パルデアにダブルバトルを普及させたい転生新米女教師の奮闘 作:オレモヌシ
生きてます。
「今日は、コノヨザルイッカネズミについての授業を行います。私が時折話題にするパルデアダブル3強と言える組み合わせの1つですね」
「他2つはシャリタツヘイラッシャ、グレンアルマイエッサンとなります。この2つについてはある程度解説しましたので、コノヨザルイッカネズミの説明をしたら簡易的ではあるとはいえ網羅した事になりますね」
正確には、グレンアルマイエッサンは個別解説をしたというわけではありませんが……トリックルームやこのゆびとまれ、ワイドフォースやくだけるよろいについての軽い説明なら以前しました。
勿論、深い話をしてしまったらきりが無い為に、今回の通称コノヨイッカについての授業も代表的な話に留まりますが。
「コノヨザルを同時に場に出し、味方のコノヨザルに対してイッカネズミが袋叩きをし、威力の上がった憤怒の拳にて相手を打ち倒す……これが基本行動となります」
画面のイッカネズミが全員で味方のコノヨザルをボコボコ殴り、それによって怒り狂ったコノヨザルが相手のニンフィアに殴りかかっています。
ニンフィアは一瞬、
なんでこっちが怒られてるの!?
といった感じの表情をしてから吹き飛ばされていきました。
至極真っ当なリアクションですね……
「加えて特性フレンドガードとこのゆびとまれを持つイッカネズミによってコノヨザルを守り、合間にビルドアップをする事でいっそう手が付けられなくなる……といった作戦です」
ムキムキのコノヨザルが自慢げに筋肉アピールをしています。
うーん。あまりにも筋肉がありすぎるゴリマッチョは正直な所私の好みではないですね。
いわゆる細マッチョが私の……いえ、どうでもいい話です。
「コノヨザルイッカネズミの厄介な点……いえ強力な点は、叩きコンボ以外も強いという所にあります。3強の内他の2つと同じですね」
「画面を見てください。イッカネズミが袋叩き、コノヨザルが憤怒の拳を打つと読んでウルガモスが怒りの粉、それに守られたサザンドラがりゅうせいぐんを打とうとしましたが……」
「なんとこだわりスカーフを巻いたコノヨザルがいのちがけでウルガモスを道連れにし、広角レンズを持ったイッカネズミがねずみざんでサザンドラを倒してしまいました」
画面には自慢げにするイッカネズミたちだけが残されています。
おお。勝利の踊りを舞い始めましたね。
可愛いです。
「このように、強力な複数の選択肢がある。これがコノヨザルイッカネズミの強みとなります」
「試合を決めるコンボを持ちながら、それ以外でも強いという汎用性すらも担保した組み合わせ。だからこそ、彼らは3強と言えるのです」
「正直な話、3強に対しては明確な解答は存在しません。以前、シャリタツヘイラッシャの時に教えたように対策のイタチごっことなります」
コノヨザルは負けん気の特性を持つのがあまりに偉すぎるため威嚇では対策にはなりません。
やる気もあるので眠りも有効ではなく。
ねこだましにはおんみつマント、怒りの粉にはぼうじんゴーグル。
うかつな行動にはアンコール。
気合いのタスキを持たせたイエッサンとグレンアルマの組み合わせならばコノヨザルイッカネズミには大体勝てますが、それをしてしまうと他に勝てない相手が出てくるという……
まあ大体の場合は汎用性を考慮して憤怒の拳型になり、その対策をすればいいとは思いますが、ポケモンたちが実際に目の前で戦う現実世界のバトルでそのレベルの割り切りはなかなか厳しいものがありますから。
「とはいえ、知識がなければそもそもイタチごっこにすらならず薙ぎ倒されるのみ……だからこそ、勉強は必須となります。そして、いつも言っている事ではありますが……皆さんがいつかそこまでの高いレベルになり、これを楽しむ事が出来るようになると私は信じていますよ」
「対策のイタチごっこか……トップレベルのバトルだとそうなるんだね、ネモ」
「前に先生が言ってたよ。パルデアにダブルバトルが浸透してみんなが読み合いを楽しめるようにしたいって」
「なるほど……先生は凄い野望を持ってるんだね」
「うん。まずは私たちがエルリナ先生の望むレベルに……いや、先生を超えようね!」
「!! ふふ、そうだね!」
テーブルシティ内におけるとあるカフェ。
知る人ぞ知るカレーが美味しい名店であり、私はここで1人の人物と待ち合わせをしていました。
その人物はパルデアの人間ではありませんが、若き歴戦の旅人。
加えて、もし場所がわからなければ連絡するようにと言ってあるため大丈夫だとは思いますが……
なんて思いながら少し。
「エルリナさん! 良かった、やっぱりここで合ってた!」
聞き覚えのある声を発しながら駆け付けてきたのは……
「久しぶりにお会いできて嬉しいです──ユウリさん」
彼女はガラル最強のトレーナーであり、WCS出場者最年少にして現世界ランク3位のユウリさん。
ちなみに、私は4位となります。
思い返すは私たちによる3位決定戦。
あの時、守るではなくアクセルドライブをしていれば……!
