元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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新歓のあとで

 

 

 

新入社員が入社して、早二週間。

 

「それでは新入社員の皆さん、二週間の研修お疲れ様でした。今日はみなさんの歓迎会です。楽しんでいってくださいね」

 

新入社員の歓迎会が催された。

場所は会社近くの少しだけお洒落な居酒屋。

こういう時、大企業なら立食式のパーティーをするらしいが、庶民派なお嬢様はこういうアットホームな人と人との繋がりを求める。

その女社長の意向もあって、歓迎会は近場の居酒屋で簡素に。おまけに経費は会社持ちという豪華な仕様だ。

 

今日はただ酒を飲めるとあって、ご機嫌な社員が満面の笑みでグラスを手にしている。早いもので一杯目を空にして、新しく注文をしようと店員を呼び止めていた。

 

「店員さん、生ビール追加で!」

 

そして、ここにもただ酒を喜ぶ女が一人。幹部役員であるはずの片桐が、会社の経費とあって上機嫌に酒を呷っていた。

 

長い話を嫌う現代の人間らしく、社長のありがたくも短い言葉を聞いていたのか、いないのか、彼女はマイペースに宴席を楽しんでいた。

 

「おまえ去年みたいに飲み過ぎて吐くなよ。世話する俺が大変なんだからな。連れ帰らなきゃならんし」

「えへへ〜、大丈夫大丈夫。今年はそんな醜態晒さないよ」

 

追加できた生ビールを半分ほど呷り、ほっけの塩焼きを口に運ぶ片桐。実に幸せそうだが、それで不幸を振り撒かれるこちらの身にもなって欲しいものだ。

 

「……背負って帰ったら頭からゲロ吐かれて大変だったんだからな」

 

あれだけは本当に忘れられない出来事だ。怒りのあまり風呂場に連れて行き、裸にひん剥いて全身くまなく洗ってやったことを覚えてる。こいつはまったく覚えていないが。

 

「……さすがに私もそんな醜態を二度も晒さないよ。乙女的にもあれだし」

 

随分と反省しているのか、目を逸らしつつも片桐は箸で器用にほっけの骨を剥がしていた。

 

「幹部役員が女性社員を酔わせてお持ち帰りした、なんて醜聞は避けてくださいね」

 

そんな俺達のやりとりを再三の忠告と共に、冬海が締め括る。

 

「俺は被害者なんだけどなぁ……」

 

と、抗議しても睨まれるだけなので冬海の耳に届かないように呟いた。

 

「三人とも楽しんでますね」

 

恒例のやりとりを終えて、それぞれ好きに飲んでいると歓迎の挨拶を終えた桜が戻ってくる。

冬海の隣に座り、予めメイドが注文していた梅酒を口にしてほっと一息。居酒屋にお嬢様という異物感のある光景に、こちらまで居住まいを正してしまいたくなる。

 

「お疲れ〜、ビシッと決まってたよ」

「本当なら直人さんにもご挨拶をして欲しかったんですけどね」

「やだよ。俺は仮の幹部役員だし」

 

本来なら、俺も挨拶をしなければいけない立場らしいのだが断固拒否。居酒屋の壁に徹する所存である。

 

「もう、まだごねてるの?諦めなよ」

「俺は一生平社員がいいんだよ。人に使われるくらいの楽な立場の方が俺には合ってんの」

 

実際、社長に扱き使われているのは事実なので人の下に立っているのは間違いない。今はそれで妥協している。

 

「でも、直人さんくらい私の意図を汲んで働いてくれる人っていないんですよね」

「そうだよ藤宮君。私の尻拭いは誰がするっていうのさ」

「他人に押し付けるなよ。自分でやれよ」

 

俺は何度も重っ苦しい肩書きを外したいと言ってるのだが、代わりになる役員がいないとのこと。おまけに片桐の面倒まで見ないといけない。それは今も昔も変わらず、なんだかほっとするような……。

 

「いや、おまえも幹部役員じゃねぇか」

 

昔からの癖でつい世話を焼きそうになったが、こいつも責任ある立場である。自覚して欲しいものだ。

 

「それにしても新人は全員参加か?」

「そうですね。今のところ脱落者はゼロです」

 

