パルデアにダブルバトルを普及させたい転生新米女教師の奮闘 作:オレモヌシ
「今日は、ねこだましについての解説をしていきます」
ねこだましは、シングルにおいても使われる事はあれど、ダブルバトルにおいてのそれとは価値や頻度がまるで異なる技。
言うならば、その点においてならば守ると近いでしょうか。
「効果は少し複雑です。場に出た直後にのみ使用可能であり、威力も低い攻撃技。しかし、打つ速度がでんこうせっか等の技を超えるほど非常に速く、更には一部の特性を持たない相手を必ず怯ませる事が出来る──という内容となっています」
これにより、地球においてかつてはカイリューの特性マルチスケイルよりせいしんりょくの方が優先される事すらあったりしたのですが、まあそれは一旦置いておきましょう。
「とはいえ、効果と違ってやる事自体はそこまで複雑ではない技です。しかし、ダブルバトルのねこだましに強い印象を持つ方はそれなりに多いと思うので、ここで解説しましょう」
「では、画面を見てください。私がサザンドラとオーロンゲ、クラベル先生がボーマンダとラウドボーンを繰り出したとします」
久々登場のラウドボーンと初登場のオーロンゲが心なしか張り切っているように見えますね。
「素早さ順は、ボーマンダ、サザンドラ、ラウドボーン、オーロンゲ。──つまり、いつもと同じですね。このままだとサザンドラがやられてしまうため、何らかの打開策が必要。今回はそれがねこだましという事です」
「先程言ったように、ねこだましは他の技より速く打つ事が可能です。要は速攻で不意をつくというわけですね。そのため、オーロンゲが誰より速くねこだましをボーマンダに打ち……ボーマンダが怯んでしまいました。そして、それを見逃さずにサザンドラがボーマンダを倒しましたね」
ボーマンダが突然のねこだましをされて
!?
とでも言いたげな表情をした次の瞬間にサザンドラに倒される姿が映し出されます。
「ねこだましはこのようにエースポケモンを守ったり、或いはトリックルームなどの強力な補助技を安全に打たせたりするために使われます。……要は、以前お話ししたこのゆびとまれと似た役割を持つという事です」
「しかし、その2つには違いが多々あります。それを説明していきましょう」
私はいつものように画面を弄りながら
「1つ目。ねこだましは相手の1匹の動きを止める技であるために、相手が2匹とも動かしてきた場合はこのゆびとまれよりも被害は少なくなる点」
これはねこだましの利点ですね。
大きな大きな利点ですが、これからは欠点について。
「2つ目。ねこだましは、相手に当てなければならない……つまり、相手がゴーストタイプだったりすると無意味だという事。更にはサイコフィールドにも無効にされる……要は役割は似ていても対策法が違う点」
イエッサンがねこだましをしようとするハリテヤマに自慢げな顔をしています。
可愛い。
きもったまは……今はいいでしょう。
パルデアダブルでは考えなくていい話ですから。
「3つ目。技の効果でもありますが、ねこだましは場に出た直後にしか使えない点です。その為、開始直後は両方守るなどで防げたりすらしてしまいます」
場に出た直後、ボーマンダとラウドボーンが両方守り、その後あっさりサザンドラを倒す様子が映し出されています。
「これらメリットデメリットを考慮した上で、どの技を活用するかを考える……ポケモンバトルの醍醐味ですね。この点に関して言えば、シングルバトルもそうでしょう」
ここで、私は一息ついてから。
「ねこだましを覚えるポケモンは沢山います。これからそれらのポケモンを読み上げますが、それは聞き流して大丈夫です。その後、覚えるべきポケモンの事を教えますので」
教師として一応は羅列しておかなくてはなりませんが、それで理解を放棄されるわけにもいきませんから。
「では。パルデア地方において、ねこだましを覚えるポケモンは……オーロンゲ、ヤミラミ、ハリテヤマ、パーモット、デカヌチャン、ゴチルゼル、ペルシアン、ガラルニャース、ニャイキング、ライチュウ、マニューラ、チャーレム、デリバード、ドクロッグ、エンニュート、イエッサン……非常に多いです」
とはいえ、重要なのはここから。
