平等のお店:再生食堂   作:〇坊主

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誰かが言った――

 

全身の肉が、全て舌の上でとろける霜降り状態の獣がいると――

 

シュワッシュワに冷えたコーラが一面の海になるまであふれ出ている場所があると――

 

人々は魅せられる。

未知なる美味に―――

 

 

世はグルメ時代――

未開の味を探求し、宇宙を旅する時代―――

 

 

 

 

 

「おぉ、久しぶりだな」

「お久しぶりですトリコさん。こちら手土産です」

「よくここがわかったな」

「えぇ。貴方がフルコースを供える日で「おぉ!こいつは太陽酒(サマーウイスキー)じゃねぇか!」…相変わらずですね」

 

 かつてはとある家族が暮らしていた今では人の気配は一切ない自然豊かな場所。

 ここにはある男が眠っていた。

 かつて世界中の食材を独占しようとした男。だが最終的には己の全エネルギーを“旨み”に変えて地球上へと放つことで崩壊する寸前だった地球を自然豊かな星へと再生させた偉大な男でもある。

 

 簡素ながらも丁寧に作られたその墓前に手を合わせながら、隣にいる大男の反応に対して相変わらずだと笑みを浮かべた。

 その男の墓前へ自分のフルコースを毎週供えに来ている者の名はトリコという。

 身長220cmの大男であり、グルメ四天王の一人。

 未開の味を探求する“美食屋”の中でも30万種程の食材の中でも6千種類を見つけ出したカリスマ的存在だ。それも過去の話であり、今では宇宙にまで足を踏み出しているこの男が見つけ出した食材の数はすでに万の大台を乗り越えていることだろう。

 

 そんな美食屋のカリスマであるトリコに太陽酒(サマーウイスキー)を持ってきた男。彼は人とニケが暮らす前哨基地にて店を経営している男であった。

 彼がここに居るのにも当然訳がある。

 ソレ(・・)が持つ効果がグルメ時代以外においてどのような影響を(もたら)すのか知らないはずがない。

 彼もグルメ時代において、トップランカーとまでは言わないが、相応の実力と名を持っている存在であるからだ。

 

「プハー!!いつ飲んでもうめぇな!こいつを飲むとチーズ白菜が食いたくなるぜ」

「そういうと思って持ってきてますよ」

「おぉ気が利くな」

 

 大食漢なトリコは普段から食料を多く持ち込み、そしてその全てを日々消費している。通常であれば大抵の食材を腐らせてしまうほどの量なのであるが、彼の最大食事量は8トン以上。

 彼がトリコへ持ってきた手土産の量では腹1分もいかないだろう。それでもかなりの食材になるのであるが。

 トリコが食事をする間、彼も調理をしながら食べきるのを待つ。

 トリコには小松と呼ばれる世界最高峰の料理人がコンビになっているのであるが、トリコは基本的にどんな食材でも感謝をもって美味しく食べる事をモットーにしているため、料理人の端くれが提供する一品にも満足そうに食べてくれるのだ。

 

「プハァー!食った食った。調理の腕を上げたんじゃねぇか?」

「ははは。トリコさんにそう言っていただけるとは自信がつきますね。まだまだどれも道半ばですよ」

「そうは言うが世界中探しても早々見つからねぇぞ。3つも兼任しているやつはよ」

「どれもこれも自分の手で作ってみたい。ただそれだけの我儘ですよ。父さんにもなんとも言えない表情されましたし」

「ハハ!会長(・・)からすりゃあIGO(そっち)に専念してほしいところってことだろうよ。そういや鉄平の奴も言ってたぞ。『再生屋を続けてほしい』ってな」

「師匠が?…相変わらず俺に対しては寡黙な人だ」

「まぁー確かに突然黙るところはあるが、いつもなのか?」

 

 鉄平と呼ばれる男は饒舌に話すことがあるのだが、唐突に寡黙になることもあるのだ。

 トリコとて何度も肝心なところで黙られたことも多い。

 そのため、あいつ常に寡黙なんだ…といった感情を彼に向けていた。

 

「……」

 

 いつもなんですよねーと呟く相手を観察しつつ、トリコは考える。

 トリコは五感のなかでも嗅覚がとても鋭い。

 匂いで対象の状態を判別できるのは勿論のこと、地面に残ったわずかなにおいを嗅ぎ取って遥か昔に歩いていた存在を把握することも可能なのだ。

 これもグルメ細胞と呼ばれる存在によって成し得ていることなのだが、今は割愛する。

 自分にわざわざ依頼を持ち込む程の事だ。大まかな事は察することはできるが、それも正確なものではない。

 

「さて腹ごなしも終わったことだし本題に入るか。オレにどんな依頼をしに来たんだ?」

「はい。私からトリコさんに依頼する内容は―――」

 

 彼から語られた内容に、トリコは今からピクニックへ向かう様な軽い返答を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ヽ(□ω□)ノ

 

 

 

 

 

「ということがあったんだ」

「…………どういうこと??」

「確かにただの人間じゃないとはわかっていたけど、そういう理由だったなんて…」

 

