テーブルの上には色とりどりの料理が並んだ。
メインのローストビーフ丼、鰻の蒲焼、カキフライ、唐揚げ、エビフライ、鯖の味噌煮、新鮮野菜を使ったサラダ、山芋のチーズグラタン、ミネストローネ。
デザートにショートケーキが取り揃えてあり全て手作りだ。
「おぉ、メニュー聞いた時も思ったけどすげぇなぁ……」
短時間でこれだけのメニューを作ったのもさることながら、妥協を許さないしっかりとした仕込みもあり、その料理の数々はプロも舌を巻くレベルだ。おまけにそれをやったのが冬海と都、ほぼ二人でだ。他の二人はあまりの料理スキルにできたのは下拵え程度である。
「そうだよね。冷めちゃうのも勿体無いし、さっそく乾杯しよ!」
既にワイングラスに赤ワインを注ぎ終えた片桐が、待ちきれないとばかりにワイングラスを揺らした。
そんな彼女が身に纏っているのは、オフショルダーのミニスカサンタだ。はち切れんばかりの胸の谷間が覗いており、テーブルの下で閉じた生脚はむちむちとしており、その先には秘境が存在した。
他の女性達も、同様である。
都もミニスカサンタ。
桜は背中開きのワンピースタイプを上品に着こなしている。
冬海はオフショルダーのワンピースタイプに、ポンチョのようなものを羽織っていた。
「そうだな。冷めちゃうのも勿体無いし」
衣装については、先ほど女性陣の着替えの際に感想を述べたために割愛させていただく。ただ俺の視線を理解しているからか、桜はくすくすと微笑みながらこう言った。
「そう言ってペンギンの格好をしていると、まるでピナちゃんと本当の親子になったみたいですね」
「ピィ〜ッ♪」
斯くいう俺は、サンタでもなく、トナカイでもなく、ペンギンの姿のパジャマっぽい着ぐるみを着ている。
俺の足には、テーブルの下でさっきから嬉しそうにピナが身体を擦り付けてきていた。
「俺もピナも大食いだからな」
「ふふ、それじゃあ乾杯しましょうか」
「「「「「かんぱーい」」」」」
各々がグラスを掲げて、クリスマスを祝う。–––正確にはイヴだが。こうしてパーティーは始まった。
まずはメインのローストビーフ丼を素材本来の味を楽しむ。肉と、米、それに特製の醤油ベースのオニオンフルーツソースを絡めて口に運んだ。
肉の旨味にオニオンの甘味が弾け、口の中で踊る。ただ焼いた肉では味わえない濃厚な味が広がり、とても幸せな気持ちになった。
「おぉっ、今年もめっちゃ美味い」
「……そうですか」
素っ気無い返事をする冬海だが、口角は僅かに緩んでいる。
そんな彼女の姿を視界の端に、今度は半熟卵を割って絡めた肉と米を口に運んだ。
そこにさらにソースが絡み、卵の濃厚さと絶妙にマッチする。
毎年、クリスマスパーティーの楽しみがここに詰まっていた。
「揚げ物もサクサクだし、グラタンも美味しい、ミネストローネもいい酸味だなぁ」
ただ食材の数々に製作者達の並々ならぬ別の意図、というものが見えなくもないが気にしたら負けだ。美味しいの一言に尽きる。
「……もうローストビーフ丼が」
あまりの美味しさにローストビーフ丼を早くも完食。
美味しいものを食べた後の満足感と、喪失感が一気に襲い掛かってくる。
そんな俺を救ってくれたのは、都の一言だ。
「おかわりに鰻丼なんてどうですか?」
「もらおう」
下げられた丼に代わり、鰻を載せられた丼が俺の前に現れる。
こちらも至極の一品と呼ぶには相応わしい出来栄えだった。
タレの香ばしい匂いもさることながら、箸で割るとふっくらとした感触が伝わる。
こちらも俺の好みに合わせて、半熟卵が載せられていた。
「……」
あまりの美味しさに無言で食べる。無心で食べる。そんなことをしていたら完食した。
「……うめぇ」
「そうですか。ありがとうございます」
思わず零れた声に、都が満面の笑み。
「ごはんのおかわりは?」
「……もらおう」
普段は二杯までで我慢するのだが、三杯目が欲しくなって、俺は白米のおかわりを要求した。
ただ俺の食欲を理解しているので、ローストビーフ丼も鰻丼もごはんは少なめだった。俺の胃袋を女性達は把握しており、完全にコントロールされている。
その後はグラタンや揚げ物に舌鼓を打ちつつ、無理をしない程度に食した。
「はぁ……。ごちそうさまでした」
満足するまで食事をした俺が箸を置くと、そこにいいタイミングで冬海が紅茶を淹れてくれる。俺の好みに合わせてアールグレイティーだ。
「ピィッ、ピィ」
「ん、なんだ?外に出たいのか?」
夕食を食べ終わるまで待っていたピナが、鳴きながら何かを訴えかけてくる。
外の様子を見て、騒いでいるのをみると外に出たがっているようだった。
きっとプールで遊びたいのだろう。俺はカップを片手に持ちながら、窓の鍵を開けて引き戸を引く。
すると嬉しそうにピナが外へ飛び出し、夜のプールへダイブした。
「こんな寒いのに元気だなぁ」
