パルデアにダブルバトルを普及させたい転生新米女教師の奮闘 作:オレモヌシ
初の評価10を頂きました!
そのおかげで本来今日は投稿無理と思っていましたが頑張れました。
ありがとうございます。
「今日は、ダブルバトルにおいて極めて重要な技の一つ……『このゆびとまれ』についての授業となります。似た効果を持つ『怒りの粉』も同時に解説していきましょう」
シングルバトルでは何の意味も成さない技。
けれどダブルバトルにおいては強力無比な技。
所謂わからん殺しの筆頭とも言える技。
この2つの技を語らずしてダブルバトル学教師は名乗れません。
「効果自体は簡単ですね。相手のポケモンの技の標的を自分へと誘導する効果」
「もうお馴染みですが画面を使い、状況再現をしましょう。私がサザンドラとイッカネズミ、クラベル先生がボーマンダとニンフィアを繰り出したとします」
もうすっかりいつもの面子といった感じですね。
「あ、この前の……」
とはいえ今回は、いつもの面子に混じってイッカネズミが出てくるのにアオイさんが反応を示しました。
ふふ、覚えてくれていて先生は嬉しいです。
「主に強力なものの少々耐久性に欠けたエースポケモンを守るために使われたり、極めて強力な補助技であるトリックルームを安全に打つために使われたりします」
「この場合だと……まずはイッカネズミがこのゆびとまれを使う事でボーマンダのりゅうせいぐんを代わりに受けましたね。それによってサザンドラがボーマンダを倒す事に成功しました。その後、ニンフィアのムーンフォースをイッカネズミが受けて倒れました。これで、サザンドラが守るを消費せずに1対1交換が成立したというわけです」
イッカネズミが仕事を成した職人的な雰囲気を宿しながら倒れていきました。
「これは、相手が自身のポケモンに対してとんぼがえりや袋だたきを打ち込もうとした際にも有効となります」
「後に授業で扱う、所謂叩きコンボの妨害になるわけですね。まあ、叩き以外にも砕ける鎧や弱点保険の起動など色々あるわけですが……今日それを語ってしまっては頭がパンクしてしまうでしょうからまた後日」
サザンドラ達の代わりとして画面に出ているコノヨザルが、味方のイッカネズミが相手のモロバレルに吸い寄せられる姿を見て呆然としています。
「話を戻しますが、このゆびとまれの効果は以上となります。ただ、怒りの粉限定でもう一つ効果があります。それは、草タイプのポケモンには無効という効果」
ぼうじんゴーグルは……今はまあいいでしょう。
「怒りの粉は草タイプには効果を成さないが故に、ダブルバトルにおいては草テラスタルの重要性がシングルバトルよりも高くなるわけですね」
草テラスタルをしたソウブレイズがモロバレルの怒りの粉を無視してドドゲザンを倒す様子が映し出されています。
「その他にも、弱点はいくつかあります。まず、このゆびとまれは攻撃技ではなく、長く影響する補助技でもないため、相方が何らかのアドバンテージを生み出さない限りは2匹で普通に攻撃した方が良いという状況になる事」
「そして、範囲攻撃にも意味を成さない点ですね。ちょうど、ニンフィアがハイパーボイスでサザンドラ、イッカネズミ両方を倒してしまいました」
ドヤ顔をして勝ち誇るニンフィア。
可愛い。
「要は守ると同じですね。リスクリターンを考慮して尚、リターンを得られる状況で打てば非常に強力な技であり、逆に相手をする際はこのゆびとまれが有効でない状況を作り出すことが肝心という事です」
──では、ここからは暗記すべき事項についての解説に入りましょうか。
暗記というのは学習において最も苦しい作業の1つ。
その苦痛を如何にして低減してあげるかが教師の腕の見せ所です。
「パルデア地方でこのゆびとまれを覚えるポケモンは──イッカネズミ、イエッサンのメス、パチリス。どれも強力なサポート能力を持ったポケモンです。3匹全員暗記は必須となります」
「怒りの粉は、モロバレル、ウルガモス、リククラゲ、モルフォン、スコヴィラン、ワタッコ、ビビヨンとなります。非常に多いですが、絶対に記憶する必要があるのはモロバレルとウルガモス。他は初心者の内は頭の片隅に置いておけば大丈夫です」
他にもアラブルタケという強力なポケモンも居るのですが……それはおいおい、ね。
「つまり……最低限で済ませるならば5匹記憶すれば良いという事。そう考えれば、そこまで敷居が高いものでもないでしょう?」
まあ、これら5匹はこのゆびとまれや怒りの粉を使うだけでなく他サポート能力が優秀だったり、何なら普通に強かったりもするために、彼らが何をしてくるのかまで記憶しなければならないわけですが……いきなりそれを言って心を折るわけにはいけません。
まずは一つ一つ覚えていけばいいのです。
それは、シングルバトルにしても同じ事ですから。
「へえ……ダブルバトルだと草テラスタルがシングルバトルよりも強くなるんだね、ネモ」
「アオイもだいぶこの授業に慣れてきたみたいだね!」
「うん。実際、ちゃんと聞いてみるとかなり実戦的で凄く為になるって思う」
