元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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混ぜるな危険

 

 

 

ゴールデンウィークが半分終わってしまった。

まだ半分か、もう半分か、感性は人それぞれだろう。

去年は無為に過ごしてしまったゴールデンウィークも、今年はそれなりに充実した時間を過ごせた。

常に休日を無駄にしていた自分からすれば、なんとも感慨深いものがある。

きっとそれは、今年から一緒にいる女性の存在があるからだろうとは、理解はしているのだがちょっと複雑な思いもあった。

 

「本当にどうなってるんだろうな……」

 

思わず、独り言が出てしまう。

出先のスーパーでスマホにメモした食材を籠に突っ込みながら、どうしてこんなことしてるんだろうなって思い直してみたのが事の発端である。

珍しく一人でいるのもこき使われているわけではなく、役割分担をした結果である。

愛理が洗濯している間に、俺が買い物をすると申し出たのだ。彼女は全部自分でするつもりだったようだが、そこまでされると俺の立つ瀬がないので全力で説得もといわからせてきた。

 

「さて、これで全部だな。あとは飲み物でも買ってくか」

 

リクエストされた食材や調味料やらを籠に突っ込んだあとは、飲み物のコーナーに立ち寄って個人的な買い物を済ませる。

 

緑茶、紅茶、酒類。

あまり多いと運ぶのが大変なためほどほどに。

買う品を吟味していると、ポケットのスマホが震えた。

何か買い忘れでもあったのかとすぐに開けば、予想した差出人とは違う名前が表記されていた。

 

『なぁ、飯食べに行こうぜ』

 

友人の羽柴だ。

メッセージを開けて即答。

お断りのメッセージを入れておいた。

さて、用は済んだな。

と、飲み物に再び悩み始めたところで今度はスマホが長ったらしくバイブした。どうやら電話をかけてきたらしい。

 

「なんだよ羽柴」

『おまえ最近、素っ気なくね?』

「別にいつも通りだが」

『嘘だ!おまえがゴールデンウィークに一度もパチンコをうちに行かないなんて、そんなの絶対におかしいだろ!』

 

電話に出ると羽柴はそんなことを言ってくる。

 

「むしろ毎日のようにゴールデンウィークをパチンコ屋で過ごす方がおかしいのでは?」

『いや、おまえもこっち側の人間だろう。それなのに突然こんな風になるなんて絶対におかしい』

「最近の台は打ち尽くしたからな……」

 

疑ってかかる羽柴をそれっぽいことを言ってあしらってみるが、電話の向こうの声は納得していないような感じである。

 

『まぁ、おまえに限って“女”ってことはないか……』

 

突然、ピンポイントで出た単語に心臓が大きく鳴る。

嫌な汗がたらりと流れたが、俺は平静を装って対応するべくスマホを握り直した。

 

「そんなわけないだろ」

『そうだよな。おまえ恋愛に興味ないしな。っていうか、画面の向こうにしか恋できないもんな』

「まぁ、否定はしないが」

 

普段からそう言っていたために、余計に恋愛ごとにかまける俺の姿の想像がつかないらしく話が逸れていく。確かに昔から興味はないと言っていたが、それがこんなところで役に立つとは思ってもみなかった。

 

『取り敢えず、パチンコか飯かカラオケ行こうぜ』

「残念ながら暇じゃないんでな。飯は家で食うつもりだし」

『じゃあ、おまえの家で』

「断る」

 

それこそ愛理との関係性がバレかねない。

昼食を作ってくれるのは愛理だし、その昼食の予定をキャンセルするのは嫌だ。

あいつを招いて会わせるのもなんか嫌だし。

今はまだ、誰にも秘密の関係でいたい。

特に学生時代の奴らにはバレたくはない。

 

『じゃあ、いつ予定が空いてるんだよ』

「残念ながら予定は一年くらい先まで埋まってる」

 

愛理に予定ができれば時間はできるかもしれないが、それこそいつになるかわからないのでそう答えるしかない。

 

「暇そうだな」

『今月もう十五万負けてピンチなんだよ』

 

どうやら順調に負け続けているらしい。ゴールデンウィーク半ばでこれならば、終わった頃にはいくら失くしてしまっているのか。

 

「まぁ、またそのうちな」

 

長電話に付き合うと愚痴を聞くことになりそうなので、俺はそっと電話を切った。

 

 

 

 

 

 

買い物を終えてマンションへ戻る。

自宅のドアを開けて、ふとその違和感に気づく。

玄関に見慣れない女性物の靴があったのだ。

 

「……?」

 

愛理が知り合いでも連れて来たのかと思ったが、あいつが相談もなく友人を家に連れて来るとは考え難い。なら、誰が訪ねて来たのかとそこまで考える頭はあったのに、その先まで思い至らない。

答えはすぐそこにあるのだから、自分の目で確認すればいいだろう。

そんな安易な考えで、俺は心の準備も無しに踏み出してしまった。

 

「「あら、お帰りなさい」」

 

俺を出迎えた声は二つ。

どちらも昔から聞いている声であった。

その姿を見て、俺は呆然と立ち尽くしたままソファーで向かい合う二人の女性の姿を凝視する。

愛理と向かい合っているのは、忘れもしない顔だ。

 

「な、なんで母さんがここに……!?」

「なんでって、なお君がゴールデンウィークなのに一度も実家に顔を出さないからでしょう」

 

–––実の母親だ。

 

それが家にいて、愛理と向かい合っている。

もうその姿見ただけで心臓が止まりそうになった。

 

