もしもギタ男くんが夢魔だったら 作:リハビリマン@頑張れない
ぼっちちゃんの誕生日なので初投稿です。
「いいね喜多ちゃん! だいぶ上手くなってきてるよ!」
「ホントですか!?」
「うん、郁代は頑張った。うちの学校の下手っぴな軽音部くらいには弾けてる」
「おい山田ァ! もっと素直に褒めろー!」
「リョウ先輩に褒められちゃった……!」
「あー…………喜多ちゃんめちゃくちゃ喜んでたかー…………」
都内、下北沢某所にあるスタジオ。
そこでは女子高生三人がバンド練習に勤しんでいた。
バンドリーダーでドラマーの伊地知虹夏。ベーシストの山田リョウ。そして、ギター兼ボーカルの喜多郁代。
以上、三名からなる『結束バンド』という冗談めいた名称のバンドは、来たる初ライブに向けた練習の真っ最中だった。
安定した演奏を見せる虹夏とリョウに対して、郁代の演奏は未だ初心者の域を出ない。
実際、ギターに触れたばかりの駆け出しの初心者である。演奏ミスがあったとしたとしても責められることはない。何なら、ボーカルさえやってくれればいいとすら言われている。だが、
――――先輩たちの足を引っ張るわけにはいかない!
その熱意が郁代を突き動かした。
何度も何度も練習を積み重ね、どうにか一曲弾き切るまでに郁代を成長させて見せたのだった。
「――――でもまさか、喜多ちゃんがベースとギターを間違えて練習してたなんてね」
「ん、その恩人に感謝しないと」
小休止中、先輩二人の話題に上ったのは、郁代が楽器を間違えて購入していた話だった。
通称・多弦ベース事件。相当強く印象に残ってしまったらしい。話が出る度に郁代は穴に入りたい気分に駆られていた。
「ところで郁代、使わない多弦ベースちょうだい?」
「はい! リョウ先輩になら喜んで――――」
「こらリョウ! 後輩に
「…………お金はちゃんと払う」
演奏の合間に、こんな風に笑い合えるなんて。焦燥感に
郁代にギターを与え、励ましてくれた謎の人物『アン』。顔も本名も知らないが、迷える郁代にギターを施す豪気さに加え、連絡をすれば時々ギターの練習にも付き合ってくれるほど面倒見がいい性格だった。
……彼女から提示された連絡手段が、電話やメール、ロインやトゥイッターですらなく、イソスタ指定だったのが謎ではあるが。まあ、彼女にも色々と事情があるのだろう。多分、例の『その子』絡みで。
郁代が高校に入学してもうすぐ一ヶ月。
正真正銘の『ギター』を手に入れたことで、自主練の成果を感じ取れるようになって。頑なに避けていたバンド練習にも顔を出せるようになって。それでも満足に演奏できるレベルではなかったから、全てを打ち明けることを決心して。勇気を出して事情を話せば、先輩たちは驚きながらも失敗を受け入れてくれた。
まだたどたどしいところはあるが、先輩たちとの合わせも徐々にできるようになってきた。
『
――――今、とても楽しい。
それは郁代の嘘偽りない本心だった。
『バンド活動がある程度軌道に乗ったら――――』
ふと、恩人の言葉が脳裏を過る。
『ある程度軌道に乗る』という曖昧な条件で、
あんなにも格好は不審者めいているのに。きっと、人の善意を信じられる純粋な人なのだろう。その、まあ服装は……どこからどう見ても怪しい人なのだけれど。
そろそろ、相談してもいいのではないだろうか。
「あの…………リョウ先輩、伊地知先輩。相談したいことがあるんです」
郁代は打ち明けた。『多弦ベース事件』の説明の際、意図的に省いていた恩人との約束を。
『とある
「――――何かあるとは思ってたけど」
虹夏とリョウは揃って難しい顔をしていた。
「新メンバー、か」
「この時期に」
予定しているライブまであと数日。
ただでさえ完璧からは程遠い完成度なのだ。果たしてここに『
――――普通はしない、そんな冒険は。
「ダメ、でしょうか……?」
「あ、別にダメってわけじゃないよ!? でもその子さ、『引っ込み思案で人見知り』な性格なんだよね?」
「そうらしいです」
「しかも喜多ちゃんも初対面って……」
「ぶっちゃけライブできるの? 要はコミュ障なんでしょ、そのウワサの子」
「そこだよね……」
先輩二人の反応に、郁代は押し黙った。
恩人から伝え聞く話では、ギターの
郁代のイメージにはもはや、四人目のメンバーが加わる
このまま受けた恩を返せないのか――――そんな重苦しい感情を打ち払うように、パンと手を叩く音がスタジオに響いた。
「――――よし! とりあえず、その子にライブ見に来てもらおうか!」