新入社員が一人も欠けることなく揃っているようで、冬海はそう言って新人達を見た。

あとは俺を追い越して役職を奪ってくれれば御の字。

将来有望そうな新卒といえば、米倉妹と鹿島都の二人だろうか。俺が教育担当をしている彼女はすこぶる覚えが良く、一度言ったことはすぐに覚えるので将来的な期待大である。

 

–––その鹿島都と不意に視線が合う。

 

そして、彼女は何を思ったのか。彼女と仲良くしたい群がる社員達を置いて、こちらに元気よく近づいてきた。

 

「呼びました?先輩」

 

他の社員が慄いている気配が伝わってくる。

あの幹部連中に接触しに行った!?という扱い辛い上司に近寄った猛者を褒め称えるような空気だ。

それも新入社員が、あいつ怖いものなしか!?と戦慄しているのがひしひしと伝わってくる。

 

「いや、呼んでねぇよ」

「またまた〜、はっ!?まさかこの体を遠目に視姦して!?」

「発想がユニークだな、おい」

 

俺のツッコミを無視して、都は桜の方へ向き直った。

 

「お久しぶりです桜お姉さん」

「はい、お久しぶりです。こうしてゆっくり話すのは翠ちゃんの卒業式以来ですね」

「そうですね〜。桜お姉さんもお元気そうで」

「会社には慣れましたか?」

「はい。いい先輩が指導してくれますので」

 

そう言って、ちらりと都が俺を見る。

 

「ふふ、そうですよね。直人さんは面倒見がいいですし、教えるのも上手ですから」

 

続けて桜にまで見られて、俺は居心地が悪くなってグラスに口を隠した。ちびちびと飲んで口を閉じる作戦である。

 

そうしてなんとかやり過ごそうとしていると、横から忙しなく近づいてくる気配があった。

 

「お姉様!」

 

桃色のドリルヘアーが、ふんわりと横切る。

ずかずかと近づいてきたのは、女社長の実妹である米倉翠だ。

つるぺたなことを除けば姉に似た顔の美女。

ただしその目つきは、姉の柔らかそうな目元と違って少しきつい印象がある。

自信の表れ、といえば聞こえはいいが切れ長の美人さんだ。

 

「おや、翠ちゃんまで来ちゃいましたか」

「せっかくお姉様とゆっくりお話しできるチャンスですもの。当然ですわ。それよりこの方ですわね」

 

飛び入りしてきたドリルお嬢様が、俺と片桐の方を見る。正確には俺だけを見ているだろうか。

 

「……覚えがありますわね。確か藤宮さんと言ったかしら」

「おう、何度か顔を合わせたことがあるよな」

「ふ〜ん。お姉様や冬海はこの男のどこがいいのやら」

 

ピシリ。笑顔のまま俺は固まった。

人の顔を見て、随分と失礼な態度である。

俺だって思うところがないわけではないのだ。

なんで俺重用されてるんだろう。

もう会社辞めようかな。

田舎でひっそり暮らしたい。

可愛い嫁の一人くらい欲しい。でも、俺にそんなのできるわけ–––。

 

「–––翠様。さすがに失礼ですよ。米倉の者としてその物言いはどうかと」

 

思考が暗黒面に落ちそうだったところに、一筋の光が差した。

お嬢様のあんまりな言い分に反論してくれたのは、先ほどまで黙って静観していた冬海だ。

その鋭くも冷たい眼光を受けて、翠は怯んだ。

 

「……そうですわね。失礼致しました。ただ、悪気はなかったというか……他意はなかったというか……その……」

「翠ちゃん?」

「–––ひっ!?」

 

しどろもどろに謝っていた翠の背後から、桜が顔を出す。肩をがっちり掴んでとてもいい笑顔を浮かべていた。

 

「ちょっとお話が」

「いや、あの、お姉様?謝ったではないですか……」

「人を見た目で判断するな、とは誰の教えでしたか?」

「……お祖父様です」

「私は大切なものを侮辱されて怒っています。もうぷんぷんです」

「だから、謝ってるではないですの!?」

「ちょっと席を外しますね」

 

そして、そのまま妹を連れて退室していった。

 

「本当うちの婚約者がすみません」

 

その代わりに慌ててやってきた赤茶髪のイケメンが、直角に頭を下げる。

 

