TS娘の俺が戦隊モノのピンクをやっているのは、どう考えてもおかしい 作:戦隊モノエアプ
ドゥンケルハイト・オプスキュリテちゃんが現れてから、怪人の出現頻度は日に日に増し、私達戦隊と怪人との闘いは熾烈を極めるものとなっていた。
夜間の出現ばかりなのが幸いだろうか。しかし、連日の戦隊活動によって摩耗する毎日であった。
寝不足が祟って、隈なんかが出来なければいいのだが。
そして、今日も今日とて戦隊活動。えいやえいやと投げ打って、ばったばったと張り倒す。
——まぁ、倒すのは私ではないのだけれど。
今夜はゴリラみたいな怪人だった。
所謂パワー系。殴られたら一溜りもないであろうが、戦隊スーツであれば吹っ飛ばされるだけで済むだろう。ドゥンケルハイトちゃんの影による斬撃でビリビリに破れる癖に、衝撃には強いらしい。私は割と恨むタイプだった。
そんな奴が住宅街にでも現れれば、住居や民間人への被害は免れないだろうが、何だか空気を読んでくれている。町外れの採石場でドスドスしていたのだった。いつもの採石場ってやつだ。
岩とか投げてきて面倒だし、早く倒してしまいたい。けれど、私達は決定打を与えられずにいた。
このゴリラ、案外硬くて素早しっこい。
レッドくんの剣も、コウガくんの拳も届かない。速さ勝負では負け無しのネコでさえ、爪は届いても鋼の肉体を傷つけられない。やはり、悪・即・斬、一刀両断とばかりの千輝先輩の一太刀で無ければ倒せまいか。
私が候補から抜けてるって?私のグミ撃ち銃で倒せるわけないので割愛させて頂いた。
だからこそ、千輝先輩の力が必要なのだが……今の彼女、なんだかナイーブだ。
「わたしがなんとかしなきゃ……わたしがなんとかしなきゃ……」
私達が苦戦し過ぎているせいか、彼女に気負わせてしまったようだ。
早く何とかしてくれ主人公。キミのお姉さんがショートしてるぞ!
——不味いっ!
千輝先輩は、此処が戦場であることを完全に忘れてしまっている。そんな木偶の坊を、敵のゴリラが黙って見逃してくれる訳が無かった。怪人は、彼女目掛けて一心不乱に走り出す。
「——
咄嗟に出たのは幼少期の呼称。
私の何処にそのような力が有ったのか、定かではないが、火事場の馬鹿力だったのかも知れない。もしくは戦隊スーツによる強化の可能性。
一息に彼女の下まで駆けた私は、彼女を押す。良かったと安堵した刹那、次にやって来たのは強い衝撃だった。
そうして私の意識は、一瞬にして途切れたのでした。
◆◆◆
「……うむぅ〜ん」
いつまで経っても流行りそうにない唸り声と共に目を覚ます。消毒液みたいな匂いが、やけに鼻腔を刺激した。
どうやら気を失って、医務室のベッドに寝かせられていたらしい。ヘマしたな、と思った。
「
懐かしい呼び名で呼ぶ声がする。凛とした雰囲気を持ち合わせてはいるが、子供のように幼く、とろんと蕩けた猫撫で声。
「随分お久しぶりって感じだね。おはよう、アオハ」
「お姉ちゃん……!」
出会った当初、アオハは私のことを『お姉ちゃん』と呼んでいた。前世の記憶を持つために、子供にしては大人び過ぎていた私のことを歳上だと思ったのか、彼女は私を姉と慕った。私も私で、子供達の姉役を買って出た訳であるが、幼少期の発育差の激しい少女を姉と呼ぶものだろうか。
「良かった、本当に良かったよ……。
「ヨシヨシ。アオハが無事で良かった」
今にも泣きそうな顔をしているアオハを宥める。過去にも色々あったために、不安にさせてしまったらしい。
「うぅ……お姉ちゃん、優しい……好きぃ」
何だか幼児退行みたいだな、と思った。髪を崩さないように優しく頭を撫でると、彼女は幸せそうに微笑んだ。
「わァ……!?」
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん」
アオハが私の胸に飛び込んで来る。私は背に手を回し、抱き止めた。
「あ、汗臭いと思うんだけど……」
「そんなことないよ?」
いや、絶対汗臭い。先程まで怪人と闘ってたところなのだ。たとえ遠距離武器だとしても、飛んで跳ねてさせられたのだ。臭わないわけがない。羞恥心で死にそうだ。
「それならいいんだけど……。ちょっと、ちょっとだけ拭かせて、ね?」
「わたしは気にしないよ?」
「私が気にするんです!」
ベッド脇に置いてあったタオルで拭った。さすがに、こんなモノを柚乃さんに押し付けるわけにもいかないので、洗って返そうと思う。
