TS娘の俺が戦隊モノのピンクをやっているのは、どう考えてもおかしい 作:戦隊モノエアプ
曇天は、暗闇を齎し、やがて泣き出してしまった。
ペトリコールが鼻を抜けると、教室の中だというのに酷く冷たい気分にさせられる。黒雨と言うべき空模様は、どうにも胸騒ぎがして止まない。
もはや、窓の外は真っ暗で、景色を眺めて時間を潰そうという気すら逸れてしまった。
「……傘、持ってきて良かった」
喧騒に包まれた教室の中で、独り虚しく呟いた。誰の耳にも届くことの無かった言葉は、存在すらも認知されずに消えていく。
憂鬱な午後は、陰鬱な空気を纏って、より鬱々たるモノと化したのだった。
◆◆◆
『怪人出現!! 怪人出現!! 青春戦隊純情カレンジャー、直ちに現場へと急げ!! 繰り返す———』
ネコとの楽しい帰路は、突如として告げられた緊急招集によって、和気藹々とした雰囲気を掻き消された。
冷や水を打たれたように、二人の間に緊張感が走る。
"嫌な予感"が当たっていたということだろう。
「……行こう、モモちゃん」
ネコと視線を交わし、私達は足を早めるのだった。
◆◆◆
「来たか。モモ、黒澤」
一足先に来ていたレッドくんに話しかけられる。その後ろに、コウガくんと千輝先輩の姿が見えた。
私達が最後だったということだろう。
「遅れちゃったかな?」
「いや、俺達三人も途中で合流し、今来たところだよ」
それなら、それでいいのだけれど。
「それよりも……」
レッドくんが辺りを見回す。
全くと言っていい程に人気のない住宅街。冷たい空気が頬を擽り、寒気を感じる。この冷気は閑散とした雰囲気の為か、将又降り頻る雨粒によって齎されたモノか。
気味が悪いと思った。月をも隠す暗雲のせいで、薄暗い。点々と置かれた街灯では、奥の闇までは覗けなかった。さながら闇に囚われているという感覚だった。
何より、怪人の姿が見えない。
指定された場所は間違いない筈だ。そうだと言うのに……。皆もそれを思っているのだろう。警戒を怠らないようにしたり、虚空を睨んだりしている。何処から訪れるか分からない脅威に、恐れを見せ始めていた。
「博士も、『此処で間違いない筈だ』と言っている。此処で待つか、此方から炙り出してやるか……。どうする、レッド」
重苦しい空気の中で、千輝先輩が口を開く。
未知の敵を前に、私達がどう行動するのか。リーダーであるレッドくんに、その選択が委ねられた。
「此処で待っていても仕方ない。いつ民間人に危害を加えるかも分からないんだ。行こう、皆。——変身だ。」
私達は、彼の決定と共に変身の動作に入る。
暗闇を照らす光。何処からともなく現れた戦隊スーツが身を包んで、万能感を与える。
変身シーンは割愛とさせて頂く。ピカッと躰が光って、キュッとスーツに纏われて、ビューンと決めポーズとかで終わりである。もはや何十回と繰り返した、尺稼ぎの使い回しシーンだ。
各自変身した私達は、二手に分かれて怪人を探しに行くために走り出した。
◆◆◆
「……あれ?……みんな?」
辺りに霧が立ち込み、深さを増す。霧のせいで一寸先も見えず、仲間の姿を視認できない。声を出しても返答は返って来ず、完全に孤立した状態となってしまった。
「不味い、かな……」
もし、もしも意図的に一人にさせられているのだとしたら。もしも、まんまと敵の罠に嵌り、囚われてしまっているのだとしたら。
自慢できないが、私は戦隊の中でも単体火力最弱。一対一では、まず勝てないだろう。
デバイスで連絡を取ろうにも、応答無し。『無能か?』と毒を吐いたが、十中八九敵の攻撃によるモノなので仕方無い。
どうする、どうする。と逸る気持ちを落ち着かせることに精一杯だ。
「——こんにちは、
黒闇の中、私を呼ぶ、やけに透き通った少女の声。
足音は無く、気配も感じない。しかし、確かに此方に向かって来ているようで。私は瞬時に武器を構えた。
変な装飾の、ちゃちい銃。
嫌に色鮮やかでチープなデザインは、何某かの販促の為に作られた玩具のようで、緊迫した空気とは不釣り合いだ。
それでも、見掛け倒しなどではなく、確かな性能を誇る。実弾のような殺傷性は無いものの、エネルギー弾を発射できるという代物であった。
ちなみに、レッドくんはソード。コウガくんがガントレッドで、千輝先輩が刀。ネコが鉤爪である。
というのは余談で、話が逸れてしまった。
などと、暢気にしている暇はない。
「姿を見せたら……?」
安い挑発。怪人が、こんなのに乗ってくれるなら、どれほど楽だろうか。
引き金に指をかけ、敵を待つ。相手が仕掛けて来ないのだから、先手必勝ヨロシクと言わんばかりにブッパなしてやればいい。相手は死ぬ(殺傷性無し)。
目を凝らし、狙いを定める。確実に、一発目を当てるために。
見えた……!!
引き金を引き、蛍光色のエネルギー弾を放つ。確かな手応えを感じた。やったか……!?