「……いや、いいよ。事実だし」

「意外に刺さってますね。先輩」

「大丈夫だよ。藤宮君にはいいところいっぱいあるから!」

 

そう言って肩を叩いて慰めてくれる後輩と同僚の励ましに、余計に情けなくなった。

 

 

 

 

 

 

「それでは、また来週ですね先輩!」

 

新入社員歓迎会が閉会して、現地解散となる。

新入社員や他の社員が帰宅したり、二次会に行くのを見送った。

 

「それでは直人さん、美月さん、また明日」

「……飲み過ぎず、夜更かしし過ぎないように」

「大丈夫だよ。少し二人だけで飲み直すだけだから」

 

桜と冬海の主従コンビも、いつ呼び出したのかわからない迎えの車に乗り去っていった。

 

「さて、それじゃあ私達は二次会といきますか!」

 

片桐はまだ飲むつもりなのかまだ元気だ。飲み足りないのか俺を巻き込もうとする。当然意思確認はない。

 

「藤宮君の家、まだお酒あったっけ?」

「おまえが買ったビールが何本か残ってるな。俺は一人じゃそんな飲まないし」

「まぁいいや、コンビニ寄ってこ」

 

片桐は上機嫌に歩き出し先を行く。迷いない足取りで、帰宅ルートの最寄りのコンビニへ入った。

 

「どれにしよっかな〜」

 

真っ先に酒コーナーへ行き、期間限定商品がないか物色し始めた。

 

「これに決〜めたっ!あ、藤宮君は外に出てて」

 

一本だけ籠に放り込むと、雑誌コーナーの前へ戻る。そこで小さい箱を二つ籠に入れるとレジへ行った。

 

俺はコンビニの前で一人待つ。暫くして出てきた片桐は、コンビニ袋を片手にしていた。

 

「それじゃあ行こっか」

 

酒のせいか頰が赤い。微妙に声が上擦っていた気もするが、俺はそれを指摘することもなく先に歩き始めた。

その三歩後ろを片桐が歩く。それから二駅ほどの距離を歩いて、俺が購入した二階建ての一軒家が見えてきた。

白と黒のシンプルな外観のそれは、随分と広い庭がある。庭には小さいがプールがあり、車庫には一台の黒い車が停まっている。

 

玄関の鍵をポケットから取り出して鍵を開ける。

差し込んだ月明かり以外は、真っ暗だ。

玄関の電気だけでもつけようと、手探りに手を伸ばす。

ガチャンという扉が閉まった音、続いて施錠する音が響いて、再び家の中に静寂が戻った瞬間だった。

 

–––ふにょん。と、柔らかな感触が背中に押しつけられる。

 

腰に細い腕が回されて、それが緩く締まると背中に伝う大きな膨らみの感触がより強調された。

 

「飲み直すんじゃなかったのか?」

「お酒より、藤宮君のが欲しい。わかってるくせに言わせないでよ」

 

コンビニ袋を床に落として、腰に回していた腕を俺の首に回すと、やや強引に顔を近づけてちゅっと口付けを唇の端にする。

狙いがずれてしまったのか二度目をしっかりと唇に合わせ、三度目は唇を擦り付けてくる。四度目で重なり合い、五度目で舌を侵入させ、絡め合う。

 

「んっ…はむ……ちゅっ……」

 

一通りキスを堪能すると、潤んだ瞳がこちらを見つめる。

 

「……そう言う藤宮君こそ、やる気満々みたいだけど」

 

お尻を覆う違和感に気づいたのか、片桐は恥ずかしそうに頰を染めながらも脚を絡ませてきた。

 

「……私ね。新歓が始まる前から……朝からずっと、新歓が終わったらって……楽しみにしてたんだよ。藤宮君だって私が泊まりにくるのわかってたでしょ?」

 

スーツを脱ぎ、ボタンを上から三つ外して、胸の谷間と黒い下着が曝け出される。スカートがぱさりと落ちて、扇情的な姿から目が離せなくなる。

 

「ねぇ、しよ?」

 

その一言に理性の糸がぷつりと切れて、俺は彼女の身体に手を伸ばす。玄関に押し倒して、欲望のままに、性を貪る。同僚で、友達で、そんな片桐と今日もまた……。




大事なことだからもう一度言っておきますが、√新卒妹ちゃんです。
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