物心付くころには一匹だった。
食べる事に苦労し、それを探す事がほとんどの毎日。おまけに怖い生き物が空にも陸にも居るようだった。
だけども身体を動かすのは楽しいし、色々な所で怠けて寝そべるのは気持ちが良くて。
悠々自適と、そこそこ面白く生きて来た自負があった。
そんな
角度の付いた木漏れ日は赤く、乾いた山の地面が点々と朱に染まる。
その先にぽつん、と。歩いて来る人影が。
尾袋鼬はやけに気になった。
何時もなら自分から姿を見せないその獣。
だけども、その時ばかりは臭いを嗅ごうと思い立ち、茂みから出て来ると、その人間はこちらに直ぐに気が付いた。暫く見つめ合い、尾袋鼬は恐る恐るその足元まで近づいて。
「……こんな動物いたっけ」
臭いを嗅いでいると人間は目を細め、背負っていた鞄を探って何やら大きな本を取り出した。
「尾袋鼬。
人間はそこまで言って、何か不味そうな飯を差し出して来たので、一応咥えてみた。
不味かったのですぐに吐き出した。
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「そういえば
静かになった木々の下の小さな広場。
一旦休憩すると加子母に言われ、各々黙って地面に座りこんでいた時、地面に書かれていく絵なのか文字列なのか分からない物を見ながら我慢できずに僕はそう言った。
その問いかけに、地面に木の枝を突き立てていた廻は頷いて、それを見ていた加子母が眉間に皺を寄せた。
「話を……喋れないんだったな。おいお前等、この子が出て来た所、覚えてるか?」
「覚えてますけど、話せる事なんてそうないですよ。この岩肌の上から僕らを覗き込んで来たのが最初で……ついさっきの事ですもん……おい、さっき何か言ってただろお前」
「僕か? 名前だ。この先に住んでいた同級生と似てたから、それと勘違いしたんだが……正直、こうして見るに完全に別人だな」
僕は眠そうに欠伸をする少女を見ながら自分の足元を探った。
「
「駄目に決まってンだろ」
……やはりか。
僕は足元から手を離した。そうすると木田が口を開く。
「……良かったら僕があの先、視てみましょうか?」
「確か『洞見』だったか? それも正直リスクが大きいから認められねぇ。『祟り』は見るだけで広がる物もある」
「加子母はあれが祟りだと?」
「そういう可能性もあるって事だ
……しつこいとは何だ。
そう思いながら疲れた顔をした加子母を睨んでいると、その横に座っていた少女は勢いよく立ち上がり、ドヤ顔で自分を指差した。
「却下」
少女はゆっくりと座り直した。
「しかし加子母、こうしていても埒が明かないぞ。どうにか中を確かめられないか試すべきだ」
「お前……尤もらしい事言ってるが、要は自分が気になるだけだろが……はぁ。さっきも言ったが俺は応援を呼んだ。そして調べるのはそいつ等。で、お前らは応援が到着したら大人しく帰る。それと、お前の頭に付いている獣はその時回収する」
そ、そんな……。
「それで、廻ちゃんはどうするんですか?」
「お前等と一緒に街に帰らせて、その後保護という形になる」
絶望する僕をよそに、加子母が続けて何か言おうと口を開いた所で。
ぎゅう、と音がして沈黙が落ちる。
そしてお腹を押さえた廻が立ち上がった。
「便意か?」
「お前さ、女の子に何てこと言うの?」
木田がなにやら言っているが、その間に彼女は構わずどこかに歩き出す。
ずんずんと……岩肌の方に。
「おい、待て。何処行くんだ」
「出て来た所にじゃないか? 僕も行く」
「お前は座ってろ」
その言葉に、僕は立ち上がりかけた姿勢で止まった。
廻はそうしてる間に上まで行って、こちらを振り返っている。それを見た加子母が装備を持って立つと、彼女は親指を上に突き出して来た。
意図の見えない仕草。加子母は頭を掻きながらそちらの方に向かった。
────ふと、何かが起きそうな気がした。
かくして、それは正しく。
廻は背中から「緑色の神力」を湧き上がらせて、見えない壁に大きな穴を開けたのだった。
w
目の前に広がった光景に、
穴の中は「夕暮れの出口が見えるトンネルの中」にいるような光景。しかしその穴の外は晴れやかな岩肌の急斜面が続いていて。
その差が、時空が決定的に断絶しているかのような認識を与えて来たからである。
前に居た
「おい! どうなっている!」
来るなと注意を飛ばす余裕も無く、案の定近づいて来た沙村の方を向いた加子母は、先程のジェスチャーを思い返す。
「入るな。『すぐに戻る』そうだ」
「そうは言うが……なんだ……言われなくても入らんが……これは?」
「お前は興味を持ったら入るだろが! ……ほら、あぶねェぞ。降りろ降りろ!」
そう言って問題児を遠ざける。
渋々降りていくのを確認した後、加子母はその穴をもう一度見遣る。
トンネル。
その先の赤く染まる空を見て、何故だか記憶に引っ掛かるような物を感じた。
『やっと、見つけたんだ』
笑っていた。だけど、泣いていた知らないはずの女。
加子母は思わずその入り口を触ろうと手を伸ばす。
そこに触れた瞬間。
彼は気付けば、トンネルの中に居た。
「────なっ!?」
目前には先ほど見ていた夕暮れ空。
思わず後ろを振り向くと、そこはトンネルの続きが伸びていて、先ほどの森は影も形もない。
そこでようやく自分が取り込まれたのだと理解した加子母は頭を抱えた。
「加子母! 今行くぞっ! お?」
「お前いい加減にしろってぇ……え!?」
……この通り。
間違いなく、喜び勇んだ問題児一行が追ってくると思ったからだ。
「お前ら殴ってもいいか? いいよな?」
「……調子に乗っていたことは認める」
「素直に謝れよ……あれ? なんで僕も殴る対象に入ってるんです……?」