元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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妹ちゃん視点ばかり多いので、今回はメインヒロイン視点です。


鹿島愛理は結婚したい

 

 

 

とある休日の正午。

駅前の広場で、私は親友を待っていた。

昼前発の電車に乗って、鈴音がやってくるのだ。

今日は、彼女がこっちに帰ってきてから、暇を見つけては会ってしている定例会の日である。簡単に言えば、仕事や私生活の愚痴を漏らし合おうというのが目的である。

 

道行く人の視線を感じながら待っていると、駅の改札から人が出てくる。その中に親友の姿を見つけて、私は大きく手を挙げて振った。

 

「鈴音!」

「愛理!」

 

私を見つけた鈴音が駆け寄ってきた。

白い縦のセーターに、黒いロングスカートはすごく大人っぽくて、女である私でも少し見惚れてしまう。

 

「ごめんね。待った?」

「ううん。電車に乗った時間に家を出たから」

「ふふっ」

「なんで笑うのよ?」

「だって、なんか恋人同士みたいだから」

 

そこまで言って、二人して顔を見合わせて笑った。

 

「もう変なこと言わないでよ!」

「ごめんね。それより早く行こう愛理」

 

合流した私達は、駅前の広場から離れた。

目的地は昼食も兼ねたイタリアンなお店である。

しばらく歩いて向かうと、既にお店には数組待ちの人達が椅子に座って待っていた。

私達は用紙に記入して、順番待ちの最後尾に加わる。

昼前に来た人もいたようで、店の回転率も悪くなく、私達の前の数組がすぐに呼ばれた。

 

「–––二名でお待ちの“藤宮様”」

 

そう呼ばれたところで、私は立ち上がった。

きょとんとした顔で、鈴音が見上げてくる。

 

「……愛理?」

「あ……いや、違うのよ。宅配便とか色々なものにサインする時、藤宮だから間違えて–––!!」

 

慌てて言い繕う私に、鈴音はくすりと微笑んで立ち上がった。

 

「まぁ、そういうことにしておく」

「……そうして」

 

いっそ殺して、と言わんばかりに私は鈴音の優しさに甘える。

 

店員に案内されて、窓際の日当たりのいい席に誘導される。意外といい席が空いたみたいで、私と鈴音は向かい合うように座った。

取り敢えず、各々好きなパスタとサラダを注文して、飲み物にブレンド珈琲を頼む。

 

店員が去ったところで、鈴音が不意を突くようにこんなことを口にした。

 

「いつも“藤宮”って名前で予約待ちしてるの?」

「い、いや、それは……っ」

 

言えない。彼のいないところで勝手に使いまくってるって。たとえ親友でも赤裸々に語るのは恥ずかしかった。

 

「小中高と“藤宮愛理”って書いた名前のノートを作るくらいだもんね」

 

そんな私に、容赦無く黒歴史を口にして攻撃してくる鈴音はどこかいきいきとしていた。

 

「使うわけにはいかないから、ノートは告白の言葉考えたり、ラブレターの下書きの練習帳になったんだっけ。今も実家にあるの?」

「それは忘れてって言ったでしょう!?」

 

いくらなんでもあれを直人に見られたら、私は死ねる自信がある。あまりの恥ずかしさに悶え死んでしまう。

 

「もういっそ殺して……」

 

テーブルにはしたなくも突っ伏して、私は懇願するように呟いた。

 

「え、藤宮君に見せてもいいの?」

「それはダメに決まってるでしょ!」

 

それは処刑よりもなお酷い、拷問である。

 

「……私だってね。わかってるのよ。でもね、書きたいの。藤宮愛理って。色々な書類に!」

 

本音を暴露すれば、私は直人の正式な妻になりたい。婚姻届を出して私の夫だぞ、と自慢して回りたかった。

そんな私の訴えるような叫びに、鈴音は呆れたような顔で言うのだ。

 

「じゃあ、結婚しちゃえばいいじゃない」

「それができたら苦労はしないわよ」

 

現状、直人が求婚してくれる可能性は少ない。それ以前に私は今も幸せで、これ以上を望むのはバチが当たる気がするのだ。

私が結婚したいなんて言ったら、きっと彼は困った顔をするだろう。それだけはわかる。

 

「それなら、子供ができたらどうするの?」

「そうなったら責任取って結婚してくれるらしいけど……一応、ちゃんと避妊はしてるし」

「避妊具?」

「避妊薬」

「ならいっそ飲むのやめて身籠るのは?」

 

こっそりやめてしまえばバレないだろう。それは私も考えなかったわけじゃない。意外にも悪い手を提案してくる鈴音に私はちょっとだけびっくりした。

 