……少し取り乱してしまいましたね。すみません。
世界ランクというのは、私たちの中にある、その年のWCSで強い者が強いという暗黙の了解による物……つまりはWCSにおける順位がそのまま反映される物です。
そのためランクはかなり水物であり、トーナメント運やその他諸々に非常に大きく左右される物でもありますが……その考えは、実際に競い合う私たちの全員が納得の末に成立した物となっています。
一般には公開されていない、言わば自己満足ランクではありますが……私たちの中で了承されているのであればそれは何一つ問題のない物ですから。
──それはともかく。
「パルデアに来るのは初めてだったから迷っちゃうんじゃないかと思いましたが、良かった!」
「ふふ、私も安心しました。普段は私から皆さんの所に行くので、こちらからの初めてのお誘いがどうなるか……内心少しだけ不安でしたから」
パルデア最強のトレーナーとして他地方とのやり取りをする業務。
私はその一環として、ユウリさんを始めとしたトップトレーナーたちに会いに行き、友好を深める。といった事をしています。
業務抜きにしても友人と会う事は単純に嬉しい事であるため、望む所ではあるのですが……ユウリさんに言ったようにパルデアに招き入れるのは初めての試みです。
「いい所ですね、パルデアは……! 見た事もないポケモンたちも沢山いますし、自然豊かですし……そして」
「食べ物が美味しい」
「そう! ……って私、そんな食いしん坊に見えます!?」
それはもう。
ユウリさんがカレーを好む……どころか一種のカレー狂とも呼べる人物である事は周知の事実ですから。
「ふふ。そんなユウリさんのために……実はこのカフェ、パルデアで一番カレーが美味しいと有名なカフェなんですよ」
「そうなんですか!? やったあ!!」
食いしん坊呼ばわりをすっかり忘れたようにはしゃぐユウリさん。
相変わらず、本当に可愛らしいですね。
彼女は16歳にして世界ランク3位である天才中の天才トレーナー。
同時に、WCS出場者における私の唯一の後輩となります。
同い年ならば数名いるのですが……
まるで計ったかのように、私より歳下のトレーナーはユウリさんの台頭まで居ませんでした。
そんな中、彗星の如く現れたユウリさん。
1人しかいない自分より若い子は可愛い。これは絶対の法則と言えるでしょう。
そうして雑談をしていると、待ちかねたカレーが届きました。
ユウリさんは早速……
「いただきます! ──うぅ〜ん! 美味っし〜い!!」
「ふふ。良かったです。お代は私持ちなので気にせずお腹いっぱい召し上がってくださいね」
「ありがとうございます! ああ、パルデアのカレーもいいなあ……!」
心底美味しそうにカレーを頬張るユウリさん。
その姿を見ると私も笑顔になってしまいます。
……それはそうと。
私には1つ、極めて気になる事がありました。
「……やはり……似ています」
「似てる、ですか?」
見れば見るほど、ユウリさんは……彼女にそっくりなのです。
そのため私は
「はい。私が教師になった話はしましたね? その学校の中に、ユウリさんに良く似た生徒がいるのです」
「私に良く似てる……あ! もしかして……」
ピコーン! と効果音が聞こえるかのような、電球のエフェクトが幻視されるようなリアクションをするユウリさん。
「その子、アオイって名前じゃないですか?」
「ご存知なのですか?」
「やっぱり! アオイちゃんは私の従姉妹なんですよ! パルデアに引っ越したって話は聞いてたので、もしかしたらと思ったら……!」
従姉妹。
通りで似ていると思ったものです。
性格は多少異なる──具体的に言うと、いわゆる『はわわ系天然』であるユウリさんと、元気でありながら真面目でしっかり者でもあるアオイさん──のですが、見た目や才能など、彼女たちには共通点が多いと思っていましたから。
……どこからか『お前が天然とか言うなんて世も末だな』などというあってはならぬ暴言が聞こえたような気がしますが……気のせいでしょう。
「なるほど。世界は狭いですね……とはいえ、良かったと言うべきでしょうか」
「? どうしてですか?」
「私はアオイさんをいずれWCSに連れて行こうと考えていまして。その際に、私以外にも知り合い……それも従姉妹が居るならば彼女も心強いのではないかと」
私がそう言うと、ユウリさんは嬉しそうでありながらも、確かな闘争心を宿した顔をして。
「へえ……アオイちゃんも私たちのようにWCSに出場できるトレーナーなんですか? 才能ある子だとは思っていましたが、そうですか……」
「ふふ、流石の反応です。とはいえ、彼女がWCSに出場するのは2年は先になると思いますが……ユウリさんのWCS決勝トーナメントにおける最年少進出記録を塗り替えるのはアオイさんになると私は思っています」
ユウリさんが15歳の時、彼女は初めて決勝トーナメント……8人しか進む事の出来ないそれに進出し、私たちの非常に狭い界隈を騒がせました。
次にその偉業を為すのは、他でもないアオイさんだと私は既に確信しています。
2年後、つまり彼女が12歳の時に初出場をし、更にそれから2年……14歳時に決勝トーナメントに進出するのだと。
そして、いずれは……
教師として、そしてWCS出場者の先輩として。
血が騒ぎますね。
「そうなんですね……ああ、いいなあ。よりアオイちゃんに会いたくなりました! 元から会うつもりでしたが、楽しみが増えて嬉しいです!!」
「ふふ、そうですか。私もお二人がよろしければユウリさんとアオイさんを引き合わせたいとは思っていましたから、良かったです。では、実はこういった計画が……」