寮生活三日目の朝。
窓から覗く木々が揺れているのをボーっと見ながら手元の焼き団子を箸で掴み、あむとかぶりつく。
肉の油で両面きつね色に焼かれた小判状の団子は、ジューシーさとモチモチ感を同時に味わう事の出来る素晴らしい食べ物だ。ただ米と一緒に出されているのだけは納得いかないが。
そんな感じで脳内でレビューをしながら朝からのご馳走を楽しんでいると遅れていたはる子が食堂にやって来てカウンターの方に小走りで向かっていく。
決して起こさなかった訳じゃない。彼女が布団にへばりついて起きなかったのだ。と自分自身に言い訳をしつつ味噌汁の具を掬っていると隣にそのはる子が座って来た。そうして彼女はおはよー、とか今日は課外授業だねーとか言いながら、ウトウトしながら箸を持って食事をやっつけ始めた。
そう、第一回特別課外授業。
詳細は良く分からないが、入学して間もない青特の一年生には、毎年この行事が待っているらしい。
寮の先輩方は示し合わせたかのように「行ってのお楽しみ」としか答えないし、とにかく朝のHRの時間に教室に居ろという話だったので昨日とやる事は変わらない。私はお茶を啜りながら隣の食事が終わるまでゆったりとする事にしたのだった。
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教室の前に着くと、まず、教壇に妙にカラフルな抽選箱が置いてあるのが目についた。
ざわざわしている室内に潜り込むと、黒板には「1人1枚引いてまえ」と言う文字が大きく黒板に書かれていた。引いてまえ?
どうやら先に着いていたクラスメイト達は既にくじを引いていて、紙の中身を見て色々話しているようであったので、私も箱に近づいて、中から一枚紙を拾い上げた。
「4」
うん、よく分からない。
「曜引さん、おは~」
「おはよう!」
席に戻って紙を眺めていると、背後から声を掛けられたので振り返る。どうやら小野さんと金髪のピアスを付けた女生徒────確か安納さん。の声だったらしい。
「おはよう……これ、何?グループ分けでもするの?」
「いやぁアタシ等もわかんね。十分前? くらいに教室にアマセンが来て「先に引いとけ」ってあの箱置いていったんだよね」
「曜引さんは何番だった?」
「4」
「っし」
「やった!」
「え、何々。明らかに「わかんね」って反応じゃないじゃん。それ」
喜色満面の二人にそう聞くと、どうやら先に来たクラスメイト内で番号の大きさを競っていたらしく。私より番号の高かった二人は見事私に勝利したのだという。
負けちゃったよ。意味分からん。
因みに小野さんが5で安納さんが7だった。接戦だった。というか、自分がボコボコにやられたからって勝てる人間を探していたな? この人達。
その後、小野さん達と紙の奪い合いをしたり男子共の死闘を眺めていると余目先生が手を2回叩いて教室に現れた。
「はいじゃあ斎藤と加満田はこれ配ってー」
「うーす」
「はいなー」
余目先生は蜘蛛の子を散らして逃げるように席に戻り始めた私達の中から近くに居た生徒を2人捕まえてプリントの束を渡し、「なんだこれ」と言いながら黒板の文字を消し始めた。やっぱり誰かの悪ふざけだったらしい。
mw mwm
余目先生が持ってきたプリントを見ると、やはりと言うべきか、そこには各番号のグループ割当が書かれていた。僕は自分の15と書かれている紙をちらりと確認してそこに向かうと、
「おい、人の顔を見て何度も「うわ」と言うのは止めたまえ」
「えー?私そんな事いってませんけど」
何だコイツ。
呆れて返す言葉も無いので僕が黙っているとそのままにらみ合いの格好になった。いや、何しているんだ僕は。
気を取り直してツンツンとしている曜引にどうすれば教えてくれるか聞いてみたがやはり取り付く島もない。グループ毎に集まった後は校庭に集合しろという余目先生の言葉に、仕方なく僕達Dグループもノロノロと教室を出ていった。
しかしあからさまに塩対応である。これはもう正攻法では無理だなと考えていると、校庭に向かう途中の茂みが揺れて、そこから尾袋鼬が顔を出した。
同じグループの男子がイタチじゃん!とかテンションを上げたり、女子が可愛い~!とか言っている最中、曜引の方を見てみると完全に静止していた。騒ぎに驚いた獣が逃げ出して、再びグループが歩きだしても立ち尽くしている。
女子の一人が「曜引さんどうしたん?」と聞きながら肩を揺すっても反応もなく獣が逃げ去った一点を見つめているもんだから少し面白くなって。
「おや、あの模様。この間の尾袋鼬じゃないか!?」
と適当に言ったら体が跳ね上がっていた。
「ちちち違うしー!? あれは赤島の尾袋鼬じゃないもん! そ、そうだ、背中に白い模様が見えたしきっとこの島の尾袋鼬だもん! 私は詳しいんだ!」
「だもんて」
「随分勉強したな……まるでイタチ博士だ」
「曜引さんどうしたの?」
「沙村、これなに?」
「知らん」
そう、知らん。
だって教えてくれないのだから。
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沙村アイツ許さない。
からかわれた事に気づいた私がそう誓ってから数分後、グループ毎校庭に並んだ私達の前には各クラスの担任の教師が立っていた。1組の担任である余目先生以外を見るのはなにげに初めてかもしれない。
そんな事を考えていると、前の方から大きめの箱が回ってきた。両手で受け取って中を見ると、そこにはベルトに付いた
それぞれ身に付けるようにと言われたのでそのとおり制服の上からお腹に巻くと、そこから見慣れた赤いイソギンチャクがぽっこりと現れた。ので、すぐに引っ込める。
……あんまり人目のつく所でこれ付けたくないんだよなぁ。
なんせ不吉な赤色である。同世代の子は大抵気にしないので学校でやるのは少し抵抗感があるくらいだけど、お年寄りとか信仰深い人がこの海産物を見るとあからさまに距離を取ってくる。ついさっきまで楽しく話していたおばあちゃんが急に手のひらを返してくるのだ。そう、心に大ダメージである。だから自分から縁門を付ける事は無かったし、付けた時と言えば神力について四葉さんから色々教わっていた時期ぐらい。ましてこれを最大限出してみるのはやったことがない。
まあ、普通の人も日常生活で縁門とか使わないので、あんまり不自由はしていないのが幸いか。
さて、全員がこれを付け終わった所で前の方から説明が始まった。
『はーい、皆さんおはようございます! 私、1-3の
どこかの配信者のような切り出しでメガホンを持った梧桐先生の話は続く。
『これから地下演習所に向かいます! あなた達はAからFのグループに分けられていますが、演習場も丁度AからFまであります! 同じ記号の演習所に集合してくださいね! えーっと、演習所は先生の左の方にある森を抜けた所!
あー、そう! あそこにチラリと見える研究所の手前ですね!』