TS娘の俺が戦隊モノのピンクをやっているのは、どう考えてもおかしい 作:戦隊モノエアプ
六月。放課後。学校でやることも無く、真っ直ぐ帰路に着いた私を嘲笑うかのように雨は降り出した。
私は、すっかり梅雨入りしていたことも忘れていた為に、雨具も持ち合わせていなかった。咄嗟に目に入った、人影のある軒下を目指して走る。濡れるのは御免だが、当にびしょ濡れだった。
「うへぇ……濡れ鼠だ」
やっとのことで雨脚を凌いだ私は、隣に先客が居るのも忘れて、一人ぶうたれる。辛うじて持ち歩いていたスポーツタオルで、頭をわしわしと拭った。サイズ故に、すぐに使い物にならなくなってしまう。躰は冷えたままだ。夏服に 変えたのが災いしてしまったようだった。
「へくちっ……!」
自身の口から発した、自分でも驚く程にあざといクシャミ。アニメキャラのように、雨に打たれて即日風邪を引く程、柔な躰はしていないが、確実に体温を奪われていた。
「うぅ……。しゃむしゃむ……」
「大丈夫かよ。ずぶ濡れじゃねぇか」
隣から心配する声が投げ掛けられた。どうやら自分より先に雨宿りをしていた男からのようだ。これまで気にもしていなかったが、隣を見やれば普通に知り合いだった。
「コウガくんこそ、水浸しじゃん」
横には巨木があった。私は大樹を相手に会話していたのか、なんて冗談だ。——コウガくんだった。
コウガくんのその巨体が、直立不動の大木を想わせただけだ。物騒な表現をすると、私が殴りかかってもびくともしないだけの恵まれた体をしていた。恵体信仰者なんかには、さぞ喜ばれることだろう。
「お前と同じだ。急に降り出したもんだからな……」
そうは言っても、ぐしょぐしょの私と、水も滴る良い漢といった感じ程度の彼とでは格差があった。
「それより、モモ。お前傘はどうしたんだよ。毎日、母親かってくらいにメンドー見てる黒澤に持たされなかったのか?」
「あぁ、今日ネコ来なかったんだよね」
どうやら、想い人の動向が気になるようだ。
週七くらいで来てくれるネコではあるが、時たま来なかったりもする。さすがに「毎日来い」だなんて口に出来ないので、そういう日はノソノソと自分で身支度をしてきたのだ。
しかし、私だけでは今日のように、うっかり忘れ物をしてしまうことが多々あった。
モモちゃんはネコが居ないと朝の用意も出来なくってしまったのだ。ダメダメだ。駄目人間である。モモちゃんはおしまい!ってね。
「それで、そのザマかよ……」
呆れた顔をして、鼻で笑い飛ばされる。自分の想い人を煩わせる私を疎ましく思ったのかも知れない。申し訳無さで死ねる。出来るだけ早く自立しようと思わされた。
「ごめんなさい」
「何に謝ってんだ……?」
「……。」
どうやら、私の謝罪は杞憂であったらしい。『なにいってだこいつ』と言わんばかりの顔を向けられた。
「いやぁ、寒いね。雨止まないね……」
どうにも気まずくなって、口を開く。一人ぼやいた言葉も、黒雨の勢いで掻き消されるばかりだ。
二人して、振りゆく雨を見送っている。
「仕方ない」
私は短く嘆息し、この時初めて、コウガくんの方を向いて提案する。
「走って帰ろっか。私ん家、そう遠くはないし、コウガくんも寄って帰りなよ。シャワーくらい貸したげ……」
「——ちょっ、おまっ!? まっ、前!!」
慌てるように顔を逸らしたコウガくん。自身の目線を下へと下げて行くと、胸の辺りで痞える。
薄いシャツが張り付いて、下着の色、柄、形まで丸わかりの状態。思わず頬が紅潮する。沸騰するように熱いのが自分でもわかった。
「は、はうわ……!?」
驚きのせいで妙な声が出た。
こんな展開、前にもあった気が……。
「ほらよ。」
コウガくんから学ランを手渡された。これで前を隠せということだろうか。彼は不器用ながらも、紳士な行動のできる男なのだろう。私は感謝しながら素直に受け取った。
袖に手を通すと、懐かしい感触がする。今世では経験していない筈なのに、自分の何かが憶えているようだった。
「どうかな?」
彼の制服に身を包んだ私は、全貌を見せるように、その場でくるりと回って見せた。
彼の丈では大き過ぎて、余りまくっている。萌え袖を通り越して、捲らなければ手が見えない程だった。
彼シャツならぬ、彼学ラン。
体育祭などで女子が応援団をする際には、男子生徒から学ランを借りたりするもので……。実を言うと、少し憧れたりもしていたのだ。貸す方か、借りる方だったのかは明確化させない。
