元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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シャチショー

 

 

 

ペンギンショーが無事に終演した。

舞台からペンギン達が退場して、客達も次の場所へと移動を始める。そんな中、俺の膝の上には退場していないペンギンが一羽。

 

「……それどうするの?」

「さぁ?そのうち連絡があるんじゃないか?」

 

–––と、噂をすればメッセージが飛んできた。

 

『ピナちゃんは帰るまで一緒に連れて遊んであげてください』

 

この水族館では、一部の時間でペンギンが館内を歩く催しがある。その一環として連れ歩いてほしいと言うのだ。当然、依頼人はお嬢様だ。

 

「連れて遊んでやれってさ。な〜、ピナ」

「ピュイ♪」

 

言葉の意味がわかっているのか、ピナは嬉しそうに翼をバタバタと動かす。

 

「おまえは可愛いなぁ」

「……私とペンギンどっちが大切なのよ」

「ペンギン」

「むぅ〜〜〜ッ!!!!」

 

面倒な質問を愛理がしてきたので、即答してやると頰を膨らませて抗議の視線を送ってくる。

その頰を突くと、ぽへっと間抜けな音がして頰が元に戻った。

 

「よし、そろそろ移動しようか」

 

ピナを地面に下ろして立ち上がる。そうして、俺達は移動を開始した。

振り返るとヨタヨタついてくるピナの姿が。必死についてくるその姿が可愛すぎて、つい頰が緩んでしまう。

足にぶつかって止まり、また離れると足にぶつかるように追い掛けてくる。その姿に愛理も悔しそうにこう呟いた。

 

「くっ、可愛い……!」

 

階段もぴょんぴょんと跳ねるように移動して、小ステージを抜ける。

 

「次は、シャチショーだっけ?」

「おう」

 

通路を抜けて、一番大きなステージを目指す。

今回シャチショーが行われるのは、この水族館で一番大きなステージだ。

歩いているとペンギンの姿を見た客達が、口々に可愛いと言い出す。俺もなんとなく自慢げにそうだろうと心の中で同意した。

しばらく歩くと、すぐに大ステージへとついた。次のシャチショーが目的だった観客達がすでに着席している。最前列がまだ空いており、俺達はそこに座るとピナは足の間にすっぽりと埋まるように体を突っ込んできた。

 

「……普段はそこも私の位置なのに」

 

ペンギン相手にジェラってる愛理はさておき。

俺はピナを持ち上げて、膝に乗せた。

 

「開演時間は何時だっけ?」

「二時三十分ですね」

 

後ろから聞こえた声に振り返ると、お嬢様が一人立っていた。メイドも連れない珍しい姿に冬海の姿を探すと、

 

「雪菜さんなら、シャチショーの準備です」

 

と、教えてくれる。

 

桜ちゃんは愛理とは反対側に着席。図らずも可愛い女の子二人に挟まれる構図となる。

 

「ピィッ」

「ごめんごめん、三人だったな」

 

いや、正確には二人と一羽だが。つい手癖のようにピナの頭を撫でる。

 

「あいつシャチショーやるんだ?」

「嗜んでますので。ペンギンショーもアシカショーもできますよ。臨時ですけど」

 

嗜むとは?思わず首を傾げてしまう。

 

「本当に多芸ね」

「ふふ、米倉の人間は多才でなければいけませんので。そういう直人さんも一度、ペンギンショーに出たことあるじゃないですか」

「巻き込まれただけだけどな」

 

悲しいことに、お嬢様相手にはNOと言えないのだ。社会人なので。

 

「ピナちゃんよかったですね〜。直人さんが来てくれて」

 

喉をくすぐるように桜ちゃんがピナを撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす。まるで母親に甘える雛鳥のように。

 

「–––ところで、あの話考えてくれました?」

 

嘴を擦り付けて甘えてくるピナと戯れていると、不意に桜ちゃんが口にしたのは前々から打診されていた事である。

 

「ピナを引き取るって話か?」

「はい」

 

実は、前からピナを引き取ってくれないかと相談を受けていたのだ。

桜ちゃんの顔は、子供を心配する母親のようだった。

 

「……毎日、ピナちゃんは直人さんの姿を探すんです。客席を見渡して、その姿を見つけられないと落ち込んで、元気がなくなるんです」

 

それが見ていて心が痛む、と桜ちゃんは言う。耳にする俺の心も痛い。

 

「……ペンギンって一般家庭で飼育できるものなの?」

「できますよ。種類にもよりますが。それにわからないことがあれば、うちの者が対応しますので。メディカルチェックから何から何まで二十四時間サポートしますよ」

 

うちの子の幸せのためなら、と僅かに声に力がこもる。そんな熱意もあって俺はだいぶ迷っていた。

 

「……家建てたら、考えてみるかな」

 

現状は無理だ。ペンギンを受け入れられる環境ではない。と、伝えると桜ちゃんはこう言う。

 

「それなら家を建ててしまいましょう」

 

そんな環境はさっさと整えてしまおう–––というあたり、さすがはお嬢様だ。

 

「餌も新鮮なのは水族館から分けてもらえるだろう。あとは金属探知機か」

「なんで金属探知機?」

「「魚が釣り針とか飲んでたら危ないだろ(です)」」

 

声を揃えて言う俺と桜ちゃんに、愛理はジト目を向けてくる。

 

「やっぱり直人って子供ができると過保護になるタイプよね」

 

水族館でチェックはされているだろうが、万が一ということもあるのだ。

 

「もう本当にさっさと建てようかな」

「全力でサポートします!」

 

