ポケモンSV オリルート:黎明ビサイズワイディングロード   作:ポケモン嵌りマン

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シュートスタジアム見学①

 

 大都市シュートシティにあるポケモンバトルの聖地、シュートスタジアム。ローズ委員長が免職となった後にダンデが継いだ後もその篤い支持は失っていない。

 

そのシュートスタジアムで催されているのはスパイク・チャレンジ。ダイマックスはないが、ガラル開催のワールドポケモンバトルカップ…トリプルバトルの地方別対抗戦…に参加するガラル代表が選ばれる選考会であることを考えれば、大盛況の現状は当たり前だろう。

 

超満員のスタジアムのメインスタンド席で、ユウリ…王者ダンデを破った新ガラルチャンピオン…の応援タオルを首から提げて祈るようにバトルコートを見つめる少女ネモ。彼女は、毎年家族とシュートスタジアムにパルデアから訪れていたが、今回は違う。

 

彼女と一緒に来ているのは家族ではない。

 

ポケモンリーグの四天王の1人であるチリの引率の下、無二の親友のハルトに四天王最年少のポピーと一緒だ。アオキやハッサクらは本業が忙しく来ていない。

 

ネモ達の目の前では、グレーターシュート地区*1代表…ユウリ、サイトウ、ビート、マクワというチーム構成…VS ミッドランズ地区*2代表…キバナ、オニオン、マリィ、ルリナ…のトリプルバトル。グレーターシュート地区代表は押されに押され、反対側のスタンド席の興奮と揺れがこちら側にも伝わってくるようだった。

 

ユウリの出身地ハロンタウン辺りの郷土楽器、バグパイプが静まり返ったスタンド席に響く。応援団長らしき人物がチームの旗を振る旗手とともに手を振り回し、応援団の士気を上げる。始まる応援歌。ネモとハルトはその隣の人らと肩を組み、観客が声を合わせ応援する地響きのようなチャントに参加する。

 

となりのサポーターと肩を組み、太鼓に合わせ跳び歌う体験が生む一体感。それがハルトは好きになったしネモも好きだった。

 

ポピーはいつの間にか誰とも知らないマリィの熱狂的なサポーターに肩車されてスティックバルーンをぶんぶんと振り回しており、それらを横目にチリはエールを片手にスポッター席*3直下のVIPルームを盗み見る。

 

VIPルームでは、本日は別行動であるオモダカ…パルデア地方のポケモンリーグ委員長…が、VIPの誰かとにこやかに談笑している。

 

紙コップの中ほどまで入ったエールで唇を濡らすと、チリは試合に視線を戻した。試合は佳境を迎えつつあるのをチリは肌で感じたのだ。

 

チリが視線を戻した瞬間、ユウリが動く。

 

マリィのオーロンゲが撒くように撃つ〈ソウルクラッシュ〉にキバナのジュラルドンによる〈ラスターカノン〉の弾幕をものともしないユウリの巧みな指示の下、最小限の動きで捌きながらエースバーンにニャオニクスが相手のハーフコートへと入り込む。

 

2匹がミッドランズ側のハーフコート内に侵入した瞬間、オニオンのサマヨールが〈じならし〉をして2匹の足を一瞬止めようとするが、それで止まったのはニャオニクスのみ。

 

〈サイドチェンジ〉によって距離を詰めるサマヨールを視界に収めながらも、イヤホン*4越しに聞こえてくるユウリの指示に応えるニャオニクスの〈てだすけ〉。

 

厚い防御陣の注意を引き付けるエースバーンにニャオニクスが放った念波が纏わりつく。

 

一方、サイトウはユウリのエースバーンとニャオニクスが見せた攻めの意思表示をビリビリと感じ、ユウリのポケモンへの注意を利用して、間髪入れずカイリキーを敵に一気呵成に接近させる。そこにジュラルドンの一閃〈10万ボルト〉。

 

サイトウのカイリキーは、攻めるとなったら守りは放棄のノーガード。それ故に、攻撃に移った頭を抑えられるように攻撃されると、刈り取られる様にひんし状態に陥ってしまう。

 

『カイリキー、ダウン。』

 

しかし、カイリキーによって生まれたキバナとジュラルゴンの意識の隙間。そのコンビが生んだ空隙を、エースバーンはその脚力で押し広げる。

 

オーロンゲへのどくタイプの物理技〈ダストシュート〉である。

 