もしかするとこのタオル、フリマサイトに顔写真付きで出品すれば、高く売れるかも知れない。なんて、邪な考えが浮かぶ。……まぁ、需要なんて無いか。
「むー! お姉ちゃん、遅い!」
「あっ、ちょっと! まだ拭いてるとこ……んっ……」
悪い子だ。どうして、こうなってしまったのか。フラストレーションを溜めてしまっていたのか。原因があるならば、私のせいだ。
「千輝先輩、くすぐったいんですけど」
「それ嫌ーい! アオハって呼んでくれなきゃ泣いちゃうぞ? 大体、お姉ちゃんは意地悪なんだ。千輝先輩、千輝先輩って他人行儀すぎる。それでも、わたし嫌いにならないよ? わたしは、お姉ちゃん好き好き大好き部の会長だからな。お姉ちゃんしゅきぃ……♡」
私の先輩は重症だったらしい。懐きに懐きまくった愛犬みたいに頭を擦り付けてくる。今にも耳と尻尾が見えそうな勢いだ。
犬に猫に忙しいチームだな。なんて冗談だ。
「あの、千輝せ……」
「——アオハだって!」
「……アオハ。そもそも、アオハちゃんが他所行きの態度を確立したから、こっちも変えたんだよ?」
「だってだってぇ……」
あの時は皆大人になっていくんだな、と思ったものだ。いつまでも歳下から「アオハちゃん」なんて呼ばれていたら先輩としての威厳もズタズタになりかね無い。そう、思ったからこそだったのだが、どうやらお気に召していないらしい。
確かに、彼女にも事情はあったのだろう。私が汲み取ってやれなかったことは鈍感だった。しかし、最近は疎遠とはいかないものの、皆で集まるような機会が無かったのも事実だ。都合が合わずにすれ違っていたとしても仕方ないことではないか。
最近は戦隊活動のおかげで、また皆と毎日のように会えている。これだけは青春戦隊純情カレンジャーに入って良かったと言える点だった。
「そもそも、封印したのはアオハちゃんが先だったよ?」
「だって、恥ずかしかったんだもん……。」
「あら可愛い」
モジモジとしたアオハちゃんは凄い可愛いかった。こんな顔も出来るのかと驚嘆する。
お姉ちゃん(他人)、ギャップで萌え死んでしまいそうです。
「しょうがない。日頃頑張るアオハお姉ちゃんを、モモちゃん直々に甘やかせてあげましょう。」
「お姉ちゃん……!」
パァッと開花したみたいに歓喜に表情を染めたアオハ先輩。あまやかせいかつなんて、私のやることでは無いが、今日の一件を考えると一人で背負わせ過ぎるのも良くないことだ。
彼女は、歳上ゆえに、心情を吐露する相手も居なかったのだろう。
「ヨシヨシ」
「えへへ……」
この後いっぱい甘やかした。
◆◆◆
さすがに夜も遅いから、と柚乃さんが家まで送ってくれる。次々に過ぎゆく家屋も、既に消灯されているモノも多い。それでも、今夜は何だか月明かりが強くて、寂しい気持ちになることは無かった。
「ありがとうございました、柚乃さん。おやすみなさい」
自宅の前に停めてもらい、感謝の気持ちを告げ、一日の終わりの挨拶をする。
「これも役目ですので。」
いつものようにクールに返って来たモノだから、思わず破顔してしまう。彼女はこういう人だからこそ頼りになるのだろうと感じた。
笑い顔が最高に様になることを知っているので、いつの日か満面の笑みを浮かべた柚乃さんが見てみたいなと思う。
「それでは、何かあればいつでも言って下さいね。……
「え!? こ、この前のような事……? モモ、柚乃さんと何が!?」
「それでは千輝先輩、柚乃さん、また明日」
同乗していた千輝先輩にも別れを告げる。家の門を潜ると、背後で車が発進する音が聞こえた。
アオハ先輩は気になったようだったが、幾ら問われても、柚乃さんとの一件は話せる訳ないことだ。二人だけの秘密だ。
「ただいま……」
妹——サクラはもう、寝ているだろうか。起こしては不味いと思い、そっと扉を開け、小さな声で言う。
妹のことを思えば、千輝先輩に『お姉ちゃん』と慕われようと、自分の妹に何もしてやれない自分に自己嫌悪する。
廊下の電気を点けようと思った時に、廊下の奥、リビングから灯りが漏れ出していることに気づいた。
消し忘れかと疑ったりもしたが、小音ながらもテレビの音源が流れていることで察する。妹がリビングにいるようだった。
「ただいま、サクラ」
部屋の扉を開け、妹に今帰ったと知らせた。
