室内を見渡す。
蛍光灯の白い明かりに包まれた作業室の壁は、キチンと整頓されているが、しかしぎっしりと何かのファイルや本が詰まった背の高い棚にその殆どが覆われていて、唯一の窓すら、その隙から三分の一程顔を覗かせ開かずとなっている。
テスト期間の真っただ中。私は放課後にまたもや神秘研究所に呼ばれていた。
その中の一室。
「これ、何ですか?」
「え? えへへ……実はですね、とうとう解析出来たんです! 脳波から読み取った夢の内容!」
私の言葉に、やけにテンションの高い
意味が良く分からないので映像の方を注視することにした。
すると次に切り替わった画像に、見覚えのある岩や荒地が写っている。
「……凄いですねこれ」
「そう思いますよねっ!?」
うわ、ビックリした。
身を乗り出して満面の笑みを浮かべる
「えへ、えへへ。いっそがしくなって来たぞ~!」
「あの……今日の用事、これだけですか……?」
そうして立ち上がり、部屋の中をくるくると歩きながら今後の展望に思いを馳せている駒井さんに、私は恐る恐る問いかけると「ああ……」と露骨にテンションの下がった彼女は再び機械を操作し始めた。
落差が激しすぎて怖いよ……。
「えっと……実験中、曜引さんの身体に異変が起こった事はどこまで知ってます?」
「祟りに似た反応が出たんですよね?」
「そうです。それじゃあ話は早いかな……あれが発生した時について教えて貰えますか」
そう言って彼女が表示した画像は、大きなウネウネとしたシルエット……恐らく「隠匿の神」が映った画像であった。
「しばらく大きくブレたりぼやけた物が多かったんですけど、画像の直後、数日に掛けて真っ黒な画像ばかりなんですよ」
「あー……私、多分その時気絶してますね」
「……気絶……ですか、意識が無かったと」
駒井さんが頷きながらメモを走らせるのを横目に、私はどうした物かと考える。
実のところ、私は彼女に対し今回の騒動について簡潔に言えば「『隠匿』の神域が崩壊しかけていて、最終的に神様が何とかしてくれたから残りの二人と共に戻って来れた」という程度の事しか説明していない。
「権能」だとか、神様が言っていた台詞とか。その辺りの自分でも分かっていない物は省いているのだ。
営野さん達とは向こうで口裏合わせしておいたし、それが露見する事も無いだろうと思っていたのだが……正直こんな技術があるとは思わなかった。
「確認しますね? 曜引さんは『幻想世界』に入った後、推定『隠匿の神』と再会。その後、隠匿の
改めて聞くと本当に意味の分からない経緯である。しかし、多少省いたりもしたが、最後の「神が撃退した」以外の所は概ね事実。
もやもやと微妙な気分になっていると、駒井さんは再び画像を何枚か差し替える。
「それでは、暗転中に度々出て来るこの人物には覚えはありませんか?」
そう言われ、目の前に表示されたのは何か人の形をした影であった。
長い間映っていたらしく、何枚も何枚も順番に切り替わっていく。そうして一枚、ついに顔がハッキリと映っている画像にまで行きついた。
後ろ髪が腰にまで伸びているストレート。目元の垂れた20台の年若い裸の成人女性……だろうか。正直全く見覚えが無い。
白黒なので分からないが恐らく黒髪で、直立してこちらを無表情でただ見ているような画像。
「全然ありません……誰ですかね? これ」
「……そうですか。そもそも意識が途絶えているということは。視覚情報としての記録が残って居る筈が無いので、曜引さんが向こうで見ていた夢か何かの物なのかもしれませんね。『幻想世界』というある種の夢の中に滞在しながら、また更に夢を見るなんてとても興味深い事ですが……それでしたら説明がつきます」
駒井さんの見解を聞き、もう一度モニターを見てみる。
……ゾッとする。
完全にホラーである。しかも、パニック系とかではなくじんわりと恐怖を煽って来るやつだ。
そのまま手前に歩いて来て画面の中から出て来そうだなと思い私が身震いしていると、駒井さんは眠たげな目を擦りながら画面の電源を落としてしまった。
「もし何か、この人物について分かったらまた教えて貰って良いですか? 私じゃなくても誰でも良いです」
「分かりました……」
と答えてみたが本当に心当たりが無い。
こうして私は呼び出しに応えた事を後悔しながら寮に戻るのだった。
mmm
「はる子は怒っています」
げんなりとしながらやっとの思いで部屋に戻ると、はる子が何か面倒臭い事を言い始めた。
「なんで?」
「それはごばちゃんが考えて下さい」
彼女がこう言う時は、かなりくだらない理由だったりする。
ある種のじゃれつきである。しかし謎のホラー体験をした直後の私としては結構ありがたいタイミングであった。
「んー、今日の数学のテストが上手く解けなかった」
「違うよ」
「じゃあ、所縁学」
「……テスト関係は禁止とします」
「えぇ、じゃあヒント頂戴」
「ノーヒントで~す」
……ヒント無しで解ける訳無いじゃん。
と、会話を終わらせても良かったが、あえてクイズを続行させる。
「テスト中机がガタついて集中できなかった」
「テスト禁止だって~……けど、それちょっとあったかも」
あったんかい。
そして何故か正解扱いにしてしまおうか悩みだしたはる子を横目に、机に置いたカレンダーをふと見る。
「テストもあと一日ね」
「……これが終わったら夏休みだね~。ごばちゃんは直ぐ帰っちゃうんだよね?」
「うん。今年ははる子は大会で青島残るんだっけ?」
「そうだよ~、……あっカナちゃんも出るよ」
一瞬誰だと思ったが
「えっ、ホント?」
「本当だよ~。もしかしたら秋には部活入りかもね?」
マジか。
青島って割とパドのレベル高いと思っていたんだけど……エントリーする事になっても来年だろうと思っていた。だって一年生が大会に出られるのって相当上手くならないと無理な筈だ。
高校からの
単純に縁動機械としての
そもそも中学から
では何故団体戦が無いのかというと、単純に所縁学の専門学校が少なかったのが理由らしい。
全国大会の前哨戦である島内の大会は、青特生と、そうでない創立してそれ程経っていない私立や島立の専門に居る生徒。そして専門でない外部から来た少しの高校生のみである。
よって青特の中で大会に出られる実力があるのなら、上級生に交じって島内大会を通過し、全国大会に出るのは全然無い話ではないのだ。
……約束だからその時は勿論守って入部するけど、なんか私、この分じゃ置いて行かれそうな気がするなぁ。
大口叩いた手前不甲斐ない実力晒すのも嫌だし、実家帰ったら隙間時間に練習でもしておくべきかもしれない。
そんな事を考えていると、不意に懐に入れていた携帯が鳴り出した。
「もしもし?」
『もしもーし。あ、五花? 四葉です』