「ありがとね。文化祭で女制服が必要になったら声掛けてよ。私の貸したげる」
「いや、入らねぇだろ」
そう言って、コウガくんは可笑しそうに笑う。久しぶりに彼の笑顔を見た気がした。
「すんすん……」
ふと気になって、気になってしまったからには仕方がなくて、彼の制服の袖元を自身の鼻に近づけた。
「おい待て止めろ。」
「んっ……?」
柔軟剤の香りの奥の方に、自分が忘れていた男の匂いを感じた。近頃少し蒸し暑かった為だろうか、汗を吸収した衣服に染み付いているようだ。
決して嫌な匂いではない。嫌いでもない。少し安心する匂いだ。
「ご馳走様でした。」
「……何か得た物はあったか?」
「コウガくんは良い匂いなんだね」
「……そうかよ」
げんなりした顔をするコウガくん。冷静になって考えてみると、自分でも引いてしまいそうな行動をしていた事に気づく。好奇心に駆られた要素もあったが、下着を見られた意趣返しという事でどうにかこうにか頼みたい。
これが十八禁の漫画なら、下着の色を脅しに、エッッな展開の一つや二つおかしくはないが、そこまでガバガバなネタで揺すぶったりする程に性欲に支配されてはいないらしい。
NTR漫画の竿役みたいな見た目でも、彼は一途でジェントルマンな男だった。
「雨脚は弱まる気配も無いか……。折角貸してくれたのに悪いけど、濡れて帰るしか……」
「ちょっと待ってろ。コンビニで傘くらい売ってるだろ。ダッシュで買って来るよ」
そう言うとコウガくんは、雨に濡れるのも構わずに、降り頻る豪雨の中を走って行ってしまう。
止めようとした手は、空振り、行き場を求めた。
◆◆◆
五分程すると、彼は戻って来てくれた。
手にはコンビニで買ったであろうビニール傘を持っているというのに、傘も差さずに走って来たのである。
「なんで傘差して来ないのさ」
「一本しか無かったからな」
「理由になってないよ」
私がくすりと笑うと、コウガくんは小っ恥ずかしそうに頬を掻いた。
「帰ろっか」
二人で一本の傘を差して、再び帰路に着く。自分の肩が濡れるのも気に留めないで、私の方に傾けてくれる彼に優しさを感じたのでした。
◆◆◆
「……お邪魔します。」
『傘が確保出来たのだから帰る』、と言うコウガくんを強引に誘い、我が家に帰って来た。
送ってくれたのは嬉しいが、制服まで借りておいて、このまま帰すのは恥だと思ったのだ。
「ただいま」
冷え切った廊下に二人分の声が響いた。
サクラは部屋にいるだろうか。急な来訪者で会いたがらないだろうし、自室から出ないのが吉だろう。
「身体冷えちゃったでしょ? シャワー先に浴びていいから。衣服はテキトーに洗濯機にぶち込んどいて」
「あぁ、悪いな」
玄関ですっかり水気を帯びた靴下を脱ぎ、家に上がろうとした時——。
「男の人の声がしましたけど……姉さん、誰か一緒に居るんですか?」
サクラが廊下の奥からやって来た。
玄関の暖色の光に照らされた私達は、さぞ見やすかっただろう。サクラは私達の姿を見ると、口を開く。
「姉さんと……金剛先輩……? 珍しい組み合わせですよね。シャワーがどうのって一体なにを……。あっ、えっ……?」
サクラの瞳は、コウガくんの手元のコンビニ袋を見ていた。薄いビニール製の袋からは、何かの箱とスポーツドリンクが覗く。
そして、服がなんだ、シャワーの順番がなんだと言い合う二人。
普通に受け取ってくれて構わない。しかし、普通に受け取らなかったとしたら……答えはもう、私達はアレに臨む二人でしか無かった。
「サクラ、だよな? 悪いけど、お前の姉ちゃん借りるわ」
「えっ……?」
どうしてそのような、チャラ男みたいな言い方をするんだ、と頭を掻きむしりたくなる。これで無自覚なのだから恐ろしい。
誤解を解こうにも、サクラは絶望感に満ちた表情をしていた。今の彼女に何を言おうとも『そ、そうですよね。そういう事にしときますね』といった感じで流されて仕舞いである。
「わ、私、外出してた方がいい感じですか……?」
「いや、すぐ済ませる」
もう止めて下さい。妹にこれからおっ始める奴らだと思われているではないか。よしてくれ。その言い方だと私が安い女で、コウガくんだって早の人みたいだ。
「ヘ、ヘッドホンしときます! 部屋からも出て来ません! 他言もしません! 約束します。姉さん達がそんな関係だったなんて……だから夜も……」
あっ、駄目だコレ。どうやら私は妹に滅茶苦茶な勘違いをさせてしまったようだった。
◆◆◆
