TS娘の俺が戦隊モノのピンクをやっているのは、どう考えてもおかしい 作:戦隊モノエアプ
朝の陽光は鬱陶しい程に瞼に突き刺さり、私の快眠を害した。
「……うむぅ〜ん」
しょぼしょぼの瞳を半開きに、ゆっくりと意識を覚醒していく。何だか顔の付近を弄られている不快感からか、眉を顰めてしまう。
私の部屋に入ってくる人物は限られている。
「……にぇこ、にゃにやってんにょ」
寝起きのために、声はか細く、舌が回らない。辛うじて発せた声で、彼女に問い掛けた。
「にゃは♡モモちゃん、やっと起きた♡」
人の頬を突き、愉快そうに顔を緩ませる親友———
今現在の私は、ネコ以外には決して見せられないような顔をしている。このような姿を晒すのも、彼女が気の置ける相手だからだ。
「今何時……? まだ寝てていい……?」
女の子になってから、朝の準備が増したということは身を持って
朝は苦手だ。
ネコが起こしに来てくれなければ、ずっと眠りこけてしまう自信があった。今世の私は寝坊助さんなのだ。
「ちょっとだけだよ?」
どうせネコが手伝ってくれる。
私は甘えに甘え、ギリギリまで寝に就くことにした。ネコの手も借りれる、という状況である。もはや彼女が居なければ、私は普通の人間たり得る生活を送れそうにない程に、甘えきっていた。
「……かんだよ。……じ、かんだよ。……時間だよ。起きにゃいと悪戯しちゃうよ、モモちゃん♡」
眠気が延長したためか、あっさりと眠りについた私は、彼女の声を遠くに感じる程度で聞き取れない。
「駄目だよ〜♡そんな可愛い顔して眠りこけてたら、
ぽかりと開いた口に、何かが侵入してくる。それは、口内を掻き回し、蹂躙し、歯を撫でた。
「……うじゃい」
「にゃへへ♡」
犯人はネコであった。
彼女以外は居ないのだし、当然と言えば当然である。しかし、このような事をして楽しいものなのだろうか。疑問に思うものの、別に大して重要なことではないだろう。
「楽しい?」
「うん♡」
私が彼女を愛玩動物のようだと称するように、彼女も私を小動物のように思っているのだろうか。歯をなぞるのなんて、さも当然と言わんばかりの表情である。
「モモちゃんの歯並びとか〜? モモちゃんの歯の形とか〜? ネコだけしか知らないことがあるのって嬉しいよね♡ネコもっとモモちゃんのこと知りたいんだ♡」
「汚いよ……?」
「汚くないよ♡」
正直、私には何がいいのか分かったもんではないが、彼女が楽しいのならそれで良かった。
それともこれは、女の子同士のスキンシップとしてなら普通の事なのだろうか。今更聞けない女の子の常識が、未だにあるということなのだろうか。
あぁ!口の中探りあうやつね!楽しいよね、あれ!
「……起きます」
「はい♡」
むくりと起き上がり、パジャマのボタンに手をかけた。
「———にゃにゃにゃ! ネコ、外に出てるね!?」
何事を急いでいるのか、猫のように瞳孔を縦に細め、勢い激しく部屋を出て行ってしまう。
まさか、恥じらっているのだろうか。いや、歯を触り回してた相手だ。今更何を恥じらうことがあるというのか。きっと用事でも思い出したのだろう。もしくは私の準備を進めてくれているとか。
ネコは不思議で可愛らしい子だった。
◆◆◆
「じゃあ、行こっか。モモちゃん」
長い長い朝の用意を終え、学園に向かう為に玄関口に立つ。忘れ物がないか見直し、最後に姿鏡で容姿を確認した。
うん、今日も必要最低限以上の身嗜み。
外に出るからには、清潔感が大切であり、他人に不快感を与えるようではいけないのである。
「容姿ヨシ! 出ようか、ネ……」
「———姉さん達、まだ居たんですね……」
少女が一人、階段から降りて来た。
仏頂面を引き下げて、覚束ない足取りで一つ、また一つと下る。筋力が衰えているのだ。私と同じ桃色の髪は、色艶が鈍く、ボサついている。誰にも会わないためか、また手入れを怠ったのだろうということが窺えた。
「……おはよう、サクラ」
私の実の妹。彼女は所謂引き篭もりであり、二、三言程度の会話で終える日々が、もう数ヶ月続いていた。
何とか解消してあげたいと思うものの、彼女がそれを許してはくれない。モヤモヤとした気持ちを抱きつつ、見守っていることしか出来ないのだろうか。本当に何も、してあげられないのだろうか。
