もしもギタ男くんが夢魔だったら 作:リハビリマン@頑張れない
ぼざろクロス系SSを読みたくなったので初投稿です。
ここ数日、ずっと同じ夢を見続けている。
スポットライトに照らされた無人のステージ。暗がりの中、ざわめき一つない観客席。
アリーナにあって然るべきものがことごとく欠けたそこを、後藤ひとりは毎晩毎晩いつの間にか見つめているのだ。
夢見が悪い、と言うべきなのだろう。己以外、音を立てる者がいない静寂に放り込まれ、始まることのない演奏を待ち続けるのは。
しかし、何度目かの来訪の際、ふと思ってしまったのだ。
――――あのステージで
「ぁ…………また、ここ」
いつもと同じ場所。もはやお馴染みのステージ。誰もいないし何も起こらない。ただそれだけの不思議な
そんな
これは、魔が差したのだ。
「っしょ……」
気がつくと、ひとりは舞台上によじ登っていた。
現実でやれば警察を呼ばれかねない行為すらも、咎める者は誰もいない。
ステージの上で立ち尽くすひとり。ここは、想像よりも眩しくて目がチカチカする。観客席側から見ていたよりもずっと広く思えた。
ああ、いつかこんなすごいところで演奏できたらいいのに。いや、いつかと言わず、せっかくだから今ギターを弾きたい。きっと、会場は熱気が大爆発、
手ぶらであっても、想像力豊かなひとりの障害になりやしない。演奏を止める理由にはならない。
なに、やることは簡単だ。頭の中のギターをかき鳴らしてみるだけ。ほら、自分にしか聞こえない音が、弦を爪弾く感覚が、ギターの重みが――――って。
「ぅぇ!?」
何もなかったはずの手元。深みのある艶やかな黒がまず目に飛び込んできた。ギターだ。父親から借り受けたギターが、そこにはあった。
ギブソンのレスポール・カスタム。興味本位で調べてみて、その値段に驚いた記憶がある。なんて
突然生えてきた馴染みのある
寝ている時に見る夢なんて、所詮脈絡のないもの。脳が記憶を整理した際に発生する幻覚。整合性なんて、考えるだけ無駄である。
他人が関わっていない時、あるいは黒歴史やコンプレックスが刺激されていない時のひとりは、案外切り替えが早かった。
チューニングが合っているか確認。終わるや否や、指は無意識に音を掻き鳴らす。次の動画で使おうと考えている売れ線メドレーから、たった今思いついた
「ふぅ」
ひとしきり演奏を終えて、ひとりは一息つく。……一息、つきたくなった。
これは、夢だ。夢の世界のはずだ。だが、夢のクセにここには妙なリアリティがあった。
ギターの音色は言うに及ばず。肩に食い込むストラップの感触。ひりつくような指先の疼痛。汗は流れて目に入りそうになるし、息は乱れているし、疲労感は蓄積している。
己の五感の全てが『これは現実だ』と認識していた。こういう場合も明晰夢というのだろうか。
専門家ならぬひとりには判別できないことだった。
何となく、普通の夢っぽくはないのだけれど…………いやいや、そもそも普通の夢って何だ。夢に普通なんてあるのか。
そう独り言ちた。
そろそろ目が覚めるかな。いつも、気づいたときには朝だったもんな。
落ち着いたところで顔を上げる。いつも通り、ひとりだけの、ひとりぼっちの舞台上――――誰もいないはずのそこに、何かがいた。
「あ」
それは人ではない。それどころか生き物ですらない。
けれど、見覚えがあった。忘れるはずがない。常にひとりの傍らに現れるもの。ギターを模したそのフォルムは紛れもなく、
「ぃ、ぎ、ギタ男くん!!!」
「……………………………………はい?」
――――マイ(イマジナリー)フレンド、ギタ男くん!!!
◆
押入れの中。ギターの旋律の余音が薄暗がりに染み渡っていく。ギターが完全に沈黙するや否や、ひとりは録画停止ボタンに手を伸ばした。
「撮影……終わった……!」
『お疲れ様、
「あ、ありがとうございます……」
狭い空間に響く声は一人分。しかし、ひとりにはハッキリと聞こえていた。自分以外のもう一人の声が。
ボソボソと、傍目には独り言を喋りながら、ひとりは作業を続けていく。
演奏および撮影は済んだが、これで終わりではない。まだまだやることはある。その一つが映像内容の
余計な物、それこそ個人が特定できるような何かが映り込んでいないか。演奏以外に家族の声が入ったりしていないか。ひとりの身バレ対策に余念はない。
とはいえ、押入れの内部しか映っていないので、この確認で何某かが引っかかったことは皆無なのだが。
あとは編集作業だが…………こちらもほぼほぼ終わったも同然だった。
だが、ひとりの、否『ギターヒーロー』の動画は必要最低限の編集でいい。あくまでもこれは演奏を届けるための手段だ。……初歩的な映像編集しかできないし。
『サムネイルさっさと決めなよ。全部似たりよったりなんだし』
「うぐぅ!?」
――――ツッコミいらないって言ったばかりなのに!