「それに関してはちょっとね。私もまだ二人きりがいいし、子供はまだ早いと思うのよね」

「金銭的な問題もあるしね。でも、藤宮君はいい父親になると思うけどなぁ」

 

それについては同意する。が、懸念していることもあるのだ。

店員が珈琲とパスタ、サラダを置いて伝票を差して去っていくのを見送ってから、私は小さな声で囁くように告白する。

 

「ただ問題もあるのよね。直人って性欲強いから、私が妊娠してる間できなくなるし……」

「…………藤宮君性欲強いんだ」

「それはもう休みの日は夜明けまでやるし。寝かせてくれないのよね」

 

センシティブな話に鈴音の頰が薄っすらと赤くなる。

 

「……そんなに?」

「もうすごいわよ。何時間も愛撫されて、何度出しても終わらないんだから……こっちがもうダメって言ってもぐちゃぐちゃにされちゃうし」

 

何度壊れると思ったことか。思い出しただけで……お腹の奥が疼く。早く会いたい。

 

「あの人本当にえっちなこと大好きだから、私が妊娠すると浮気しちゃうかもしれないのよね」

「浮気かぁ……。一応聞くけど、風俗とかは?」

「嫌よ。変な病気貰ってこられても困るし。それなら都を生贄に捧げた方がマシよ」

 

–––というか既に手遅れなほど、都は直人のことが好きだ。二人で籠絡するのも手かもしれない。

 

「都ちゃんは藤宮君のこと好きなんだよね?」

「それは間違いないと思う。幸いにも私から奪う気はないみたいだけど、最近大胆になってきてるのよね……」

「強かだなぁ。それで仲良く分け合ってると」

「脅されて仕方なくよ」

 

直人の性癖には、一人じゃできないものがある。

より確実に彼を手に入れるためには、妹だって利用するつもりだ。

 

「それにうちの家系ってアレなのよね」

「あぁ、噂に聞くやつね」

 

昔からうちの家系は、短命になる女性が多い。

その最たる原因は、男関係にある。

 

始まりは江戸時代。私の御先祖様は、かつて遊郭と呼ばれる場所にいた花魁に恋をしたらしい。しかし、身請けするにも金がなく、一緒になることができなかったとか。相思相愛だった二人はある日一つの決断をした。生きて一緒になれぬのなら、死後夫婦になろう。そう誓い合ってお互いの首を切り一緒に死のうとしたそうだ。だけど、女の力では深い傷にならなかったらしく男の方は生き残ってしまったという話がある。

 

私のおばあちゃんの代も、親戚に双子の姉妹がいたそうだが幼馴染の男を取り合って死んだらしい。

そしてそのおばあちゃんも、おじいちゃんが死ぬと後を追うように亡くなった。他にも番いの後を追っていなくなる女性が多い。その原因は強い執着によるもの。

 

うちではそれを“呪い”と呼んでいる。

 

ただ悪いことばかりではないのだ。私達はそれさえなければ、比較的健康に寿命まで生きられるから。

女ばかり死ぬので、女ばかり生まれる。その代わりに運命の人を見つければ、その後はその人と一緒になれば幸せに暮らせると言い出したのは、誰だったか。

 

そんな眉唾物の話を、いつからか鈴音は信じるようになってくれた。曰く、私の執着ぶりが異常だったらしい。

 

「振られた愛理って闇落ち寸前だったもんね。下手すれば、藤宮君を殺して私も死ぬとか言いかねなかったし」

 

現世では“ヤンデレ”というらしい。恋は病むものだと言うが、まさにそれだ。

 

「藤宮君といい感じになってるのが奇跡だよ。むしろ気味悪がられてもおかしくないのに」

「あぁ、その辺は大丈夫よ。直人ってヤンデレも愛せるタイプだから」

 

たぶん心中しに行ってたら、返り討ちにされて犯されてた可能性がある。直人が持ってる薄い本にもそう書いてあった。

 

「藤宮君って優しいというか、心が広いというか、もうなんでもありだよね」

「おかげで私は側にいれるから悪いことじゃないわよ」

 

話に夢中になって、冷めてしまったパスタをフォークにくるくると巻く。それを口に運んで咀嚼した。

 

「話を戻しましょう。都のことはいいのよ。問題はどうすれば“結婚”させられるのかよ」

 

同じく冷めた珈琲でパスタを流し込む。あまりに話に夢中になり過ぎて喉が渇いていた。

 

「今すぐとは言わないけど、三十までには子供欲しいのよね」

「結婚かぁ。難しいなぁ。私もまだそれほど好きって人が現れたことないし。勝算はあるの?」

「たぶんもう逃げられないわよ。あの人の胃袋は私達家族が握ってるから」

「藤宮君に一番効きそう」

 

何故か手を合わせて直人を憐れむ親友に、私は首を傾げた。

 

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