みみたぶがり   作:佐那木じゅうき

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第2章 赤い島の逆さ巫女
「隠匿」ほるだーず ①


 休み明けの月曜日。

 あれから結局私の携帯電話は見つからず、やむなく両親に電話して前のと同じ携帯電話を購入した私は、例のバイトが受けるために売店で申請書を書き、放課後に神秘研究所を訪れていた。

 

「あー、機能確認ですね」

 

 受付に居た大人っぽい女の人……望月(もちづき)さんは私の持って来た紙を見て、苦笑いをする。

 

「やっぱり、私は無理そうですか?」

「いや、むしろ大歓迎したい所なんだけど……ちょっと時期が」

 

 望月さんはそう言って隣の方でテーブルに座り何かを話し合っている職員を意味ありげにチラリと見る。私がそれを疑問に思っていると、彼女は私の耳元に顔を近づけ、向こうに聞こえないくらいの声量で「実はね」と切り出した。

 

「あの人たち、白島から派遣されて来てるのよ。この間の釜伊里の事件ね、本部の方で調べるって一方的に言われたみたいで。それで、ここの機材も一部貸してるの」

「じゃあ、そういう訳で今は忙しいんですか……」

 

 なんと、当てが外れてしまった。

 まあ確かに直近でこんなに謎の災害があったらゴタゴタもするのだろう……とはいえガッカリ。半分私のせいだけども。

 

「そういう訳じゃないんだけど……まあ、それもあるね。曜引(ひびき)さん、機能確認自体は後で絶対行いたいと所長も言うと思いますからこれ、預かっていてもいいかな?」

「? 分かりました」

 

 そういう訳では無い?

 良く分からないけれど、バイト自体は受けられそうでよかった。お金はあるに越したことはない。……とはいえ、直近でお金が手に入らないのは痛い。別のバイトでも探すべきだろうか。

 

 そんな事を考えながら研究所を後にしようとした時、建物の奥から誰かが出て来る。そして私の姿を見るやいなや駆け足でこちらに来たのは、検査で数回会った(わたり)所長であった。

 

「曜引さん、バイトって興味ないかなぁ。夕方だけの短期なんだけど」

 

 これは間違いなく「機能確認」の話では? と、私が口を開こうとした所でカウンターに居た望月さんが所長に声を掛けた。 

 

「その話。先程曜引さんが申込書持ってきてくれましたよ」

「えっ! ありがたいなぁ!」

 

 声が大きいです。

 お陰でテーブルに座っていた白島の職員の人達が怪訝そうな顔でこちらの方を見て来て一気に居心地が悪くなった。

 しかし所長は気にもせずに話を続ける。

 

「早速なんだけど、明後日。放課後に多目的棟の一階に来てくれないかな?」

「多目的棟ですか? ここじゃなくて?」

 

 望月さんが思わず、と言った感じで声を上げた。

 

「ちょっと野外で試したいことがあってさ。行けそう?」

「行けそうですけど……所長が来るんですか?」

「そうだよ。まあ普段は望月さんとか他の職員に任せているんだけど、皆忙しくてね。……じゃ、帰る所で引き留めてごめんね、よろしく!」

 

 そうして言い終わると、所長はまたせわしなく建物の奥に引っ込んで行った。妙にイキイキとしていたが、随分と忙しそうである。……というか。

 

「所長は忙しくないんですか? 明後日」

「いえ、とっても忙しい筈だけど……それだけ気になるのかもね。その『神通力』」

 

 後半、声が囁きみたいになってましたけど。

 もしかしてテーブルの人たち……白島の人達に聞かれない為なのだろうか? 良く分からないけど、神秘研究所というのも色々あるのだろう。

 

 まだまだ私も子供である、こういうのには疎いのだ。

 ……うん。前世と合算の年齢でも四葉さんより年下だし、誰が何を言おうと子供なのである。

 

 

 

 

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 夏が近づき、私の居る女子寮の中もピリピリとして来た。

 いつも悲鳴やドスンドスンと暴れる音が聞こえてくる男子寮とは違い、普段から和やかな空気が流れていた私達の女子寮。

 それが今日。露骨に会話も少なくなり、いつも明るく元気な先輩は、食事後部屋にすぐ引っ込んでしまった。談話室の入口には「私語厳禁」の文字が貼られていて、中を覗くと皆机に向き合って何かを書いている。

 

 そう、今週末から中間テストがあるのだ。

 

 私も成績を維持する為毎日勉強しているが、この光景を見る限り、確実に1年首位は陥落するだろう。と、内心諦めながら自身も勉強をするために部屋に戻る。すると、はる子まで机に座って勉強をしていた。

 

「なんか、赤点取ったら退学でもするのかって空気ね」

「ごばちゃんは勉強しなくていいの? 余裕だね~」

「いつも勉強してるし今日もするわよ。今日から急にやりだした人に言われたくないんですけど」

「過去に囚われていたら何も出来ないよ~」

 

 なんじゃそりゃ。

 教訓めいた謎の言葉に呆れていると、はる子は会話が終わったと思ったのか再び視線を机の方に戻す。

 

 どこの範囲をやっているのか気になって覗いてみると、そこには漫画。ルーズリーフに書かれた手書きの漫画を読んでいる。は?

