TS娘の俺が戦隊モノのピンクをやっているのは、どう考えてもおかしい 作:戦隊モノエアプ
「負けちゃいましたぁ〜……」
朧に見逃してもらった我々は、情けなくも満身創痍で拠点へと帰って来ていた。駆けつけた救急部隊の人々と、辛うじて意識を保っていた私とで皆を運び込む。気を失っていた四人を心配に思いつつも、何も出来ない自分の無力感で歯痒かった。
それでも、そんな想いは杞憂に終わることとなる。
さすが、戦隊の器といったところだろうか。彼らは、あの壮烈な戦いから時計の長針が一周する前に起き上がったのである。
しかし、目覚めた彼らは、『知らない天井だ』なんて使い古されたパロディを言っている暇もなく、自身が医務室で寝ていたことの意味を理解したのだった。——とどのつまり、自分達の敗北を知ったのだ。
朧の言っていた通りになってしまった。敗北の苦汁をこれでもかと、がぶ飲みさせられる。これが確実に命まで刈り取られていたら、どうなっていたのか。私達は“見逃された„のだ。取るに足らない存在として、道端の蟻の数匹同然と見做されて。
それが、どれだけの悔しさを生んだのか。レッドくんなんて掛け布団を握って静かに悔し涙を流していた程だった。
それは他も変わらない。皆、何処か呆然とした様子であったのだ。
私は、というと……。何だかふわふわとした感覚の中にいるようだった。何をするでもない、ただ負けたという事実が周り、朧という存在の謎が巡る。
本当なら、皆のケアにでも入るべきなのだ。それでも、躰は想いに着いてきていなかった。
「はいはい、皆ぁ……くよくよするのは、おしまいですわよ。生きてるだけで上出来、生かされたなら無問題」
空気の読めないヨチヨチ歩きの博士が、声を上げる。下を向いたり、黙り込んでいた皆は、博士の言葉によって前を向くしかなかった。
「まぁ、話は聞かせてもらったよ。いやぁ〜、負けちゃったね。でも、下を向いてはいられない」
イカれた赤子に慰められて、誰が勇気が湧いてこようか。博士の言葉も一理あるが、それでも私達は命拾いしただけの存在なのだ。誰か、もしくは全員欠けていてもおかしくなかった。すぐに立ち直るなんて出来っこない。
「——それとも、戦うのが怖くなっちゃったかい?」
表情なんて変わっていないのに、私達に挑発的な笑みを浮かべているのがわかる声音だった。
こんな安い挑発に誰が乗るものか、と思ったのだが……。
「そんなわけねェ!!」
闘志をギラギラと輝かせるコウガくんが、拳を掌に打ち付けて答えた。
それに続くように、連鎖するように、火が燃え移るように、赤い炎が声を張る。
「あぁ、そうだ。今日は負けた。それでも俺達は五人で、今此処にいる。それなら何度だって立ち上がれる。——次は絶対負けないと、リベンジ精神が燃え上がる」
レッドくんの火は消えていなかった。
彼が諦めていないというだけで、皆に伝染するように、火は灯っていく。
「……そう、だな。次は勝つ。敗北なんてものは勝利の前に必ず有るモノの筈だ。この道は絶望には繋がっていない。私がそうはさせない」
千輝先輩は、先程までの落ち込みようが嘘だったかのように好戦的な笑みを浮かべる。さすが姉弟。レッドニズムはチギラニズムの遺伝によるもののようだ。
「はぁ……、誰一人として明確にゃビジョンを提示してにゃいんですけど……」
根性論や、感情論、精神論といった類いが嫌いなネコは、呆れたように物を言う。
それでも彼女だって、彼らを心から馬鹿にして蔑んでいるわけではないのだ。ネコだって、この敗北に悔しさを覚えているのは同じ。その証拠に、瞳の奥に滾る想いを見たのだった。
「みんな想いは同じってわけか……。うん、次は負けない。私達“五人で„朧を倒そう。」
最後は私。皆が決意を固める中で、だんまり決め込むわけにはいかない。私が言うと、他の四人は頷いてくれた。
今日は個人こじんで戦闘してしまったのがいけなかったのだ。戦隊なら戦隊らしく、合体でも何でもするべきだった。ちなみに卑猥な意味ではない。
「そのためには——。」と博士に視線を移す。私に期待されていることを察したのか、小さな口が開いた。
「みんな漸く一致団結できるというとこかな。私抜きなんて寂しいじゃないか。」
初めから入る余地ないだろう、というのは冗談だ。彼?彼女?だって、私達を支えてくれている一人。技術関連は全て博士のお手製なのだから、博士と此処で親交を深めておくのも、これからの戦いの鍵だろう。
「まぁ、仕方ないよね。腹を割って話そうってのに、こんな姿なんだから。それなら、この仮初の姿でいるのは不義理になるか……。」
皆、心底驚いたような顔をする。私は、仮初の姿だということは気づいていたのだが、四人はそうではなかったらしい。
いや、気づけよ。最近なんて、話し掛けても一向に返答が返ってこない時だってあったぞ。この赤子はスピーカー、または玩具程度の存在で、本物が何処かに身を潜めているということだ。
