みみたぶがり   作:佐那木じゅうき

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込められた思い ④

 憧れていた人が道を踏み外していた。

 

 聞けば、人体実験を何度も行い、数え切れない罪を犯していた。

 なんともまぁ、ここまで踏み外す人もいないのでは無いだろうか、というくらい踏み外していたのだ。

 

 僕は失意のどん底だ。

 

 おまけに教授の、あの人の気持ちが少し分かってしまうのも何だかモヤモヤする。否定したくない。嘘は付けない。倫理は勿論大切だが「それを破った先に何かがあるかもしれない」という可能性はとても甘美なのだ。

 

 何に変えても全てを知りたかった。と、あの人は言っていた。

 その気持ちはもう偽物になってしまっていた。ともあの人は言っていた。 

 

 あの人に何があったのか、どんな人生を歩んできたのかを僕は本の経歴でしか知らない。

 だとしても僕は、僕は思う。

 

 

 

 ────背中がチクチクすると。

 

 いや異様にチクチクする。痛い、何なんだこれは。

 

 今の僕はとても疲れていて、おまけに精神に大ダメージを受けているのだ。だから今すぐにも寝直したいのに、忌々しい背中の刺激のせいで中々意識がぼやけてこない。

 そうやって数分くらい悶々としてから、仕方ないので身体を起こし、地面を確認する。

 

「敷いていたシートは……?」

 

 思わずそう呟いてから周囲を確認すると、目的の物は直ぐに見つかった。隣りで寝ていた爺が僕のシートを掛け布団代わりにしていたのだ。

 ……ペラペラのそれを掛け布団代わりにして何になるというのか。

 

 僕は直ぐにその掛けシートを引っ張り奪還を試みるが、ヤケに力が強い爺のようで、これが中々手放さない。

 それでも何とか徐々にシートを手繰り寄せていると、突然爺が怒鳴り声を上げた。

 

 その物凄い怒鳴りはドームの中に響き渡って、周りの困惑の物音が聞こえてくるものだから恥ずかしい。「おい君」と声を掛けてみても、信じられない事に先程のは寝言だったらしく、むにむに言うばかりで反応が無い。

 これではまた下手に刺激したら怒鳴り声だろうし、必然シートは諦める他ないだろう。しかもお陰で目が完全に覚めてしまった、最悪だ。

 

 そうして僕は薄ぼんやりと光るドームの天井を見ながら、不本意だが余ったシートを貰いに、ついでに用を足しにでも行くかと目を擦った。

 

 

 

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 ここ「九重(ここのえ)ドーム」は現在釜伊里町から避難してきた人を受け入れており、ロビーには芝生の上に敷くシートや、布団。それに水の入ったボトル等が積み上げられて居る。

 

 僕は一人、そのロビーに戻ってきて必要な物を拝借し、さて寝直そうかと欠伸をした所で、階段の方から何か緑色の光が壁に反射しているのを発見した。

 この上は観客席用のスペースと、それぞれの席に至るための通路しかない筈だ。

 

 ここで「まあいいか」と確認しない人間がいるだろうか? いや居ない。

 僕は迷うことなく階段をそろりと上り、2階観客席のスペースまで息を殺して登ると、そこには人影が2つ。

 

 一人が神力の緑を滾らせて、座っているもう一人の頭に手を翳している、そんな場面だった。

 

 ……なんだか穏やかじゃなさそうだ。

 縁門(アーチ)を開いて頭に手を翳しているというのは、そのまま銃口を頭に向けているような物で。……というか、これを見ているのが向こうにバレたら不味いことになるかも知れない。

 そう考えた僕は忍び足はそのまま、1階に戻ろうと背を向ける。そうして歩みを再開させた所で背後から声が聞こえて来た、それも。

 

「しかし『浄化の神通力』って凄いですよね」

 

 聞き覚えのある声だった。

 

 

 

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 寝る前。というか、目を閉じて横になり、もう寝そうだった私を小声で起こす人が居た。

 目を開けばそこには外に行っていた四葉さんが居て、何の用かと尋ねれば、どうも「隠匿」の調子を見たいそう。

 

 私の持つ「隠匿の神通力」は「対象の位相をずらす」、いわば空間操作のような性質を持った神通力である。

 そして、ずらしている間のあの色素の薄くなった空間に居ると、少なからず身体に毒素のような物が溜まっていく、らしい。

 

 らしいというのは「浄化の神通力」を持つ四葉さんからそう聞いているだけで、私自身「隠匿」では把握出来ない良く分からない物であるからだ。

 

 「色素の薄い空間」の曖昧な空気を身体に取り込むと気を失うのは、私自身嫌というほど経験しているので息は完全に止めている。しかし人間には皮膚呼吸という物があるので、どうしても使っていると身体の中にその「曖昧な物」が蓄積していくのだそう。

 使わなければ数時間で抜けていくっぽいので心配は要らないと言ったのだが、せっかくだからと押し切られ、私達は一目の付かない2階の観客席まで移動してきた。

 

「どうですか?」

 

 背後に居る四葉さんにそう聞いてみる。

 

「……うん、思ったよりは溜まってないみたい」

 

 すると、そんな返答が帰ってきた。

 思い返せば変な縁門を使ってしまったせいで今までに無いくらい神通力を使ってしまっていたのだ。少し不安だったのだが、まあ大事にはならなかったようで良かった。

 

 ……そういえばアレは結局何だったんだろう。

 

 「幻想世界」に行って、夢の中で神域の入り口に無理やり入って。そうしたら(まわり)が中に居て。あの後から意識が神力の方に移った私は、正直全てが夢見心地だったのだけれど、現実で。

 今考えても訳が分からない話だ。没収されたあの変な縁門(アーチ)が発端だったのなら、明日にでも研究所で聞いてみれば何か分かるだろうか。

 

 そこまで考えた所で、私の両肩に手が置かれる。

 

「よし、良いよ五花。寝よっか」

「はい、四葉さん」

 

 とりあえず、眠い。それに尽きる。

 

 私は一言礼を付け加えてから立ち上がり、四葉さんに続いて一階の寝床へと戻るのだった。




ちょっと短いですが……。
その分次話は割と早く投稿する予定です。
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