声なき悲鳴を上げながら、ひとりの身体は崩折れた。
――――確かに同じ画角だし被写体もパッとしないミジンコ以下のピンクジャージだけど! それでも偶に、静止画でも見栄えがする場面が時々あるから! ……いややっぱ嘘です、大口叩きました。稀に一瞬だけかもしれません、でも存在していることだけは確かなんです多分きっとメイビー微粒子レベルで。
『ゴメンゴメン、どのひとりもカッコイイよ』
「ぎ、ギタ男くぅん……!」
『あはは』
遊ばれたのだ、とひとりは気付いたが、当人は誤魔化しもせず笑うだけ。
己の内から響くギタ男の声を聞きながらひとりは嘆息した。
ここ一年くらいだろうか。極まっていない時でもギタ男の声が聞こえるようになったのは。
そうした声の存在自体は馴染み深いものだ。実体のある友人がいないひとりにとって、イマジナリーフレンドは心強い味方。見る精神安定剤(幻覚タイプ)。
今までにも自分の世界にトリップした時や情緒不安定になった時に、ギタ男を始めとした友達(妄想)の存在に助けられてきたのだが…………。普段の日常に、ギタ男が出張ってくるようになったのである。家での食事中とか、真面目に勉強している時とか。他のフレンズは従来通りなのでそこまで騒がしくないが…………自分でも幻覚が強固になりすぎた感がしないでもない。完全に自分の手から制御が離れている。あとちょっと口うるさいし、たまに柄が悪くなったりもする。
でも、別に困ってないし。
それに、本当に友達ができたみたい、なんて。
―――――いやイマジナリーフレンドに何言ってんだ自分んんんん!!
ガンガンガンと床に頭を打ち付けるひとり。ハイテンポでリズムを刻んでいたが、階下から母親の心配する声が聞こえてきたので急いでヘドバンをやめた。夜遅くにごめんなさい。もう大丈夫なので
『それじゃ、
「別にいいですけど、それよりも私が書いた方が」
『いや、それは絶対にやめた方がいい』
即座にバッサリ切り捨てられ、ひとりは密かに落ち込んだ。
ギターを始めてから二年ほど――――ギタ男の主張が激しくなるまでは、ひとり自身が書いていたのだ。輝かしい青春を送るイケイケで陽キャでパリピな『ギターヒーロー』の日常を。陰キャだとバレないように、それはもう嘘八百を並べ立てていた。
で、ある日ギタ男に猛反対されたのである。『動画はいいけどそれ以外の雑音がヒドい』とか、『ホラーな掌編小説を付けるのはどうなの』とか、割りと散々に言われまくった。
そんなこんなで、最近ではギタ男がキャプションを担当している。とはいえ、ギタ男はひとりのイマフレ(略称)なので、結局書くのはひとりなわけだが。
――――イマジナリーフレンドにこんなに言われるなんて、本当は自分は否定されたがっている……? いやいや、そんなはずは。
『4:36のところの指のキレみて』
「はい」
『9:51からのストロークはもう最の高』
「あ、あの」
『うん?』
「これ、自画自賛みたいでやっぱり無理ですぅ……」
『これは僕が考えたんだから何も問題ないだろう?』
「で、でも」
『問題ないよね?』
「アッ、ハイ」
――――イマジナリーフレンドに言い包められる自分は一体……。
あとイマジナリーフレンドの考えることは自分の中から出てくるから、やっぱり自画自賛なのでは……?
