TS娘の俺が戦隊モノのピンクをやっているのは、どう考えてもおかしい 作:戦隊モノエアプ
豪雨の中濡れ鼠となって帰った私であったが、翌日風邪を引くこともなく、珍しく寝覚めのいい朝を過ごしていた。
それもこれも、コウガくんのおかけだ。彼が自身が濡れることも厭わずに傘を買って来てくれた。そして、久しぶりに目一杯ゲームが出来て、気分が晴れた。今まで繋がれていた枷が外れたような清々しい心地だ。
今日なら空も飛べそうな予感。
ベッドから抜け出し、一足先に着替えを済ますことにする。いつも任せっきりの道具詰めも、今日は自分でやっちゃう。本日のモモちゃんは無敵に素敵であった。
「ネコおはよー!!」
「——〜っ!?」
いつも通り寝入っているであろう私を起こすまいと、そろりそろりと入って来たネコに向かって、クラッカーみたいな挨拶を向ける。
瞳孔を開き、白昼夢でも見たかと驚くネコに自信満々といった感じの笑顔を向けた。放心しているネコの顔前で手を振ってみせる。
「うっ……うえ〜!? も、モモちゃんが起きてる!?」
「やれば出来る娘なのですよ」
「ネコ要らなくなっちゃうのかなぁ……」
ネコは、手の掛かる娘が独り立ちしていく様を見守るように、寂しげに眉尻を下げる。
「偶然だよ。偶然。まだまだモモにはネコちゃんが必要ですぅ……。」
自分で言っておいてなんだが、凄く情けなくなる。呆れて見捨てられる可能性はあっても、私からネコ断ちするようなことはない。有り得ない。
そもそも親友なのだし、迷惑など掛ける掛けられるの関係なのだ。勿論、ネコの為とあらば私は尽力しよう。まぁ尤も、私が彼女に迷惑を掛けてばかりであるが……。
「……良かった。ネコ心配しちゃった。」
「ほんと、我ながら珍しい事もあるもんだね」
私がどやっと厚かましい顔を浮かべると、ネコは胸を撫で下ろし息を吐いた。
折角早起きできたのだ。今日はネコと一緒に朝食を作ってもいいな、なんて思いながら階下へと向かう。
今日はどんな一日になるだろう。
◆◆◆
「今日体育じゃん……」
朝登校すると、クラスメイトの話声が耳に入ってきた。そして私は絶望した。それはもう世界の終わりだという具合に絶望したのだった。
「はぁ……。」
ついつい、溜め息が漏れた。
登校してから体育に気づいたというのに、どうして体操服が鞄の中に入っているのか。今朝は自分で用意したというのに可笑しな話である。きっとネコが最終チェックしてくれたのだろうことは容易に想像できた。ありがたい話である。それでも、この時ばかりは余計なお世話という感じであった。
だいたい、日々戦隊活動で脂肪を燃焼させているというのに、学校でまで運動などしていたらガリガリの痩せっぽっちになってしまうではないか。モモちゃんはインドア派なのだった。
退屈な授業を聞き流し、嘆いていても時はやって来る。そして来たれる闇の時間。私の呪いは虚しく終わった。
別によっぽど嫌と言うのならば、見学でもしてしまえば良いことであるが、私はそういったズルはしないタイプなのだ。内心でぶー垂れながらも、やるだけやるのが私なのだ。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる視線の的で……何を言いたいかと言いますと、ジロジロと見られるわけだ。どうにも、こういう時どんな顔すればいいかわからなくて、クラスに親密な友人もいないために俯きがちに立ち尽くす。手持ち無沙汰で足の爪先で円を描いたりしては、消していく。
「モモちゃん、今日も組もっか」
準備運動、二人一組のペアを作る時になるとクラスメイトの少女が話しかけてくれる。
あと、凄くデカい。これが母性の正体なのだと理解らされた。
クラスで一人の私と、毎回ペアを組んでくれる女神のような少女だった。
「いつもありがとね、草場さん」
「全然、ぜんぜん。私達三人グループだから、どのみち誰かは余っちゃうし、私じゃあ二人と体格差があるから……」