「伊地知先輩……!」
「その日のライブを一緒に
虹夏は「それに」と郁代に笑いかける。
「喜多ちゃんの恩人なら、結束バンドにとっても恩人だもんね。約束は守らなきゃ」
その言葉が示す意味を郁代は噛み締めた。それはつまり、四人目の加入を認めると同義で。
「――――リョウ先輩! 伊地知先輩! ありがとうございます!」
「お礼を言われるようなことじゃない」
「そそ、リョウの言う通り」
頭を下げる郁代に先輩二人は大したことではないと言う――――そんなはずがないのに。
こんなに優しい人たちとバンド活動できるなんて、幸運だ。
「ではアンさんに連絡取りますね!」
「あれ? その子に直接じゃないんだ?」
「はい。何でも『ダメだった時にぬか喜びさせたくない』とかで直前まで黙っているらしくて」
その関係で、郁代は未だに『その子』の名前すら知らなかった。
「うーん、サプライズってことかな?」
「どうでしょう……? ただの過保護な気もしますけど」
「ぷっ…………過保護って。でも確かに、友達のいない我が子の世話を焼くお母さんっぽい」
「おいこらリョウ! 相手は恩人、バンドの救世主だぞー」
「あ、言われてみれば確かにそんな感じでした。お母さんって
「ええー……その人本当に何者なの……? その子との関係性は……?」
「さあ、何なんでしょう…………?」
とにかく、約束を果たす目処は立った。連絡を取るため、郁代はイソスタを立ち上げた。
◆
ひとりが秀華高校に入学して早一ヶ月。
相も変わらずひとりは自宅で孤独にギターを掻き鳴らしていた。
最初はひとりも精一杯バンドメンバーを探していたのだ。『高校生になったら*1バンドをやる』とギタ男に語ったことを嘘にしたくはなかったから。
でも、ダメだった。誰もひとりに話し掛けてくれない。あんなにわかりやすくアピールしたのに。どうして声をかけてくれないのか。
――――なんで、なんで、なんで!
鬱屈した想いを、今日もひとりはギターにぶつける。
演奏が落ち着いた頃、ひとりの中からギタ男の声がした。
『ひとり、ライブに行こう!』
「……………………ゑ?」
ひとりの顔から表情が抜け落ちた。
らいぶ、ライブ。ライブって、あのライブのはず。
――――いや確かに『配信だけじゃなくて大勢の観客の前で演奏したいなー』とか考えていたけども! いきなりライブ!? メンバーもまだいないのに!?
ひとりが押入れの中でグズグズになっていると、ギタ男がひとりの妄想を否定する。
『ああ、違う違う。
アウトプットもいいけど、たまにはインプットもしないと。ほら、もしかしたらメンバー募集しているバンドがあるかもしれないし。とギタ男。
『ひとり、これから僕が言うアプリを起動してもらって――――いや、ひとりには無理かな。ちょっと失礼』
ふと身体の感覚が遠くなる。押入れの中の埃っぽい空気、皮膚に触れる布地、両手に抱くギターの重み。それら全てが遠ざかると、ひとりの身体がひとりの意思とは無関係に動き出した。――――ギタ男だ。ひとりの肉体は今、ギタ男が操縦権を握っていた。
ギタ男はイマジナリーフレンドでありながら、やたらと存在感があるし、ひとりの肉体を操る術すら身につけたスーパーなイマジナリーフレンド、略して超イマフレなのだ。
そんなギタ男がひとりのスマホを操作してタップしたアイコンは――――イソスタだった。
正式名称はイソスタグラム。若者から絶大な支持を得ている超人気SNSであり、オシャレでパリピで陽キャな奴らの巣窟。
つまり
『いっ、いいいいいいいイソっ、イソスタぁ!? 何で!? そんな!?』
「アイコン見ただけでそんなに動揺しないでくれるかな?」
アイコンすらコンプレックスを刺激する要因になるのか。と、ギタ男は多分そんな感じのことを考えている。
実際そうなので何も言えない。
「理由は…………あー、ほら、SNSでライブの告知とかメンバーの募集かけてるバンドもあるから、情報収集がてらね。許可なくインストールしたことは謝るよ」
いつもハキハキ明るいギタ男にしては珍しく歯切れの悪い物言いだったが、追及はできなかった。
それどころでは、ない。
陽の気が、輝かしい光のオーラがひとりのスマホから放たれている。原因はギタ男が立ち上げたイソスタ。
――――おかしい、陰キャな自分の陰キャなスマホなのに。なんでそんな輝いているんだスマホ!? 貴様さては裏切ったな!? あっ、あ、ちょ、待って直視できない目がとけっ…………視神経が、死ぬ!!