毒手の様にオーロンゲに刺さった右脚は、暗殺者の必殺を期した匕首と同様に一瞬でオーロンゲをひんしに追い込む。

 

『オーロンゲ、ダウン。』

 

「何だ!あの威力!」

 

ハルトが叫んだ。ネモは〈ダストシュート〉というエースバーンというポケモンの技の4つの枠を埋めるには突飛な選択肢を見てこう漏らす。

 

「…奇手も使えるようになってっ!」

 

ネモとユウリの間に面識はないが、彼女の一ファンであるネモはスマホロトムで毎試合チェックし成長も逐一確認してきた。そのため、まるで親の様な台詞が出てくる。

 

しかし、その急襲には代償が伴う。着いて来れなかったニャオニクスは神出鬼没のサマヨールに狩られてしまうが、それによってニャオニクスに意識を割く必要のないエースバーンの身軽さは天元突破。

 

ニャオニクスに気を取られていたサマヨールに、ついでとばかりにエースバーンは〈ふいうち〉を当てると致命傷を与える二発目の〈ダストシュート〉。

 

キバナのジュラルドンはオーロンゲなしにはチャンピオンのエースバーンに対しては弾幕が薄く、エースバーンを捉えきれない。

 

僅かに残った体力を振り絞って放たれた〈ナイトヘッド〉を躱してサマヨールにとどめを刺すと、エースバーンは軽業師かのような身軽さでジュラルドンの面制圧の弾幕射撃〈10まんボルト〉をヒラヒラと避ける。

 

『ニャオニクス、サマヨール、ダウン。』

 

そして、避けながらも次々と打ち込まれる速射砲じみた〈かえんボール〉に対し、その身体を斜めに傾け、いわゆる"昼飯の角度"を保ち、熟練の動きで最小ダメージに抑えるジュラルドン。

 

その技巧の衝突に感極まったネモは首に巻いていたタオルを振り回して、腹から出たよく通る大声で応援歌を歌う。ハルトは足裏から太鼓に合わせて跳ね歌う観客達の脈動を感じ、それに背中を押されて、つまりは熱狂的なサポーター達の持つ空気感に影響され、脱いだユニフォームを振り回して応援している。

 

いつの間にかエースバーンの脚の旋回範囲にジュラルドンがいた。

 

「行けーー!!」

 

マリィの次のポケモンはズルズキン。空気を弾き出すような音ともに〈ねこだまし〉を入れると、エースバーンの怒濤の連撃に空白地点を作る。その一拍の合間にジュラルドンが〈りゅうせいぐん〉の隕石による絨毯爆撃によって、周囲を吹き飛ばしエースバーンから距離を取る。

 

「惜しいー!」

 

チャンスをふいにされ、自分の事の様に悔しがるネモとハルト。同時にどさりと観客席へと座り込む2人。

 

既にやられていたビートは歯噛みしながら、インカムを着用しユウリにスポッターから伝達される情報を伝えるマクワの持つタブレットを横目で覗き込んでいる。

 

サイトウも手持ちポケモンが先程尽きたため、ベンチからユウリを見守る他ない。

 

そのため、グレーターシュート側の残りポケモンは消耗したエースバーン1匹。

 

ミッドランズには前衛と後衛がまだいる。本来ならダイマックスを使い起死回生を狙うことも出来ようが、今回は道具一つダイマックスなしのスパイク・チャレンジ。

 

よって、形勢を逆転する術は自分達の技量のみ。

 

ユウリは後ろ姿からエースバーンが闘志を宿し続けていることを確認すると、エースバーンを更に下がらせ、どちらからも距離がある相手の攻撃を躱しやすい形をコート上に作る。

 

「2対1はまだまだあるで。」

 

パルデア代表歴が長く、トリプルバトルの経験も豊富であるチリはそう呟いた。実際に2対1は確かに不利だが、残りのポケモンがコート上にいるのみである現状の状態ならば、ひっくり返される試合もある。

 

チリの独り言を耳敏く聞きつけたネモが、目を輝かせてチリに振り向く。しっかりとポケモンバトルの公式戦データが頭に入っているネモは、パルデア代表内でチリが最近ポピーと組んでトリプルバトルを戦うことも、タイプ相性を考えてキバナを仮想敵としてポピーとともに鍛錬を積んでいることも調べがついている。

 

