1年経ったから載せとこうかなって……。
※ゼニス救出前
ルーデウス→ルーディア
---ノルン視点---
姉さんが倒れた。
生徒会室の前で会ったシルフィさんにそう聞いて、私は放課後の予定を全てキャンセルする事に決めた。幸い今日の授業の課題は少ししか出ていないし、予定と言っても友達と文房具を見に行くくらいのことだから、迷うことはなかった。
珍しく忙しくない1日になりそうだと思っていたけれど……きっとこれは、ミリス様のお導きだ。
最近は何かと理由を付けては10日に一度帰宅する約束を守ることが出来ていなかったから、姉さんに顔を見せに行くべきだという事なのだろう。
シルフィさんはただの風邪みたいだと言っていたけれど、心配だ。
風邪には解毒魔術が効かないし、最近は季節の変わり目だからか症状が悪化してしまいやすいと言う話も聞く。
姉さんのことだから、アイシャが止めるのも聞かずに無理をしてしまうかもしれないし……とにかく、消化に良さそうな食べ物を買って帰って、看病しよう。
アイシャだって、家事をしながら看病するのは大変なはずだ。
別にアイシャが大変だろうと構わないけど、それで気を遣った姉さんが充分に身体を休められなくなるのは嫌だった。
ここは私がしっかりしないと。
「ごめんね、今日は夜勤なんだ。明日は早めに帰るようにするね」
学校を出る時には、アリエル様の護衛で家に帰ることのできないシルフィさんが申し訳なさそうにしていた。それは仕方がないことだと思う、だから私が行くのだ。
「もう、お姉ちゃんは寝ててよ、しっかり休まないと治らないよ!」
「大丈夫だよ、一晩寝たらかなり良くなったから……あ、おかえりノルン」
家に着くと、案の定姉さんはアイシャに怒られていた。
けれど姉さんは頭を撫でて困ったように笑うだけだった。
姉さんはああ言っているけど、私を出迎えてくれた笑顔は熱のせいか少し赤らんでいて、足元はフラフラとしていて見ているだけで危なっかしい。
玄関の方に出て来る様子を見るだけで、これは明らかに安静にしておくべき状態だと分かった。
「ただ今帰りました……姉さん、シルフィさんから聞いてますよ。
アイシャの手伝いは私がやるから寝ててください」
「え? でもせっかく帰ってきたんだから、ノルンはテレビでも見ながらゆっくり……」
「もう、意味わからないこと言ってないで、はやくお布団に行きますよ」
……熱い。
フラついたままの姉さんを抱き止めると、服の上からでも体温が異様に高くなっていると分かった。目つきはとろんとしていて、少ししんどそうだ。
かなり良くなったなんて嘘っぱちだ、やっぱり姉さんは無理をしていた。
「アイシャ、買い物行けてないよね? 材料買ってきたけど、これで足りるかな?」
「ノルン姉にしては珍しく気が利いてるね……うん、大丈夫そう。ありがとう」
「ひと言余計です……そんな事言ってる場合じゃないか、私は姉さんを寝かせてくるから」
「わかった」
無意識なのだろうアイシャの言葉にカチンときたが、そんなのは姉さんを休ませることに比べたら些細な事だった。
背が伸びてきて、そろそろ追い越してしまいそうな程に小柄な姉さんの肩を抱いて、私は2階の寝室に向かった。
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「姉さん、辛いところはないですか?
頭痛とか、吐き気とか……あ、お水はここに置いておきますね」
「うぅん、へいきだよ。ノルンに会えたからもうすっかり体調も良くなって……」
「嘘言わないでください、私に会えたからって何なんですか……ほら、おでこ出してください」
「……あい」
やっと観念した様子の姉さんの額に、水を絞った濡れタオルを乗せる。
この人はどうしてこういつもいつも無理ばかりするのだろうか。
「……ごめんねノルン、迷惑かけて」
「そう思うなら早く良くなってください、ちゃんと寝ててください」
「はぁい……んふふ」
「なんですか」
「……久しぶりに帰ってきてくれたなって。ちょっと寂しかったから、嬉しくて」
「……家にはアイシャがいるし、シルフィさんだって帰ってくるじゃないですか」
「ノルンに会いたかったんだよ」
「う……最近ちょっと、忙しくて……ごめんなさい」
姉さんはずるい。
そんな事言われたら、自分がすごく冷たい事をしていたように思える。
実際、あまり約束を守れていなかった事は悪いと思うけど。
「仕方ないよ、ノルンも一生懸命がんばってるんだもんね……」
そう言って、姉さんは腕を伸ばして私の頭を撫でた。
姉さんに撫でられるのなんて、いつぶりだろうか。
優しい手つきが気持ち良い……いやいやだめだめ、私は姉さんを看病しにきたのだ、何を呆けているのか。
「わかりました、分かりましたから撫でないで寝てください……あとでお粥でも作って持ってきますから」
「わぁい、お米だ……ノルンだいすき」
「はいはい……」
作るのはアイシャだけど。
姉さんはお米が好きだ。この辺りではあまり収穫されないが、市場ではたまにサナキアで獲れたお米が出回っているので手に入る時には買い溜めをしている。
最近在庫を食べ切ってしまったらしいが、数日前にまた入手することができたとシルフィさんから聞いていた。
ほにゃりと笑う姉さんは、その内ようやく眠気が訪れたのか、次第に静かな寝息を立て始めた。いつの間にか握られていた左手を掴む力が、少しだけ緩んでいる。
出来ればこのまま手を握って寝顔を見ていたいけれど……濡れタオルを交換したら、アイシャを手伝いに行かなければならない。
せめて眠りが安定するまでと、私はお母さんに良く似た顔立ちの小さな姉を見守り続けた。
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翌日。
看病とお粥の甲斐あって、昼を過ぎた頃には今度こそ姉さんの体調は良くなった。
体温は平熱、食欲も問題なし。
高級そうな果物を抱えたシルフィさんの苦労が無駄になったこと以外は、全てが丸く収まった。アリエル様から、お見舞いの品として持たされてきたらしい。
「ごめんねルディ、側に居てあげられなくて……。ノルンちゃん、アイシャちゃん、看病してくれてありがとうね」
「メイドとして当然のことです!」
「好きでやっただけですから、気にしないでください……こほっ……」
「ノルン……?」
姉さんが回復したことだし、これで安心して寮に戻れる……と思ったら。
「あぁ、やっぱり熱がある……ごめん、絶対私のが感染っちゃったよねこれ」
「いえ、今のはただの空咳なので、一晩寝れば大丈夫……」
「そんなこと言わないでちゃんと休みなさい。学校には連絡しておくから」
「姉さんに言われたくないです……」
「なにおう」
昨日の仕返しとばかりに姉さんに寝かしつけられて、もう一泊することになった。
まあ、シルフィさんが貰ってきた果物が美味しかったのでよしとしよう。
……姉さんと添い寝も出来たことだし。
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「姉さん……あ、なんだアイシャか……」
「お姉ちゃんじゃなくて悪かったね。失礼しちゃうなもう」
翌日目を覚ました時に隣にいたのが姉さんじゃなくてがっかりしたが。
まあ、たまにはいいか。
シルフィくんなのか百合シルフィなのか、それはかにのみそしる。