キャラ崩壊するかもしれないけど心の器を大きくして見てくださると助かるラスカル
………とにかく腹が減っていた。
人類が意気揚々と暮らしている地下拠点アーク。
その外縁部に位置する場所にあるアウターリムでは廃材などのゴミ捨て場として利用されていた場所であったが、気づけばアーク内で罪を犯したことで認識チップが
今では死の楽園でもある地上へ部品を求めていくものも出てきているが、このアウターリムで生きている者達は人間であっても、ニケであったとしてもアーク内に入ることは許されていない。
これは認識チップが存在しない者はアークの管轄に在らず、敵対勢力もしくは害獣とみなされて射殺されるからだった。
かつては地上で生き、脈々と受け継いできたとされる生命体はほとんど地上には存在せず、アーク内でもパーフェクトー…―――原料製造方法不明とされるコンニャクのような万能食材―――を食べているのが現状だ。
アーク内で管理されている人間たちがこれらを食す権利があり、当然ながら認識チップが存在しないアウターリムに生きる者達はパーフェクト自体の入手そのものが困難な状況。
ならばその貴重な食料であるパーフェクトに法外な金額をつけて利益を貪ろうと考える者達が現れるのも当然の帰結であった。
まぁあたしはその一人に加わることもあるし、なんなら今回はそれをちょっとしたミスでご破算になってしまったんだから笑えねぇ。
仕入れた商品を置いておく倉庫そのものが損傷が激しくなっていたせいなのか、サビやカビとなって価値が下がっちまうし、なによりネズミがやってきて保管していたところに侵入してきたとあっちゃぁそんな結末になったかはお察しなんじゃないかな?
まったく…そこまで困窮している訳じゃないとは言えど、気分が大きく下がるのは当然と言えるだろう。しかもそれに加えて近くでドンパチやってる音が聞こえていると来た。
あたしもニケだ。それもその辺に転がっている量産型とは違う。戦闘力だけで見れば大体の量産型には遅れなんて取るわけがない。
とはいっても好き好んで厄介ごとに突っ込む気力も起きなかったため、とりあえずその場から離れてしばらく彷徨っていた訳なんだが、アウターリムではない場所に出てきてしまったらしい。
普段のあたしだったら絶対に発生させない路に迷うという愚行には参ったが、確定なのはここはアーク近くではないということは幸いだった。
そんな状況でふと思ったのが最初の想いだ。
アーク内でもアウターリムでもないこの場所で腹を満たせる場所があるとは到底思えはしなかったが、どこかわからないこの場所でずっと同じ顔が居座っているのも変に思われるだろう。まぁそんなこと気にするタマではないんだが…
どこでもいい。
“腹を満たせる場所”を探してサブマシンガンを片手にうろついていたわけだが、しばらく進んでいると『食事処』と書かれた暖簾が目に入った。
おかしく思わなかったのか?
そんなこと当然思ったに決まってる。
人間がいるアーク内ではない。ましては地上で栄えていた場所でもない地下世界。
こんな場所に来るとしたらニケぐらいだろう。
周囲を見渡せば崖で背を隠すように建っているその建物は、翼を模した
この場所は…というよりもこんな建造物が経っている場所はあたしが知っている場所でも一つしか知らなかった。
「…気づかないうちにあたしは前哨基地に来ていたのか」
ポツリと漏れ出た言葉であるが、悪くはない。
地上とアーク間に存在するこの基地は絶えずラプチャーが襲ってくる土地でもある。故に指揮官と呼ばれる男以外に人間はいない。
ニケは兵器だと謡うアーク上層部にとって、この前哨基地にお役所人間が好き好んでくるような場所ではないだろう。
ポケットを漁ればスクラップ業者へ流せばある程度の資金になりそうな金目の物が二つほど。
アーク流通貨幣であるクレジットはアウターリムに住むあたしには縁がないものであるが、立てかけられている看板にはクレジット以外…物々交換も対応していると記入されている。
まぁ話してみればいいかとあたしはその暖簾をくぐった。
店内の雰囲気は可もなく不可もなくの雰囲気。
壁には商品名と思われるメニューが飾られ、壁側には大きな椅子や机、提供するのであろう水などが置かれている。
現在の時間は解らなかったがポツポツとすでに提供されたモノを口へ運ぶニケの姿。
(………)
料理…食料に関してあたしは詳しいわけではない。