 場所は打って変わって再生食堂。

 その食堂の地下に備え付けられた扉内部に彼らはいた。

 NIKKEとラプチャーが存在するこの世界。常日頃から指揮官たちはニケを率いて蔓延るラプチャー達から地上を奪還するために日々切磋琢磨しているのだが、店長と呼ばれる男が連れてきた二人の女性はアーク内・・・否、地上でも見たことがない光景が広がっていた。

 

 食堂の地下にある仕込み場。

 その光景を思い浮かべた方々はある程度の大きさで食材が保存された冷蔵庫やスープを煮だしするための大鍋などが置かれた調理場などをイメージするであろう。

 しかし彼女らの目にはそれらをはるかに上回る光景が飛び込んできていた。

 

「ほんとに…これは大自然(・・・)じゃない…」

 

 床があると思われていた地面には短く生えそろった芝生が続き、どこから生み出されているのかわからない流水が流れる川がある。それどころかアーク内でもホログラムで再現されている空すらも存在し、明らかに見たことがない生き物たちが独自の生態系を作ってその空間に存在していた。

 

 ただの箱庭ではなく、完全に風も感じるこの場所は明らかな異常。

 ミハラと共にやってきたユニはあまりの情報量に周囲を眺めて立ち尽くしている。

 最も海老や蟹の身が木から生えている(・・・・・・・・)光景やフライドポテトが川から溢れている(・・・・・・・・)光景などを見てしまえばこの世界で暮らす人々全人類が同じ反応にもなるかもしれない。

 

 ただでさえ地下生活では資源が…それ以上に食料事情が厳しいのだ。

 なのにも関わらず自然から食料――それも加工品や調理品が生み出されている謎の環境を見てしまえば誰もがその利を得ようと大挙で押し寄せてくるに違いない。

 三大企業のトップ達でさえまだ知らないであろう真実を知った二人は頭を抱えたくなってきた。

 

「うちで働いている以上はいずれわかることでもあったし、私が店を開けるようなことになった場合は君たちに仕込みや調理をしてもらうことにもなるかもしれないと思ったんでね。色々と丁度良かったから招待させてもらった。調理人たちの戦場であり聖地、調理場にね」

 

 折角だから何か食べるかと自然の中へ向かってしまった店長の背中を見送ってすぐ、ミハラはユニへと話しかけた。

 

「ユニ。…ユニ!正気に戻りなさい」

「…ミハラ。ユニね…まだ理解が追いついていないんだけど…」

「安心なさい、私もよ。でも店長が私達をここに連れてきた以上はすぐになれないといけないと思うわ」

 

「おっ、ミハラの言うとおりだ。ここは環境の変化に適応できないとすぐに自分の身を危険にさらす危険地帯だ。最も流石に調理場周辺の環境は落ち着いているけどね」

 

 ユニを我に返らせている間に店長は背に食材と思われるモノを持って帰ってきていた。

 見た目は茶色の豚と言った感じなのだが、胴体が硬い殻に覆われている様にも見える。遠目で見れば大きい栗に豚の顔といった感じだろうか。

 生物に疎いミハラ達ではソレが何なのかはわからない。

 

「店長…それは?」

「あぁ。そういえば実物を見るのは初めてか。これが栗ブタだよ。家でもよく生姜焼き定食として提供している豚になる」

 

 てっきり豚と栗をうまい事調理をして提供しているのかと考えていたミハラだったのだが、そうではなかったようだ。

 栗の見た目をしている豚だから栗ブタと呼ばれるのかと理屈は兎も角そういうものなのだと無理矢理納得させる。

 

 店長が仕込みを行う姿を見るのは早々ない。

 これも調理速度が速すぎるため、ミハラ達が働きに食堂に入ってくるまでには大抵の工程をすませているためなのだが、その店長の技術の一端を見た。

 

「すごい…。あんなに大きいブタが一瞬で解体されてる…」

「それどころか調理まで始めてるわ」

「良い香り」

 

 カセットコンロだろうか。気づけばそれに火をつけて調理を始めていた店長。

 あっという間に栗ブタを使った料理が出来上がった。

 

「生姜焼き定食はいつも見ているだろうから、今回は別の一品にしてみた。“栗ブタとほうれんソテーのピリ辛蒸し”おあがりよ」

 

 いつの間に炊いたのか米が入ったお椀と共に料理を提供され、思わずゴクリッと唾を飲み込む。

 一口料理を口へと運べばそこからは味の感想を言う暇もなく、一心不乱に料理を味わってしまうのだ。

 ホウレン草なのだがパリっとした触感と栗ブタからあふれ出す旨味が口内で絡み合い、そこに米を入れてしまえばあっという間に食欲を満たしながらも箸をさらに進めてしまう。

 

 食器が空になるまで、それほど時間はかかっていない。

 それでも満足できるほどに、ミハラとユニは食事に集中していた。

 普段からでは味わえない食材たちに対して無意識に感謝の念を抱きながら、食事を終えた際の大事な所作―――

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 お粗末様でした。と食器を回収し片付けていく動作は流石としか言えないだろう。

