難、避難しよう」
「落ち着け」
「嫌っ……」
「おいっ押すなや」
理解の追いつかない光景だ。
周りの人々はこの異常な事態に困惑し、笑い、怯え、更にざわめきを大きくする。
だって、目の前の。あの大釜山で。
佇んでいる「青い巨人」が、こちらの方を向いたのだ。