パルデアにダブルバトルを普及させたい転生新米女教師の奮闘 作:オレモヌシ
「今日は、持ち物についての授業をします。……説明すべき事項があまりにも多すぎる為、実戦的な話を中心にできる限り簡略化します。どうか諦めずに着いて来てくださいね」
いきなり持ち物について全てを詳細に語ってしまっては心が折れてしまうでしょうからね。
私はクラベル先生のように、生徒に寄り添う良い先生なのです。
「まずは、ぼうじんゴーグルについて」
「ぼうじんゴーグルは、砂嵐による天候ダメージと、粉を出す技や特性の効果を無効にすることができます。主にきのこのほうし、怒りの粉を無効化するために持たせます」
「主に持たせるポケモンはウィンディやイエッサン。あとはパチリスなどにもいいですね。要は、モロバレルを厚く見たいと思った場合にサポートポケモンに持たせたいアイテムとなります。ウルガモスの怒りの粉対策にもなりますね」
モロバレルがゴーグルを付けたイエッサンにきのこのほうしを振り撒いていますが、イエッサンに嘲笑われています。
悪い子で可愛い。
露骨にバレルをメタった持ち物ですが、まあこれだけであのスペックを持つポケモンが撲滅されるわけもなく。
「次に、おんみつマント」
「おんみつマントは、相手の技の追加効果を受けなくなる効果を持ちます。どの技に有効かそうではないかは複雑すぎるためここでは置いておくとして──ダブルバトルにおいてはねこだまし、ほっぺすりすり、いわなだれ、バークアウトなどを防ぐために使われます。ねこだましを防ぎたいサポートポケモンや単体ヘイラッシャなどに持たせる事が多いですね」
強力な効果とはいえ、地球においてまだテツノカイナが参戦していないパルデアダブルにおいては、少々優先度は下がるものだったのですが……
今後授業で扱う予定ですが、ゲームとは違った現実世界のダブルバトルにおいて、バンギラスというポケモンが実質的にものすごい強化を受けている事によって話が変わって来ます。同様に、ぼうじんゴーグルの価値も上がりますね。
個人的にゲームとの最大の違いと考えている話に繋がってくるため、またの機会に詳しく解説するつもりです。
「クリアチャーム。持たせると相手の技や特性で能力を下げられなくなります。パルデアダブルにおいてはガブリアスがほとんどですが、単体ヘイラッシャなどに持たせることも有効でしょう」
「これを持たせたガブリアスは殆どの状況下にて一定の活躍が見込める強力なポケモンのため、かなりおすすめ度は高いです」
他のポケモンに持たせる事もあるとはいえ、ほぼガブリアス専用機のような物。
そして、パルデアダブルでのガブリアスは大体クリアチャーム、いのちのたま、とつげきチョッキの3択……というのは既知の事実。
それでも強いのだから素晴らしい。
「……と、ここまで聞いていて大体察したかもしれませんが、持ち物に関しては普段以上に暗記の要素が強いです」
この持ち物はこんな効果で、どのポケモンが良く持っていて、何をするために使うのか……流れで記憶できるコンボなどよりも暗記が求められる話です。
「辛い話ですよね。ですが、より優れたポケモントレーナーとなるには、実戦だけでなくこうした理論をしっかり学び、時には暗記をちゃんとする必要があるのです」
「特にダブルバトルにおいては、シングルバトルよりも理論が実戦に結びつきやすいと私は考えています。何故なら、ポケモンの数が単純に倍になるために、全てを見てからゆっくりと判断する事は不可能。そのためアドリブよりも事前に状況に応じた解答を用意して即座に指示をする事の重要性が高まるからです」
私は一瞬、目を閉じてから。
「……そうですね。厳しい言葉となりますが、はっきりと言います」
「今より強くなりたいのであれば、自分は感覚派だというような言い訳をして学びから逃げてはなりません。少なくとも私は、自らを実戦派などと称する知識の欠けたトレーナーに敗北する事はないでしょう」
教室を見渡すと、驚いた顔をする生徒だらけですね。
それもそのはず。
私は普段、こんな風に少々厳しい事は全く言いませんから。
とはいえ、それでもこれは言わなくてはならない話です。
ポケモンのため、そして何より生徒たち自身のために。
「ですが、ここまで着いて来てくださった皆さんには、真摯に向き合う姿勢は既に出来ています。自分ではその自覚はまだ無いかもしれませんが……私は、皆さんならば大丈夫と信じていますよ」
私のダブルバトル学が他の授業より少し、そうほんの少しだけ難易度が高い事は私自身理解しているつもりです。
それなのに、ここまで着いて来てくれた皆さんならば……きっと大丈夫でしょう。
「では、持ち物の解説に戻ります。こだわりスカーフについては解説すべき点が多すぎるためにまたの機会として、とつげきチョッキは……」
「強くなりないなら勉強から逃げたらいけない……頑張ろうね、ネモ」
「そうだね! 1人だと大変かもだけど……一緒に勉強すれば大丈夫!」
「うん! ……あの優しすぎる先生が初めてちょっとだけ厳しい事を言ったのにはびっくりしたけど……私たちのためだもんね」
「じゃあ、ノートを見返そうか! えーっと、対戦中に効果がある持ち物は、きのみだけでも50種類くらいあって、でもそれは分類出来るから、全部は覚えなくてもこうすれば……」
「……私も頑張ろっと」
チャンプルタウン。
パルデア地方において中央上部にある町であり、宝探しにてここに着いたという事は、旅にもそれなりに慣れたという事を意味する町。
そこにある食堂──