「ですが、記憶しておく必要があるのはオーロンゲ、ヤミラミ。出来ればハリテヤマ、パーモット、デカヌチャン、ゴチルゼル。それ以外は頭の片隅に置いておけば大丈夫です」
「ですので、最低限で留めるならば2匹のみ。そして、オーロンゲとヤミラミに関しては、そもそもが特性いたずらごころのせいで、ねこだまし抜きにしても記憶が必須のポケモン……こう考えたら、敷居は低いでしょう?」
まあパラドックスポケモンの中には、テツノカイナというねこだましを覚えるインチキポケモンも居るのですが……今はまだ、ね。
「ここで、気付いた方もいるかもしれませんが……そう。ねこだましは強い技ではあるものの、ポケモンのパワーをそれ程までに向上させるような技ではない、という事です」
実際、そのために地球におけるパルデアダブルでは、ガルーラやガオガエン、果てはドー※禁則事項です などが居る他地方のダブルバトルと比較してねこだましの数は極めて少ないものでした。
……何か聞こえた気がする? 気のせいです。
「オーロンゲ、ヤミラミは別にねこだましが無かったとしても強いですからね。技スペースの関係上、覚えさせない事もあります。この2匹にとって、ねこだましは+αとして考えるもの」
「つまり、ねこだましはあくまで択として持っているのが強い技。基礎能力を補ってくれる技というわけではないのです。それはこのゆびとまれや怒りの粉も似た話ですね」
仮にねこだましが強くても、それしかしてこない、或いは出来ないならばそれは弱いという話。
例えば、このゆびとまれを使うパチリスも、それは蓄電と、特化させればそれなりに高い耐久と、威力を気にしないでいい各種補助技があってようやく成立すると言えばわかりやすいでしょうか?
パチリスはそれら込みですら使用率はそこまでではないものとなっています。
そして、怒りの粉はこのゆびとまれの下位互換技でありながら、モロバレルは……つまりそういう事です。
まあ個人的にこのゆびとまれは、どうあっても1匹しか止められない上に場に出た直後しか使えず、様々な防御方法を割と簡単に用意できるねこだましより強いと評価していますが、それは好みの範疇でしょう。
「出来る事が非常に多いダブルバトルにおいては、汎用性が重要……それを理解してパーティを組んでみると、更に上の段階へと進む事が出来るようになりますので、是非ご一考を」
正直、ねこだましに関してはテツノカイナやガオガエン辺りが出てきてからが本番の話。
先程言ったように今のパルデアにおけるダブルバトルでは、他より優先度は下がる話です。
そのために、ねこだましを釣りにしたとんぼ返り等でいかくやねこだましを復活させて……みたいな深い話はしませんでした。
とはいえ、シングル勢がダブルバトルに対して強くイメージする技の1つでしょうから、早めに解説を行った……要はそういう事です。
「1つの技や戦略だけではなく全体を考慮しないといけない、か……ますますレベルが高くなってきたね、ネモ」
「そうだね……私も付いていけるように頑張って勉強しなくちゃ」
「チャンピオンのネモでもそうなるんだ?」
「うん。エルリナ先生の授業を受けてると、私もまだまだだなって思うよ」
「……じゃあ、先生の本気ってどれくらい凄いんだろ……? 」
潜鋼のヌシことミミズズ。
地面を掘り、長距離を逃げ出すヌシポケモンであるため、追い詰める為には何らかの移動手段が必須であり、そういう意味においてはかなり難易度の高いヌシポケモン。
しかしコライドンを持つアオイさんからすれば、それは容易な話でしかなく。
「ウインディ、ほのおのキバ!」
「ミ……ズ……」
戦う力を失ったミミズズに私はいつも通りリピートボールを投げ、捕獲しました。
そうして洞窟に入り、秘伝スパイスを発見。
私がサンドイッチを作り、振る舞う──といういつもの流れの中、アオイさんに講評を行います。
「ミミズズにはどしょくの特性があるため、地面タイプのポケモンや技ではなくウィンディを使った……見事です。幾度と無く言う話ではありますが、アオイさんは本当にきちんと勉強しているようですね」
「ありがとうございます。 ……あの、先生」
称賛への感謝を述べた後、何やらもじもじするアオイさん。
……どうしたのでしょうか?