それこそ、博士の言う『不義理』だ。早く出てきなさい。
「——私も“真の姿„を御披露目しよう」
何事か、決めポーズをした博士は、次の瞬間ぼふん、と音を立てて爆発する。さすがに私も驚いて、爆発によって生じた煙の中で目を凝らした。
人影だった。先まで目の前にいた五十センチ程度の赤子よりも、明らかに大きい人影。百八十は有ろうかというその身長に、トレードマークの白衣は欠かさない。
「ほっーほっほ、これがワシの真の姿。今まで騙すようなことして済まんかったな」
頂点の禿げた頭に、両サイドからワシワシと生えた白髪。口元から顎にかけた、モサモサの髭。どういうわけか瞳の見えない小さな丸眼鏡。そして、頭の上には生意気にもアホ毛が騒めいている。
何処にでもいそうな博士の容姿が其処にはあった。
「はぁ……、何やってるんですか」
得意気に笑うテンプレ博士に、頭を抱える柚乃さん。この人本当苦労人だな、などと傍観する。
あぁ、私も彼女を困らせた一人だったわ。
***
あの後、私とネコ以外の三人は真の姿だというテンプレート博士を受け入れ、これからは全員野球宜しく、全員戦隊活動でいこうという方針に固まった。
そして、翌日。
怪人が現れない限りは、今日は休養日にするということで、碌に怪我もしていない私は暇を持て余していたのだった。
何をするでもなく、街中をぶらりぶらりとする。本屋に入って、青木まりこ現象がどうのと力説する客を傍目に見たり、ゲームセンターに入っては運試しに確率機をやってみたりした。
しかし、一人では暇である。
何か面白いことでもないかな、なんて呑気に道を歩いていると、見慣れた後ろ姿が右往左往していた。
「何やってんのさ……“朧„」
まさか、街中に彼女がいるなんて。白昼堂々出歩いている彼女に、昨日は敵として戦ったというのに声を掛けた。
本来ならば、すぐにでも博士に連絡すべきだろう。けれど、今日の彼女は昨夜の強戦士という印象からは打って変わって弱々しい。此方が素なのか、私は気になってならなかった。
「む。……なんだ、モモか」
市中だというのに厨二病丸出しの格好をした朧に、誰も歩み寄らなかったらしい。私が話し掛けると、彼女は救われたような顔をした。
「一応訊くけど、朧困ってる?」
「わ、私は困ってなどいないッ!!」
「あっそ。じゃあ私行くから……」
慌てふためき、誤魔化した朧に、それならいいやと意地悪をして立ち去る私。
「ま、待ってくれッ!!」
昨夜の戦士が嘘のように困り眉をして縋ってくる。悪かった、悪かったと此方が宥めると、安心したように「それなら、それでいいのだ……」などと言っていた。
「で、どうしたんですか?」
今の朧と話していては、いつまでも本題に入れそうにないので、会話のペースは此方が握る。
なんともやりづらさを感じるのだった。
「じ、実はな……ぱちんこ?なる玉を打ったり、流したりすることで気持ち良くなり、金銭も得られるなどという夢のような遊戯があると聞いたのだ」
はい、アウト。
気持ち良くなるってなんだよ、脳汁出してんじゃないよ。夢のような遊戯なんてもんじゃないよ。そんなに金が欲しいならパパ活でもしてろ。いや、怪人がパパ活なんて真似するな。
「言い方に語弊がありますね……。そもそも、朧さん何歳なんですか?」
怪人に年齢などという概念があるのかは知らないし、彼女の容貌なら立ち入りを拒まれたりはしないだろう。しかし、人の街にいるのなら、人のルールを守ってもらわなければ困る。
まぁ、怪人なら人のルールくらいぶった斬ってほしいものだが……。
年齢を尋ねられた朧は、両の手の指を使って数え始める。まずそこからなのか。
「多分、十八だ」
「それって、高校三年生なんですか?それとも今年十九?」
「高校など行ってないッ!自慢ではないが中学も碌に出ていないッ!!」
えぇ……、と私はドン引きした。怪人が学校に通っているというのも可笑しな話だ。しかしながら、朧の容姿であれば人に溶け込んで生きていけるだろう。
いや、通う必要なんて無いか。
そもそも、彼女は私より歳上らしい。つまりは、私よりも早くから存在しているということだ。怪人の秘密此処に有り。少しだけ有用な情報を聞き出すことが出来たのだった。
「じゃあ、パチンコには行けないかな」
「そうなのか!?」
「賭博は二十歳になってからにしましょうね」
子供のようにしょんぼりとする朧を、優しく諭す。
彼女一人であれば十中八九、パチンコ店を追い出されたりはしないが、今の彼女を一人で野に放つというのも気が引けた。
なんで私、敵の心配なんてしているのだろう。昨日は『打倒、朧・
「じゃあ、パチンコじゃないけど、スロットでも打ちに行く……?」
「それは楽しいのか?」
「それなり、かな……。お金が出るわけじゃないから、お気に召すかはわかんないけど」