 

「おいお前、現在進行形で娯楽に囚われてんじゃないの」

「あ、勝手に見ないでよ」

「はる子が書いたの?」

「クラスの子の書いた漫画だよ。評価して欲しいんだって」

 

 ふーん。ほお。

 

「ちょっと私にも見せてよ」

「ダメ」

「えぇ、良いじゃん」

「恥ずかしいから他の人には見せないでって言われてるの。ダメ」

 

 それなら仕方ないか。

 パッと見て凄く絵が上手かったのでちょっと気になったのだがそれなら仕方ない。……というか、はる子本当に勉強しないな。大丈夫なんだろうか。

 

 まあ、明日にでもちゃんとテスト対策してるのか確認してみるか。

 そう決め私は自分の机に座る。首位陥落するにしても一桁には残っていたいのである。

 

「そういえばごばちゃん、夏祭りの手伝いは行くの?」

 

 意気込んだ所で、はる子に水を差された。

 夏祭り。私の実家、赤島の酒見(さかみ)で7月に行われる年に一回の山社満曜大祭(さんしゃまんようたいさい)という祭りのことである。

 

「随分と気が早いわね、当然行くけど。年々人が増えてて、手が足りないんだから」

「はる子もお手伝い行こうかな~」

「それは助かるけども、その頃赤点取って補修受けてるような事態にはならないでよ」

「大丈夫~はる子にまかせなさい!」

 

 何が大丈夫なのか分からないけれど、まあいいや、任せた。

 そうして今度は携帯を弄り始めたはる子を横目に、今度こそ私は勉強を始めるのであった。

 

 

 

 

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 ぼんやりとする。

 

 頭が上手く働かないが、なんとか周囲の把握をする。

 覚えのある湿った空気。足元は沼の中。そして辺りに転がっている岩と白い花。

 

 うん、うん。

 恐らく今、私は「幻想世界」に来てしまっているらしい。

 

 あれから私は勉強した後、明日に備えて早めに寝た。なので身体は普通に寮のベッドの中にある筈だ。ということで、何時まで居られるかは知らないけれど、今回は朝までのんびり探索してみる事にする。

 そう決めて、前回と同じ方法で足を沼から出し陸に上がる。そしてとりあえず「神域」の入口だと言われるあの建物に行こうと歩く。

 

 建物が何処にあるのかは忘れた。

 しかし、何となくここかな。という方向に歩みを進めると、間もなくそこに到着する事が出来た。

 

 だけど、再びその建物は閉ざされてしまっているようで、その外観は「ボロい日本家屋」から「ぼんやりとしていて良く分からない状態」に戻っていた。

 ここで問題が一つ。

 

 というのも、この前は「隠匿」を使って中に入る事が出来たが、今の私は寝間着なのである。なので当然縁門(アーチ)も装備していない。困った。

 いきなり暇になった私はどうしようかなあ、と建物に寄りかかる。

 

 すると、真後ろの壁が後ろに倒れた。

 

 そうして支えを失った私は転がるような体勢で部屋の中に入場。若干混乱しながら起き上がると、建物は完全に以前のボロい日本家屋のような見た目になっていた。

 どうやら丁度寄りかかった壁の場所に引き戸があったらしく、それを外してしまったらしい。

 

「いや、ボロいにも程があるでしょ」

 

 思わずそう呟き、引き戸をガタガタと元の場所に戻して部屋の中をもう一度見遣る。

 白い壁、木の梁。木製のタンスと何枚かの座布団。そして背の低い机の上に湯呑が一つ。中身を見ると、お茶のようなものが中に入っていたので臭いを嗅ぐ。ほうじ茶かな、分からない。

 

 ……なんというか、さっきまで誰かが居たような感じがする。

 お茶はまだ温かいし、角に積まれていた筈の座布団は凹んだものが1枚机の横に置いてあるのだ。明らかな異変である。

 

 他に何か無いかなと周囲を見ていた私は目を疑った。なんとタンスの陰に奥へと続く通路があるのだ。

 

 明らかにこの間は無かったスペース。不審に思ったけれど、しかし暇なので行かない選択肢は無い。

 直ぐに入ってみると、そこは引き戸が何個もある玄関のような所であった。

 

 木の床から一段下がり、石を並べたようなすべすべの床に素足を乗せ、なんとなく引き戸の一つを開けてみるが、そこには先程見た沼地があるばかりである。どうやらただの裏口であるらしい。

 いや、むしろ私の入って来た所が裏口なのかな。なんて思いつつ次の引き戸を開けてみる。

 

 すると、そこには見知らぬ女の子が立っていた。

 

「え!?」

 

 いや、驚きたいの私なんですけど。

 

「……もしかして、神?」

「え、え? わたしは、えと、その。ただの人間です。15歳で……学生で……い、いやそんな事よりもっ」

 

 同年代らしい女の子。眼鏡を掛けていて制服を着ている。確かにこんな外見の神なんて居ないか、なんて考えながら話を聞いていると、いきなり彼女は私の両手を握って来た。

 

 

「貴方が、私と(ゆかり)のある土神(くにつかみ)様ですか!?」

 

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