青特にある同好会の一つであり、
部長を名乗る坊主頭の先輩に招かれるまま室内に入ると、まず棚一杯に積み上げられたガラクタの山が壁の全てを覆い隠しているのが目に入った。
窓のある向かいの壁にまで浸食しているそれは、よく見ると分厚い本であったり、縁力機械のような物であったりが混ざっていて、
威圧感凄いなあと思いながら勧められた椅子に座ると、各々机に向かい合っていた部員がこちらをチラチラと見て来た。
こんな所で「機能確認」をすると言うのだろうか……。
何か歓迎されてない気がするんだけど。
そんな事を考えながら引き続き周りを見ていると、後から来た渡さん達が何やら膝丈ほどの高さの機械を運んできた。なんだか重そうな運び方である。
良く分からずにいると、唐突に部長が声を掛けて来た。
「挨拶が遅れたな! 3ー2の
「……1-1の
やはり声のでかい先輩である。
いや、本当に大きい。他の部員は何とも無さそうなのに不審に思って彼等をよく見てみると殆どの人が耳栓を付けていた。……それで良いのか縁歴会。
唖然としていると、渡さんが運んできた機械の電源を付けて、なにやら操作を始めた。
「それじゃ手早く始めようか、まずはこれ書いてね」
「あ、はい」
そうして機械を弄りながら手渡された例の誓約書にサインをし、それを返すと代わりに
「本当に赤いのか」
「何か形が変じゃない?」
「神力が何かしらの形状を象っている適合者はそれ程多くないよな」
「
ビックリした。
代り映えのしない赤いイソギンチャクのような神力が出て来たのを確認して前を向くと、いつの間にか机に座っていた4人の部員達が私の前に集まってそれを見ながら議論を始めていたのだ。
「おいお前等! 曜引くんと所長のお仕事の邪魔をするなら出て行って貰うぞ!」
部長の川西先輩がそれを咎めると、部員達はすぐさま散って座っていた椅子に戻り何かの作業を再開した。余りにスマートに撤退していったものだから逆に怖い。大丈夫なのだろうかこの倶楽部。
「はっはァ、すまんね! ここは方向性こそバラバラだけど神力とか、伝承とか、
つまり、沙村みたいな奴ばかりだという事なのだろうか。
話を聞くに、こうして部屋と人手と設備を研究所に貸しているのも、ああやって見学したいっていう下心が部長含めあるからなんだという。……なんというか、それで衆目に晒される私の事も考えて欲しかったよ。別に良いけど。
そう思って居ると、沙村がちゃんと皆秘密保持の契約書を書いているから大丈夫だと言って謎のフォローをした。そういう問題ではないのだ。呆れて渡さんの方を向くと苦笑いしていた。渡さん?
「あの」
「申し訳ない。これは俺が事前に言っておくことでした。延期する前は演習場を借りようと思って居たんだけど使えなくなっちゃってね……」
「は? 所長、彼女ここに来るの知らなかったんですかァ!?」
部長は私に連絡が行っていた物だと思っていたようだ。その言葉に暫く硬直してからこちらに謝罪をして、出ていったほうが良いか聞いてきた。私としては別に問題ないのでそれを断ると「じゃあ見学させてもらうよ」とばつが悪そうに頭を掻いた。……なんというか、失礼だけど意外にマトモそうな人でちょっと驚いた。
それはともかく、渡さんの話を聞くに今回のは単純な連絡忘れによるものだったらしく、場所を勝手に変えたことを重ねて謝罪された。因みにそこの「厄除」持ってる部長さんと「回帰」持ってる沙村については最初から手伝ってもらう予定だったらしい。それも聞いてないよ……。
ちょっと嫌になったので、この後滅茶苦茶バイト代の値上げ交渉をした。
数分のやり取りの末に五割アップしてもらったので真面目にやろうと思います。
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何やら良く分からない計測を一通り済ませた後。いよいよ神通力の機能確認が始まった。
私の「隠匿(仮)」の計測は今回、「隠匿」とどのように違うのかが主要な項目となるらしく、妙なボールを持ったまま自身をずらしてみたり、「厄除」との相性を見てみたり。最後には側面の一つだけだけ開いたケースの中の物をずらしたりした後、どうやら渡さんが持って来たらしい3番金鉱石を携えた沙村が「回帰」を使ってその経過を確認したりしていた。
それを見てやっと終わったと思っていたら、待ち時間に大量の細かい質問の回答を書かされる事になった。主に聶獣に関することが多かったのは、やっぱり私の適性値が変だったからなのだろうか。
そうして窓の外が大分暗くなって来た頃、ようやく渡さんは今日の分の「機能確認」の終了を告げた。
「お疲れさま。今日出揃ったデータを纏めて検討してから次の計測項目を決めるから、次回の日時は追って相談しようか」
その言葉に時計を見るともう19時近くを回っている。3時間程度の計測だったが、それでも最初は18時過ぎくらいと聞いていたので大分オーバーしていた。
伸びをして機材を片付ける渡さんを見ていると、それを手伝っていた沙村が首を捻って呟いた。
「『隠匿』というのは良く分からないな……」
「うん、『位相をずらす』っていう曖昧な表現が未だに使われているだけはある。サンプルが少ないんだよ。だから適性値の事を置いておいても今回のデータはとっても有意義だったかな」
サンプルが少ない。
その言葉に私はこの間の幻想世界で会った「隠匿」持ちの男子生徒の顔をぼんやりと思い出す。
「そういえば、緑賀特にも一人『隠匿』がいるんですよね?」
「えっ? ……確かに居るけど、知り合いだったの?」
そうして何気なく言った言葉に、渡さんは思いの他驚いた。
だから帰り支度をしている「縁歴会」の面々も手を止めてこちらを見て来ている。余計な事言っちゃったかもしれない。いやけど、この際だから聞いてしまおう。
「えっと、実はこの間幻想世界で会って」
「幻想世界で……って、え? は? どういう事?」
「だから、幻想世界で会ったんです」
「……どういう事?」
どういう事って、私が聞きたいのだけど。
そうは思ったが確かに私の説明不足であることは否めないので、渋る部員が全員退出した後、私は渡さんにこの間の出来事を全部喋ってしまうことにした。私としても意味不明な出来事であったため、喋って肩の荷を下ろしたかったのだ。
そうして全部喋り終えて前の方を見ると、渡さんは頭を抱えて下を向いていた。
どうやら荷物は全部向こうに行ったようだ。本当に申し訳ない。
部屋の中が沈黙に支配される中。何かぶつぶつと独り言を始めた渡さんの声だけが聞こえてくるよな状況で、ようやく彼は鼻の根元を摘まみながら椅子から立ち上がった。
「……まあ、何が起きても不思議じゃないとは思っていたけど……とにかく、その件は僕だけの手におえない。明日大丈夫?」
「明日ですか? 大丈夫ですけど……」
渡さんの言葉にそう返すと、彼は携帯を取り出してどこかに電話を始めた。ん?
なんだか深刻そうな顔をしているけど、どうしたのだろうか。少し不穏な空気を感じつつ、電話が終わるのを待っていると、通話を終えた渡さんが青い顔をして口を開いた。
「幻想世界の専門家呼んでくるから。本当は今日にでもやりたい所なんだけど……今の話さ、もし本当ならちょっと不味い事になっているかも知れないんだよ」