その姿はいつまでも眺めていたいくらいに可愛らしいですが、教師として先を促さなければ。
「はい。どうかしましたか?」
「今日は私から質問してもいいですか?」
「ふふ。今日と言わず、いつでも質問は歓迎しますよ」
……考えてみると、アオイさんから私に質問が来るのは初めてですね。
私が何か言い、それに対する疑問を口に出すというのは何度もありましたが、会話の起点として質問されたのはこれが初の事。
彼女は1度聞いただけでスポンジのように吸収してくださるため、いつもつい楽しくなってしまい、教えるばかりとなっていた事に今気づきました。
これは大変反省しなければ。
──それはさておき。
アオイさんは
「ありがとうございます。……あの、先生ってパルデア最強のトレーナーなんですよね?」
「はい。不遜な言い回しにはなりますが、それは間違いのない事実です」
「あの、失礼な質問になるかもしれませんが……先生の本気って、どれくらい凄いんですか? ……えっと、色々な人に言われてて! 私はまるで、かつての先生を見ているようだとか……!」
やっぱり失礼だったかと慌てふためくアオイさん。
……純粋で善良な子供とは本当に素晴らしいものですね。
彼女たちのこういった可愛らしい姿を見ていると思わず笑顔になってしまいます。
そんな細かい事、気にしなくともわかっているというのに。
とはいえ、やはりいつまでも眺めているわけにもいかないので。
「ふふ、大丈夫ですよ。アオイさんに他意がない事くらい承知済みです。何せ私は貴女の先生ですから」
「え、あ、ありがとうございます」
私はアオイさんに微笑みかけながら。
「とはいえ、肝心の質問への回答についてですが……そうですね。申し訳ありませんが今のパルデアにおいてそれを見せるのは少々難しい、となってしまいますね」
「え? どうしてですか?」
当然の疑問を呈するアオイさん。
「見せたくない』
などではなく
『今のパルデアでは見せられない』
ですから。
しかし
「力を見せるには、相応の好敵手が必要となります。──決して皆さんを侮るわけではありませんが、私が本気を出す必要のある相手は今のパルデアには存在しませんから」
そう言い切る私を見てアオイさんは少々戦慄したような表情を浮かべています。
普通はこういう場合、大人というものは少しくらい謙遜するものでしょうからね。
とはいえ、私の自信や発言には勿論理由があるのですが。
「……超越者……」
「?」
「前、オモダカ理事長が言っていました。先生は超越者で、他の人たちとはそもそも居るステージが違うって……」
居るステージ、ですか。
……ネーミングセンスはともかく、理事長はもうその話を?
それはせめてアオイさんがチャンピオンになってからの話だと考えていたのですが。
「……まだ、その話は早いと思っていたのですが……まあ気になりますよね。ではアオイさんが次のヌシポケモンを攻略したら、少しだけお話しをしましょうか」
「わかりました。……答え難かったですよね。ありがとうございます」
「いえいえ。遠慮せず、これからもどんどん質問していただけると私も嬉しいです。それに、繰り返しにはなりますが……」
「ヌシポケモン攻略は義務や強制ではない、ですよね? ふふ、ありがとうございます」
……これは一本取られましたね。
学生たちは私の見ている場所、見ていない場所において様々な経験をし、成長していくもの。
ああ、本当に──いいものですね。
教師というものは。
あの絵描きポケモンに対して恐怖を抱くのもダブルの醍醐味……かもしれない。
例の技は弱くなりましたけど。