みみたぶがり   作:佐那木じゅうき

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「隠匿」ほるだーず ④

「ええっとつまり……(まわり)が、私と関わっていた唯一の貴方の聶獣ってことですか?」

「そうだよ」

 

 あれ?

 

 私はなんだか痛くなってきた頭を抱えて、今までの対話で得られた情報を整理する。そして気付いてしまった。

 「隠匿の神」はさっき聶獣を操る事を「繋がりが無いから出来ないけど、出来ても可哀そうだからやらない」と言ったのだけれど。

 

 翻って考えると、これは「私に彼等を使役する力がある」という事。

 

 今まで私を案内してくれていた廻以外の尾袋鼬(おぶくろいたち)達は「隠匿の神」が操っているのかなと考えていたのだけど、この状況を踏まえると、まるで奪った私が使役していたみたいじゃないだろうか。

 

 ……だけど使役だなんて、全く以って身に覚えがないし、不本意だ。

 ただの道案内ならまだしも、この間みたいな祟り騒ぎなんて特にそう。危なすぎる。私の望みであの子達が傷付くってだけでも気分が悪くなるのに、命令で死ぬかもしれない場所にまで行かせるなんて、本当にありえない。

 

 そう、そんな事はありえないのだ。

 

「曜引さん?」

 

 よって「私が使役していた」という線を探るよりかは、「第三者が干渉している」という線を探った方が現実味がある。だけど、それを考えるには情報があまりにも少なすぎる。

 母は大反対するだろうけれど、もういっそ研究所に聶獣の事を廻含めて明かして頼った方が良いような気がしてきた。

 気持ちが悪いし、このまま知らないままにして鼬達が傷付くのを見るのは嫌なのだ。

 

「なんか自分の世界行っちゃってるぜアイツ。なあ神様」

「なんだ?」

「ここってどうやって現実に戻るんだ?」

「知らんが大抵の人間は朝になれば帰っていくな」

 

 まさかとは思うが、漠然とした毎日の「平和の祈り」だけで動いていたみたいなとんでもない話ならもうお手上げだけども、それにしたって私の把握していない事を把握して動くのは不可能だろう。

 

「夢ですし、普通に目が覚めたタイミングで戻れる筈ですよ太田さん。ええっと……なので長くても数時間もすれば勝手に戻れると思います」

「数時間ってなげーな。このまま縛られてたらオレ暇すぎるんだけど……。おい曜引。これ外せよ」

 

 ……そもそも「『隠匿の神』の権能」って何だろう? これを聞かないと何も始まらない気がするんだけど。「幻想世界」で起きた事象として、今の状況自体かなりのイレギュラーだろうし、聞くことが多すぎる。そもそも本当に「幻想世界」なのだろうかこれ、ただの夢とかじゃないよね?

 

「ひ-びーき!」

「うっさい、何?」

「いい加減これ外せよ」

「……あーうん、いいよ」

「良いんですか……?」

縁門(アーチ)もってるの私だし、うるさいし。そこの神様に挑むのもやめたんでしょ?」

 

 それにまた暴れたら最悪「隠匿」で寝かせばいい。

 最後の台詞を伏せて私が言うと、太田がブンブンと首を縦に振ったので、縁門を開いてロープを消し飛ばした。

 

「うおっなんだその神力……は? ていうか今どうやってロープ解いた?」

「曜引さんそれ……」

「真っ赤っかでしょ」

 

 そういえば、私の神力はやっぱり赤いままである。

 神様的にはあれか、嫌いじゃないけど苦手ですとかいうアレなのだろうか。

 

「えっと、前から赤だったんですか?」

「うん、産まれてからずっと赤だよ営野(えいの)さん。……えっと、神様。もしかして『権能』を奪ったっていう話。私が産まれた時だったりします?」

「……産まれた時かは知らないが、繋がりを感じて間もない頃だったと此方は記憶しているな」

 

 じゃあそれ産まれた時じゃん。

 と思っていたら妙に神様がビクビクしているのに気が付いた。しまった。縁門(アーチ)開いてたからかな、閉めておこう。

 

「断っておきたいのだが、此方が現世の事を知る事が出来るのは子供達の言伝と縁を介するしか手段がない。だから向こうの事はそれ程良く知らないのだよ……それで、まあ、そうだな。感覚的な事しか言えないが」

 

 そう言って神様は顎に自分の手をやって唸った。

 

「よく覚えている、ここ最近で最も驚いたからな。まず、新しく縁が出来たのを感じた。ここまでは他の人間とそう変わらなかったのだが、直後にその繋がりがぷっつりと切れてしまったんだ」

 

 切れた?