内なる
まもなく、動画は『ギターヒーロー』名義のアカウントに追加され、全世界に向けて公開された。ネットの海に放流されたとも言う。
ふと時計を見やると、時刻は午前一時を示すところだった。いい加減、夜も更けてきた。
しかし――――後藤ひとりの夜はこれからだ。
「ギタ男くん、
『はいはい、今夜も延長戦かな?』
「は、はい」
『それじゃ――――今日もロックにいってみようか!』
世界が変わる。ユメがひとりの現実を塗り替えていく。
ひとりの領域である和室は消え去り、代わりに確かな存在感を以て顕現したのは無人のステージ。
件の、同じ夢の中で何度も訪れた空間である。
ギタ男が賑やかになったのと同時期、ひとりはここに自由に出入りできるようになっていた。
いつでもどこでもギタ男が開いてくれる素敵なユメ。それがこの場所だ。
ひとりはステージの中央に立つと、
合わせてギタ男が機材を運んできてくれるので、それらを素早く繋げる。
ギター、よし。アンプ、よし。スピーカー、よし。諸々の準備、よし。
さあ、掻き鳴らせ。
「――――――――ッ!!」
音がどこまでも広がっていく。頭上の照明、舞台の床、ズラリと並ぶ空の座席たち、遥か遠くの壁すら突き抜けて、ユメの中はひとりの演奏で満たされていく。
自分の思い通りになる、まさに
このペースなら、友達百人*1作ってライブするのも夢ではなかろう。
そう、現実に友達なんかいなくても充実した日々は送れるのだ。これぞ真のパリピ!(大嘘)
「相変わらず極まってる…………いやキマってるね、ひとり」
夢の中の会場。ゴーグル越しのVRなんか目じゃない、これこそ本物のヴァーチャルリアリティ。
ギター演奏の経験を積めるし、ひとりとギタ男しかいないから、ご近所との騒音トラブルや何やらを気にする必要もない。
『夢なのにやたらと疲れる』というデメリットこそあるが、ここの長所はもう一つある。
いくら弾こうとも、現実に戻って来た時、時間の経過がほとんどないのだ。この夢をうまく使うことで、ひとりは人類にあるまじき一日三十時間生活*2をエンジョイしているのである。
「えへ……えへへ…………」
ギターは楽しい。演奏している瞬間だけは自分が
――――陰キャでも輝ける。
いつかテレビで見たシーンがリフレインする。
テレビに出て、陽キャにキャーキャー騒がれているようなバンドのメンバーが実は
画面の向こうにいたいつかのメンバーに親近感がわく…………バンドメンバー……バンド……。
「ギタ男くん!!!」
「うわっ!? 何、急に大声出して」
「バンドメンバー生やしてください!!!」
「無理」
「何で!? ギターはこんなに生やせるのに……」
「まず人間と楽器を同列で考えるのをやめようかひとり。……あと僕としては
そもそも『生えてくる』という表現もどうかと思うが。
「バンドメンバーなら
「む、むむむむむむむ無理ぃ……」
――――だって人と話せない。アピールしても声かけてもらえない。そもそも誰がバンドに興味あるか知らないし。拒絶されたらもう立ち直れない。
みんな友達とバンド組むんだろうけど、私の友達はギターとギタ男くんだけ。でもギタ男くんはメンバーになってくれないから、私はギターと孤独にセッション。
「新曲『夢ですらバンドメンバー集められない』。ご清聴ありがとうございました……」
「才能あるのにすぐコレなんだからもう……」
と、呆れたようにギタ男。
そのままジャカジャカ仄暗いメロディーを奏でるひとりに対して、ギタ男は声のトーンを落とした。
「ひとり、君のギターは上手い」
「えへ、そうかな…………えへへ……」
「でもこのままじゃ君はバンドマンにはなれない」
「うへ………………え?」
有頂天だった気分が、ひとり製ジェットコースターに乗って180°真っ逆さまに急降下した。なお、
実際、負った。ひとりの身体は床にベチャッと張り付いた。
「ああ、ごめんね。でも、どれほど厳しい
「あばっ、あばばば…………」
ひとりのコミュ障の重症度合いまで完全に理解されている。イマフレにまで心配されててツライ。人間に生まれてゴメンナサイ。来世はツチノコになります*3。
「一人じゃバンドは組めない。当然だよね」
「で、で、でもギタ男くんがいれば」
おろおろとするひとりにギタ男はピシャリと言い放つ。
「僕が
「はぃぃぃ………」
どれほどギタ男がひとりの中で存在感を増し、
ユメの中でどれほど交流を深めようとも。
絶対的な、越えられない壁だった。
わかっている。わかっているのだ。
いつかは頑張らなければいけないのだと。
思わず、胸の
「バンド活動、やりたいんだよね」
「…………ん、や」
「や?」
「っ、やりたい、です……!」
言った。言い切った。
身体が震える。宣言だけで力を使い切った気がする。
『バンドを組んでライブしてチヤホヤされたい』。そんなどうしようもない欲求が、ひとりの初期衝動だった。
そうだ、そうだった。ギターを練習してきたのも、動画投稿してきたのも、自分の全部がそこに繋がっている。
ひとりは己の原点《オリジン》に立ち返った。
バンドを、やりたい――――!
「なら、明日から早速――――」
「あ、した……?」
ひとりの動きが、止まった。
あした、明日。明日ってアレだよね。ユメが終わって、現実に戻って、寝て起きたら――――すぐやってくるモノ。
「ら、来週……いや来月――――――こ、高校生になったら絶対バンドするので!!」
止める間もなく、どんどん伸びていくモラトリアム。自分の中に閉じ籠もるひとり。
繰り広げられる百面相は、いつも通りの光景で。
「はぁ…………」
天は二物を与えず。
ギターにかける情熱の一割でもコミュ力に振っていれば、今頃メンバーの一人も集められていただろうに。
ギタ男――――ひとりからそう呼ばれた夢魔は溜め息を吐いた。
私の中の承認欲求モンスターが力尽きたら消えます……。
ぼざろと夢喰いの履修について、当てはまるものは?(アニメ夢喰いに関してはアニオリ部分が多いので、原作orアニメかの選択もお願いします)
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ぼざろも夢喰い(全部)も知っている
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