「シャワーありがとな」
置いておいたバスタオルを片手に、茹った躰でコウガくんがやって来た。
「これ、本当に借りてよかったのか?」
「うん。どうせ長いこと帰って来ないだろうし、一枚や二枚無くなってても気付く人じゃないよ」
コウガくんには現在不在中の父親のシャツを貸してあげた。彼の肉体ゆえに、ピチピチになっているが、我慢して頂きたい。
「なるべく早く返すわ」
「そんなの、いつでもいいよ。私も学ラン返さなきゃいけないし。こっちは無いと困るよね?」
「どうせ俺も衣替えしようと考えてたんだ。いつでも構わねぇ」
ズボラな性格ゆえ、そう言ってくれるのは嬉しいのだが、なるべく早く返さなければならないだろう。明日にでもクリーニングに出してしまおうと思案した。
シャワーを浴び終えてから、ある程度の時間が経ち、私達は移動する。場所は私の部屋。2階に上がり、私が導いて行く。部屋の位置は昔から変わっていない。コウガくんも来た事がある筈だし、覚えていれば場所くらい分かっただろうか。
部屋の扉を開け、誘導する。
あまり女の子然としていない内装の部屋。明るいピンク色だったり、水色だったりで染まっているような、ファンシーな感じのしない普通の部屋。所々、縫いぐるみや、化粧台のような女の子を感じる要素はあっても、メタルラックや据え置きのゲーム機なんかがあることで女の子女の子していない。
「あんまり昔と変わらないな」
コウガくんが呟く。確かに必要最低限の女の子の必需品はあっても、少年のように振る舞っていた時と他が変わっていない。
「今どき、PS2やGCとかがある女子の部屋ってどうなんだ?」
指摘されると、そりゃそうだと思った。ファッションで買い揃えたゲーマー女子ならまだしも、普通にプレイする為に買い集めた私とでは年季が違う。子綺麗に魅せているわけでもなく、雑多に置かれたソレは遊んでいる証拠だった。
幼少期は皆を集めて遊んだりもしたが、最近では憚られる。それに、私だってゲームばかりしているのも気が引ける歳となった為に、少し埃が積もっていたのだった。
「この間は悪かったな……」
二人して部屋で腰を据えると、コウガくんが切り出した。
悪かったと言われるような心当たりがない。
「何の話?」
「あのクソゴリラ怪人の日のことだ」
ますます分からなくなる。何か謝られるような事をしただろうか。
「俺が、もっと早く倒すべきだったんだ。もっと早く倒してれば、モモだって……」
「——そんな事ないよ。私、聞いたんだ。あの後……私が倒れた後、コウガくんが倒してくれたんだよね?私は見られなかったけど、皆を守ってくれたんだよね? 皆が何事も無く帰れたんだから、遅い早いなんて無い筈なんだよ」
あの日、私がノックアウトした後、コウガくんの力は怪人を上回った。私が倒れたからでは無いのかも知れない。それでも仲間の為に、普段の倍以上の力を発揮出来るなんて、素敵なことだと思うのだ。
「もし、もしもだけど、あのまま誰も倒せなかったら、私達は確実にやられてた。だからこれは、コウガくんのおかげなんだよ。ずっと言おうと思ってた。——あの日、私達を、私を助けてくれて、守ってくれてありがとう」
私は心から感謝の気持ちを述べる。
俯きがちだった彼の頭が上がった時、そこにはもう先程までの不安そうな顔は無かった。コウガくんは、こうではないと。圧倒的なパワーで、どんな敵も蹴散らす。それくらいの方が彼には似合っていると思うのだ。
「……モモには敵わねぇな」
照れくさそうに彼が微笑んだ。彼の笑顔を二度も見られるなんて、ツイてる日だ。久々に見た彼の表情は、外の雨なんて勝てないくらい晴れ渡っていたのでした。
「それじゃあ、ゲームでもしよっか?」
「久々だな。負けねぇぞ?」
「おー? やるかー?」
テレビの前に、隣に並んで座り、ゲームコントローラーを手にする。
この後いっぱいゲームした。
モモはコウガくんとネコが好きあっていると思っている。
作者(そういや、そんな設定あったな……)
読者(そういや、そんな設定あったな……)
前話、感想・お気に入り・評価・誤字報告ありがとうございました。執筆の励みになります。お気に召したら是非投げてやって下さい(テンプレ)
最近は、ここすきなんかもして頂けてるみたいで……感激です!
勘違いの血を引く、鏑木サクラちゃんのビジュ。着てるのはスウェット。見なくていいです。
【挿絵表示】
もう男子の絵しか残ってないみたいですね。考えときます。