 

「それってどういう事ですか?」

「どういう事も何も、一度死んだという事では無いか?」

 

 今、この神なんて言った?

 

「それで、直ぐに切れてしまった事に此方はとても残念に思った。山珊瑚の人間が此方と繋がりを持つのは珍しいからな」

 

 珍しい。

 うん、確かに別羽山珊瑚(べつわやまさんご)に選ばれる人間の神通力は大抵「地鳴(じなり)」とか「稲光(いなびかり)」だと言われている。後は珍しいのだと「逆睹(げきと)」とかで、「隠匿」は聞いたことが無い。

 ……というかそんな事よりも。

 

「死んだんですか? 私」

「恐らく。例え死の淵を彷徨っていたとしても、その魂が現世を去るまで縁は消えないのだよ。明確な死か、誰かが縁切りをしたか。そのどちらかだ」

 

 ……そういう事か。

 

 普通なら縁切りの方を疑う。だけど私に限っては……何処からかやって来て死んでしまった赤ん坊と入れ替わった。もしくは最悪の場合私がその子を殺して成り代わったのだと考えた方が自然なのだ。余談だが産まれた当時はこの件で結構悩んだのを覚えている。

 

「しかしその後、何故だか直ぐに『五花』とまた縁が出来た。その時だ。此方の「権能」が一気に持っていかれたのは。此方はそれ以上は知らないが、そこに関係しているんじゃないのか?」

「曜引さんは何か心当たりが?」

「その死んだっていうのはあるけど、奪った方は全然無いよ」

「……死んだ方はあるんですか」

 

 そう言った所で、何かを考え始めた営野さんを横目に、行き詰った私はお茶を啜ろうとして、湯呑が空っぽになっているのに気が付いた。

 急須は何処かなと見渡すと、視界の隅で太田が自分の分のお茶を淹れているのが見えた。お前かい。なんかミスマッチな光景だなとそれを眺めていると、太田は急須を持ったままこちらの方を向いた。

 

「それにしてもその神力。赤いって事は奪った? てのが関係してるんだよな。いいよなぁ」

「何羨ましがってるんですか太田さん……」

「だってカッコいいじゃん」

 

 そんな阿呆な事を言っている太田と諫める営野さんを微笑まし気に見ている神様。

 それで良いのか隠匿の神。もっと威厳見せた方が良いんじゃない? 第一印象で大分やらかしてる気がするけれど。

 

 そんな事を思いつつ、太田から急須を受け取って自分の湯呑にお茶を注いでいると、ふと自分の視界がぼやけているのに気づいた。

 意識してみると、どうも視界の端からどんどんと白い靄に覆われていっている。私はこれに覚えがあった。

 

「あー」

「何だよ急に」

「いや、なんか視界が真っ白になってきたんだけど。多分私これで帰ると思う」

「本当だ、なんかお前透明になって来てるぞ」

「へー、そうやって帰る感じなんですねぇ」

 

 私を見てそう呑気に言う2人。

 へー、客観的に見るとそんな感じなのかー。なんて思いつつ、現実でも会えるといいねー、なんて営野さんと短い話をして、さて帰るぞという時。

 私の手を誰かが握りしめた感覚があった。

 

「言おうか言うまいか、迷っていたんだが。とりあえず言わないことにした。どうなるか此方じゃ想像もつかないから」

 

 何を言っているのだろうか。

 囁くような声で、隠匿の神は続ける。

 

「もっと早くこうやって会うべきだったのかな、五花。一つ聞いてほしい」

「はぁ……?」

 

 訳が分からない。

 私はその状況に困惑しながら瞬きをすると、次の瞬間には、視界は一面寮の天井に移り変わっていた。

 

『困ったら早まらず、一度此方の元へ必ず来てほしい』

 

 そのただ一言を残して。

 

 

「……? ……んん?」

 

 寮だ。

 完全に目が覚めた感じがする。

 

 ……よく分からないけれど、困ったら自分を頼れとかそういう意味合いの言葉なのだろうか。私の事を嫌っている辺りリップサービスのように思えるんだけど。

 そんな事を思いながら薄暗い部屋の壁に掛かっている時計を睨むと、時刻はまだ4時半。熱心な運動部でもまだ起きていないような微妙な時間であった。

 

 どうにも寝直す気になれなかったので、とりあえずトイレに行こうとベッドから出て、部屋を出る。そうして用を足した後になって、結局「神の権能」の内容を聞きそびれていたことに気づいた私は、頭を抑える代わりに、顔を洗うことにした。

 

 ばしゃばしゃと早朝の冷や水を顔に受けて、ふと。

 先程あの場所に居た太田と営野さんはちゃんとこの世界に存在しているのだろうか、と少し不安になったのだった。

 

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