「なぁに?その幽霊でも見たような顔は」

 

どちらかというとゴキブ–––そこまで思い浮かべた瞬間、背筋が凍るようなゾッとした感覚が背中を撫でたので思考を強制的にリセットする。

 

「それにしても連絡くらいしたっていいじゃない。お母さんびっくりしたわよ。こんな可愛い彼女さんと同棲してるなんて。来た時はもう部屋間違えたのかと思ったんだから」

 

それならそのまま帰ってくれればよかったのに。

そうならなかったのは、きっとどちらかが顔を覚えていた可能性を考えればないわけではないので、この反応を見るに愛理の方がうちの母親の顔を知っていたというところだろうか。

その愛理さんだが、俺から買い物袋を受け取るとすぐにキッチンへ引っ込んでしまった。

 

–––俺と母を二人にするな。その前に説明してくれ。

 

俺はなんとも言えない心苦しい気分を味わいながら、母親の対面へと座る。

これなら羽柴の誘いを受けておけばよかった。

 

「それで愛理ちゃんとはどういった関係なの?」

「もうあいつから聞いたんじゃないのかよ」

 

ここは無難にやり過ごすことにする。

何の説明もなしに話を始めた物だから、とにかく明言することだけは避けた。

情報を先に得ようという魂胆である。

 

「わたしなお君の口から直接聞きたいなぁ」

「ぐっ……」

 

そんな魂胆も母親の気まぐれによって潰されて、俺は目を逸らしつつ必死に考える。

あいつの現状を考えれば、“彼女”が妥当だろうか。

願望然り、外堀を埋めるという意味でも母親にそう紹介した可能性はないわけではない。が、俺が困るような説明を愛理がするとも思えないのが結論である。

ならばどう説明したかと考えれば、俺の立場から言っても彼女しかないのだろうが。愛理が上手く言いくるめた可能性もある。事前情報なしじゃ難し過ぎやしないだろうか。

 

「……それなりに親しい関係」

 

だから、明言しないように最善の注意を払ってぼかした。

 

「ふーん、それなりに親しい関係ねぇ〜。まぁ、洗濯物も干してあることだしそれなりに親しいわけではあるのよね」

 

にやにやと笑う母親の視線を辿れば、ベランダに愛理の下着が風に揺れているのが確認できる。あれで“友達”とは言い難い状況ではある。たまたま終電無くして泊まったも無理があるだろうか。

 

「–––と、突くのもここまでにしておきましょうか」

「……は?」

「だってなお君、突きすぎると台無しになっちゃうタイプだもの。昔から、勉強しろってお説教するとやらないタイプだもんね」

 

さすが母親わかってらっしゃる。だが、突かれないのは突かれないので別の恐怖がある。

 

「もう用が済んだなら帰れよ」

「愛理ちゃんの手料理を食べて少ししたら帰るわよ」

「それ用事か?」

「さっきできた用事ね」

 

そんな話をしている間に、キッチンからナポリタンのいい匂いが漂ってくる。

皿を二つ持った愛理がキッチンから出て来た。

 

「手伝う」

「ありがと」

「ふふっ、仲がいいわね〜」

 

邪推するのやめてくれないですかね。

俺はより一層居心地の悪さを感じて、心の中で祈った。

 

 

 

結論から言うと、愛理の手料理を食べても母親は帰らなかった。

昼食が終わってから、二時間以上も愛理と話し込んでいる。

一時的避難のために皿洗いを買って出たが、むしろそれが愛理を大事にしていると取られてニマニマと気持ちの悪い笑顔を返された。解せぬ。

その上、二人は何やら小中高のアルバムを引っ張り出しては盛り上がり始めてしまったのである。

パチ屋に逃げ込みたい気分というのを、生まれて初めて知った。

 

「なぁ、母さん。もう夕方だぞ」

「あらいけない。お父さんの夕飯作らないと」

 

そう言ってようやく帰り支度を始める。

 

「それじゃあ、またね。今度はうちへいらっしゃい」

「はい、喜んで」

「夏季休暇には一度顔を見せなさい」

「はいはい。暇があったらな」

 

母が帰って、パタリと閉まった扉。

それを確認して、ようやく安堵の息を吐いた。

 

「やっと帰ったか」

「あら、随分とお疲れみたいね」

「そりゃそうだろう。家に帰ったらおまえと母親が対面してるんだぞ。悪夢かと思ったわ」

 

ふらふらとリビングへと戻り、深く腰を下ろす。

隣に座った愛理の太ももに、頭を預ける形で崩れ落ちた。

 

「きゃっ。……もう、夕飯の支度できないんだけど」

「サラダと軽いものでいい。酒のつまみになりそうなやつ」

 

こういう悪夢は忘れるに限る。

今日はやる気も起きないし、そういうのはナシでいいだろう。

酒に酔ってぐっすり眠るのもいい。

俺はそんな感じで、つまみになりそうなものをリクエストした。

 

「はいはい。じゃあ、軽く何かあとで作るわね」

「おう」

 

しばらくはこのままで……なんて、考えていたのがいけなかったのだろうか。

 

「–––いけない。スマホ忘れちゃった……あら、まぁ」

 

何故か戻って来た聞き慣れた声が。

俺は気づかないふりをして、愛理の太ももに顔を埋めた。

 

「……不貞寝する」

 

頭を優しく撫でる感触が心地良く、すぐ眠りに落ちていった。

 

 

 




鍵を閉め忘れたがための悲劇。
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