元メスガキさんをお持ち帰りした件   作:黒樹

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炬燵の中の暗闘

 

 

 

クリスマスが終わると、世間はすぐにお正月ムードになった。

店内にあったクリスマスの飾り付けは片付けられ、正月向けの商品が店頭に並ぶようになる。

うちでは寝室以外では暖房をほとんど使わないため、炬燵を押し入れから引っ張り出す。リビングを模様替えして中央に炬燵を置き、冬の間はこうして鍋を突くのが毎年恒例行事である。

 

「はぁ〜、やっぱり冬は炬燵だよねぇ〜」

 

大晦日。

片桐は今日もうちの炬燵でのんびりとしていた。

大晦日の前日に会社が正月休みに入ってから、ずっとこの調子である。

一日中炬燵でだらだら過ごし、ご飯を食べて、だらだらして、そのまま昼寝の繰り返し。冬海は彼女の行動に呆れこそするが咎めないため、このような状況が今日も続いていた。

 

「だらしないですねぇ。片桐先輩は。そんな生活ばかりしてると牛になりますよ」

 

そんな威厳も何もない先輩の姿を見て、ソファーに座る都はジト目を送る。その瞳には『先輩に捨てられても知りませんよ』という意思が込められているような気がする。

 

「いいもん。運動はちゃんとしてるし。ねぇ、ふ・じ・み・や・くん♪」

 

炬燵のテーブルに楽だと言わんばかりにおっぱいを載せて、片桐は妖艶な笑みを向けてくる。わざと強調するように胸を触るあたり、自分のあざとくも可愛いところを理解しているようだ。

 

「そんなことよりテーブルの上を片付けてください。カセットコンロと鍋が置けません」

 

都と片桐が睨み合いを始めたところに、冬海と桜の主従コンビがやってくる。下準備ができたのか桜がカセットコンロを、冬海が土鍋を手に炬燵へとやって来ていた。

 

「はいよ」

 

テーブルの上に載っていた邪魔なものを片付けると、中央にカセットコンロをセットして、その上に土鍋をセットする。

 

「今日は何鍋?」

「あごだしです」

 

蓋を取った鍋に、具材を敷き詰めていく。

最後に市販のスープを入れて、カセットコンロの火をつけた。

あとは二十分ほど煮込めば、即席鍋の完成である。

 

対面に片桐。

右側に冬海。

左側に桜。

 

既に炬燵は定員オーバーであり、座るところがない。

都はソファーから離れて、そっと俺の右隣に割り込んできた。

ニットワンピースから伸びた脚が触れて、少しだけ擽ったい感覚に戸惑っていると、彼女は気にした様子もなく太腿をくっつけるようにして座った。

 

「都、くっつき過ぎだ。利き手が動かせないんだけど」

「大丈夫ですよ。その時は私が食べさせてあげますから」

「そういうことじゃないんだけどなぁ」

 

肘がおっぱいにぽよぽよ当たるのは歓迎するべきことなのだが、自由にごはんが楽しめないのは悩ましい。

俺は葛藤の末、考えることをやめた。

 

「先輩、待ってる間おっぱい揉みます?」

「なんでだよ」

「いえ、さっきから意図的に肘がおっぱいをつついているので」

 

どうやら肘で都のおっぱいの感触を楽しんでいることがバレていたらしい。俺はポーカーフェイスで知らないふりをする。

 

「偶然。たまたまだよ。ほら、狭いから仕方ないじゃないか」

「え〜、残念。せっかくのチャンスだったのに」

 

そう言って、都は炬燵の中で脚を擦り付けてくる。

おまけに手で太腿を触ってきており、なんというか変な気分にさせられる。

そのまま手が際どいところを攻めてきており、うちの賢者さんが必死の抵抗を試みるが、うちの愚息は封印から目覚めてしまった。

 

「……おまえあとで覚えてろよ」

「なんのことだかわかりませんね〜」

 

ニヤニヤ挑発してくる都。

あとで……と、思ったが今やれることもあった。

俺も仕返しとばかりに炬燵の中で、都の太腿に触れる。

ニーハイの上からツツーと指先で優しく撫でてやった。

 

「っ!?」

 

びくっ、と身体を跳ねさせた都が恨みがましくも色っぽい視線を向けてくる。それがさらなる悪戯心を呼び覚ました。

 

「〜〜〜っ!?」

 

ニーハイの届かない太腿に手を伸ばし、手のひら全体で撫でまわし、すべすべとした感触を楽しむ。

声を出さないように堪える都が可愛くて、魔の手はニットワンピースの中へと進む。

 

「–––ぁ、せんぱっ」

「そろそろですね」

 

甘い声が漏れ出た時にちょうど、冬海が鍋の沸え具合を確認するために膝立ちになる。

菜箸を手に具材に突き刺して、感触を確かめては小さく頷いた。

 

「……まぁ、いいでしょう」

 

土鍋の蓋が完全に取り払われ、冬海が配膳を始める。

甲斐甲斐しく桜の皿にバランスよく盛り、それを手渡していた。

 

「……」

 

都が潤んだ瞳で無言の抗議を寄せてくる。

そんな彼女にさらに身を寄せて、俺は耳元で囁いた。

 

「あとでな」

 

小さく顔を伏せた都の頰は、僅かに赤らんでいる。

期待か、羞恥か、どちらにしてもとても愛おしく感じた。

 

「はい、直人の分ですよ」

「おう、ありがとう」

 

冬海が次に俺の分を渡してくれる。

俺の皿には、心なしか肉類が多めに入っていた。

 

「はい、美月」

「ありがとう。……って、なんだか私の野菜多くない?」

「酒ばかり飲んでいるんですから、少しは健康に気をつかいなさい」

「雪菜ちゃんがお母さんみたい……」

 

