トーカティブ
それは人類と敵対するラプチャーの中でも特質した個体。
前哨基地の指揮官と共にミシリス側の
初の戦闘ではトーカティブの知能と判断力が優れており、ミハラとユニが有する能力を逆に利用されてしまったことで敗北を喫してしまったことは彼女達にとって苦い思い出だった。
過去系で記載した理由であるがトーカティブとの戦闘をユニは記憶しているのだが、ミハラの記憶は諸事情で一度リセットされてしまっているためである。
「どうしてここにトーカティブが!?」
「店長!下がって!!」
「だから心配ないさ」
相手は人間の敵であるラプチャー。
奴の狡猾さを理解している彼女達は当然警戒し、人である店長を危険から遠ざけようと行動するがその前に牽制されてしまった。
「っ!どうして!」
「店長…まさか…!!」
二人の脳裏によぎるは最悪な状況。
店長がラプチャーをアーク内へ侵入させて人類壊滅の補助を行っているのではないかということ。
これまでもラプチャーはニケの脳内へウイルスを流し込んで、被害者をラプチャー達の手駒として扱ってきた記録が数多く残っている。
指揮官が最初に『カウンターズ』を率いた経験も、そして行動原点もその出来事があったからだろう。
人の脳を操作する技術を有する相手であれば人間を利用することも不可能とは言い切れない。
「誤解していると思うが、私は操られているわけでもないし、人類を滅ぼす手助けをするつもりはないよ」
だがそんな彼女達の心境を察してなのか、店長は言葉をかけてトーカティブへと向き合った。
「久しぶりではあるが珍しいな。お前さんからここまでやってくるとは」
「ふはは、やることがある程度纏まったからな。時間潰しがてらやってきたわけだ」
「おぉ…つまり
「あぁ。これで貴様が言っていたものが作れる」
「それはありがたい!」
人類と敵対するわけではない。
だがラプチャー相手とまるで友人と話すかのように親しく会話を行っている店長を見て、ミハラとユニは再び置いてけぼりになってしまった。
何かを生産できるようになったことが嬉しいとのことであるが、それよりも大事なのは現実を受け止めて内容を理解することだと思いなおす。
「て…店長?詳しく…されると理解が拒んでしまうから、軽く説明をしてくれてもいいかしら?」
「ん?おぉそうだった、すまないミハラ。トーカティブとの出会いは確か地上に資源探しに出向いているころだった…」
「普通は一人で資源探しに地上へ出ることはできないんだけどね…」
ユニのツッコミを華麗に流して話は進む―――。
(□ω□)
「よっと…ここがこの世界の地上か…」
店長と呼ばれるその男は一人で地上へと足を踏み入れた。
本来であればラプチャーが侵入してこないよう、金属製のゲートで防がれていたり機械類が入ってこれないような小さな洞窟を活用したりするのであるが、この男はなにもない空間から自宅のドアを開けて外へ出かけるかの如く自然体で現れていた。
“裏の
それはグルメ世界側にて存在する魂の世界。
食霊と呼ばれる未練を残して死んだ者の魂や仮死状態・瀕死状態に陥った者の魂もやってくることがある。
用途や種類も有り、今回店長が使用したものはワープロードと呼ばれる長距離を短時間で移動できるモノである。
グルメ世界の地球では伝説とされるアカシアのフルコース。その肉料理に選ばれている食材“ニュース”を食べることでグルメ細胞を用いて人工的に作れるようになる空間であるため、常人には到底真似することはできない芸当であった。
仮にラプチャーがこの“裏の
それを活用して地下から地上まで一人でやってきたというわけである。
何もない空間からやってきたということで当然近辺に地下へ繋がる道などない。
数多くのニケとラプチャー達が戦闘を繰り広げた土地なのか、人工的に建てられた建物はいつ崩壊してもおかしくない状態で当然人の気配は存在しない。
店長が世話になっている指揮官以外にも数多くの指揮官がニケを引き連れて地上で活動を行っている事やなにも考えずに地上を歩けば1時間以内にラプチャーと相対してしまうなどの基礎的な知識は頭に入れているものの、自分が立っている廃墟周りではまだその知識を活用できる機会はやってきていないようだ。
(人類が地上から追われて大分経過していると聞いていたから、自然が復活して人工物が残っている場所は少ないと考えていたが…意外と残っているんだな…)
5階建てのマンションだったのだろうその建物。
上へと続く階段を見つけ、今にも崩れ落ちそうな階段を登りきれば屋上へ出る。
役割を放棄したドアを動かせば周囲の光景がある程度分かるぐらいには、この建造物以外の高身長持ちは全員地面へ突っ伏していた。
かつて激しい戦闘があったのだろう。
残り続ける弾痕と乾ききって剥がれ落ちたペンキのように崩れる壁面。ここでラプチャーを食い止めようとしたのか原型はとどめていないが、戦車などの兵器や粉砕されたラプチャーであったと見られる一部が未だに残って陽に照らされ続けていた。
ラプチャーは地上と上空を移動する。海上にて活動を行うラプチャーの確認事例はそこまで無いとの事であり、このまま野宿をしようものなら障害物がない屋上ではすぐに見つかってしまうだろう。
だがそこは店長。再生屋の一人として、このような場で細工することは簡単であった。
(あまり大っぴらなのは使えないが…)
「こいつなら建物を補強する分には十分か」
