元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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迷探偵都ちゃん

 

 

 

バレンタイン明けの学校は、いつもより少し静かだった。

気になる異性にチョコレートを貰えなかったのか、男子生徒の多数がやや肩を落としながら歩いている。

私はそんな生徒達の集団を横切って、足早に教室へと向かっていた。

下駄箱に乱暴に靴を入れて、代わりに上履きを取り出す。投げるように置いた上履きを履くとそのまま急いで教室へと向かった。

 

「おはようございます。都さん」

 

教室の扉を開けると、複数の視線が向く。

真っ先に声を掛けてくれたのは、我が親友の翠ちゃんだ。

鞄を雑に机横のフックに掛け、彼女の席へと移動する。

 

「京介は?」

「まだですわね」

 

翠ちゃんは早く京介に会いたいがために一番に教室に来るガチ勢である。その翠ちゃんが見ていないというのなら、まだ来ていないのだろう。

 

「むぅ。こういう時に役に立ちませんね」

 

夫婦喧嘩が起きた時のことを知りたかったのに。あと父親が所有していたというNTR系のAVについても気になっている。

 

「何かありましたの?」

「家庭内の問題なので、翠ちゃんでも話せないです」

 

離婚はしないと思うが、まさかの展開もある。受験シーズンに勘弁して欲しいところだが、受験失敗しても滑り止め(お兄さんと結婚)という切り札があるので、私はさほど将来の心配をしていない。

 

焦っても仕方ないので、鞄から筆記用具と教科書を取り出して机にしまうとちょうど前のドアから赤茶色の髪が見えた。

 

「あ、きた」

 

じっと視線を送ると、アイコンタクトに気づいてこちらへ来る。眠そうな顔で欠伸をした弟は、いつも通り夜更かしした様子だ。

 

「なんだよ?」

「昨日のことについて、聞きたいことがあります」

「なんで俺が知ってる前提なんだよ」

「盗み聞きしましたよね?」

「まぁ、親父の声がデカかったからな」

 

ちらり、と視線を時計に向ける京介。

 

「時間もないし昼休みにしようぜ」

「むっ……まぁ、いいでしょう。校舎裏でいいですか?」

「わかった」

「じゃあ、そういうことで」

 

すっごい気になるけど、私はモヤモヤする気持ちを我慢して席に戻った。

 

 

 

授業はほとんど頭に入ってこなかった。ずっと夫婦喧嘩の詳細が気になって、何もかも手付かずだ。

あまりにも時が過ぎるのが遅すぎて、一分が何十分にも感じられた。

 

ようやく昼休みになった瞬間、京介を拉致して教室を出た。

目指すは校舎裏の段差。そこで昼食を摂るついでに、事情聴取を開始する。

 

「さて、キリキリ吐いてもらいますよ」

「別にそれはいいけど……知ってどうするつもりだよ」

「ここは迷探偵都ちゃんの出番かと思いまして!」

 

自慢の胸を張ってドヤッと不敵な笑みを浮かべる。すると京介は怪訝な顔で私を見返す。

 

「はっ、おまえに何かできるわけないだろ」

「それはそうかもしれませんが、何も知らないのは嫌なんですよ」

「ってか、母さんには聞かなかったのか?」

「聞いても教えてくれませんでしたので。喧嘩の理由さえも」

 

だけど、それでもわかることはある。今回の喧嘩は普段とはまったく違うことだ。

 

「普段の喧嘩なら、お父さんが謝って済むんですけど。それで許さなかったからお母さんが出てきたんですよね」

「まぁ、間違いなく原因は今回も親父だろ」

 

喧嘩の内容を聞いていた京介がそう言って、スーパーで買った買い置きの惣菜パンを開ける。

私もお母さんが作ってくれたお弁当を広げた。

 

「あ、これ京介の分。お母さんから。おかずだけだけど」

「それ早く言えよ」

 

弁当箱を入れる袋から、タッパーを取り出すと割り箸と一緒に渡す。京介は焼きそばパンを片手に卵焼きを頬張った。

 

「何から話したもんかな。俺も詳しくは知らないんだけど」

 

もぐもぐと口を動かしながら、京介が虚空を見つめる。

ごくん、と飲み込んで口を開いた。

 

「親父が浮気したらしい」

「…………は?」

 

私は京介が言った一言が信じられなかった。

 

「……お父さんが浮気した?」

 

だって、そんなの絶対にありえないから。

お母さんが大好きで、お姉ちゃんが大好きで、家族が大好きで。鬱陶しいくらいの愛を私も貰っている。

京介も普段は邪険にする父親だけど、同じ意見なのか私の反応も気にせず、途中で買った牛乳にストローを差して飲んでいた。

 

「まぁ、そうだよな。俺だって信じられないし」

「誤解……ですよね?」

「そうだと思うけどなぁ。でも、今回は少し違うみたいなんだよな」

 

“今回は”と言うのは、今までに疑惑だけなら何度もあったのだ。

今でもたいそうモテる父は、出張の度に現地の女性に言い寄られる。それも家庭があるとわかっているせいか、少し変わったものばかりに好かれるのだ。

おかげで何度も浮気疑惑が上がり、その度に母が探偵を雇って徹底的に父の不貞があったかどうか調べた。結果は全て潔白を証明することになったわけだが。

母も父を信じていないわけではない。故に潔白を証明する手段として父の浮気調査を依頼したのだ。

 

