パルデアにダブルバトルを普及させたい転生新米女教師の奮闘 作:オレモヌシ
『ダブルバトル学』
それが私の持つ科目であり、今から学生たちに教える内容です。
「今日は初めての受講者も居ることですし、基本のおさらいからしていきましょう」
──基本。
ダブルバトルの基本といえば、私には2つ思い付きます。
1つは守る関連の読み合い。
とはいえ、私個人としてはそれ以上に重要にして頂点とすら考えている話があります。
何より、アオイさんにとっての第一回目の授業でいきなり守るの話をして、よもや理解を諦めさせるわけにはいきませんから。
「まずは、ダブルバトルにおいて最も重要な要素の1つであるといえる、素早さとそれに付随する行動順関連のお話です」
行動順番。
それは、特にダブルバトルにおいてはあまりにも大切すぎる要素。
私はディスプレイを操作しながら、引き続き語ります。
「映像を使い、実際のバトルを想定しましょう。──私がサザンドラとヤミカラス。クラベル先生がボーマンダとラウドボーンを繰り出したとします。持ち物は無しを想定してください」
ディスプレイに表示されるポケモンたち。
絵を描かなくてもこうして即座にポケモンたちをわかりやすく映像として出せるのは技術の進歩様々といった所です。
「素早さ順は、ボーマンダ、サザンドラ、ヤミカラス、ラウドボーン」
「そのため普通に考えたら、まず最初に一番素早さの高いクラベル先生のボーマンダが私のサザンドラに手痛い一撃を加えようとしてくると思いますが……」
画面上のボーマンダがサザンドラに襲い掛かる様子はそれはもう素晴らしい迫力で。
ただ……
「ここで、特性いたずらごころを活用したヤミカラスのおいかぜ! ……風のサポートにより、私のサザンドラがボーマンダより速く技を相手に当てる事が出来るようになりました」
「サザンドラのりゅうせいぐん! 効果は抜群だ!! ……クラベル先生のボーマンダは倒れてしまいました」
これで行動順操作の重要性をわかりやすく示せたと満足しながら、私は続きを解説します。
「つまり、本来不利な相手であろうと、2匹の組み合わせと特性や技の活かし方次第でいくらでも逆転は可能」
「これが、ダブルバトルにおける基本にして頂点とすら言えるやり取り──行動順操作となります」
一瞬息を吸ってから、教室を見渡し……
「では、ここで私と目が合ったアオイさん」
「は、はい!」
緊張した様子を見せるアオイさん。
……申し訳ありません。
先程は当てる生徒を探したフリをしましたが、最初から貴女を指名するつもりしかありませんでした。私は汚い大人です。
──それはさておき。
「私がサザンドラの素早さをサポートをする為に繰り出した技は次のどれでしょうか?」
『A:こごえるかぜ B:おいかぜ C:トリックルーム』
提示された選択肢を見るや否や、アオイさんは
「Bのおいかぜ!」
「Exactly! 正解です。流石、良くお話を聞いていましたね」
よしよし。
千里の道も一歩から、です。
何よりアオイさんが興味を持って私の授業を受講してくれた事、そして話をきちんと聞いてくれた事がとても嬉しく思います。
「クラベル先生の取れる選択肢としては、ボーマンダにテラスタルを切る、交代する、守る──いずれにせよ、おいかぜを使うポケモンを見たら、普通に行動してはいけない。これはダブルバトルの鉄則となります。ちなみに、ヤミカラスが誰よりも早く技を打てたのは特性いたずらごころ故の話ですが、このようにして……」
「ね、ねえ。ネモ」
「なに? アオイ」
「これ、本当に基本なの……?」
「うん……エルリナ先生の授業は為になるけどすっごい難しいんだ……」
「そうだよね……何か授業を受けている生徒、やたら年齢が高い気がしたのはそういう……」
──そのようにして、私のありがたい授業によってアオイさんをダブルバトルの沼に嵌める作戦を進行する最中、オレンジアカデミーの一大イベントである『宝探し』の開幕が近づいて来ました。
生徒たちのみならず、テーブルシティ全体が何やら賑やかになっているのを感じます。
パルデア地方最大のイベントの開幕なわけですから当然の話であり、オモダカ理事長を始めとした運営の努力が現れた結果の話でもあります。