では、行こう。とばかりに朧を先導し、目的地へと向かったのだった。
***
「むっ、遊郭か……」
なんで変な事ばかり知っているんだ、この人は。
辿り着いたのはゲームセンター。アーケード街のゲームセンターとか、街中のゲームセンターとかではなく、ショッピングセンターのゲームセンターだった。
ファミリー層でも立ち寄りやすく、可愛い縫いぐるみや、お徳用のお菓子などがクレーンゲームの景品となっている。
その中の一角、メダルコーナーが目的地だ。更にメダルコーナーの端に追いやられ、並んだ筐体に彼女を促した。
「此処でなら、合法で打てるから」
ニヤリと不敵な笑みで、さも彼女を沼にでも落とすかのように微笑んだ。
正直言うと、四号機だの五号機だの、ジャグラーだの、北斗だの。打ったこともないので知りもしないが、『そういえば……』と思い出したので連れてきてみた。
私も、ど素人なのでお金を入れて、ボタンを押すくらいのことしか知らない。
「幾ら持ってるの?」
とりあえず、所持金を訊く。
「三百円だ。」
「三百円!?」
三百円だった。朧さんの所持金三百円だった。さすがに十八になる女の懐事情としては寂しすぎる。敵のボスは何をやっているのか。
「どのみち三百円じゃあ、パチンコは出来なかったかな」
「む、そうなのか……!?」
小学生のオヤツ代じゃないんだから、三百円で何ができようか。敵ながら哀れ。
「三百円しか貰ってないの……?」
「あぁ、“アイツ„は日に三百円くれるんだ」
一度に高額、というわけではないが、割と貰ってはいるようだ。確かに、この人に一気に渡せば、すぐに散財してしまうような気がした。
朧さん、敵からも扱いに困られているのではないだろうか。
「まぁ、これは三百円でいけるから。増やせるかどうかは貴女次第だけどね」
とりあえず、硬貨投入口にお金を入れさせる。お金が入ったことで動き出したスロットに驚いている。回るリールを、動物のように目で追う彼女に、ボタンを押すことを教えた。
「は?すご。」
次から次へと揃えていく朧。もはや滑りだとか、そういうものが機能していないように思う。
我々を下した強者は、こんな事をやらせてもすごいらしい。
私は、増えていくメダルに恐れ慄く。こういう人が、メダルを分けてくれる、真昼間からゲームセンターにいる大人に、将来なるのだろうと何となく察した。
それからというもの、朧の嵌りようは異常だった。暇になった私は、プッシャー式のメダルゲームで遊んでいたのだが、私のメダルが尽きてなお、彼女はのめりこむように遊んでいた。
「あのさ、今日はもう預けて帰ろうよ……」
こりゃ堪らんと音を上げた私は、朧を強引に止めさせ、二人で帰路についた。
なんで私が休日まで使って、敵の……それも散々ボコボコにしてくれた相手のお守りをしなければならないのか。
嘆いたものの、『案外敵にも理由があるのかも』なんて思えた日だったのでした。
なんだこいつら!?
これは千輝烈斗、レッドくんの絵です。見なくてもいいです。
【挿絵表示】
そして、アンケートご協力いただきありがとうございました。割とサクラが人気あるようでビックリするなどしました。
と、いうことで1位だったモモちゃんでアンケート感謝絵も描いてみました。久しぶりにまともに色塗ったなって感じです。見なくてもいいです。
【挿絵表示】
推しキャラは?
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鏑木 モモ(主人公)
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黒澤 音恋(ネコ)
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千輝 青葉(アオハちゃん)
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千輝 烈斗(レッドくん)
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金剛 黄雅(コウガくん)
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鏑木 サクラ(妹)
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博士
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真島 柚乃
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ドゥンケルハイト・オプスキュリテちゃん
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その他(草場菜乃花、ネコ母等)