だが少なくとも他の奴らが食べているモノがパーフェクトのようなものではないことはすぐに理解した。
普段見ない顔であるあたしを興味深く見る奴もいたが、すぐに眼前の料理に意識が移って御馳走のように食べているのがその考えを肯定してくれている。
「あら、いらっしゃい。お水よ」
「…あぁ。…ブッ!?」
着席した客にお冷とお手拭き。
このご時世でそのサービスはかなり豪華なものであったのだが、あたしは何よりもそれを運んできた相手を見て口に含んだ水を汚くはあるがコップへ戻してしまったものだ。
肩にかかる手入れされた黒髪と、歩くたびにカツンカツンと音を鳴らすエナメル製のニーハイロングブーツ。
服装は普段のボンテージのままではあるが、白のロングコートではなく、全面を大きく隠すエプロンを着用している。
清楚な顔をしたマゾヒストとはよく言ったものだ。
アーク内でもニケを製造できる3大企業の一角ミシリス。そこに所属するニケ――ミハラ――が目の前で笑みを浮かべていたのだ。
「あら?お客様。いかがされましたか?」
「ついにイカれたのかお前?」
「あら酷いわ。私はただこのお店の店員をしているだけよ?」
「どういう経緯があればここで店員をやるんだよ…」
もしやこの場所はミシリスの一拠点なのでは?そう思いもしたが、それはミハラから直接否定された。
話を聞けばここは前哨基地にいる指揮官とは別の人間が切り盛りする食事処であり、開店して間もない時間帯であったが故にあたしはすんなりと入れたそうだ。
人間、ニケに関係なくまともな食事を食事を提供するのがこの店のこだわりらしい。
彼女が最初に見せてきたメニュー項目には食事をするにあたって注意事項がいくつか載っていた。
壱、清算方法はクレジット及び他物品を事前に店員へ報告すること
壱、他のお客様に迷惑をかけないこと
壱、食事を始める際は食に対する礼儀を必ず行うこと
上記を護れぬ者は退出及び出禁。酷い場合は店主自ら折檻を加える
色々ツッコミたい事はあったが空腹でさまよっていた事を思い出し、ミハラへ金目の物を出せばこれなら支払いは問題ないらしい。
これは安心とメニューを開くが、あたしはこんな場所で食事を行うなんて今までしてこなかった。
ニンニク鶏の親子丼、魚貝の塩焼き、カニカマの花のおひたし、栗ゴマ団子、etc…
一部はイメージが付いたが他は名前だけでどんな食べ物なのかなどわかるはずもなく、仕方なしにミハラへオススメを聞く。
「全部オススメっと言いたいけどそうね…貴女、箸は使える?」
「箸?…あぁ、それは問題ない」
「ならこの定食がいいと思うわ。味つけとしては私はもっと辛めがいいのだけど、他の子たちは美味しそうに食べてるのをよく見るの」
「…それで頼む」
「ふふ、了解したわ。店長、定食を一つよ」
あいよ!
そんな掛け声が聞こえるが店主の姿はキッチンの奥にいるのだろう。
あたしが座った席からではうまく見えないが、手際よく作業を行っているのが食材を切る音からよくわかる。
(…ここでは貴重な食材を使っているのか?パーフェクトやバーで作っているものとは到底思えないが…)
注文を終えると少し気が楽になり、より周囲を観察する余裕が生まれる。
店内を見渡すゆとりができたため、最初に他のニケが食べていたモノを見ようとするとすでに他の皿は空っぽになっており、嬉しそうに他のニケと雑談している様子であった。
「やった!今は結構空いてる!」
「あら、いらっしゃい。今日は食べていくの?」
少し時間が経ったのか、本来の店のピークが近づいてきたのかはわからない。
少しずつだが店内に入ってくるニケの姿がちらほらと見られるようになってきた。
「今日は指揮官様が書類に忙殺されてるから持ち帰りで!」
「そうなのね。メニューは決まってる?」
「えーっと…ご飯大盛と漬物3種、みそ汁に生姜焼きを4人分をお願い」
「わかったわ。いつも来てくれるから今回はデザートもおまけしちゃうわね」
「ほんと!やったぁ!」
(持ち帰り!そういうのもあるのか)
ミハラの対応に喜びを表しているのか頭部に付いたアホ毛がピョコピョコと動き回っているのを遠目で見つつ、彼女たちの会話に思う。
先ほどまで席で食事をしていたニケは退店していたが、その時も何かを頼んで持ち帰っていたのを思い出す。
(持って帰りたいぐらいの代物がやってくるのだろうか)
保管技術がしっかりしているのか、ミハラが冷蔵庫らしき機械からすでに包まれたものを袋へ納め、手際よく支払いを済ませている。