店長は懐から一粒の種を出し、腰に備えていた液体を一滴垂らした後即座に建物の土台部分へ押し込んだ。
埋め込まれた場所から即座に蔓が伸び、建物を包み込むようにして木が生み出され、遠目で見ればまるで樹木が建物を護るかのように成長を行っていく。
「“
あちらでは再生屋たちが対象物を保護・保全するのに用いられる一般的な種だ。
即座に成長する速度を利用して岸壁の移動に活用したりもすることが出来、葉には強い強心作用が含まれていることで使用量を守れば気つけ薬としても使える便利なものである。
今回は一時的な拠点にするため使用したが、索敵するラプチャー達に知能があれば今までなかった樹木が突然生えていれば巡回にやってくることは想像しやすいため、面倒になって吹っ切れることが無ければ多用はできないだろう。
なお巡回する小さいラプチャーが持つ火力でこのプロテクトツリーを伐採できるかと言われればおそらく否だろうが…
「まぁ何事も警戒して損はないか」
誰もいないが考えをまとめやすくするために一人事を呟きつつもやってきた目的を果たすべく準備を進める店長は、この星の食材や資源を探しに一人で地上へ出て活動を行おうとしていた。
ただ荒廃しているこの地上で畑が生き残っているとは考えにくい。
あっても野生化した食材たちになるだろうが、店長からすればそれでも十分だった。
元々彼がこの世界にやってきたのは『食運』の思し召し…に近いものだ。
“裏の
グルメ時代を構築する要因になったグルメ細胞。それらを構築して宇宙全土へ食材を満たし、そして各々の地にて特色である『色』を形成していった。(ちなみに店長やトリコが住んでいる地球がある宇宙は『赤』の食材が多く存在していた)
“裏の
それゆえにこの星はどんな環境なのか、どんな食材が待っているのかワクワクしながらやってきたというわけだ。なお地球外生命体と言われるラプチャーとの戦闘影響もあって多くの自然が失われている and 未確認状態になっていることを知って落胆半分、期待感半分と言ったところだ。
ちなみに食堂地下に形成させているグルメ空間は特殊な空間を作り出すことができるセーフティモンスターを活用した空間だ。
下手にグルメ細胞をばら撒いてしまえばそこからどう変化していくのかが予測することは非常に困難のため、環境に影響を与えないように選んだ手段であったものの、地下の一部空間からグルメ細胞が流出しないように慎重に建築した結果今の食堂の形になっている。
「自生した周囲に
己の空間内にて栄養を得る事に特化したコケ。逆にいえば空間内で栄養が得ることが出来なければすぐに枯れ果ててしまう扱いが難しい植物なのだ。決められた空間を作るだけでなく、そこから栄養を与えすぎれば望んだ範囲以上に成長してしまうし、食堂との出入口を作るのに余計な負担になってしまう。
綿密に計画して作った空間は今でも内部にて範囲を広げており、自分が管理せずとも多種多様性を確立できるようになっていた。
「…おっ、缶詰発見。文字は…流石に見えなくなってるか。とりあえず集めておくか」
呟きながらも身体を動かし続ければ貴重な物品が多少なりとも集まった。
どれもラベルが無くなってしまっているが問題ない。
己の爪を缶切りのように形状変化させることで瞬時に開けた。
「これは…コーン缶か。たしか缶詰でさびていたり膨らんでるものは微生物が混入している可能性が高いと聞く…。これは製造日は分らんが比較的綺麗な形をしていたから中身も無事だったか…」
それでも一般人が食べる事は推奨されない年代になるのだろうが、グルメ細胞を有する店長からすれば問題ない。
缶切りに使用した爪を器用に使って口へと運んだ。
味は通常のコーン缶と大差はない。が、少々薄味に感じる。
口当たりなども考えると食材も一般的に流通する物を使われていたのだろう。もしこれで己の口…というよりも細胞が受け付けないモノであったら面倒であったが、そうではないようでひとまず安心だ。
それ以降も確認した缶詰の味見としゃれこんだのだが、まともな形状を残していたのは最初のコーン缶だけだった。
あとは見た目は綺麗だったのだが中身が炭のように真っ黒になっていたりしていたため、味は良いとは言えなかった。
が、加工済みとは言えど、貴重なコーンだ。このコーンを使って
そう考えてグルメケース*1へと缶詰を収納していたのだが…
「……ん?何の音だ?」
建物から聞くと西側。そちらの方からわずかであるが音が聞こえる。
ちなみに今の時刻は陽の動き方から夕方過ぎ。だいぶ辺りも暗くなってきている状況であった。
この環境下でラプチャーが意味もなく地形を爆破させているとは思えない。そして野生生物が暴れるにしてもこの音はおかしい。
故にニケとラプチャーの抗争が勃発していると判断する。
「んー…どうするか」
今更暗い環境で動けないなどということはない。
ただ余計な首を突っ込むのも面倒なことになる。前哨基地の指揮官が関わっているのならいいのだが、それ以外だと面倒極まりない。
なにせラプチャーが闊歩する地上でニケを連れずに一人で人間が近づいてくるのだ。自分なら罠を警戒する。
「しかし土地勘もないのは事実…。まぁ周囲も暗くなってきてるし最悪
索敵に特化した猛獣たちの巣を通り抜けた経験も戦ったことのある経験もある店長にとって、大した負担にはならない。
そう判断して音のする方向へ即座に出発するのであった。