だから、詳しい解説を聞けると思ったネモだったが、ネモが聞く体勢をとった途端にチリは身体の力を抜いて飄々と言う。

 

「ま〜…、1対2のがチャンピオンの強さを発揮できるかもしれへんしな。確か、これまでダブルとシングルしか経験なかったはずやし。」

 

その言葉は、スタジアムの熱気にあてられ熱くなり、知らない情報の奔流を求めたネモには肩透かしだった。

 

ハルトは歓声で聞こえないながらも、2人が会話しているのを認知はしていた。コート際に追い詰められ、その場に釘付けにされ、少しずつ体力を削り取られていくエースバーンを観ながら、冷め切ったポップコーンをハルトは口に運ぶ。

 

「とは言え、あのキバナさんが緩手を打つとも思えんし、TODを考えれば9:1でミッドランズやな。」

 

時間を忘れがちなネモは、判定勝ちを狙うTODという戦法があることを思い出す。ガラルリーグのシーズン公式戦ではよく見る戦法だが、ガラルリーグ所属ではないネモにとって、時間切れという概念は縁遠く使うことのない戦法だ。

 

「来年のワールドポケモンバトルカップでは、制限時間が導入されるそうやから、ウチらもTODも考えんとな。」

 

そう言いつつ、チリは、ポピーが硬さは強さという暴論をサポーター達に熱心に主張しながら、喧喧諤諤ともう趨勢の見えたと思われる試合を前にキバナサポーター側に立って言い合いに参加しているのを見つけ、"やばいわ"とばかりに連れ戻しに行く。

 

その後ろ姿を見送りながら、3人で行うトリプルバトルというネモにとってやってみたくても出来なかった新競技を前に、沸々と観戦ではなく自分がやりたいという気持ちがネモの頭を占領する。

 

チャンピオンランクというパルデア代表主力として、ハルトとタッグバトルを戦う…それを考えると、腹の底から全身を揺らす武者震いが止まらないネモ。

 

興奮を冷ます為、氷が溶けて薄味となったミックスオレをネモはストローでジュージューと吸い込む。

 

「ねぇ!ハルト!」

 

地響きの様な四方八方から聞こえる歓声や野次に負けない声量でネモが呼びかけると、待ってましたとばかりに口を開くハルト。

 

「逆転は流石に無いっぽいよな!ネモ!前半戦、連携がギクシャクしてたのが響いたって感じ。前半14分でユウリが1匹目を落とされてから、サイトウの動きも攻め6守り4ぐらいになっちゃってさ!」

 

ハルトの口からついて出てくる怒涛の感想にウンウンと首肯するネモ。

 

「そうそう!サイトウさんの良さが翳っちゃったよね!今回は…て!いやいや!」

 

「どうした?ネモ?」

 

「トリプルバトルしに行こうよ!ストリートに!今すぐ!」

 

腕を捲り、ポケモンボールを取り出しながらネモはそう言った。時間は22時を回り、ストリートバトルが盛り上がりを見せる頃合いだ。相手も見つけやすい。

 

一トレーナーとしてシュートスタジアムによって心内に点けられた火に手をかざしながら、せっかく来たんだから最後まで観たいという心の中にある確かな気持ちをハルトは確かめる。

 

スマホロトムで見てきた選手の試合。それが目の前にあるのだ。

 

しかし、同時にプレイヤーとしての自分が今すぐやろうとハルトの背中を力一杯押しているのも確かだ。

 

「みぃへんの?最後まで試合。」

 

ポピーを抱えて席に戻ったチリは、戻ってくるなりネモに言った。

 

「あっ!んー!んー!……でもなぁ!」

 

今すぐやりたいとネモの肩をガクガクと揺らして主張する決壊中のやったことの無いトリプルバトルへの欲求と、応援するトレーナーやスタジアムが持つ特別感や親友と共有する趣味を今している充実感とを体内で比べるネモ。

 

ネモが自分の肩を抱いてウンウンと悩み、ハルトが腕を組み唸っているその時、また試合が動いた。

 

TODが近づき油断したのか、いかくなどを使ってエースバーンの出鼻を挫いてきたマリィのズルズキンがエースバーンに接近し過ぎたのだ。

 

その隙を逃さないチャンピオン、ユウリ。

 

オーロンゲのふくらはぎに〈ダストシュート〉がズルズキンを掬い上げるように撃ち込まれる。

 