昔は良かったな。「お姉ちゃん、お姉ちゃん」とずっと後ろを着いて来たものだから、私も猫可愛がりをしたもんだ。愛おしくて堪らない、尊き存在。
何処で間違えてしまったのだろう、と嘆いた。
「……黒澤さん」
「ん〜〜〜?」
サクラはネコが苦手なのか、恨めしそうな顔をして目を逸らし、俯いてしまう。
「モモちゃん、もう行かなきゃ間に合わないよ。サクラちゃんも、
「———……うっ」
折角サクラが話しかけてくれたのだから、もう少し御話していたいのだが、時間が許してはくれないらしい。
最近は戦隊活動で忙しく、碌に時間も取れていなかった。
「じゃあ、サクラ。お姉ちゃん達行って来るから、良い子にしとくんだよ? お昼はネコが作ってくれたのが冷蔵庫にあるから、しっかり食べてね」
「……昼食くらい、自分で作ります」
「……。」
サクラは何やかんや言うものの、残さず食べてくれる。昨日用意しておいた夕食も、食器となってシンクに浸けられていたのを、確認していた。
食べる子は育つ。彼女には健やかに成長してほしかった。
「お姉ちゃん、今日は……」
「———モモちゃん。今日は夕方から雨が降る予報だから……はい、折り畳み傘。忘れずに持っていってね」
「知らなんだ。ありがとう」
失念していた。どうやら忘れ物があったらしい。ネコに言われなければ、濡れて帰るところだろう。ネコに言えば、相合傘のひとつでもしてくれたかも知れないが、無様はごめんだ。
彼女は本当に母親のようだ。そうすると私は、手間の掛かる娘といったところだろうか。バブみを感じる、というやつだ。
以前、彼女に直接そういった旨を伝えたことがあるのだが、微妙な顔をされてしまったために禁句となってしまっている。
「……。」
自分は外に出られないためか、天気の話題になったところで、サクラは身を一歩引き、手を背に隠してしまう。何かを持っていたようであったが、一瞬だったために見逃した。
「もう行くよ。サクラ、家のことよろしくね」
「……はい」
こんなにも晴れ渡っているのに、雨が降るだなんて嘘のようだ。扉を抜けて、新たな一日の第一歩を踏み出した。
◆◆◆
「疲れた……」
午前の授業も、あっという間に終わってしまい、昼休憩の時間である。
「モモちゃん♡はい、お弁当♡」
「いつもありがとう」
私は、ネコからお弁当を受け取る。ネコ特製の愛妻弁当である。私もう、彼女がいないと生きていけそうにない。
一応、私も料理の一つや二つ出来るのだが、ネコ程上手くはいかなかった。
「おぉ〜。今日も美味しそうだね」
朝食も彼女と共にし、昼食も彼女と共にする。
そもそも、私には女友達がネコしかいないのだ。だからこそ、同じ学園、同じ学年なのだから二人で食べようという手筈になっていた。
余談であるが、戦隊は皆同じ学園。皆誘えば
付き合ってくれそうではあるものの、彼等にはそれぞれの友人関係があるだろう。そちらを優先して頂きたい。
「あ、この生姜焼き美味しい」
つい、感想を述べてしまう。
男性であれば、もう少し塩辛い方が好みだろうか。前世の私ならば、物足りないと感じてしまうかも知れない。コウガくんもその限りである。
「男の人は、もう少し濃い方が好きかもね」
「ん〜?モモちゃんは辛い方が好き?」
「こっちの方が好き」
素直に好みを告げる。
「それなら、このままでいいにゃ❤︎」
私のために作ってくれているモノだから、私の好みに合わせてくれているということだろうか。
ネコは、いいお嫁さんになるね。結婚式には呼んで欲しい。友人代表スピーチをさせろ、だなんて高望みはしないから。
その為ならば、花嫁修行にも付き合おう。決して、ネコに甘えて弁当を作らせているわけじゃない(大嘘)。
弁当を食べ終わり、その後軽く談笑して、ネコと別れる。
「それじゃあ、また放課後に」
昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。キンコーンカンコーン、という間伸びした古臭いチャイム。
「いざ、午後の授業に」と意気込んで、窓の外を眺める。
暗雲立ち込める空。不穏な空気が漂っていた。雨が降るからか、将又何か悪い事の前兆か。
———私にはまだ、知る由も無かった。