今思えばいつラプチャーが襲ってくるかもわからない以上、この場で食べるよりも持ち帰って持ち場で食べるという方法が取られるのもわかることであった。
「はい。お待ちどうさま。注文の栗ブタの生姜焼き定食よ」
「なっ…」
それはあたしが今まで見たことがない食材だった。
食べやすいように薄く切られた肉にタレが絡み合い、見た目からその美味しさが想像できてしまうようなもの。
茶碗に盛られた米は土鍋で炊いたのかおこげもしっかり残されており、生み出された蒸気が旨味の爆弾となって鼻腔を刺激し、自然と口の中は涎が生み出されてくる。
綺麗に細断されたキャベツと彩色として映えるトマトにもしっかり目を行き届かせているのか、その瑞々しさが視覚や嗅覚、さらには肌に触れる湯気が触覚からもアプローチをかけてくる事を理解し、自然と眼前で両手を合わせた。
「いただきます」
ハフ
ハフ
ハフ
ハフ
その料理は出来立てで、その温度差から驚いて熱気を飛ばそうと口から熱い息吹を飛ばす。
だがそれでも食べるのをやめるなどといった思考はなかった。
ズズッ…
アツアツの肉と野菜を口に運び、お米を味のカーレースに参加させる。
少し甘さを感じるタレと肉の旨味、お米が味覚のゴールを目指してぶつかり、協力しあいながら食道をかけ抜けてくるのを感じていた。
そこから美味く混戦を極めたところに、すべてを持っていくかの如くみそ汁を注ぎ込み、味をリセットさせながら食べていた興奮を自然と落ち着かせていく。
添えられた漬物もちょうど良い。
生姜焼きで攻めてこられる中でも別のベクトルからアプローチをかけてくるすごく爽やかな存在だ。
「ふぅ…」
(とても美味かった…)
そうして気づけば眼前には料理が無く、食べきったことで米粒一つ残らないお皿が残っていた。
ここまで食事に集中したことはないあたしにとって、今日はとても貴重な機会になったと確信できる。
悪意が日常のアウターリムでは絶対に絶対に維持することができない良さ。
喧騒に巻き込まれない、それでいて店内の柔らかい暖かさ。
店員には多少面食らったものだがこちらを害する気はなく、今も他のお客へ対応を行っている。
(支払いは…先に済ませていたんだったな)
食べるものを食べたらあとはゆっくりするも良し、そのまま退店するも良し。
制約に縛られるニケではあるが、この店内においては小さな自由を感じ取りながらあたしは席を立った。
いろんなところで揉め事を発生させているあたしではあるが、この店にそういった問題を持ち込みたくはない。
そう思いたくなる程にはこの店に好意を抱いたのだろうが、我ながら単純すぎるのかもしれない。
「ありがとうございました。気が向いたらいつでも来てね」
そんな艶やかな声に片手を挙げて応えつつゆったりと店をでる。
エネルギー消費が多くあるニケではあるが、満足できる量だった。
ここの前哨基地は何度か指揮官と会ったことがあるのでわかる。
故に帰り道がわかるのが助かるところだが、ここにこんな店ができていた事なんて知らなかった。まぁ普段関わる事がないから当然なのだが。
おそらく…あたしのようなニケはあの店には不釣り合いだろう。
そう思いながらも最後にミハラから言われたいつでも来ていいという言葉が頭に残る。
ミシリスに在籍しているニケがあたしがどんな存在なのかを知らないはずがないのだが、そんなのは彼女…否、あの店にとってどうでもいい問題なのだろう。
「フラワー、持ってきましたよ」
「オーシャンやりぃ!サン、オーシャンが買ってきたよぉ」
「了解した。すぐに準備する」
少し歩くと両手に袋を持ちながら持ち場へ向かうニケが目に映った。
作業を一旦終えて準備するところを見るに、あれは食事のために持ち込んだものなのだろう。
袋に目を向ければ先ほどあたしが食べていた店の名前が書かれている。なるほど…あれがさっきのお持ち帰りか。
持ち場で食事を楽しむニケ。店の方向へ駆け足で向かうニケ。
そんな彼女達を視界に収めながらあたしはアウターリムへと帰還する。
「あらぁおかえりなさいクロウ。ずいぶん遅かったのね」
「クロウおかえり!待ってたよ!」
「あぁ。ただいま」
今度は二人を連れてあの店に向かうのもありかもしれない。きっと二人もあの雰囲気を気にいるだろう。
そう思いながらあたしは経年劣化したソファーに身を投じる。
冒頭の感情など忘却の彼方へ置き去りながら、あたしはこの奇妙な満足感を寝るまで味わい続けていた。