一見すると、彼女はつまらなそうに頬杖をついてテレビを眺めているようだった。見ている、と言うよりは何となく流している様子だ。
私の声を受けて、彼女は細めた目を此方に向けてくる。怪訝そうな顔。
「……おかえりなさい。姉さん、何処を遊び歩くのも自由ですし咎めたりしませんが、最近遅過ぎませんか?」
心配させてしまっただろうか。こんな時間に帰って来る姉が居たら、一言言いたくもなるかと腑に落ちた。
戦隊のことは、サクラには話していない。側から見れば、非行少女や夜遊び少女に見えているのは当然のことだった。
「ごめんね。ちょっと遅かったよね……」
「い、いえ別に責めているわけでは……!!」
「サクラは何か食べた? お腹空いたよね、すぐに作るから」
近頃は姉としての責務も果たせていない。ご飯作って、置いておくだけなんて最低だ。もっと彼女と居る時間が出来ればいいのだが、それも叶いそうにない。せめて今だけはと思った。
「ご飯ならあります。私なんかが作ったので良ければですけど……」
食卓の上にはラップで包まれた大皿が鎮座していた。
あまりにも私が遅いものだから、妹が作ってしまったらしい。私の分もあるようだった。
見たところ、手は付けられていない。サクラもまだ、口にしていないのだろうか。もしも、私のために待っていてくれたのだとしたら嬉しい。
お姉ちゃん、妹の成長に泣いてしまいそうだ。
「ううん、食べるよ。食べたいんだ。ありがとう、サクラ」
「ただの野菜炒めですし、別に姉さんの為に作ったわけじゃありませんから。一人前だけ作るっていうのも難しいと思ったから多めに作っただけです!」
「それでも、妹の手料理が食べられるなんて、私幸せ者だな」
椅子に腰掛けると、サクラは向かい側に座る。一緒に食べるのなんて久しぶりだから、思わず顔が綻んでしまう。
「何をニヤニヤしてるんですか」
「何でもないよ。それでは、いただきます」
「いただきます」
私が手を合わせると、彼女も追って手を合わせた。それが何とも嬉しくてニコニコが止まらない。
菜箸で取り分け、口に含むと至福の味がした。
「……やっぱり、姉さんの味には敵いませんね。どうぞ、美味しくないなら手を止めてくれて構いません」
「いや、美味しいけど?」
「そ、そうですか……。」
素直に感想を述べると、彼女は気恥ずかしそうに顔を逸らせてしまう。
これはまさか、照れたのだろうか。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
あれから私は、妹の手料理を食べ進めた。少し自分でも引いてしまうくらいに歓喜しながら食べていたものだから、味なんて最高級の三つ星レストランと勝負させてもいいとすら感じる。勿論、妹の料理が勝つ。それくらい嬉しくて、美味しくて堪らなかったのだ。
「辱めを受けました。もう作りません」
「えぇ〜、私はサクラの料理なら毎日でもいいと思ったんだけどなぁ」
「……。寝ます」
そう言って、サクラは私の横を過ぎ去る。横目に見えた彼女の顔が桜色に染まっていたものだから、少しは離れていた距離が縮んだことを実感できた。
「——……私の妹
思い出すのは千輝先輩のこと。そして、私を待ってくれていた実妹のこと。
私はもう、喜色満面といった具合だった。
「達……?」
「あっ……。」
「達って何なんですか!? 『あっ……』って何なんですか!? 姉さん、私以外にも妹が居るって言うんですか!?」
つい零してしまったばかりに、すごい剣幕で迫られる。まさか千輝先輩に『お姉ちゃん』なんて呼ばれていると明かす訳にもいかず、私はしどろもどろするだけだった。
「答えて下さい、姉さん!! 帰りが遅いことにも関係してるんですか!? 最低です、見損ないました!!」
ぶらぶらと揺すぶられるままに、身を任せる。
あぁ、「私の妹達はこんなにも可愛いではないか」と思わされた夜なのでした。
匂いを気にする女の子フェチと、歳下を『お姉ちゃん』と呼び慕う幼児退行先輩フェチにも優しいのは、この小説だけ!
前話、感想・お気に入り・評価・誤字報告ありがとうございました。執筆の励みになります。お気に召したら是非投げてやって下さい(テンプレ)
怪しい博士のビジュ。見なくてもいいです。
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