フードコートで海鮮丼を食べたあと、屋外の特設ステージへ移動する。
『アクアリウム12』にはステージが三種類あり、今回のペンギンショーは一番小さなステージで行われる。
開演時間は午後一時三十分。昼食を終えて、再び中央エリアでクラゲを見たあと、開演十五分前に席に客席へついた。
「ここでペンギンさんたちが芸を披露するのね」
小さなステージの方を見て、愛理は今から始まるペンギンショーが楽しみなのかそう言って笑っていた。
「–––みなさん、こーんにちはー!」
開演時間。どこからか元気のいい女性の声が響く。
ステージに桃色の髪の女性が出てきており、大きく手を振っていた。
「私は今回のショーを担当させていただきます。桜と申します!」
ポニーテールの飼育員さん–––その正体は、紛れもない財閥令嬢の桜ちゃんである。
「……ねぇ、あの子見たことある気がするんだけど」
「奇遇だな。俺もだよ」
何故こんなところにいるのか……なんて疑問は飲み込んだ。
ペンギンの赤ちゃんが生まれる度に、見に来ているらしいのだ。確かほとんど名付けたのも桜ちゃんだとか。
元々この水族館は彼女の私物であるため、いてもおかしくはない。–––おかしいのはこの水族館が私物であることである。
「学校はどうしたのかしら?」
「春休みか課外授業じゃないか?」
進級の単位や出席日数は足りているだろうし、心配する必要はないだろう。彼女はのんびりしているように見えてハイスペックなのだから。
「それではまずは私のお友達を紹介しますね!」
桜ちゃんがホイッスルを吹いた。するとプールの中から、ぴょんと白黒のペンギンが飛び出してくる。
一羽が出てくると、続けて二羽、三羽とプールの中から飛び出し、合計で十二匹になった。
「せいれーつ!」
ホイッスルをまたひと吹きすると、ペンギンたちは横一列に整列した。
「てんこー!」
「グワァ」
「ガァっ」
「ピィ」
訓練の賜物か、ペンギンたちは桜ちゃんの合図を聞いて、左から順番に個性的な鳴き声を上げていく。
最後の一匹までいくと、桜ちゃんはよくできましたと両手を叩いて褒めた。約一匹落ち着きなく客席を見回しているピンクバンドのペンギンがいるが。
「それじゃあ、まずはみんなで–––あら?」
突然、ピンクバンドのペンギンが舞台から大脱走。
「ピィ」
白い階段をぴょんぴょん下りて、ステージ周りをトコトコ歩く。
突然の脱走に桜ちゃんは慌てるどころか、とても楽しそうに脱走するペンギンを見つめている。
「おーっと、ピナちゃんが突然の大脱走⭐︎」
それどころか楽しみナレーションをつけてしまった。
ちゃんとしろ、飼育員。早く捕まえろ飼育員。残念ながら、財閥令嬢にそんなことを言える飼育員はこの場にはいなかった。
「きゃあ〜〜〜!」
「見てみて!ペンギンさんが!」
客たちもペンギンの突然の脱走をきゃあきゃあとはしゃぎながら見ている。するとピンクバンドのペンギン–––ピナちゃんは俺の前にくると立ち止まった。
「ピィッ、ピィ〜〜〜♪」
甘えるような鳴き声を上げて、ヨタヨタと歩いてくる。足元までくるとすっぽりと足の間に挟まってしまった。
「……やっぱりこっちに来たか」
両翼?の下を持ち上げて膝の上に乗せると、ご満悦でぴいぴい鳴く。そんなペンギンの様子に飼育員もといお嬢様は笑顔だ。
「どうやらピナちゃんは大好きなお兄さんを見つけたようですね〜。そのままピナちゃんには客席にいてもらいましょうか」
それでいいのか飼育員。元よりこの水族館はお嬢様の私物である。文句を言うやつは誰もいない。
「可愛い〜。触ってもいいのかしら?」
「あ、やめ–––」
そう言って、愛理が手を伸ばした瞬間だった。
「グワァァァッ!!!!」
威嚇するようにピナちゃんが鳴き声を上げる。突っつくように嘴を向けたのを、俺は抑えるように抱っこする。
「えっ!?な、なに!?」
「……ピナちゃんは俺に纏わりつく異性には攻撃的なんだよ」
「……直人ってペンギンのメスにもモテるのね」
–––前例については、黙秘する。
「さて、それでは気を取り直していってみましょうか!」
