突如泣き叫び暴れ出した子供。
このままでは会話もままならないので、私はその子供が暴れ疲れるのを待ってから腕を引っ張って2人の待つ部屋の中まで連れて行くことにした。
そうして建物の中に入ると、突然子供は弾かれたように私の手を振りほどいて前の方に逃げて行った。
不覚である。逃げられたら敵わないので急いで部屋に入ってみると、子供は
とりあえず頭の上に疑問符が浮かんでいる2人に事情を説明する。
「曜引さん……その話を聞いた限りだと、この子の頭を撫でたんですよね……
「『殺される』とか泣きながら入って来たぞ。こんな小さな子供虐めんなよ、ダセーな」
「あー」
……それで怖がっていたのか。これは全面的に私が悪い。
言い訳すると、私自身よく四葉さんにされているのでそういうのに抵抗が無かったのだ。
「大変申し訳ありませんでした。ごめんなさい」
「ごめんなさいだって。ほら、お姉ちゃん謝ってるよ?」
「……別に、
私が謝罪すると、営野さんが促した事もあり、そう涙声で呟く子供。営野さんありがとう、めっちゃ気にしてそうではあるが、彼女のお陰でどうやら許してくれそうな感じである。良かった良かった。
「それにしても曜引さん。この子も適合者ですか?」
「聞けてない。ろくに会話も出来ていなかったし」
「そうですか……あれ? というか見た目からして文化が違うような……あれ? えっと、もしかして」
「うん」
「うん。じゃないんですが……」
そうなのだ。
もしかしなくても「隠匿の神」っぽいのである。
神としてはあんまりにあんまりな言動の子供であったので時間が掛かったが、ここに来て営野さんも薄々気づいたのだろう。私が答えないのを見て、1人「そうですかー」とか言って外の沼地の方を眺め出した。絵に描いたような現実逃避である。さっき完全に子供をあやすような接し方してたもんね、分かるよ。
私? 私はもうダメかもしれない。神力が真っ赤っかなのも納得の嫌われっぷりである。
「聞いてみる?」
「……失礼な事は言わないで下さいね?」
それは手遅れな気がするんだ。主に私が原因で。
……しかしそれでも本格的な罰が当たるのは怖いので、この神っぽい子供を下手に怒らせないように立ち回ろうというのは同意である。私は営野さんとアイコンタクトを交わすと、相変わらず彼女の背に隠れている推定神の方を見た。
「んー、小学生の適合者か? よく見りゃかなり変な服着てるけど」
「此方の着てる服は変じゃない!!」
おい太田。
「あ! こら訂正してください太田さん!」
「そーだそーだ! 変な服じゃないんだけど!」
「なんなんだよ急に? 変ながもが……」
馬鹿が懲りずに推定神の服を貶そうとしたので、慌てて口を塞ぐ。
どうしよう。コイツに推定神だって伝えても状況が悪くなる展開しか見えないんだけど……。むしろ口を塞いでるついでにもう聞いてしまおうか、そうしよう。
「あのー……もしかして『にごりさま』であったりしますか?」
「『にごりさま』? 良く分からないが……此方は
推定神はそう言って沼地の方を愛おしそうに眺めた。
何だろうと思ってみると、そこは黒子鹿がこちらに歩いて来る所であった。この間の個体かな。なんて考えていると、推定神はその鹿の元へ駆け寄って、頭を優しく撫でた。
その光景は、この子供が「隠匿の神」だという事を如実に示していた。
「色んな事を知っているよ。どんな考え方なのか、どんな事をしてきたのか。子供達はいつでも教えてくれる。だから此方は其方達が嫌いではないよ」
そう言うと、推定神は縛られ口を抑えられている太田の方を指差した。
「此方と繋がりのある『鉄鉱石』の人間」
次に、営野さんの方を指差す。
「同じく此方と繋がりのある『葡萄石』の人間」
最後に、私の方を指差す。
「此方の権能の大半を奪った『山珊瑚』の化け物」
「は?」
「え?」
「ん?」
推定神から放たれた言葉に、思考が止まる。
どういうこと? 言葉通りに受け取るなら、私かなり不敬な事してないか? もうこれ祟りに転化してもおかしくないでしょ。いや「権能」とやらを奪っているからこそ大丈夫なのかな? それって本当に大丈夫なのかな?
「言っているよ、其方達は嫌いではないと。それは五花、其方も例外ではないよ」
「あ、そうなの? いや、そうなんですか?」
「そうだよ。いや、諦めたと言ってもいいか……?」
それって嫌いなのでは?
w
曜引さんが神様と問答をしている中、わたしは先程の言葉を吟味してみる。
「大半の権能」を奪った「化け物」。ふむ、曜引さんは少なくともただの人間では無い、と。
一旦「化け物」という表現は置いておき、その「大半の権能」とは何を指すのかが気になる所。曜引さんもあの驚きようですし、彼女自身も奪ったという自覚が無いのでしょうか。ともかく、わたしは意を決して背後にいる神様へ話しかける事にしました。
「あの……少し良いでしょうか?」
「なんだ?」
「先程曜引さんに『大半の権能』を奪われたとおっしゃられましたが……。それは具体的にはどういったものなのでしょうか?」
「む、そうだな……。其方の化け物も自覚が無いようだし、説明するよ」
「人の事化け物化け物ってさぁ……」
「其方が人間だと言うのなら人間なのだろうよ、とびきり悍ましい人間だよ」
酷い言われっぷりですね曜引さん。
「えっと……」
「ああ、奪われた権能の話だった……。そうだよ、まず一つ。此方の『子供達』である
鼬。
なるほど、先程曜引さんが「山珊瑚」と呼ばれていたのを踏まえれば聶獣である
「えと、尾袋鼬を動かしてるのって貴方じゃないんですか?」
「? 繋がりが無くなったのだから、そんな事は出来ないよ。出来てもそんな可哀想な事はしない」
「あ、そう……」
今のやり取りはどういう意味でしょうか。
考えている内に、神様は私の肩を握る手を離し、隣に座ります。
「他にも色々あるが……とにかく、不便でならないよ」
「あのー……それって返す事は出来ないんですか? 盗ったのは曜引さんも不本意だったみたいですし……」
「わざとでは無い事は知っているよ。それで……返してもらう事は出来るが」
「あ、出来るんだ」
他人事みたいに言わないで下さい曜引さん。
「最も、その時は五花の身体が耐え切れず、まず間違いなく絶命してしまうと思う」
ふむ、それが所謂「祟り」の仕組みだったりするのでしょうか。
「それは嫌です……」
「そうだろう? せっかく繋がりがあるんだ。此方としても身内の其方達には少しでも長生きして欲しいと思って居る。まあ、人の命なんて短い物だ。その時まで待つよ」
「ありがとうございます!」
そう言って綺麗に頭を下げる曜引さん。
良く分かりませんが、一件落着みたいな空気が漂っています。
「あれ、曜引に聶獣を奪われたのなら、なんで神は曜引の事に詳しいんだ?」
そう思っていると、声を発したのは太田さん。
意外にも静かに聞いていたようで、その事実に少し驚いてしまいました。……それにしても、確かに彼の疑問も最もです。
「ああ、一匹だけ繋がりが途絶えていない鼬の子が居てね。五花は