草場さんを含めた仲良し三人組は、他二人がクラスでも一、二を争う程の華奢な少女達なので、迷惑を掛けてしまうのだと語っていた。
戦隊五人の中でも最小の私より小さいのだから、百七十センチ弱ある草場さんでは持ち上げてもらうことすら叶わないのだろう。
「私もね……、モモちゃんが居てくれて助かってるんだよ? 私、内気だから他の人とはやりづらくって。モモちゃんは私にも優しくしてくれるし、此方こそいつもありがとうございます」
「なんだか照れちゃうな」
真正面から、こうも堂々と面と向かって感謝を述べられると、小っ恥ずかしくて仕方がない。それが可愛い少女からともなれば、役得という感じである。
「よいしょ……よいしょ……。」
妙に色めき立つような言葉が、草場さんの口から漏れる。頬には汗が流れ落ち、髪が張り付いたりしていて、心の臓は忙しなく活動を続けている。
「はわわっはわはわ……」
うっかりやさんのヒロインみたいな言葉を口にする。私もそれなりにあると自信があったが、上には上がいるものだと思ったのだった。
今日の体操はペア活動が主軸だったために、いつもより長く、草場さんとおしゃべりすることができた。
彼女は運動は得意ではないらしい。躰を動かすことは好きなようだが、運動音痴では仕方がないと笑っていた。どうにもその寂しげな笑顔は、彼女のイメージと合わなくて、私は密かに遊びのお誘いでもしようと画策したのだった。
「ふいっ〜。」
憂鬱だった体育も、蓋を開けてみれば、それなりに有意義な時間を過ごすことができた。それもこれも、草場さんのおかげだった。
いい汗を掻くと、タオルで拭き取る時間も無駄な時間とは思わない。乾いたタオルが水気を吸って、しっとりとする感触。私はそれが、堪らなく好きだったのだ。
◆◆◆
「モモちゃん、帰ろ」
放課後、ネコが教室まで迎えに来てくれる。一緒に帰ってくれるのは嬉しいのだが、教室の中、まだ少数ながら他人のいる中で抱きついてくるというのは、どうなのだろうか。女子としては当然のスキンシップなのだろうか。私は正解を知らないために、されるがままになっているのが現状であった。
抱き付くネコの頭を撫でてみれば、猫のように心地良さげにごろごろと鳴いてみせた。本当に猫みたいで可愛い奴だなと思う。
「今日、体育あったから汗臭いよ……?」
体臭を気にして、ネコに釘を刺す。
「気にしにゃいよ?」
私が気にするので出来れば離れてほしい。こんな展開が前にもあったような気がする。
「すんすん、すーん……。……くさい」
ほら言わんこっちゃないと私は恥ずかしくて堪らなかった。そもそも、乙女に向かって「くさい」なんて言って退けるだろうか。もう少しデリカシーというものがあってもいいではないか。
私はそんな娘に育てた覚えはありません!
「……他の女の匂いがする」
「あぁ、そういうことね。今日の体育、ペア活動だったからね」
他人より嗅覚の優れたネコならば、私の躰から別の匂いを見つけ出しても、おかしいとは思わなかった。と言うよりも、こういうことが過去にも何度かあったために驚かなかったのだ。
私には解らない感覚なので、共感することはできないが、ネコは人の匂いに他人の匂いが混じっているのが堪らなく嫌なのだとか。香水や制汗剤の匂いも苦手だと語っていた。
だからと言って、制汗剤の匂いなんかは我慢してもらわないと困るのだが。友人が汗臭くて、本当にそれでいいのかいネコちゃんや。
「もー! モモちゃんの浮気者! ネコというものがありながらー!」
ネコなのに牛みたいな鳴き声をあげるとは、これ如何に。
「もー! 今日モモちゃん家、遊びに行くから!」
「はいはい」
ご機嫌斜めモードのネコには、言うことを聞いてあげるのが効果的だった。なんでもではない。
「今日は寝かせないから!」
「はいは……。それはちょっと誤解されちゃうんだけど!?」
とんでもないことを言い出したネコを、なんとか宥め、二人並んで家に帰って行く。
この後いっぱいおしゃべりした。
珍しく早起きできた今日は、煩わしい戦隊活動も無く、久々に平和な一日となったのでした。