宝食堂にて、私はジムリーダー兼四天王のアオキさんと一緒に食事を取っていました。
事前に約束していたわけではなく、私と彼と食事の時間が被ったのは単なる偶然です。とはいえ、私たちは普通に知り合いであるために隣の席にて食事を共にしているわけです。
……やはり美味しいですね、この焼きおにぎり。
それにこの……
「……ねえ、あんたたち」
「はい。どうしましたか?」
食事に没頭していた所、食堂の女将さんに話しかけられたために箸を止めました。
「……見ていて思ったんだけどさ、あんたたちって仲が悪いのかい?」
「……? 私はそんなつもりはないのですが……アオキさんはどうですか?」
「自分もです。……女将はなぜそのように?」
2人して疑問符を浮かべる私たちに対し、女将さんは
「いや、さっきから2人とも一言も喋らずにずーっと黙って食べてるじゃないかい。特に嬢ちゃんは、この前ナンジャモちゃんの配信だともう少し喋ってたろ?」
ナンジャモさんのリスナーなんですね、女将さん。
……それにしても、なるほど。
確かに私たちが席についてから一言も会話をしていない事は事実。
とはいえ、当然険悪な関係などでもありません。
それをどう説明したものか。
女将さんのこの発言は、何も悪気があっての事ではなく、本気で私たちの……いえアオキさんの事を心配するが故の物だとわかる分、少々説明が難しいですね。
ではこうしましょうか。
「そうですね。では少し、料理人で譬え話をしましょうか」
「譬え話? 何を話すんだい?」
「まあまあ。とりあえずエルリナさんの話を聞きましょう」
怪訝な声で質問してくる、速戦即決を尊ぶ職人気質の女将さんを宥めるアオキさん。
こういった場を合わせる能力は長い社会人経験ゆえのものでしょう。
経験によって得られるスキル、というやつですね。
そして、私は話を開始しました。
「女将さんの前に、2人の料理人がいるとします」
「片方は、今絶賛成長中の若い料理人。料理が大好きで、より上手になりたいという欲を持ち、女将さんに懐いて積極的に教えを求めて来ます」
私の頭の中に、コイルの髪飾りを付けた料理人が浮かびました。
普段他人に『氏』と付けて呼ぶ彼女が私を『エルさん』と慕ってくる姿が本当に可愛らしいです。
「もう片方は、女将さんより料理人歴の長いベテラン料理人。パルデア最高の料理人である女将さんには及ばないとはいえ、それでも大体の人間より料理が上手」
次はサラリーマン風の料理人。
いつも大変そうにしていますね。
「ですが、彼は特に料理が好きというわけではありません。料理の才能があり、向いていたからやっている……つまりは仕事として割り切っているわけです」
「そして、彼はもう自分はこれ以上料理が上手くなる必要は特にないと思っていますし、実際に店を運営するには何一つ問題ない腕前をしています」
そこで、一瞬間を開けてから。
「女将さんは、両者にどのような対応をするでしょうか? ……少なくとも、違った接し方にはなりますよね?」
「前者の料理人はそれはもう可愛いでしょう。自分の技術を教えて、彼女が成長する姿を見るのは楽しくて仕方ない……と私なら思います」
それはもう。
思わず必要以上の事まで教えてしまいたくなる可愛さです。
「とはいえ後者の料理人の事を邪険に扱ったり、ともすれば嫌いになったりするでしょうか? そうはなりませんよね? 何せ、仕事をする分には別に何の問題も無いのですから」
やる気に満ち溢れる事は素晴らしい事です。
とはいえ、それを強要するのは領分を逸脱している事。
「後者の料理人は、仕事仲間……仮に彼が自分の身内だったとしたならば、貴方の実力はそんな物では無いなどと発破をかけるかもしれませんが、そうでないならば特に何も言わないでしょう」
つまり、私は現状維持を望む人間にまで何かを言うつもりはありません。
それに何より、今に満足する事は別に悪いというわけでもないのです。
全員が不断の努力をし続けるような社会になってしまったら……それは息苦しい世界でしょう。
だから私は生徒たちやナンジャモさんたちとは違い、アオキさんに対しては特に何も言わないのです。
「つまるところ、事前にわざわざ約束をして食事を共にしたりはしないものの、たまたま食事の場所と時間が被った場合は相席しても特に問題ない関係……というような感じ」
だいぶわかりやすくまとめられたのではないでしょうか?
譬え話というものはお硬い学問においては使うべきではないものですが、こうして学問的ではない事象を理解してもらうために使うものとしては便利なもの。
私も教師として板についてきたのでは? と内心で自画自賛しながら。
「私とアオキさん、ついでにナンジャモさんの関係性とはそのようなものなのです。決して私たちの仲が悪いというわけではありませんよ」
アオキさんの方を見ると、彼はうんうんと頷いています。
そんな私たちを見た女将さんは。
「なんていうか……嬢ちゃんも、すっかり大人になったんだねえ……」
良くも悪くも、ですね。
だからこそ、教師を楽しめているという面もありますから、私は良い面の方が上と認識していますが。
そうして、私たちは食事を再開し……
「では、自分もエルリナさんも食べ終えましたし、腹ごなしを兼ねて仕事をこなしてしまいましょうか」
「はい。よろしくお願いします、アオキさん」
このようにして、今から私は普段通りにアオキさんとバトルをし、そして理事長にこう報告するのでしょう。
『特段成長しているわけではないが、実力が低下しているわけでもない。そのためジムリーダー及び四天王の業務を引き続きこなすことに問題はないだろう』
と。