大釜山に突如出現した「青い巨人」。
その見る者の多くに終焉を予感させる
一連の騒動は、地震災害の中継に来ていたカメラに全て記録され、五島全ての国民に激震と「滅亡の予言」についての議論を再燃させることになるが、それはまだ先の話。
曜引 五花は、その巨人の放つ青い光が完全に消滅したのを確認した後、気が付けば元の身体の方に意識が戻っていた。
2匹の尾袋鼬が寝ている自分の髪の匂いを嗅いでいるのを軽くあしらい、起き上がる。意識は不思議とスッキリとしていて、特に体調に問題はなさそうだ。と考え意識を自身から周囲に移す。
「うわっ」
そして思わず、広がっている光景に声が出た。
何故なら、四方の壁の大部分に小さな穴が無数に空き、見る人が見れば集合体恐怖を抱きそうな見た目になっていたからで、それが天井にまで続いているのを確認した時、五花は青褪めた。
これらの光景は先程起きた事は全て現実だったのだということを雄弁に物語っていたし、なにより、有名な遺跡をこんな風に穴だらけにしてしまったという事実が、彼女に重く圧し掛かったのだ。
────下手したらこれ、凄い賠償請求が来るのでは?
そう思い至り、慌てて穴の一つの位相を元に戻し、壁を埋めてみる。
しかし直後にその穴から埋めた物が滑り落ちて来るのを見て、乾いた笑いが出た。
演習場上の遺跡の時はまだいい。人命救助の為に行った事であるし、あそこはそもそも価値の無いありふれた遺跡で、損傷の規模も今回に比べたら全然小さかった。それに比べてこっちは閉鎖されていたとはいえ有名な観光地で、地震も相まって今にも遺跡全てが瓦礫と化しても不思議ではない有様だ。
両親になんと言えば良いのか。
五花は逃走も視野に入れつつも、取り調べの際の言い訳を考えながら、重い足取りで穴だらけの階段を登るのであった。
ぺたぺた。と、後ろから足音が聞こえる。
振り返ると、先程近くに居た2匹の尾袋鼬。
胴長の身体を斜めにして、ジグザグに階段を登りこちらを追って来る姿を見ながら、そういえばと五花は思う。
今日ここに至るまでの事、その全てをこの獣たちは予期していたのか、と。
考えてみれば今までも全てそうだった。廻以外の尾袋鼬が自分の前に姿を現す時、それは決まって何かよからぬ事が起きる時で、彼等は自分をそこに誘導する。そうしてアクシデントがあっても、足止めがあっても、終わってみれば全て無事に済む。
今回なんて、最初から地震が来ると分かっていなければ、まずは自分のクラスメイトと、同室の友人の元へ案内するべきだろう。野生のカンなのか、ただ今までが幸運だったのかは分からないが、とにかく上手く行きすぎている気がしたのだ。
「……
しかし結論の出ない事を考えていてもどうしようもない、とため息をつく。
怖いのだ。
五花は子供の頃、この子たちが色んな事を手伝ってくれたら良いのに、と冗談交じりに思う事があった。
しかし、こんな危険な場所にまで来て無理をして欲しい訳じゃなかった。そもそも「神憑き」だから懐いているだけの自分の為に動く姿なんて本当は見たくも無い。
カンでも幸運でも関係無い。今は上手く行っているが、こんな事をしていたらその内何匹かは死んでしまうだろう。彼女はそれが嫌だった。
「未来予知でもしてくれていれば、ねぇ?」
それならば怪我もしないだろう。と、五花は1人自嘲気味に呟いた。
そうして彼女はしゃがみ込み、付いて来た2匹を腕から肩に乗せ、外に向けて歩き出したのだった。
wm
釜伊里の南方に位置する遺跡群の端。
ほぼ森の中と言っても良い大釜山のその場所で、ふと僕は視界の悪くなった周囲を見渡した。
突如地面全てを覆うように出現した謎の赤い触手は、あの青い巨人と共に完全に消えたらしい。
人間、理解不能な事が立て続けに起きて許容量を超えると思考が停止するらしい。しかし研究者を目指すものとしてそれは不味いだろう。僕は近くで座り込んでいる教授を見た。
……流石だ。教授はこんな中でも思考を続けている。
やはりあれだけ高度な研究を進めていた人物なだけある。そうやって僕が気付きを得ていると、教授と目が合った。そうして彼の人物は直ぐに視線を青い巨人が居た場所へと移す。
「お前の考えを聞かせてみろ」と。そう言っているのだろう。
僕は慌てて上手く働かない頭を再び回転させる事にした。
まず、青い巨人。
謎だらけの存在で、これを構成している青い神力という物自体、見た事も聞いた事も無い物だ。勿論国の機密だと秘匿されている可能性もあるが……仮にそうだとしても、今は知りようの無い事だ。
僕の中の知識だけで考えるならば、アレは何か「青い光を生み出す」類の祟りだったのではないか、という可能性だけが残る。
「祟り」は、基本誰とも所縁の無い神力がこの世界に顕現し、拡散して起こると言われている特殊自然災害だ。この間の「洞見の祟り」のように、人と所縁のある神力が転化して祟りになるケースはあまり存在しない。
今に至るまで誰にも確認されていなかった未知の種類の「祟り」。これが先程の青い巨人の正体である。と、僕は思う訳だ。
次に、赤い触手。
赤い神力はそれ即ち「祟り」だと紐付る人も多いが、あれは青い巨人と違いどうも人に害のある物ではないらしかった。最初、急に地面から湧き出て包まれた時は死を覚悟したが……。
……。
……。
一体何だったんだアレ。
全く分からない。大体祟りでないのなら接触までして障らないのはおかしいし、それならばあの現象は誰かの神通力か何かという事になるが、そんな物全く現実的じゃない。未発見の神通力だという事にしたって「破邪」以上の範囲であれだけの神力を放出するのは無理だ、控えめに言って人間を辞めている。
……それにしても赤い神力といえば曜引の姿がチラつくが。まさか……いや、何を考えているんだ僕は。「隠匿」でこんな事は出来ないだろうが。
いやしかし、そうなるとやはり。
「────青い光で人型を形成し、そして赤い触手で勝手に自滅する作用を持った『祟り』ですか? 教授」
「……何を言っているんだ?」
どうやら的外れだったらしい。
薄々無理筋だとは思って居たが、もう僕の頭ではこれ以上の仮説は出てこない。
ここは教授の考えをお聞きするしか無いなと思っていると、後ろの方で足音が聞こえて来た。それも複数で、振り返れば白い光が幾つかチカチカと動いている。
「警察さんかな~」
はる子が地面に寝ころびながらそう呑気に言った。
そういえば少し前から木田の姿が見当たらない。これを予期して逃げたのだろうか、全く不遜な男であった。そう思い腕を組んでいると、背後の教授が僕に声を掛けて来た。
「ひっひっひ……はぁ、ここまでか。おい」
「はい、何ですか?」
「これをやる」
そう言って教授はこちらに何かを投げて来た。
暗闇で上手く受け取れず落とし、それを拾い上げてみると、それは少し変わった形状をしている