しかし、ズルズキンはあく・かくとうタイプ。格闘戦への適応力は高い。ズルズキンは硬くダボついた厚い皮膚で覆われた脛を冷静に外側に向けることで、〈ダストシュート〉を受け止めダメージを抑え込み、マリィの指示ミスをカバーする。

 

とは言え、カバーしきれないところもある。どく状態に陥ってしまったのだ。

 

更に、そこでエースバーンの連撃は止まらない。足を止めてしまっているズルズキンをエースバーンとジュラルドンの対角線上に置くことで、狡猾にもジュラルドンのサポートをシャットアウトした上で、また〈火炎ボール〉を撃ち込むと思わせ、右脚に注意を引きつけたところで〈ふいうち〉。

 

〈ふいうち〉はあくタイプの技。当然、ダメージは微々たるもの。しかし、ダメージはダメージ。ズルズキンとマリィは意識をエースバーンの脚だけではなくその全身に向けなくてはならなくなった。

 

そこで疎かになるのは脚への注意。本命の〈火炎ボール〉が至近距離にキョダイカキュウかの様な存在感を放つ炎球となって、ナイフの様な膝とともにズルズキンの鳩尾へと突き込まれる。

 

そして、間に合うズルズキンの〈ファストガード〉。ズルズキンの手は十字に組まれており、まさにそれはガラル空手の十字受け。サイトウから盗んだ技であった。

 

続く連撃を受け止め続けるズルズキンは、ようやく射線を通すことができたジュラルドンの〈ラスターカノン〉によって中断されるまで、かくとうタイプ故の格闘戦への習熟度の高さによって息を繋ぐ。

 

〈ラスターカノン〉を当然の如く避けたエースバーンが大きく距離をとって反対側へと離脱したことで、ジュラルドンとズルズキンとは等しく距離ができた。

 

攻防に目を奪われていたネモは、ふとその瞬間、スマホロトムを取出し、電子掲示板に表示されたTODまでの時間、ズルズキンの残りHPとどくの累積ダメージで計算を回す。

 

ズルズキンのHPは終了と同時かほぼ同時に尽きる。それが計算結果だ。ネモは思わず唾を飲み込んだ。

 

「ブザービートだ…!」

 

終了間際、ズルズキンはどくダメージの累積によってひんし状態へと変わる。その試合展開を予期したネモはぎゅっと応援タオルを握った。

 

キバナのジュラルドンによる攻撃が激しさを増す。キバナは分かっているのだ。TOD狙いの消極的な動きは判定まで縺れ込めば、審判から見てマイナスポイント。ズルズキンが落とされてしまえば、勝敗は審判任せとなり、勝利の行方は不明瞭となってしまうことを。

 

となれば、制限時間内にエースバーンを落としきるしかない。しかし、エースバーンはトントンと細かく跳ね回り、ジュラルドンの〈100万ボルト〉には捕まらない。そして、素早さに劣るズルズキンもまたすんでのところで捉えることができない。

 

そのうち、試合終了のブザーが鳴った。その長いブザー音が終わるとマリィが思った瞬間、ズルズキンが膝から崩れ落ちる。

 

『ゲームセット。』

 

全スタジアムの喚声の下、人々が口々に"チャンピオン"を連呼する。それはハルト達にスタジアムが揺れていると感じさせるにも十分だった。

 

「チャンピオン!チャンピオン!」

 

その劇的なブザービーターに興奮したサポーターの歓声を肌で感じたハルトにネモは、振動とともにゾワゾワとその興奮が肌を伝うのを感じる。来年はこの場に自分達が立つのだと思うと心の底から滾る何かがあった。

 

ガラル代表選考会を兼ねるダイマックスなしのスパイク・チャレンジの大トリはブザービーターで終わった。

 

『マッチウォンバイ ミッドランズ。』

 

しかし、勝利したのはアナウンスされた様にミッドランズ地区代表。残りHP割合の差がその理由だった。とは言え、8人のうち誰が今回の勝者であったのかと言えば、それはチャンピオン・ユウリであった。

 

*1
シュートシティを中心としたガラル地方北部。

*2
ガラル地方中部。

*3
観客席の上方から俯瞰的に試合を見ながら分析し選手の1人に指示を送るスタッフであるスポッター用の見張り台。

*4
もちもの。ユウリの着用する咽頭マイクと繋がっており、戦闘音を避けてより詳細な指示を受けることができる。

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