貯金だけでは到底無理なため、お嬢様に頼むのは確かな信頼と実績のある建築関係者の紹介とローンについてである。でないとお嬢様は家そのものをプレゼントしてきかねない。

 

「……小屋じゃなく、家を建てるのよね?」

 

ペンギン一羽のために本気になる俺達に愛理は呆れたような視線を向けて、ため息をついて一言。

 

「キッチンやリビングは広めにね」

 

すぐに話に加わってきた。

 

頭上で繰り広げられる談義にピナちゃんは首を傾げる。だが、無意識でも頭を撫でられてご機嫌におとなしくしていた。

 

あまりにも建築計画に白熱しすぎて、時間が経つのも忘れる。

そうしている間に、会場へアナウンスが入った。

 

『それではまもなくシャチショーを始めます』

 

その声に、白熱していた俺達は「あ」とステージに視線を戻す。

 

ほどなくして現れたのは、ウェットスーツを着た冬海だ。普段のメイド服とは違い体のラインが浮き彫りのそれにどこかの父兄の惚けたような声が響く。直後、脇腹を抓られたのか顔を顰める男共の姿がちらほらと。

 

「ちょ、いだっ、いたいいたい……!」

 

俺も例外ではなく、頰を抓られ、嘴で頰を突かれる。

一人と一羽の攻撃は割と痛い。

 

「あ、ほら、始まったから–––」

 

冬海が一礼すると、まるでメイド服を着ているかのような錯覚を覚える。優雅で、綺麗な所作に女性達も魅入ってしまう。

そして、口笛を吹くとステージの底から黒い影が飛び出した。

空中で弧を描き、ザッパーンと大きな水飛沫をあげて水面へと消える黒い巨体。鯱の雄大な姿に観客達は歓声を上げた。

 

「ピギュィッ!?」

 

その姿を見て、びっくりしたピナは俺の脇に嘴を突っ込んで体を隠そうとする。パーカーの中に入れてやるとそのままもぞもぞと身を落ち着ける場所を探して、プルプルと震えている。

落ちつかせるために頭を撫でてやると、僅かに震えがおさまる。恐る恐る外を覗き見た。

 

水槽の底から、ゆっくりと黒い影が浮上する。

そいつは客席を見ると、ペンギンの気配を察したのかニタァっと笑うように口を開いた。

ガクガクブルブル震えるピナ。でも、残念ながらあれが見ているのは俺のようだ。

 

「あの子名前なんだっけ?」

「クロユリちゃんですね。イタズラ好きの」

 

聞いた噂では、飼育員にイタズラばかりしているらしい。俺も餌をやった時にプールに落とされたことがある。そのまま頭に乗せて一周された時は命の危険を感じた。

 

そのクロユリは、冬海が口笛を吹くと反転してステージへと戻っていく。挨拶とばかりに尾で水面を叩き、水飛沫をあげて客席にサービスを忘れない。実際はただのイタズラであるが。

ただ何故か水族館の動物達は、桜ちゃんと冬海には逆らわない。多少のイタズラはするものの主従関係を心得ているようで命の危険があることは基本しないのだ。

 

水槽にいるシャチは、クロユリの他にもう一匹。こちらはクロユリよりも早く冬海の前に整列していた。

 

「それであちらの子がシラユリです」

 

曰く、双子らしい。しっかりものの姉とイタズラ好きな妹と言ったところだろうか。

 

駄賃とばかりに魚を貰って、二匹は嬉しそうに顔を近づける。その頭を撫でられて二匹は目を細めていた。

 

「さて、それでは始めましょうか」

 

冬海が合図を出すと、二匹は小さく頷いて水面に潜る。

その数秒後、二匹揃って水面を跳び出した。

息が揃ったパフォーマンスに、観客達からさらなる歓声が上がる。

その後も背面飛びしたり、様々なパフォーマンスをしてくれた。

冬海が水面に投げたボールを拾ったり、ステージの上に巨体を見せたりだ。

 

そして、シャチショーも終わりが近づいてくる。

最後の大技として、冬海も水槽へと入る。

優雅に泳ぐシラユリの背中に乗って、水上を一周した。

そんな夢のような光景に、観客達は羨ましげな声を上げた。

 

水面に立ち、笑顔で手を振る冬海。

その顔が、客席にある俺達へと向いた。

一瞥したあと、ショーに意識を戻した彼女はシラユリに突き上げられて大ジャンプをする。

水面へと綺麗に着水した彼女は、水面へと浮上する。その彼女を乗せるために一匹のシャチが近づき、鼻先に乗せるとそのまま水面を移動する。

 

「……?」

 

その時、何故か困惑している冬海の顔が目に飛び込んできた。

何か不測の事態でも起きたのかもしれない。

どうしたんだろうかと一人と一匹を注視していると、一組は水面を移動しながらこちらに近づいてくる。

 

「え、あの、ちょっ……」

 

そして、そのまま水面から冬海を投げた。

 

「え……?」

 

大空を舞う冬海。しかし、弧を描くその身は水面ではなく客席へと向かっている。

 

落下予測地点は–––驚いている俺達のところだ。

 

「ちょっ、こいつ頼む!」

 

パーカーの中から出したピナを桜ちゃんに押し付けて一人立ち上がった俺は、冬海を受け止めるために身構える。

 

–––直後、大きい衝撃に耐え切れず俺と冬海は客席に倒れ込んだ。




最低でも一ヶ月に一回は更新したい意地でなんとか書きました。やることが多すぎる。
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