……宝探し、ね。
私もアオイさんと同年代の頃は──
なんていう大人になってしまった人間特有の過去の思い出に浸るという作業を私がする横で、クラベル校長先生が挨拶を行い、そしてお話の締めに入ります。
「それでは宝探し開始! ……いってらっしゃい!」
「「わ──!!」」
学生たちが一斉に動き始めました。
──本当に、良い物ですね。
若く、瑞々しい生徒たちの宝探し。
きっと、彼ら彼女らは個人個人それぞれの物語を経て一段と逞しくなるのでしょう。
それはともかく。
私はさっそくスマホロトムにてアオイさんと通話を図ります。
ロトロトロト……
『はい。アオイです、エルリナ先生』
『よかった、出てくださいましたか。……以前言った、特別課題──コライドンを持つアオイさんに最も相応しい課題である、秘伝スパイス集めについてです。覚えてくださっていますか?』
秘伝スパイス集め。
そのお話は今日に至るまでに既にアオイさんにしています。
『はい。秘伝スパイスを使ったサンドイッチを食べさせてコライドンをより元気にするため。また、先生の研究テーマの1つでもあるヌシポケモンの生態調査、環境への影響……様々な意味を持った課題ですよね?』
『はい。──以前言ったように、重要な課題といえど、決して強制はしません。アオイさん含め、学生は皆好きなように宝探しをすべきなのですから──こういう風に言えば心優しいアオイさんは秘伝スパイス集めをするだろうという大人の作戦というわけでもありませんよ。本当に、したくないならばそれで構わないのです』
『先生……』
これは、本当の話。
巨大すぎるヌシポケモンに恐怖し、秘伝スパイス集めをしない。
或いはただ面倒だからしない。
はたまた気分が乗らないからしない。
全然、構わないのです。
アオイさんは未だ麗若き少女。
そんなアオイさんに道を強制する教師など、以ての外ですから。
まあ導く者として、より良き方向と私が考える道を案内はします。
例えば、授業における宿題を急かすことはあるでしょう。
──ですが、ヌシポケモンとの相対のような事を強いる事は決してしない。
それこそがこのオレンジアカデミーに務める教師としての矜持と言えます。
いざという時は大人である私たちが出れば良いだけの話。
それに足るだけの実力はこの身に付けたと自負しています。
『──そしてこれまた前に言ったように、もしアオイさんの気が向いて秘伝スパイスやヌシポケモンを捜索するとなった際には、勿論私も協力致しますので、ご連絡の方をよろしくお願いしますね』
先程から言うように、私からアオイさんにした依頼は、秘伝スパイスの入手と付随するヌシポケモンの調査。
秘伝スパイスによるポケモンの強化と生態系の調査、秘伝スパイスはどのようにして出来ているのか、またその味はどんなものなのか──
私の研究テーマの1つなのですが、優先順位的に後回しにせざるを得なかった課題。
それを、この際アオイさんにやって頂けたら、という理由で依頼しました。
──つまり、いわゆるレジェンドルートにおけるペパーさんの代わりを私が務めるわけです。
ペパーさんは今エリアゼロにて博士のお手伝いをしています。
それもまた私が与えた特別課題であるため、ある程度の単位の代わりとなっています。
まあ、もちろん歴史を始めとした最低限の勉強はして頂きますが──それは学生である以上は当然の話。
ペパーさんのバトルの腕前は私がみっちり鍛えましたが故に、パラドックスポケモンへの対処は既に問題ないと判断したために彼に後を任せて今私はここにいるのです。
それはそうと──秘伝スパイス集め。そしてそれに付随するヌシポケモン戦。
それは、私とアオイさんのタッグにて行われるバトルになります。
つまり──ダブルバトルの触りを彼女に体験してもらえるという事。
アオイさんに直にダブルの魅力を教えられるという事。
私はこれでも1トレーナーである以上、私自身が才気溢れるアオイさんと組む事が楽しみで仕方ありません。
最早、一石何鳥かわからない……この世界風に言えば、一イシツブテ何ポッポかわからないような作戦。
強制ではないとはいえ、どうしても期待に胸を膨らませてしまいますね。