「いや、こんばんは……かな?」
霧の向こう。姿を現したソレは、怪人などではなく、その声に似つかわしい姿の少女だった。
「……不作法じゃないかな? 純情カレンジャーピンク」
何者か。ナニモノか。
少女に化けているという可能性もある。それでも彼女は、そういう芸当とは到底思えなかった。
白い毛髪は、雨の降る闇夜ですら光を放ち、その存在感を示した。ツインテールに結われた長い髪、ハートの形のアホ毛。紫色の瞳は、もはや闇すらも甘く感じる、深淵を思わせた。首元に着けられたチョーカーの金具が光り輝く。
「あぁ、ダメダメ。そんなの幾ら撃っても、僕には効かないよ」
牽制のために銃を構え、放った。しかし、彼女の足元から伸びた影———触手か、もしくは触腕か———は、攻撃を防ぎ、先程までと同じように形を潜めた。
「……貴女、何者?」
「ボク? 僕かい? 知りたいのかい、僕のことが。それじゃあ名乗ってあげようじゃないか。キミだから言ってあげるんだよ。キミだから教えてあげるのさ、純情カレンジャーピンク」
長いし、諄い。さっさと言えば良かろうにと思うのだが、所詮は非力な私。蛇に睨まれた蛙なのである。殺されないように、余計なことは口にしない。
「———僕は、ドゥンケルハイト・オプスキュリテ。キミ達の言う、怪人だよ」
「……どっちも闇じゃん」
「キミは博識だね。フフフ。勿論、仮名だよ」
ドゥンケルハイト・何某かが薄気味悪く笑う。
もしも本名であったのなら、センスを疑うところであった。仮名として使うにしても、意味被りであり、言語を変えただけではあるのだが。
「それじゃあ、名前も教えてあげたし、元気にとくとく逝ってみよう❤︎」
彼女の言葉を合図に、影が伸びる。
私を捕らえまいとした触手を、
攻撃の意思がないのか、身を掠めるばかりで、直接攻撃を仕掛けてくることはない。
私の戦闘能力では、避けることに精一杯で、攻撃する余地がない。
影の触手によって、スーツが破け、破け、破ける。
息を吐く暇もなく、次が迫る。
所謂、ヒロピン。ヒロインに求められる展開であっても、私に求められる展開ではない。
私が跳ねて、飛んで、顔を顰める光景を、彼女は恍惚とした表情で眺めていた。
「ハァハァ……」
「もう限界? まだいけるの? 戦隊スーツってのも案外脆いんだね」
相手によって作られた時間で、呼吸を落ち着かせる。どうにも掌で踊らされているようで不快だった。
戦隊スーツは、身体能力の向上性を持ち合わせているが、影のスピードに劣っている。元々合体前提の戦闘であり、私一人では幾ら戦隊スーツがあろうと勝ち目は無い。避けられているのですら、『ようやっとる』というやつである。
「あはは❤︎楽しいね❤︎……おや、お邪魔虫が来たみたいだね。残念だけど、今宵はもうおさらばという訳か」
誰かが近くまで来てくれたのだろうか。ドゥンケルハイトちゃんは見逃してくれるようだ。やはり彼女には敵意がないのか。それとも私なんて取るに足らないと考えられているのか。
「じゃあ、またね。———
「な、なんで……。待って」
何故、彼女が私の本名を知っているのか。
本名が漏れた?それとも……。
彼女には何か、何かあるように感じて手を伸ばす。しかし、緊張感が抜けた為か、足が動いてくれない。
闇に溶ける彼女を、私はただ見送った。
「彼女は一体……」
彼女が去った後、すぐに彼は駆けつけてくれた。
「……レッドくん」
「漸く見つけた。良かった、モモ。お前が無事で良かっ……——モ、モモ。お前、服が……」
レッドくんは、息を乱していた。私を探すために必死で走り回ってくれたのだろうか。
私の顔を見て安心したような顔をしたレッドくんは、すぐに顔を逸らし、赤く染める。
どうしたというのか、彼が恥じらう理由は……。
「———〜〜ッ!? ……み、見ないで」
今の自分の格好にあったらしい。
触手によってボロボロにされた戦隊スーツは、地肌を晒し、辛うじて隠すべき部分が残っている状態だった。
私は身を屈め、躰を隠す。
「……ね、ネコ呼んで。千輝先輩でも可」
「あ、あぁ。すぐに呼ぶ……」
二人の間に気まずい空気が流れる。
見られてしまっただろうか。ラッキースケベなんて、こんなのヒロインがやることだ。恥ずかし過ぎて死んでしまいそう。恥ずか死ぬ。
いや、何を恥ずかしがっているのだろう。私は元男だし、別に見られて減るものでもないのだ。男の子が見て喜ぶ気持ちもわかっている。それなら、ちょっとくらい見せてあげても……。
「み、見る……?」
「見ないよ!?」
———ダアアア!? 何を言ってるんだ、私は。
これではまるで、痴女ではないか。
ラッキースケべなんて……、ラッキースケべなんて私のやることじゃないだろう。
TS娘の俺じゃあ、絶対違うはずなのに。何を言ってるんだ俺は……。
程なくして、ネコが駆けつけてくれ、心に傷を負ったものの無事に帰ることが出来たのでした。
たとえ身体が女の子でも、心まで女の子になるな!
濃厚なGLの後には、フレンチみたいなBLというわけでね。
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ドゥンケルハイトちゃんの絵。見なくていいです。最近下まで描いてない気がする。また、ということで。
【挿絵表示】