庭に取り付けた夜間用ライトを点灯させ、庭に明かりを灯す。
するとピナは、楽しそうにプールの中をぐるぐる泳いでいた。
人間なら秒で音を上げる温度のプールでも、ペンギンにとっては快適らしい。
冬が近づくとよくあるので、夜間用のライトは秋から冬にかけては随分とお世話になっている。
「ピィッ♪」
たまに水面に顔を出して、俺がいるかどうか確認をする。そうして再び潜ると、楽しそうに回遊した。
それから十分くらい眺めていると、ピナがプールの中から飛び出してくる。プルプルと身を震わせて水滴を飛ばしたピナは、甘えるように抱っこを求めてきた。
「はいはい」
「こちらをどうぞ」
そこにちょうどよく冬海が現れて、タオルを手渡してくる。それでピナの残りの水気を拭き取ってやると、そのまま抱えて家に戻った。
「先輩、よくこんな寒い中、外に出られますね」
「もう慣れたからな。それに小学生の頃に比べたら弱い方だよ」
うちはピナのために年中寒い部屋があるので、割と寒さには強い。だが、小学生の時にタンクトップで学校に行ったことに比べたら、かなり弱体化しているのではなかろうか。
「……先輩ってやんちゃそうですもんね。昔とか、半袖短パンで雪の日に学校行ってそう」
「惜しい。タンクトップだ」
「……上には上がいましたね」
おかげで寒さには強いが、暑さには弱い。なんとも扱いづらい身体である。
「直人さん」
庭からリビングに入ったところで、ピナ諸共ぎゅっと抱きついてくる存在がいた。
桜ちゃんだ。いつもはしない行動にびっくりしていると、仄かにワインの匂いが漂ってくる。随分と飲んだようで、彼女自身の甘やかな匂いに混ざってこっちまで酔いそうになる。
「えへ〜、ケーキ食べましょケーキ」
待っていたと言わんばかりに待ち構えられて、俺は年貢の納め時とばかりに諦める。
酔った桜はなんというか思考が幼くなるのだ。幼児退行というか、抑えられた本能が目を覚ますというか。
子供時代から抑制を繰り返してるからか、酔うと童心に返るのである。
「冬海」
「もう用意してあります」
もう何度も繰り返しているからか、冬海は慣れた様子でケーキを出した。おまけにアールグレイティーをつけて、食後のデザートの準備は万端だ。
「それじゃあ、食べるか」
「はい♪」
あまりにくっついて離れないので、リビングのソファーに移動する。
最後のデザートをゆっくりと味わいながら、楽しい時間を過ごした。
そして、夜も深まった頃。
「桜ちゃん寝ちゃったね」
片桐がお嬢様を起こさないように、小さく呟く。
俺の膝を枕にして、眠るお嬢様を見る瞳はどこか優しい色をしているのに……何故か、太腿を忙しなく擦り合わせて。
「寝ちゃいましたね」
同じように呟いた都は、どこかほっとしている反面、同じく太腿を擦り合わせてもじもじと切なそうな様子を見せる。
「疲れていたのでしょうね。そっと寝かせておきましょう」
冬海は淡々と呟きながらも、どこか申し訳なさそうにしていた。
「–––それでは、“直人”。お願いしますね」
冬海が–––雪菜が二人きりの時にしか呼ばない名を呼んだことで、その場に戦慄が奔る。
既にスイッチが入ったのは自分達だけではなく、メイドも同様だと他の二人も感じ取ったらしい。
「じゃあ、二階に運ぶわ」
–––もう既に時刻は九時を過ぎている。
そのこともあって、誰も我慢ができないらしい。
別の意味で緊張状態の中、俺はそっと桜をお姫様抱っこで抱き上げた。
「ベッドの用意がまだでしたので、私もついていきますね」
そのあとに続いて、雪菜がついてくる。
他の二人を置いて、俺達は二階へと向かった。
階段を上り、廊下の隅の部屋を目指す。
一応客室という体裁もあるが、桜と雪菜が泊まる部屋とあって、ほぼ自室と言えるだろう。
この数年で着替えなど常備していることを考えると、もはや彼女達専用の部屋だ。
「どうぞ」
雪菜が勝手知ったるとばかりに開けて、入室のサポートをしてくれる。おかげで桜を安全に部屋に入れることができた。
そのまま彼女は今朝も整えたベッドシーツを綺麗に整え、そこに桜を寝かせるように指示を出してくれる。
俺が優しく桜をベッドに寝かせると、その上から雪菜が丁寧に毛布をかけた。
「それじゃあ、下へ戻りましょうか。“直人”」
「そうだな。二人も待ってるし」
寝たばかりの桜を起こさないように、二人して部屋から抜け出す。
ほとんど音もなく閉められたドアを背に、俺は先に進もうとした瞬間、何かに引っ張られる。
手を掴まれた–––弱く、しかし抵抗を感じるくらいに強く。
そのことに驚いて振り返ると、情欲に濡れた瞳が迫ってくるのが見えた。
「–––っ」
唇を重ね合わせて、精一杯身体を委ねてくる彼女は、短いキスが終わるとそのまま肩に額を押し付けて、囁くように呟く。
「……抱いてください。今日は、特別な日ですから」
その言葉に誘われて、俺の理性は弾け飛んだ。