「違うっていうのは?」

「それがいくつか証拠になるものがあったらしい」

 

いくら母が父を信じていると言っても、証拠が上がれば結果は覆る。そして“今回は”、潔白を証明する手段が仇になったと。

 

「今回の出張は問題なかったんですよね。なら、どうして今になって……」

「あぁ、たぶん出張は関係ない。どうやら社内不倫らしくて」

「社内不倫?」

「どこの誰とかはいいんだよ。俺も詳しくは知らないし。同社内の女性らしいけど。問題は親父がその同僚女性とホテルに入る写真と、キスしている写真があることなんだよ」

 

“今回は”“決定的な証拠”が出てしまったらしい。度重なる密会もあったようだ。

 

「調べた結果出てきたのなら、それは……」

「ただ詳しく教えてもらったわけじゃないから、全然話の全容が見えないんだよな」

 

状況は父親の圧倒的不利。これでは擁護もできないと京介は言う。

 

「子供の私たちには、何も教えてくれないんですね……」

 

広げたお弁当には一度も手をつけていない。母が作ってくれた弁当は、綺麗なままだ。それを見下ろしながら私は何度も頭の中で不審な点を洗うも私の脳は霞んだように思考することを拒む。

 

「……お姉ちゃんなら、何か知ってるのかな……」

「昨日の今日だし、親父もカッコ悪い話はしたくないだろ。知らないんじゃないか」

「迷探偵都ちゃん、事件は迷宮入りです……」

 

しょぼんと肩を落とす。テレビならお蔵入り。漫画ならボツ。くだらないことばかり頭に浮かぶ。

 

「もういっそ兄貴に相談した方が早い気がするけど」

「……そうですね。都ちゃんのパートナーは頼れるパートナーなので!」

 

さっそくスマホで連絡を入れてみる。するとお兄さんはワンコールで電話に出てくれた。

 

「お兄さん!」

『昼に電話を掛けてくるなんて珍しいな。どうした?』

 

どこから話そう。出てくれたのは嬉しいけど、言葉に詰まる。

 

「……あの、お兄さんはお父さんが浮気したって知ってますか?」

『…………あぁ〜、その話か。京介に聞いたんだな』

 

一言で状況を察したらしいお兄さんは、電話向こうで咀嚼音を響かせながら答えた。

 

「今なにしてます?」

『志穂さんが作った昼飯食ってる』

 

昨日の薬のせいで、有休を取るって言っていたのを思い出す。

 

「お父さんから寝取ったお母さんの手料理の味はどうですか?」

『人聞きの悪いことを言うな。転がり込んできたんだよ。というかむしろ保護だろこれは』

 

冗談はそのくらいにして、本題に戻してもらう。

 

「お兄さんは今回の一件、どう思いますか?」

『どうって……まぁ、あの親父さんが浮気だろ。信じられないけど、まぁあれも人の子だしなぁって感じかな』

「お兄さんはお姉ちゃんだけじゃなく、いたいけな女子中学生にもえっちなことしますからね」

『……用がないなら切るぞ』

「わぁ、待ってください!」

 

茶々を入れられるのを気に入らなかったらしく、通話を切られ掛けたけど慌てて止めた。

 

「お兄さんもお父さんの浮気は信じてないんですよね?」

『……まぁ、六割くらいは?』

 

準家族のお兄さんがここまで言うのなら、私達の家族贔屓も間違っていないことになる。

 

「あの、お父さんの浮気って……誰に聞いたんですか?」

『志穂さんに聞いた』

 

喧嘩の原因を聞いても話してくれなかった母が、お兄さんには話している。少し家族としては複雑ながらも希望が見えてきた気がする。

 

「お兄さん。もし私がお父さんの身の潔白を証明したいって言ったら、協力してくれますか?」

『え〜。証拠も出揃ってるんだろ?無実の証明の方が難しいんだぞ』

 

気乗りしないお兄さんに、私は餌を釣る。

 

「お兄さんが今回の一件を解決してくれたら、お兄さんのどんなえっちなお願いも叶えてあげます!」

『ん〜……と、言われても……あ。じゃあ、制服の下にスクール水着を着て欲しい。もうどうせ使わないだろ』

「交渉成立ですね!」

 

何されるのか気になる。……使わないだろってなにする気だろう?

 

「それじゃあ、まずはお父さんに話を聞くところからですかね?」

 

重要参考人である父のことを口にすると、電話向こうでお兄さんが叱られていた。食事中に通話をするのは控えるようにと。

 

『それもあるけど、重要な証拠とやらを見てみないとな。捏造写真の可能性もあるわけだし』

「なるほど、その可能性は考えてなかったです!」

『それとNTR系のAVの方も気になるんだよな』

「つまり検閲ですね!」

『学校終わるの何時だっけ?』

「三時半くらいですので、またその時間に」

『それじゃあ校門前で待ってる』

 

こうして放課後の予定が決まった。お兄さんとAV鑑賞だ。

 

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