既に二本目を開けている片桐は、言い返せないのか少ししょんぼりした様子で皿を受け取っていた。

 

「はい、あなたの分ですよ」

「……ありがとうございます」

「どうしたんですか?」

「いえ、なんでも……」

 

僅かに腰を浮かした都が目を逸らしつつ答えると、怪訝な視線を冬海は向けたが、その視線は最終的に俺に向いた。俺が何かしたんだろうと言わんばかりだ。したけど。

 

「さて、俺も酒でも飲もうかな。片桐取って」

「はーい。日本酒でいい?」

「おう」

 

酒を飲んで知らないふりをすることにした俺は、最初の一献をお猪口で飲み干した。

 

 

 

 

 

 

–––ボォォォーーーン。

 

午後十一時。

何処からか、鐘の音が聞こえてきた。

 

「ここって除夜の鐘聞こえるんですね」

「寺が近くにあるからな」

 

不思議と身体の芯に響くような鐘の音を聞いて、都は聞こえてくる方角を探すように首を巡らす。

何度目かの音で方角を特定すると、満足した彼女は炬燵布団をしっかりと膝に掛け直した。

 

「この音を聞きながら年を越すのが、毎年の楽しみなんですよね」

「そうですね。お嬢様」

 

おかげで毎年俺の家は女性達の溜まり場であるが、ほぼ毎日のことなので文句はない。こんな美女達と一緒に年を越して文句があるなら、バチが当たると言うものだ。

 

「……zzz」

 

そのうちの一人、残念美人片桐は日本酒で酔い、満腹になって、おまけに炬燵の温かさに夢の住人となっている。ピナにちょっかいをかけられているのにも関わらず、起きる様子は全くない。

 

テレビからは流行の軽快なJ-POPが流れているが、サブリミナル気味に挟まれる除夜の鐘がいい妨害をしていた。

 

「そういえば先輩」

「なんだ?」

「この家のテレビのチャンネル権って誰が握ってるんですか?」

 

そんな中、今更ながらに都が疑問を口にするが、それは当然–––。

 

「桜ちゃんだな」

「家主の人権どこいったんですか?」

「次に冬海」

「先輩の人権は?」

「情欲に全振りしたから残ってない」

 

俺のあっけらかんとした告白に、都は「まぁ妥当か」と納得した様子だ。

 

「ひゃっ!」

「こんな風にな」

 

炬燵の中で再び悪戯をすると、都は肩を跳ねさせて驚き、仕返しとばかりに太腿を抓ってきた。

 

「痛いんですが」

「先輩がイタズラするからですよ」

 

頰を膨らませながらも、満更でもない様子で都が拗ねた様子を見せたが、炬燵の下では彼女の太腿に手が挟まれており、簡単には抜け出せそうにはなかった。

 

「もうすぐ年が明けるな」

「そうですね」

「それじゃあ毎年恒例、来年の抱負を都ちゃんに語ってもらいましょうか」

「うぇっ!?」

 

桜による無茶振りに都が驚き、慌てふためく。

それから「!」と思いついたように顔を上げた。

 

「私は来年こそ先輩を落としてみせます!」

「叶うといいですね」

「ピィッ」

「すっごい他人事みたいに流された!?」

 

言わせるだけ言わせて、あっさり流した桜はピナと戯れる。

 

「……それで、もうすぐ年が明けますけど起こさなくていいんですか?」

「いいんですよ。起こすと面倒ですから」

 

ぐーぐー眠りこける片桐を見やり、冬海は冷たい態度を取る。

 

–––ボォォォーーーン。

–––ボォォォーーーン。

 

「今の何回目ですかね?」

「さぁ、数えてると途中でわかんなくなるんだよな」

「……数えてたんですね」

「最初だけな。でも、もうすぐ百回だろ」

 

テレビでは既にカウントダウンが始まっている。

うちの時計の針も、頂点を指す頃。

3,2,1–––。

0と同時に、テレビのMCが「明けましておめでとうございます」とお決まりの台詞を言う。

 

「あけましておめでとうございます」

 

桜が一番に年始の挨拶を口にしたので、つい挨拶の流れができてしまい俺達は順々に異口同音に挨拶を返す。

 

「ピィ、ピィッ!」

「ピナちゃんもあけましておめでとう」

 

意味がわかっているのかいないのか、ピナはパタパタと翼をはためかせて興奮した様子だ。

 

「それじゃあ、おやすみピナちゃん」

「ピィ」

 

おやすみの挨拶をすると、ピナはシェルターに帰っていった。

 

「それじゃあ私も明日は早いので、お休みします」

「……あまり夜更かししないように」

 

そのあとで桜と冬海は、揃ってリビングを出ていく。

残された俺と都は、しばらく炬燵に入ったまま静かになったリビングに取り残されていた。

 

「……あの、先輩」

「なんだ?」

「……私達も寝室に行きませんか?」

 

右腕に抱きついてきた都は、上目遣いに懇願してくる。

 

「さっきからずっと、除夜の鐘が始まったあたりから、太腿叩いたり、触ってきたりするせいで、我慢できないんですよ」

 

当然俺にそんな覚えはない。……ないのだが、俺の右手はねっとりとした体液で濡れていた。

 

「すまん。無意識にやってた」

「へぇ〜、無意識に紐パンの紐解いたり、奥に触ったり、ですか……先輩の変態」

 

そう言って都は、人肌の温かみのある布切れを炬燵の下で手渡してくる。

 

「せっかくですから寝室で、先輩の煩悩を祓うために除夜の鐘を突きましょうか。せーんぱい♡」

 

除夜の鐘は百八回。–––その程度では、煩悩は払いきれず、俺達は二人だけで夜更かしをした。

 




そろそろ本題に戻らないとですね
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