 そうして一息ついて落ち着いた二人を確認したところで店長は言葉を投げかけた。

 

「さて、これで私がこの世界の人間じゃないことは理解してもらえたと思う。この空間――疑似的なグルメ空間を生み出すのにはちと大変だったんだけど、これからは君たちにも手伝ってほしいんだ」

「ユニたちに何を手伝ってほしいの?」

「食堂の土地を借りている私が言うのもなんだけど、こんな辺鄙なところに来る物好きは少ないとおもっているが、それでも絶対0ってわけじゃないだろ?だから二人にはここにやってきた人達を護ってほしい(・・・・・・)

「?ここに入れないようにするとかじゃないのはどういうことかしら?」

 

 ミハラは頭を傾げる。

 部外者を入れないようになら、この光景を見ればすぐに理解できるが、護ってほしいというのはどういうことなのかと。

 

「それはこの食材たちの捕獲レベルが関係している」

「捕獲レベル?」

「捕獲レベルっていうのは獲物を仕留める難易度を示すレベルでね。基準としては捕獲レベル1で猟銃を持った狩人が10人がかりで仕留められる。このリドルチャプターを使えば数多くの食材たちのレベルが載ってる」

「人間10人ってことは量産ニケだと数人ってところになるのかしら」

「ユニたちなら一人でもいけそうだね」

「あくまで基準だ。取りに行く環境とか見つけやすさとかでもこのレベルが変わってくるから低いから楽勝とか考えてはいけない。中にはレベルを変化させる猛獣もいるからね」

 

 かつてのグルメ時代にて人間を喰らいに人間界へ侵略を行った『四獣』との戦いでも相手は捕獲レベルを向上させていたとの報告もある。

 低レベルでも戦闘能力が高い猛獣などあちらでは五万といた。彼女達でも気を緩めれば命を落とすことになるだろう。

 

 わかりやすい指標として猛獣を挙げているだけで、あちらでは植物が猛獣を喰らいつくしたり、花粉で数秒後に脱水症状を起こして死に至るなんてものも存在する。

 彼女達の認識ではあくまで戦うのは獣という認識が近いのだろう。

 この空間にそんな生物を再生させていないため、それは仕方のない事なのではあった。

 

「で、だ。私はこの空間のことをアークに教えるつもりはない。面倒な事になるのは目に見えているし、私自身はラプチャーを率先してどうこうするつもりもないからだ」

「…店長のことは最初に見た時から変わった人間だって思ってたけど、その通りなんだね」

「こら・・・ユニ」

「ハハ。私は再生屋や美食屋そして料理人であって、戦争屋ではないんでね。まぁ食材を粗末に扱うものに対しては相応の怒りは沸くけどね」

「ユニの知ってる料理人と違う…」

 

 今はこうしてミハラとユニは店長と自然を満喫しているが、これは本来であれば己らが所属している『ミシリス・インダストリー』へ報告を行うのが義務だ。今となってはミシリスの分隊『ワードレス』はあってないようなものになっているが、それでもミシリス所属扱いなのだ。

 アーク内であってもこれほどの自然を体験できる場所は早々ない。そんな劇薬が前哨基地に存在し、しかも貴重な資源をも採取できるとあってはこの環境を保持しているだけでアーク内のパワーバランスが傾きかねない程のものだ。

 故にこそミハラ達は店長の教えるつもりはないけど勝手に入ってくることにも文句は言わないというスタンスに疑問を持つ。

 

「それこそ私達が侵入した人を護るっていうのは納得いかないわ。確かに野生生物は危険でしょうけど、それこそ自己責任ではなくて?」

「野生達相手ならそうなんだが、それ以外にちょっと面倒なやつがいてな…」

「面倒・・・?」

「あ、来やがった」

 

 え?そんな疑問を浮かべた二人は店長のつぶやきの意味を知る。

 自分達の右側の森林が揺れ、木々にとどまっていた鳥たちが一斉に飛び立っていくのが視界に映ったからだ。

 衝撃が少しづつ大きくなり、俊敏な身体機能を有しているであろうその生物は店長ら目掛けて飛び上がる。

 ぶつかりこそしなかったものの、着地の衝撃で立ち上った土煙が彼らを包み込んだ。

 

「うっ…なんなの一体…!?」

「店長!」

「心配ないさ。ちょっとしたきかんぼうがやってきただけさ」

 

「久しぶりだな」

 

「「っ!??」」

 

 土煙が晴れ、やってきた存在の姿を視認したミハラとユニは絶句した。

 それ(・・)は彼女にとっても記憶に残る存在であったからだ。

 

 人やニケ程度の大きさであれば握り潰せるほどの巨腕に背中部分にはミサイルを発射する機構が備わっており、無機物で形作られた尾は一振りするだけで人間の胴体を切り裂いてしまいそうなほど鋭利に見える。

 頭部も含めて機械で構成された身体から到底野生生物に見えるものではなかった。

 

「な…なんでここに」

「トーカティブが…!」

 

 秘密作戦にて相対した特異個体トーカティブ。

 彼女たちの眼前に、トップシークレットの存在が出現したのであった。

 

 

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