ひとりが溶けるまいと必死に目を背けているうちに、ギタ男は目当ての投稿を見つけたようだった。
「ええっと…………あった郁代の投稿…………んん、ここだよ。下北沢のライブハウス『STARRY』。ひとりの高校からも結構近いし、ちょうどいいだろう?」
『う、うん…………』
薄目*2で
地図上のピンの位置は、確かに学校からほど近い区画に刺さっていた。
これなら学校帰りに歩いていけそう。
『でもライブって見るのにチケットが必要なんじゃ……?』
「まあ、そこは僕の伝手で」
『伝手…………?』
ギタ男の交流関係を想像するひとり。
同じイマジナリーフレンドのミスターマイク、ミニマムボディのピック太郎、イカしたパッケージの弦ゴロウ…………エトセトラエトセトラ。
ものの見事に、面子に空想上の存在しかいなかった。
一体どうやってチケットを用意するのだろうか。想像力だけで物体を錬成できれば苦労しないのに。
ひとりははたと思い当たる。
いや、もしかして…………。
『それって、
「あったりー」
――――毎日一、二時間ほど身体を貸し出しているが、まさかそのタイミングで? どこかの敏腕プロデューサーとか大物ライブハウスオーナーとかと渡りをつけていた、と?
凄まじく頼りになる
これって……もしかしてもしかしちゃうのでは? スカウトマンとかの目にも止まっちゃって、スターダムへの道を駆け上がっちゃうヤツでは?
『いける……! 中退コース…………!』
「何考えてるのひとり」
――――毎日何やってるのか気になっていたけど、他のイマジナリーフレンズとよろしくやってるわけじゃなかったんだ!
裏ではだいぶ失礼なことを考えていたが、雑多な思考に塗り潰されて、幸いにもギタ男には伝わらなかった。
『ありがとうギタ男くん! 毎日ギターの練習時間削って意識飛ばしてる甲斐があったよ!』
「意識飛んでるのはひとりが原因だし。その分の補填として、夜に僕の
聞こえない。聞こえない。
「じゃあ、スマホのリマインダーに登録しておくよ」
――――なんか知らないうちにギタ男くん、持ち主すら使ったことのないスマホの機能使いこなしてる。
ひとりは愕然とした。
イマフレにコンプレックスをしげ、刺激されっ――――
『そろそろ
「ぁべっ!?」
急に身体の感覚が戻ってきて、ひとりは壁に激突した。
『大丈夫?』
「はひ………」
階下からは両親の心配そうな声も聞こえる。『多分また自室の御札が増えるだろうな』とひとりはどこか他人事のように思った。
この感じだと、盛り塩の設置箇所も増えそうだ。
あれ、下手に置くと悪いモノを閉じ込めてしまって逆効果になると小耳に挟んだことがあるが――――あ、
『もう落ち着いた? ひとり』
「あ、はい」
ひとりはギタ男の声によって、現実に引き戻された。
「ライブハウス…………」
スマホの通知欄に表示されているたった六文字が、ひとりの得も言われぬ感情を呼び起こす。
――――知らない場所。未知の空間は怖い。陽キャとか怖い人とかがいっぱいいたらどうしよう。場違いに思われたりしないだろうか。やっぱり、怖い。怖い……けど。
「せ、せっかくギタ男くんが用意してくれるものだし…………いつか自分が目指すところだし…………」
――――ちょっとだけ楽しみ、かもしれない。
ニマニマ笑みを浮かべながら、今夜もひとりは
承認欲求モンスターが元気だったら次はライブ辺りのお話になる予定。
……ところで今更なんですけど、クロス先の夢喰いメリーって皆さんご存知ですか?
(知らない人が多そうなら一話あとがきに軽く説明入れます)
ぼざろと夢喰いの履修について、当てはまるものは?(アニメ夢喰いに関してはアニオリ部分が多いので、原作orアニメかの選択もお願いします)
-
ぼざろも夢喰い(全部)も知っている
-
ぼざろも夢喰い(原作)も知っている
-
ぼざろも夢喰い(アニメ)も知っている
-
ぼざろは知っているが夢喰いは知らない
-
ぼざろは知らないが夢喰い原作は知っている
-
ぼざろは知らないが夢喰いアニメは知ってる
-
ぼざろも夢喰いも知らない