「そうそう! まあ、やっぱり難し過ぎて大変だけどね……」
「あはは……とりあえず後でノートを見返してちゃんと覚えなきゃ……」
教師として、私がすべき仕事は授業だけではありません。
日報、週報などの報告。
生徒の成績査定。
私自身の評価面談のための準備。
提出期限がオーバーしてしまった業務実施計画。
……etc
そしてダブルバトル学はパルデアにおいては私が先駆者として教鞭を執る科目である以上、様々な追加業務が発生します。
授業内容の精査。
教材選定。
他地方におけるダブルバトル学の研究。
プレゼン資料作成。
マニュアル作成。
……etc
担任するクラスを持たない私ですが、教師としてだけでもそれなりの業務量があります。
これに加えて、パラドックスポケモン関連他様々な研究、パルデア最強トレーナーとして他地方との交流やジムリーダー、四天王の訓練……所謂ワーカーホリックという奴ですね。
とはいえ、特に教職に関しては私が自ら望んで就いている職業であるため、どちらかと言えばワーク・エンゲージメントの方だとは思いますが。
実際、私がこの生活に対してやり甲斐や充実感をたっぷり感じているというのは見てわかる事でしょうし。
どちらにせよ。
私のやるべき事が多過ぎるというのはクラベル先生もわかってくださっている話なので、先程言った業務実施計画などは優先度が低い為に期限に目を瞑って貰ったりなどはしていますが……とはいえ永遠にやらないわけにもいかず。
そのため、私が職員室の机に齧り付いて業務をこなしていると……
『ピンポンパンポン』
『エルリナ先生、校長室にお越しください』
……私、また何かやらかしちゃいました?
心当たり、多すぎてどれかわからない……
提出物が流石に遅れすぎている件?
それとも少し前に四天王でもあるハッサク先生を訓練の為に公衆の面前でボコボコにしてしまった件?
移動の手間を惜しんで学校でバトルしたのは流石にまずかったですかね……?
なんて考えながらも校長室へと向かい。
「失礼します、校長先生」
「はい。お忙しい中お越しいただきありがとうございます、エルリナ先生」
挨拶を交わす私とクラベル校長先生。
そして……
「エルリナ先生、お久しぶりです」
年齢不詳の美しさにして、存在がもうミステリアスそのものと言える大人の女性っぷり。
つまり……オモダカ理事長がそこに居ました。
「り、理事長……? 私に用があるのは理事長という事ですか?」
「はい。先生がご壮健で何よりです」
一体どのような要件なのでしょうか……?
まさか、クビ?
いえ、流石にそれほどのやらかしをした記憶はないのですが……
私は内心ビクビクしながら理事長の話を聞きます。
「では、早速本題についてですが……」
(ゴクリ)
「最近、先生がとある1生徒と懇意にしているという話を耳にしまして」
「え? ああ、アオイさんの事ですか?」
ニコニコしながら語るオモダカ理事長。
あれ? お説教じゃない?
「はい。その通りです。──私もボウルジムでの彼女のジムバトルを見学させていただきましたが……素晴らしい以外の言葉はありません」
「なるほど……理事長もアオイさんに注目しましたか」
「はい。アオイさん……彼女の才能には目を見張る物があります。──まるで、かつてのエルリナ先生を見ているよう。先生がかつて、ネモさんは近いうちにチャンピオンになると言った件といい、相変わらず素晴らしい人を見る目といったところでしょうか?」
私を誉め殺してくるオモダカ理事長。
そのように褒めてくださるのは、それはもう大変嬉しいですが……少しだけ。
「それは少しだけ、違います」
「ほう?」
「アオイさんの才能は……かつての私以上です」
「! ……そこまで高い期待を彼女にかけているのですね」
オモダカ理事長が驚いた表情をしながらそう漏らします。
それまで何も言わずに話を聞いていた校長先生に至っては
「ええ!?」
という声を漏らすと同時に仰け反って驚きを表現していました。
そんな彼を横目に。
「はい。教師というのは生徒に超えられていく物……寂しい事ではありますが、嬉しい事でもあります」
「…………」
「無論、まだまだ私は彼女にとっての高い壁でありたいとは思っていますけれどね」
すると、理事長は少し考え込んでから。
「……ネモさんをエリアゼロに未だ連れていかない理由も、アオイさんの台頭を予期していた為と考えれば辻褄は合う……エルリナ先生が見ている世界はあまりにも高すぎて私如きには到底わからない事とはいえ、もう少し共有して頂いてもいいのですよ?」
え?
いえ、そのような深い考えがあっての事ではなく……単純に忙し過ぎて、ネモさんがダブルバトル学を履修し切っていない事を言い訳に後回しにして貰っていただけ……
「……はい。いつもありがとうございます、理事長」
なんて本音は言いません。
理事長が都合の良い風に勘違いしてくださっているなら、それは私にとって利でしかありませんから。
ああ、私は汚い大人になってしまったの……
「なるほど、アオイさんはエルリナ先生を含めたあの超越者達の中に入れる程の才能だと……」