ステージにはいつの間にやら、小さな滑り台が設置されている。ペンギンたちは階段を指示されるまでもなく一匹ずつ登っていた。
「それでは当水族館名物、流しペンギンです!」
ピッ、と笛を吹くと滑り台に立ったペンギンが腹滑りに滑り台を滑り落ちる。そのままプールへ飛び込んだペンギンは水槽部ギリギリを凄いスピードで泳いでいく。
次々と滑り台からプールに飛び込んだペンギンが、続々とプールの外周を泳ぐ姿を見せて、その数がどんどん増えていく。合計十一匹のペンギンが群れで泳ぐ姿はどこか野生の神秘的な部分が見えるようだった。実際は飼われているペンギンだが。
数周。泳ぐとステージ上にぴょんとペンギンが跳び乗る。
続々と戻ってきたペンギンたちは、バタバタと桜ちゃんのところに戻ってきた。
「はい、よくできましたね〜」
桜ちゃんがご褒美に用意していた魚を一匹ずつあげると、ペンギンたちはご機嫌で魚を丸呑みした。
「さて、それでは次の種目いってみましょうか」
ペンギンたちが泳いでいる間に、滑り台は撤去されている。代わりにステージにはゴールが二つ設置されており、サッカーボールのようなものが真ん中に置かれていた。
「次はサッカーをしてもらいましょう!それでは半分に分かれてもらいましょうか」
桜ちゃんがホイッスルを吹くと、ペンギンたちが二つのグループに分かれる。しかし、一匹出遅れた青バンドのペンギンが分かれたグループを見て首を傾げた。
「グワァッ!?」
まるでグループを作れと言われて、あぶれてしまった学生のような哀愁を漂わせるペンギン。あだ名は“ぼっち”飼育員がつけた。
「おや、一匹足りないのであぶれてしまったようですね。仕方ありませんので助っ人をお呼びしましょう」
そう言うと、ステージの脇から新しいペンギンが入場してくる。まぶたに縦の傷がついたペンギン“ビッグボス”だ。
「グワァァァァァッ!!!!」
「おや、やる気十分のようですね」
ビッグボスは威嚇するように鳴くと、適当なグループに交ざりにいく。他のペンギンも一目置いているようでビッグボス相手に後ずさっていた。
一方、ぼっちは入るべきチームが決まってしれっともう一つのグループに交ざっていた。行動が陰気キャだ。
「それじゃあ、わかりやすいようにバンドを配りましょうか」
識別用のバンドとは別に、反対の翼に白いバンドを巻いた。
「さて、それじゃあボールはどっちからにしましょうか」
「ビィギィ!」
ビッグボスがたしたしと翼でボールを叩く。どうやら先に攻撃したいようだ。
「それじゃあアナちゃんのチームからにしましょうか」
ビッグボス–––本名“アナスタシア”命名お嬢様である。意外に可愛い名前に知らなかった観客がびっくりした声をあげていた。
「それでは位置につきましたね〜?」
攻守が決まり、ペンギンたちが配置につく。
相手チームはまばらに、ビッグボスのチームはボスを先頭に陣形を整える。
ボールの前に構えたビッグボスは、気合十分とひと鳴きした。
「ピッ。–––試合開始です」
「グワァァァ!!」
桜ちゃんがホイッスルを吹くと、ビッグボスが合図を出す。
するとチームの残り五匹が、ビッグボスの背後に整列した。
「グオァッ!」
また号令を出すと、ペンギンたちが集まってくる。
ビッグボスを囲むように–––そう思った瞬間、ビッグボスがボールを蹴った。
コロコロと転がっていくボールに勢いはない。
進路上には、敵ペンギン。
当たっただけで止まるかと思えば、ビッグボスの周りにいたペンギンたちが追従するようにボールを追い掛けて敵ペンギンにタックルをかまし始めた。
「グワァッ!?」
相手の凶行に驚くキーパーペンギン。
キーパーの仲間を蹴散らしたペンギンたちは、ボールと一緒にゴールに雪崩れ込んだ。
「ピュギィ!?」
抵抗虚しくボールとペンギンがゴールする。するとビッグボスは大喜び。その場でドッタンバッタン大騒ぎだ。
ステージの上でゴロゴロと転がる。ラフプレイをくらって痛がっているように見えるが、ラフプレイはビッグボス側である。
「–––ゴール。ビッグボスチーム。一点獲得です!」
ペンギンたちがルールを理解しているとも思えないので、そこは緩いらしい。
このあとも試合は続き、ビッグボス側が圧勝した。